62、晩餐会を終えて
あれから張り紙やチラシ、街頭演説その他諸々の私の記憶喪失以前の知り合い捜索計画を話し合いましたが、もう夜も遅いです。
ウルースマ様にアッイウス様、イエラウ様は各々の部屋へ帰り、イーザル様もサイトを連れて行ってしまいました。
ふぅ……何だか疲れました。
お風呂、入りたいですね。確か……あったと思います。
という訳で、早速行動を開始します。
壁に取り付けられている呼び鈴を鳴らします。
すると一分経たない早さで……
「御呼びでございますか? アレシア様」
こんな具合にメイドさんがやって来ます。接客は素晴らしいですね。さすが領主の邸宅。なにもかもが一流です。
「お風呂があると聞きましたが、私は使ってもいいのでしょうか?」
「勿論でございます」
その後場所を聞いたり、使い方を聞きました。
お風呂は本来各部屋にあるそうですが、この部屋は改装前なので付いていないんだそうです。晩餐会の客人受け入れで部屋は満杯になっており、急遽訪れた私にはこの部屋をあてがうしかなかったんだとか。謝らなくてもいいんですがね。謝るのはいきなり私を呼び付けたイーザル様でしょう。まあ、今は私もここに呼ばれた事にまんざらでもないですがね。
ともかく、改装以前もお風呂に入りたい人はいた訳ですから、お風呂もいくつか存在するそうです。数十人が同時に入れる使用人用、客人の為の一人用が十程。
私にはこの個人用を用意してくれるそうです。
「それで、いつ入れますか?」
「そうですね、今から準備いたしますと……かなりの時間がかかります」
エルフは時計を開発していないらしく、ここらへんあいまいで困ります。そしてこの場合‘かなり’は数時間待つのもザラです。
むー、私はすぐに入りたいのですがね。
というか、もう眠いです。眠気がかなり進攻して来ています。
しかし……今日結構動き回りましたし、さっぱりしたいです。何か打開策は……あ、使用人用はどうなってるんですかね?
聞いた所、常時使用可能らしいです。
「なら、そっちを使っていいですか?」
「アレシア様が私共と入っても構わないのでしたら……」
遠慮がちですが、そこは大丈夫です。私は身分とか気にしないですから。いや、性犯罪者とか愉快殺人犯とかは別ですよ?
ま、それはさておき一風呂浴びて来ようではないですか。
ディーウァも連れ、着替えを貸して貰い、十数分歩かされ、ようやく到着。
むろん男女べ…………こ、混浴。
あれ? 錯覚か何かでしょうか。
「え……混浴、ですか?」
「はい。やはり、おやめにしたらいかがでしょうか…………みなさん狼さんになりかねないですし」
メイドさんから後の方は聞き取れなかったですが、忠告されます。
「混浴……」
男女一緒にお風呂に入る事を意味する。
「はい……」
いや、無理。
着替えを同性に見られてあれだけ恥ずかしいんです。裸で……無理無理。
今日は濡れタオルで体を拭いて寝ましょう。
私は失意の下、お風呂を諦めました。
メイドさん濡濡れれタオルを用意して貰い、体をすっきりさせ……おやすみなさい。
…………!?
【電子砲】発射。発射、発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射!!
「はっはっはっはっ……はあ……はあ……」
目覚めたばかりの頭を酷使し、状況を把握。
覆面を被ったエルフが三人寝室の窓を破り潜入し、私を窒息死させようと試みるも、私が【電子砲】を使用し迎撃。内一人は私が殲滅、残りの二人は既に遁走。恐らく暗殺が至上命令であり、気付かれた殺害では意味をなさないのでしょう。それとも私に反撃されるとは考えていなかった?
…………考えなくてはならない事が山ほどありますが、とにかくこの場所から離れましょう。ここにはいたくないです。
窓は破られ、何かの肉塊や腕や頭や腸や指やあた
『ご主人様! 怪我はあるですか!? 大丈夫です!?』
あ……ディーウァに呼びかけられ、真っ白だった頭が視界からの情報を入手を再開します。
「大丈夫。私は無傷ですよ」
私は動揺しているディーウァを右手に乗せ、左手で頭を撫でながら居間へと移動します。…………動揺してるのは私も同じです。
気分悪い、です。返り討ちにしたエルフの血が私の服にべったりと付着しています。吐き気や頭痛がします。駄目。何とか匂いを、この死臭を洗い流したい。
【絶対零度】を上方に展開し、天井に氷塊を生成。それを【灼熱】でお湯にして、体を洗い流します。
あぁ……暖かい。少し平静を取り戻せた気がします。
また………ですか。また私は殺人を犯しました。考えるな。何で、何で私を殺そうとするんでしょうか。考えるな。私は何か悪事を犯しましたか? 考えるな。私は……何もしてない!! なのに何故! 何故狙われる!?
「何で…………………………」
これも、記憶喪失以前に何かしでかしたのでしょうか。
私は…………。
その後の事はあまり覚えていません。サイトやイーザル様、その他たくさんの人々が私を訪れたような気がします。
兵士が視界に映るようになり始めました。
あの寝室を検分し、私に質問をしました。
私は答えました。よく覚えていません。
あ……私の前には食事が並んでいます。
食べたくない…………。
イーザル様やウルースマ様、イエラウ様にアッイウス様まで、私を励ましてくださいました。
今は、イーザル様とイエラウ様はおらず、サイトにウルースマ様にアッイウス様、それに兵士がいつの間にか移った部屋に私を囲むようにして、います。
「イブキ……ご飯は食べたら?」
「そうじゃよ。辛いかもしれんが、食べないと生きてけんぞ」
「…………はぃ」
機械的に咀嚼、咽下を繰り返していると気付かない間に食事はなくなっていました。
頭にエネルギーが充填されていきます。脳の栄養になりうるのはぶどう糖だけ。そのぶどう糖を摂取した私は、今までの不毛な後悔やら愚痴やらを封殺。前向きで建設的な思考にシフトチェンジ。
悩んでいては分かりません。何故私を狙ったのかを調べなくては。もしかしたら、そこに手掛かりがあるかも知れません。
「サイト、ウルースマ様、アッイウス様に……ディーウァ」
皆さん私を眺め、訝しがってますね。
「心配かけてすみません。もう大丈夫です」
私の声に皆さん安心しているようです。心配かけたのは悪いですが、私を心配してくれるのは嬉しいです。
「ほほ。よかったわい」
「イブキぃー!!」
ふふ、ウルースマ様は私より大きいのに行動は子供ですね。抱き着いたウルースマ様の背中をさすり、泣き止むのを待ちます。う……人肌の温もり……私も泣けてきそう。
ウルースマ様と抱き合いつつ、サイトと視線を合わせます。
「サイト……この犯人、捕獲しますが異論ありますか?」
「は? 潰すに決まってるだろ?」
返って来た言葉は頼もしいです。
「フフフフフフフフフフ」「クックックックックック」
犯人さん、逃がしませんよ?