66、近未来的科学技術
私の宣言に静まり返る室内。
私は解析結果を用いて、ミゼさんを問い詰めます。
「ミゼさん……妹さんは元気ですか?」
この質問次第で、対応の仕方が変わります。
しかし予想に違わず、ミゼさんは私の発言に体をビクリと動かし、すがるような目線を私に送りながらも、拒絶の意思も伝えて来ます。
この反応は今まで一人で誘拐犯に対応して来て、しかも交換条件である私の暗殺に失敗し絶望していたが、全て知られているならどうにかなるかも知れない、もう疲れた、私を助けてと捉えていいのでしょうか。というかそうであって欲しいです。違う場合、私には解決へ持っていくのは無理です。
多分、合っていると思います。
ミゼさんは、もし助けを求めて救出に失敗があったりしたらと不安な筈。しかし、暗殺失敗によりもはや交換条件は果たせない。
もう私達に協力するしかないのです。
解析により、ミゼさんに付着した様々な粒子の出所は分かっています。さらに、家族なら魔力波長が似ているので、類似魔力特性を持つエルフを半径五キロ圏内で走査しています。
「犯人の一人は女性です。それもかなり身分が高いようですね。きつーい香水をふりかけてます。髪は金、目は碧。身長は百七十セン……一ロメル十三ロセル」
ふふ……。皆さん、特にミゼさんの驚きはすごいです。
これらの結果は、ミゼさんに付着していた皮膚や髪により分かりました。これらの手掛かりにより分かったのが、身分の高い人というだけならイーザル様の使用人ですから、偶然付着しただけの可能性もなくはないです。
ですが服の腹辺りと、ミゼさんの髪に付着した、肉眼では見えない拭いた形跡のある微量の血痕。この血の遺伝子が香水女と一致したのです。さすがに血は偶然付着しないでしょう。そして何箇所かある暴行の跡。その殴打跡と腹の血痕の位置がほぼ同じです。もはや関与は明白でしょう。ついでに言うなら、血痕の中にはエルフのミゼさんと遺伝子配列が一致する部分のある口内細胞も発見されています。
「おそらくは……こんな顔じゃないですか?」
モノクルから、3D映像で遺伝子から推測されるいくつかのパターンの顔を投影します。
「あ……あぁ。アレシア、様。申し訳ありません。申し訳ありません。わ、私……」
「イブキ……すご…………」
それでミゼさんは落ちました。泣き出してしまいます。
「分かってます。妹さんが人質になっているんですよね」
「はい……申し訳ありません。申し訳ありません……う…………うぅっ」
おぉ……私の推測が的中した事により、さらに室内の人々の驚き具合が上がります。あ……ふふふふふ、見ーつけた。
「皆さん、犯人はここから二ローマイル離れた邸宅にいます。私はお先に失礼します」
「む?」
「とう」
窓から跳躍して腕を前に突き出して、ジュワッ!!
「え!? やっぱり飛ぶの!?」
「待てイブキ!! 待て!! 二ローマイルだけでは範囲が絞れない!!」
「いや……場所なら我が知っている」
「白か……」
窓から飛び出した私は空を飛ぶイメージを頭に浮かべ、飛翔してます。時速二百キロ。速いです。風圧が痛いです。こんな時は、【魔法障壁】と【身体強化】。
むぐ……【魔法障壁】を正四面体に展開したので、空気抵抗が……てい……よ、よし円錐に形状を変更したらマシになりました。
それにしても、初めてのはずなのに、意図もたやすく飛べました。これも、私が記憶喪失以前に飛び回ってたりしてたからなのでしょうか。まあ、あの場面で飛べなかったらかなり恥ずかしい事になってましたから飛べなきゃまずかったのですが……。
ふむ、人質救出任務ですか。人質の安全を考えてセミオートマチック拳銃P239の弾丸は衝撃弾という、当たってもよほど当たり所が悪くない限り気絶するだけの弾薬を使いましょう。近接戦闘にも備えて、スタンガンもベルトに引っ掻けときます。
後は偵察して、状況に応じて対応しましょう。
『ご主人様〜!! 待つで〜す!!』
「ディーウァ? あ……それが、戦闘機モードですか?」
『はいです!!』
ディーウァは、直角三角形のような形の機形の直角の対辺に双発エンジンが見える不思議な形状で姿を現しました。
「それで……ディーウァはその状態で何が出来ますか?」
ディーウァが何が出来るのかによって、人質救出作戦時の私の負担が軽くなります。
『ディーウァは戦闘機モードで、M61Iバルカン20ミリガトリング砲を機首に一門、格納式兵装庫からAIM−9XIサイドワインダーミサイル、GBU54−I227キロLJDAM、GBU32−I454キロJDAM、GBU31−I908キロJDAM、GBU39「分かりました、様々な事が出来るんですね?」
『はいです!』
危ない危ない。敵地到着までずーーっと兵器解説を聞かされる所でした。
ちなみにモノクルにてサイドワインダーミサイル、JDAMを検索した所、サイドワインダー9−XIは射程四十キロで赤外線、魔力に反応する空対空ミサイル、JDAMはGPSとINSという誘導方式を採用した爆弾らしいです。……つまり、どういう事?
まあ、何かすごい性能なんでしょうね。きっと。しかし……破壊しか出来ないよいです。この事案ではあまり役に立たないですねー。
おっと……距離にして二ローマイル、私の基準単位によれば約三キロ。かなりの速さで飛翔していたらしく、十分経たず邸宅を視界におさめる場所に到達してました。
『……? 何で止まるです?』
「偵察ですよ。邸宅内の情報がないと、救出作戦の成功率が上がりません」
『おー、さすがご主人様です』
うみゅ……称賛はむず痒いですね。というか、まだ人質救出してないんです。気を引き締めなくては。
モノクルから合成開口レーダーを使用。このレーダーは物を透過するので、何がどこにあるか丸分かりなのです。
二階建てながらも横に広ーい邸宅。しかしイーザル様には及びません。しかもあんまり綺麗じゃない。掃除を頻繁にしてないらしいですね。
えーと……人が少ないですね。五人いました。一塊になってます。…………何か、おかしいです。みんな倒れてる。
「ディーウァは、あの邸宅上空で待機。私が内部へ潜行します」
『で、でも。ご主人様……』
「私を、信じて下さい」
ディーウァは、この一言で黙ってしまいました。我ながらずるい言葉を使ったものです。
固まったディーウァを置いて、一塊になっている一階の部屋の窓に接近。……やはり、動いていません。どうしましょう。………………こうして考える時間が勿体ないです。突入します。
P239のマガジンを入れ替え、スライドにデコッキングレバーを引きます。これで射撃準備は完了。
音響閃光手榴弾を……投擲。
窓硝子を破り、床に落ちた渇いた音がした後…………炸裂。
窓から光が溢れ出る。
すかさず突入。
「な……」
窓硝子を破り、突入した室内は血が床を、壁を、天井を赤く濡らしている…………。
天井から、血の雨が降る……。
倒れてる五人の脈を測る。鮮やかな金髪の女性……死亡、執事服を着た男性……死亡、さるぐつわを口にはめられた女性……! 生きてる!!
モノクルからディーウァへ通信。
「私です! 突入しましたが、五人の内四人が死亡。しかし一人が重傷ながら生存しています!」
『了解です! あ! ひ、一人お屋敷から出て行くです!』
な……おそらくそいつが犯人…………しかしこの女性が人質。そして、まだ生きてる!
何か手段はないでしょうか!?
! あのカプセル……あった。これなら……私の解毒をした医療用カプセルを選択兵装枠にて創造。女性を内部に入れます。
「容態は? 治りますか!?」
兵器解説によれば、診断機能がある筈です。頼みますから、治ると言って下さい……。
『返答シマス。外傷ハ頸動脈ヲ七ミリズレテオリ、タイシタ怪我デハアリマセン。完治ニハ三時間、日常活動ガ可能ニナルマデ十五分カカリマス』
よし、大丈夫みたいです。残りの二人は……死んでます。
なら、やるべき事はあと一つ。
「ディーウァ。逃げた男はどうなってますか?」
『もうすぐしたら見えなくなるです! ど、どうするです!?』
情報データは貰いました。北か……。
「ディーウァ、私は後を追いますからこの女性頼みます」
『え!? ごし』
通信を遮断。
すみません、ディーウァ。