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53、逃走者・容疑者流月才人




……税務を行う建物が襲われる事態というのはかなりの重要な犯罪にあたるみたいです。


何が言いたいのかというと私とサイトとおまけにディーウァは完全に包囲されています。今にもメガフォンで叫ばれそうです。


「誘拐に税金泥棒! 大人しく投降するんだ! 逃げ場はないぞ!」


あらら、サイトも災難ですね。誘拐された私を助けに来たら、まさかの誘拐犯扱い。

おまけに罪が増えてますし。


「サイト。どうします?」


「メンドクセー。振り切るぞ」


あ。


またですか。いつかのロウダス島みたいに私の腰を捕み、サイトは跳躍。屋根から屋根へと疾走します。速い速い、時速八十は出てますよ。


「……で、これからどうするんです? やっぱり戻るんですか?」


「あぁ」


うー、私は今ローブを羽織ってないのです。例の防刃加工黒ワンピース一着。一応長袖ではありますが……寒いです。

服の間から風が入って来ます。


暖まろうと【灼熱】を発動。


…………。


風が温風に……いや、暖かいですし、しかもサイトにも効力が及んでいていい事なんですけど……私、あんまり長く暖房器具の前に位置取りしてると温風が当たってる場所だけ暑くなるからそんなに長く暖房器具の前にはいられない人なんですよね。


つまり温風の温度が高すぎる訳です。ならば弱めればいいのですが、私の魔力はかなりの量なもので精密な制御は中々難しいのです。これは毎日練習あるのみですね。




そんな感じでわりと簡単に逃走していた私達ですが……。


「いますね」


サイトが首を縦に振ります。


私達の前方大体……百メートル程。

時計塔の三角屋根の上に人影。


そして明らかに、強者の雰囲気漂わしてます。


「サイトって……どんな戦闘が出来るんですか?」


「ん? コレ」


サイトの片手にはいつの間にやら二振りの片刃の三十センチくらいのと五十センチくらいの……黒い刀。何故か刀と分かりましたね。ともかくこれは二刀流という事でしょう。


なら……私はサイトに作戦概要を伝えます。




私達は金髪を肩まで伸ばし、碧眼の中性的なエルフと相対します。やっぱり美人。


「大人しく捕まりなさい」


その美人なエルフはまずは交渉派みたいです。好都合。


「断る!!」


サイトは私を投擲。


「なっ!?」


エルフは私を助けようと慌てて塔から飛び降ります。


残念でしたね。罠です。【絶対零度】と【灼熱】のコンボ。エルフの上方に展開した【絶対零度】が空気を液体にまで凝縮し……【灼熱】が一気に気体へと蒸発させます。体積が急激に増加した事により衝撃波が発生。


エルフは地面に叩き付けられる……予定だったのです。


しかし何らかの魔法によりエルフはふわりと優雅に着地しました。ちなみに私は衝撃波により上へ押し上げられ、時計塔のてっぺんにいます。


「成る程……そこの青年に弱みを握られ、泣く泣く協力しているんですね。可哀相に……」


何でそうなるんでしょう。それにまだ安心するには早いですよ。


私は【電子砲】を発射。発射。発射。合計三連射。


当たれば瞬時に灰になるような光線。

しかしたやすく避けられてしまいます。ですが問題はありません。むしろ強力な一撃を避け続けている方が、意識をこちらに向けなくてはならないでしょう。



後方からの峰打ち。


しかも意識は私へと向けられています。


完璧とは言いませんが、隙をつく事は出来ました。


サイトは既に右の小太刀を横に薙ぎ払っています。


おやすみなさい、名前も知らないエルフさん。私達の勝利条件、それはこの場を逃走する事なのでした。……あ……だったら私の一撃は囮だと分かっているかも?


嬉しくない予想が的中し、サイトの小太刀は前方へ跳躍される事で避けられ、そのまま反転したエルフは何らかの衝撃をサイトへ与え、サイトは吹き飛びます。建築現場に突っ込んでいったので地面に叩き付けられ……いくつかある壁をぶち破ってようやく止まりました。ただ、まだ健在なようです。


「サイト!」


そのままエルフは魔力を自分の周りに放出し、業火が放たれます。あの火球をくらったら…………


させない!!


私は時計塔を飛び降り、【絶対零度】を放たれた業火を鎮火します。 そして落下速度を利用してエルフへ突貫。


「あぁ、もう安心なさい。不届き者はもうすぐ排除しますからね」


まだ私を被害者だと思い込んでいるみたいです。ならば、そこに付け込む!


エルフは私をふわりと浮かせ、地面に下ろしてくれました。うーん、少し心苦しいですが仕方ないですよね。


「はい、大丈夫です」


「それはよかった。もし傷があったらあの青年を拷問してしまうところでした」


エルフは微笑みながら私に近付いて来ます。


私も作り笑いを返します。


「く…………。何と破壊力のある……」


何がかは分かりませんし、分かる事もないでしょう。


何故ならあなたは……。


エルフが私を抱きしめようと手を伸ばした瞬間、【絶対零度】と【灼熱】を発動。エルフは崩れ落ちます。【絶対零度】で体を瞬時に凍結させ数秒待ち、【灼熱】で瞬時に解凍。ふう、ちゃんと生きてますね。解凍は組織を破壊してしまわないか心配だったんですが何とか上手く出来たみたいですね。エルフは一時的に脳に血液が流れなかった為、気絶している……筈です。


よし、勝ちました。


サイトは? 


見た目では多少の怪我はあるようですが、擦り傷程度。今瓦礫からはい上がり、私の元へ近寄って来ます。


「大丈夫ですか?」


「問題ない」


それなら……て、頭から血が!


「さ、サイト本当に大丈夫ですかね? 頭から血が出てますけど」


「そんなにオレが心配か?」


「……いや、そんナ訳ないでしょウ。ただ普通は頭から血が流れてたら大事ですからね。い・ち・お・う、聞いてみただけですよ」


つい条件反射で否定してしまいました……私の馬鹿! これでもし倒れたりしたらどうしましょう。


私はちらちらとサイトの頭を見てみます。だらだら流れてますよ。せめて何か巻いた方がいいのではないでしょうか。


何か巻く物……なるべく清潔な物……サイトの服は先の戦闘で土塗れ、私の服は昨日から着替えていませんし第一防刃が出来る服を引き裂くなんて無理です。なら…………。


エルフ…………何だか高そうな白いローブを羽織っていますね。そして雑菌は【灼熱】で消毒滅菌可能です。


びりびり。じゅわ。


よし、即席包帯の完成です。


サイトは疲れたのか瓦礫を椅子にしてぼんやり周りを見ています。


「サイト」


「ん?」


「そ、その……」


い、言えない。さっき否定した手前何も言えないです。


仕方ないので無言でサイトの頭に包帯を巻きます。


「何? 心配してくれてんの?」


「そ、そうですよ。もし倒れられたら私が運ばなくてはなりませんからね。そういう意味でならば心配はしていますよ。断じてサイトの体なんかは心配してなぞいませんからね。勘違いしないでくださいよ」


「そうか。……ありがとう」


ぐむ…………サイトが素直にお礼を言うなんて、何だか負けた気分です。


ああ……そろそろ衛兵もしくは警察が到着しそうですね。




でも……あと少しだけこうしていましょう。


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