65、御見通しだ!!
……出るべきか、出ざるべきか。
私は解毒が完了し、すっかり健康体です。
しかしディーウァと話し込んでしまって、心配していた……かも知れないサイトを怒らせてしまっています。魔法障壁が半透明なので、私が既に立ち上がっているのは気付かれています。ついでに個人火器モードとやらで、翼を背中に浮かせているのも見られています。
もう何ていうか、ごまかすのは無理っぽいですよね。
『ご主人様、てい』
「えぅ!?」
ディーウァに押され、よろめいた私の足は床を踏み付けます。
あ! 魔法障壁と機関銃が無くなりました。
「ディーウァ……」
な、何を……。
『みんな心配してたです。早く顔見せるべきです』
いや、まあ、それは正論なんですがね。
魔法障壁がなくなった事で、私の姿が詳細に見えるようになったのですよ。
そして私は、背中に翼を浮かせている奇妙な姿なんですよ。
つまり……皆さん唖然としてます。
気持ちは痛い程分かりますよ。いきなり毒で子供が倒れ、いきなり半円ドームに覆われ……いきなり羽を生やして出て来たんですから。
部屋にいたサイト、イーザル様、ウルースマ様、イエラウ様、アッイウス様に兵士達二十一人。
驚きが顕著なのは、意外にもサイトです。おかしいですね、サイトはクールでイジワルなのが基本の筈。
「捜査状況はどうなっているのですか?」
しかし私には皆さんの反応より、私を殺害しようとした人々を捜すのが重要なのです。無視させていただきます。
『ご主人様、スルーはひどいです……』
「……はっ! 現在料理に毒物を混入させたミゼという名前の使用人を取り調べ中。黙秘を貫いています」
警察官の誇りが働いたのか、兵士の一人が再起動します。
ディーウァも喋ったようですが、聞こえなーい。
しかし、見た目からどうしても兵士にしか見えないですよ。
「ここに連れて来て下さい」
「了解しました!」
私の質問に答えた兵士が駆け出します。すみません。しかし捜査は徹底しなければなりません。
「次に凶器は?」
「凶器はアエテルソポという毒草を粉末にした物です。犯人が袋に余ったアエテルソポの粉を所持していたのは間違いないかと」
「流通経路はどうなっていますか?」
「それは私が説明します。アエテルソポは猛毒で、通常は市場に流通していません。よって裏市場を洗っています。
また、北領の山間部に僅かに自生している為、それを個人で採取していた場合、特定は難しいです。しかし、アエテルソポから毒を抽出して粉末にするには専門知識が必要ですからその線からも調べを進めています。ただ、これらから首謀者が北領に関係している疑いが濃くなりました」
「なるほど。毒を入れた犯人の家族構成は?」
「は……。家族は妹のみです。その他の家族は全員死亡しています」
ふ、兵士は不可解な事を聞かれたと感じているみたいですが、家族が一人、ね…………。
明らかなる弱み、です。これを使わない手はないでしょう。
うーむ…………ん? まだ皆さん再起動してないんですか?
私はサイトに近寄り……顔を覗き込みます。
「サイト、どうかしましたか?」
いつもと違いますよ。
「アレシア…………その姿は……?」
「あ、これですか。ディーウァによると個人火器モードと言うらしいんですが……何か?」
「いや……何でもない」
何でもない? そうは思えません。
私がこの姿を見せてから、驚きと……何か辛そうな表情だったじゃないですか。そして私が個人火器モードについて言及した途端、残念な反面ホッとしたような表情を浮かべたのです。
何かあると考えるのが自然でしょう。
「……と、領主様方はどうしましょう」
まだ固まってますねー。もう強行手段を使わせていただきます。
近くのイーザル様の顔を下から見上げて、呼びかけてみます。
「イーザル様はイエラウ様に惨めに負けました」
「何だと!? 我がイエラウなぞに負けるものか!!」
よし。次、イエラウ様には反対にイーザル様に惨敗したと伝えます。
「イエラウ様! このままではイーザル様に敗北してしまいます!」
「負けるものかぁ!!」
何か楽しい。次はウルースマ様。
「ウルースマ様! 本日のおやつは…………残念です」
「え!? 何、何なの!?」
最後はアッイウス様。
「アッイウス様……奥様がお怒りです」
「すまん! 浮気は謝る!!」
「あら……浮気したの?」
「!!」
うわ、アッイウス様の奥様いたんですか!?
「アッイウス、少し話をしましょうか」
「ま、待ってくれ! ひ、引きずらないで、助けグギィアァ…………」
すまない……アッイウス様。本当、ごめんなさい。
アッイウス様はいずこへか消えなさりました。
イーザル様とイエラウ様は口論してます。
サイトは壁にもたれ掛かり、考え中。
ウルースマ様は、私の体調を気遣かってくれてます。
「イブキ、大丈夫かな? 辛かったら休むべきだよ」
うん、ウルースマ様は優しいですね。その他とは違います。
「ウルースマ様。私は完璧に健康です。安心して下さい」
そんなウルースマ様に心配をさせるのは気が咎めます。
「そっかぁ。よかったー、心配したんだよ?」
「そうですよね。すみません」
「謝らないでよ。イブキは悪くないんだからさ」
「はい……では、心配していただき感謝します」
笑顔で、感謝を表現してみます。む……笑顔は苦手です。でも笑顔は健康な時に浮かべる事が多いですから、安心してくれるのではないのでしょうか。
「…………………………」
「……あれ? う、ウルースマさま……?」
え、また硬直?
何? そんなひどいんですか?
若干悲しいです……。
「…………うっわぁ。効いた」
ウルースマ様は顔を赤くしながら、私がウルースマ様に精神的傷を与えた事に対し怒ってるみたいです。
「す、すみません。私、笑顔とかあんまりしないもので……変でしたよね。すみません」
ここは謝らないと。今後の協力体制が崩れるかも知れません。
「えー…………。イブキさ、鈍感とか言われた事ない?」
何か呆れられました。鈍感ですか……鈍感鈍感鈍感鈍感……心当たりはないです。
「いや、ないような気がしますよ?」
「むむむ。本当に?」
「多分、本当です」
でも、もう怒ってないみたいです。よかったです。
「あのさぁ「アレシア様!! ミゼを連れて来ました」
「ご苦労様です」
使用人のミゼさん。淡い金髪を後ろで結わえているつり目の美人さん。今は、両手を縛られ、両足に足枷で自由はないです。顔色は青白く何かに怯えているような印象を受けます。
さて、ウルースマ様が何か不満そうですが時間がありません。早速モノクルの性能を見せて貰いましょうか。
解析。
え……嘘……凄い……な、まさか…………ここまで分かるとは……。
私はミゼさんを指差し、宣言します。
「使用人のミゼさん、あなたのした事は全てまるっとお見通しだ!!」