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58、警察<領主




私が立ち直り、歩き始めてから数十分。未だあの部屋に戻る事は出来ていません。私は方向音痴という訳ではないですが、あまりに広い為もはやどこをどう歩いているのかさえ分かりません。


ただあの部屋は、一階にあるという事は分かるんですけどね。


私は二階にいますが、一階に下りる階段すら見つかりません。


さっきまでは廊下を歩いていると召し使いやメイドさんを見かけましたが、今はいないです。困りましたね。道を聞く事すら出来ないらしいですよ。


あまり使いたくはないですが、道々に存在する部屋の住人から聞き出すしかありませんね。


先ずは私が案内された部屋と同じ扉を持つ部屋をコンコンとノックします。


「誰だ!?」


中は険しい雰囲気のようです。


「いや、間違えましたー」


入らないべきです。別にここ以外にも人はいるでしょうしね。


「この声は……」


あれ、扉が開いて腕を掴まれ引きずり込まれてしまいましたよ。


引きずり込んだのはイーザル様。


「え? あ、あの……」


「これでも我の目を侮辱するか?」


「…………ありえない、本当に人間か?」


そして私とイーザル様の向かいにまたまた美人なエルフ。しかし、全員美人でしかも見る人を飽きさせないとは……エルフはすごい種族です。


「そうだ。紛う事なく人間だぞ」


「ず、ずるいぞ! 私も彼女が欲しい!」


何の話?


「ふ……既に我の物だ。今夜の晩餐会で正式な声明も出す」


「な……もう婚約するのか? い、いくら何でも早過ぎる! 今日会ったばかりなのであろう!」


「そうでもせんとな。イブキを狙う輩は多いのでな」


……婚約!? は、何がどうなっているんでしょうかね!? な、ええぇ!? あれは冗談じゃなかったんですか!?


「ぐ…………」


「ハハハ。諦めるのだな」


「待って下さい!!」


私が叫んだので、口論をしていた二人の視線が私に集中します。


「私は一言も婚約を承諾した覚えはありません!」


「な……」


「ほう……イーザル。はやとちりしたみたいだな、彼女……イブキは承諾していないそうだぞ?」


先程と一転、イーザル様は呆然とし、謎のエルフは勝ち誇った表情を見せます。そして誤解は解けたようです。


「イブキ……其方は我と婚約すると言ったではないか!?」


「……え、一言も言ってない気がしますよ?」


「イーザル! 押し付けがましい。個人の意思は尊重しなくてはならないぞ」


「ぐ……」


「話は変わるが、私はメデウム領主イエラウと言うのだが「お断りします」…………」




空気が重苦しいものへと変わりました。いたたまれないです。


しかし抜けるに抜ける事が出来ません。


そんな空気をイーザル様が入れ替えてくれました。


「では晩餐会の席で決着を付けようではないか!」


「どういう事だ?」


「晩餐会の席にて自分を売り込み、気に入られた方が勝つ……というのはどうかね?」


悪い意味で。


「なるほど……その勝負、受けて立とう」


「ま、待って下さい。何で今日中に結婚相手を決める事になっているんですか!?」


「我が我だからだ」

「私が私である由に」


素晴らしいまでの天上天下唯我独尊。私の意向などまるで無視です。


何か……何か打開策はないでしょうか。結婚相手を決める……結婚する……相手? そう! 相手がいなくてはなりません!


「私には既に結婚を約束した人がいるので、大変嬉しいのですがその話はなかった事にして下さい」


「何だと!?」


「一体誰だ!?」










「……で、オレを選んだと」


「すみません……」


あの時、私は二人の詰問に音をあげ、咄嗟にサイトの名前を言ってしまったのでした。


それから今度は連れて来いという話になり、サイトは釈放。釈放した理由は警察側に告げず、権力でごり押し。


そして私とサイトは二人に睨まれております。


「(つーか何で相手にすんの? ディーウァでさっさと逃げればいいだろ)」


「(何言ってるんですか? 考えてみたのですが、記憶喪失以前の私は色々やらかしていたんですよ? もしかしたらエルフの中に関係者がいる可能性もあります。

確かにロミリアの学園情報は確度が高いですが、絶対ではないです。

ですから二人の為政者の権力でささっと張り紙とか配って貰えば、楽にエルフ内での情報収集は終えられるじゃないですか)」


「(……腹黒いな)」


「(合理的と言って下さい)」


「うおっほん!」


「それで、サイト……だったな。イブキとどういう関係だ?」


流石に領主というだけの貫禄、威厳、威圧がサイトに向けられます。


「……ただならぬ関係?」


しかしサイトにとってはただただ、からかいがいのあるだけの存在の筈です。

案の定、薄笑いを浮かべながらとんでもない発言をしています。まあ、今はそれがありがたいのですがね。


「「なっ」」


当たり前ですが、彼らは動揺します。というかしてくれなければ困ります。私が冷静に考えてみると、彼らとはそれなりの協力関係を築かねば張り紙にしろ何にしろ手伝ってくれるとは思えません。つまり、思わせ振りな態度を取り続け情報収集後逃走するか、いいお友達関係を作るか、利益を与えるかが選択肢としてあがります。


先ず第一の方法はそれなりに簡単ですが、後々禍根を残します。


次に第二の方法。これは恋愛感情を諦めさせ、かつ友情を築くという対人関係に長けていない私には難しい手になります。


最後の第三は……私には価値ある品も持っていませんし、技術もありません。つまり考慮すら出来ない手段となります。


「貴様! イブキに何をした?」


「何って……抱きしめたりとか? あ……一緒に同じ部屋に泊まったコトもあった」


「あー、ありましたね。ロウダスでしたっけ? 懐かしいですねー」


「「!!」」


あ、固まった、今の内に打ち合わせです。サイトに目的、つまりどうにかしてこの二人と協力関係になりたい事、基本方針としては第二でいく事。


「(分かりましたか?)」


「あぁ」


「(私では不可能な作戦です。サイト、君に任せた!)」


「(分かった。……アレシアが記憶を取り戻して貰わないとオレも困る)」


「(え? 後の方何か言いましたか?)」


「何も言ってないけど?」




ならいいんですけどね。さて、どうやって思惑通りにしましょうか。


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