57、体質の違い
……何もする事がないです。
仕方ないので部屋をがさごそとしてみますか。
内装は四人掛けソファーが対面に二脚、その中央に高そうな木製テーブル。これらが部屋の中央に置かれ、軸として考えると南に出入り口、西に寝室、東は何かの扉、北には高額の硝子が嵌め込まれた窓があります。最も、ロミリアは大量生産技術を確立したと聞いてますから地域によるのかも知れません。ちなみに一階。脱走する時は楽ですね。
とりあえず東の扉を開けてみますが、そこはトイレでした。お風呂はないのですかね?
不潔なエルフなんて見たくないんですが……。大浴場があったりするんでしょうか。
一先ず中を確認してソファーでダラけていると、メイドさんがやって来ました。ついでに疑問を解決して貰いましょう。
「すみません。体を洗う場所はありますか?」
「は、はい。女性と男性に別れて二つ浴場がございます。は、入りたいのですか?」
「いえ。後でいいです」
緊張してましたね。人間はそんなエルフて変わらないと思うのですがね。ま、いいでしょう。
何やらお茶菓子を持ってきたようです。うーん、焼き菓子……クキーでしょうか? それともレンバス?
食べてみると不思議な味。何だか気分がよくなって来ました。
…………麻薬?
あー、確かに地域によっては普通に容認されている場所と厳罰に処される場所がありますからねー。
いや、もしかするとエルフにとっては何ともなくても人間には……という類の食べ物なのかも知れませんねー。
まーいーかー。はははははははー。ふふふー。
「ディーウァもどーですかぁ?」
『食べるです……おいしーです!』
とゆー訳でー二人でお菓子を食べてますー。楽しいよー。はははー。
あ、ノックと一緒に執事さんが入って来ましたー。はははー。何だか可笑しいですー。何ででしょー?
あー年頃の子供は箸が転んでも笑うと言いますからー、私も年頃になったんですかねー?
まーいーやー。ふふふー。
「アレシア様。本日の晩餐会の御召し物を…………ご、ご用意致しましたので、御試着しては如何でございますか?」
「この服じゃー駄目ですかぁ?」
「格式ある、晩餐会です。そ、その格好は、些か、場違いかと……」
「ふーん。試着って楽しーですか?」
「女性の方は、た、楽しいと言われますよ」
「じゃー行きまーす。はははー」
「……! だ……大丈夫ですか?」
「何言ってんですかー? 怪我なんてしてませんよぉ?」
「…………見た所お酒の類を飲んだ訳でもないようですし……素がこれなのかも知れませんな。しかし……この笑顔には心を乱されてしまいます……まだまだ執事修業が足りないみたいですな」
「何か言いましたかー?」
「いえ、何でもありませんよ。で、ではお楽しみ下さい」
あー執事さんいなくなりましたー。その代わりにーメイドさんがいっぱい入って来ますー。服もたくさん持ってますねー。
あれー? みなさん私を見て固まってしまいましたー。失礼だおー。はははー。
あ、あれー? みなさん倒れちゃいましたよー。何でー?
ま、いっかー。ふふふー。
「大丈夫ですかー?」
いちおー、駆け寄ってみます。
うーん……何だか幸せそうな顔で倒れてます。なら寝かせてあげましょーか。
でもこの部屋でもうする事ない……。
よし、探索です。この宮殿は広いから楽しい筈ー。
「ディーウァ行きますよー」
『はいでーす』
やっぱりとんでもなく広いですー。
迷っちゃいましたーはははー。
あ、メイドさんが向こうからやって来ました。道を尋ねましょー。ふふふー。
「すみませーん」
「はい何で…………………………かはぁっ!!!!!」
あ、倒れちゃったー。道を聞こうにも会った人みんな倒れちゃって、どーしまーしょー。
まーいーや。ふふふー。
………………恥ずかしい。何あの痴態。あんなの私じゃありません……何笑顔振り撒いてんですか……馬鹿みたいじゃないですか……何がふふふーですか……何がはははーですか……うわぁ、もう当分人前には出たくありません。あのお菓子が元凶……おのれ、もう絶対食べてやりません。
今の私? 廊下の隅で丸くなってますよ。悪いですか? だって……だってぇ……あれはないでしょう。いや、ないでしょう。ありえないでしょう。
『ご主人様ー、元気だすです』
いや、無理です。無理無理無理無理。あー。どうしますかねー。もうこっそり帰りたい……それにしても私を見ただけで倒れるとか……どれだけ人間を化け物と思っているんですかね? はあ……。
帰りたい帰りたい帰りたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
『ご主人様ー』
でもー、権力者と会談の約束がありますからね。晩餐会……それは外交の裏舞台。人々は表明では笑いながら、裏ではどろどろとした争いをする……。
『ご主人様ーさまー』
それに何故だか出席出来るらしいです。そこでエルフの裏を見てやりましょう。
……気が進みませんね。わざわざそんな場所に行きたいとも思いません。でも、約束は守らなくてはなりません。
『ご主人様……』
「ありがとう、ディーウァ。何だかやる気が出て来ました」
ディーウァが慰めてくれなかったら、こっそり逃げたいという衝動を抑えられなかったかも知れません。まあ、逃げ切れるでしょうが約束を破るのはあまり気分がいいものではないです。
『……良かったです』
ディーウァの優しい声にまた少し回復。よし、立ち上がって一歩ずつ歩き出しましょう。
では先ず……どうやってあの部屋に戻りましょうか。