55、到着しました
閃光によって目が見えず、炸裂音によって耳が聞こえない私をディーウァに指を引っ張って貰い、あの三人の嫌らしい手から抜け出します。
うあ……感覚器官を二つも潰されるのってかなり自由を奪われます。それに平衡感覚も若干失ってしまい、中々に非殺傷兵器としての優秀さを身を持って体験します。……私も欲しいな。
しばらく行動不能に陥っていた私達ですが、数分も経てばほとんど回復しました。あの三人とは当たり前ですが距離をとっています。
「ディーウァ、助かりました。ありがとうございます」
もし来なかったらどうなっていたのやら……想像したくもありません。
『とーぜんのことをしたまでです!! それより……忘れられてたのは……すごく悲しかったのです……』
う……かなり悲しそうです。まあ、忘れた私が悪いんですよね。
「それは、本当、ごめんなさい。もう絶対に同じ事はしないです」
『……絶対です?』
私は大きくうなづき肯定します。
「えぇ。絶対に、です」
『本当にです?』
もう一度大きく肯定。
「本当の本当にです」
『これは約束なのです! 嘘はなしです!』
「はい、私はディーウァを忘れたりはしません」
『忘れられるのは辛いです……だから、約束です』
「……はい」
忘れられるのは辛い……ですか。もし、私が記憶喪失以前の私を知る人物に出会ったら、その人はどんな気持ちになるのでしょうね。そうですね、そういう人達を悲しませない為にも記憶を取り戻さなくてはなりません。
「ご主人様て……どんな関係?」
私が新たな決意を固めていると、横槍が入ってきました。
「ディーウァですか? うーん、何でしょうね……愛玩動物?」
何か飛べるとかサイトが言ってましたけど私は見てないですし、小さいですし、愛玩動物としてしか見れないですね。いや、でも言葉喋るんですよねー。うーん、どうなんだろう。
『……ペットです?』
「……いや、分からないの?」
「『………………』」
「さてと……何であんな事をしたんですか?」
「あ、ごまかした」
「流した」
「私は若干怒りを覚えているのですよ?」
私をあんな目に合わせるとは……ね。フフフフフフ……。何だかはらわたがぐつぐつと煮えたぎり始めていますよ?
「本当に……若干なのかな?」
何故か皆さん私と距離を取ります。おかしいですねー。今まであれだけ私を弄り遊んでいたのですがね。ディーウァまで私の頭から何処かへと行ってしまいました。ま、そこは問題ではないのです。
「……で、何でです?」
「あー、まーその。分かるでしょ?」
「全然分からないですね」
分かりたくもありませんよ、何しろされた行為が行為ですからね。
「本当に分からないの?」
「?」
何か見落としが……………………はっ、そう言えばタルクィニウス、さんに拉致された村で子供を見かけなかったような……そしてロウダスでの前例……つまりエルフの出生率は高くない可能性、そしてロウダスで分かるように世間の人々はたいてい子供好きだという事実。そこから導き出される真実は一つ。
「私が私だから……」
子供好きな性格の人々の前にただでさえ数少ない私という女児が現れた。人間であるというマイナス材料を考慮に入れたとしてもエルフの皆さんにとっては十分に可愛いがる対象になったという訳だったのですか……。
「そう! 美しさが誇りにすらなっているエルフに勝る可愛さ! ちっちゃいし! 口調は大人なのに体は子供! その落差がまた……イイ!」
なるほど……確かにエルフの皆さんはどちらかと言うと可愛さより美しさを備えています。
そこに小さな子供が現れた……人間であると言う物珍しさも相俟ってつい構いたくなったという訳ですね。そしてつい度が過ぎてしまったと…………。
まあ気持ちは分からなくもないです。しかし限度はあるのですよ。
「理由は分かりました。私も多少は気持ちが分かります」
「そ、そう……よかったわ」
何で安堵の表情を向けているのでしょうか?
まだ、何もしてないのに。
「でも、許すとは一言も言ってませんよね?」
「へ?」
「覚悟して下さい」
「「「ギャーーー!!!!!」」」
ん? 扉を叩かれていますね。目的地に着いたようです。皆さん足早に馬車から出て行きます。
御者さんも私をもの欲しそうな目でちらっと見た後、職務を思い出したらしく副隊長さんに近寄っていきます。
「副隊長。到着しま……大丈夫ですか?」
あぁ、副隊長さんの唇は紫色になってたような気がしますね。
「つつつつつ着いたの?」
「はい……いや大丈夫ですか? 下車してるんだから分かるでしょう?」
確かに。ですが、多分副隊長さんは早くあの場から逃れる事しか考えられなかったと思いますね。
「あぁ……外が暖かい……本当に暖かい」
「……今冬ですよ、副隊長」
「馬車の中見てみなさい」
「え……うわ! 何ですか? まるで氷の館みたいな感じになっているのですが」
フフフフフフ。摂取マイナス五十度の世界はいかがでしたか?
私の反撃はコレです。
最初は猛暑にしたんですが、効率の問題から極寒にさせて貰いました。
やはり冬なので冷たくする方が楽です。あとは寒さなら即座に死なないですからね。暑さだと脱水症状とかになられるかも知れないですし。
あ、私の周りだけは快適空間でしたよ?
周りが寒さに凍え苦しんでいる中、私だけがのどかな陽気にうとうとしている。
満足♪
さて、馬車から下車した私の前にはペロポネア皇族のティオキア別邸にも劣らない規模のお屋敷……いや宮殿が視界を占拠します。
これはつまり、かなーり偉い人がいるのでは?
どうします?
…………私という人間をどう扱うつもりでいるのでしょうか。
対応次第では逃げなくてはならないかも知れません。となると……
皆さんから少し離れ、頭にいつの間にか戻って来ていたディーウァにアレについて尋ねます。
「ディーウァって人を乗せて飛べるんですか?」
するととても嬉しそうな顔を見せます。
『はいです!』
やはり自身の生き甲斐というか、仕事というかが出来るのは嬉しいのかも知れませんね。というかそれがなかったら本当に愛玩動物扱いしか出来ないです。
「それってどうすれば出来るようになるんですか?」
『ご主人様から必要な魔力もらったらいつでも戦闘機になって飛べるです!』
「へぇ……」
『他にも個人火器もーどもあるです』
そう胸を張って誇らしげに話してくれました。しかし個人火器? 何でしょう。
「個人火器?」
『見てもらう方が早いです! ご主人様魔力を!』
確かにそうですね。
魔力……体内というか心の底というか形容しがたい場所から沸き上がるソレをそのままディーウァへ向かって流します。
とりあえず数秒程流し込んでみました。
「どうですか?」
『こんなにたくさん…………さすがご主人様です!』
あれ? そんな与えたつもりはなかったのですが……ディーウァの魔力消費が少ないのでしょうか。
『……よ〜し!』
「ま、待った!」
危ないですね。ディーウァの能力は隠しておきたいですから、今やられると大変困ります。
「ディーウァ、後で見せてくれませんか? 今やると見られてしまいので……」
『何でです?』
あーもう、そんな悲しそうな顔を見せないで下さいよ。
「いいですか? エルフ達は今は仲良くしていますが、もしかしたら関係が駄目になる可能性もあります。その時エルフ達には私がどうやって逃げるのかが知られているとまずいのです。分かりましたか? つまりディーウァは切り札なのです」
『切り札……』
「そう、切り札なのです。だから見られたくないんです」
『わかったです!』
何とか宥める事に成功しましたね。しかし頭の上で上機嫌で鼻歌を歌われるのは少し……変な気分です。嫌ではないのですが、気になるというか……。
私とディーウァが密談をしている間に執事らしき人がやって来たらしく、私を護送していた部隊の方々と話し合いをしています。
あ、皆さん無理矢理帰されていますね。ちょろちょろ聞こえた話から判断すると私の前にある宮殿の持ち主は、警察すら大人しくさせる権力をお持ちのようです。
私は無事に帰れる事を切に祈ろうとしましたが……辞めました。
だって…………私に帰る場所なんてないじゃないですか。
記憶を、取り戻さないと…………。




