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51、公務員なエルフ達




はあーーーーーーー。あれから私は首輪を付けたまま馬車に乗せられ、何処かに連れて行かれてます。


はあ…………。まさか私があんな単純な失敗を犯すなんて…………。はあ…………。




あ、止まりました。何でですかね?


馬車の後方の扉が開き、彼が顔を出してます。


「夜飯だ。置いておくぞ」


「あ、あの……名前、教えてくれませんか? 分からないのも不便なので」


意外に待遇は悪くないのです。首輪が付いてるので縄で拘束もされていませんし、私が寒いと呟いたら毛布を一枚掛けてくれました。まあ、罪人としての待遇ならば悪くないという意味ですがね。性根はそこまで悪い人じゃなさそうです。勘違いは甚だしいですが。


「オレはタルクィニウス、貴様を逮捕した男だ」


イライラ。そのニタニタした自慢げな顔に石を投げてやりたい……。

私のさっきまでの評価は大暴落。タルクィニウス株は売り超過。株式市場は一部閉鎖に追い込まれます。


「私の名前はイブキ‐アレシア。税務官を泣かせた子供です」


という訳でつい口が滑ってしまいました。あ、引き攣った笑顔。何だか気分が良くなりました。


ん? 一度置いたお皿に手を伸ばして……ま、まさか。


「夜飯は無しだ!!」


あ! 私のパンがぁ!! た、食べられてしまいました……。


ふ、ふん。一食食べなくても問題はないです。タルクィニウスなんか、食べ過ぎで肥満になって苦しめばいいんです! ごろごろ坂で転がってればいいんです!




ふへぁ……お腹空きました。

何か食べたいです。


仕方ない、あいつが置いてった革袋に詰まったお水でも飲みましょう。惨めです……。






馬車の振動により目が覚めます。


扉の下の隙間から陽光が差し込んでいます。いつの間にか寝ていたみたいです。あぁ、お腹ペコペコです。それもあいつがパンを食べたから。せめて見てない所で食べて欲しかったです。あぁ、怒りが沸き上がって来ました。尊大なタルクィニウスとでも呼んでやりましょうかね。ん?


……私の横にパンとチーズが置かれています。


「美味しい……」


ま、まあ私も少し言い過ぎたかも知れません。何しろ硝子の心を持つエルフですからね。




しっかし暇ですねー。何もする事がありません。何かないですかねぇ。


暇。暇暇暇。暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇。


うー、暇ー。ひーまー。


何もする事がないと、考えてしまうんですがね…………私は、金貨を三枚も所有していました。いや、皇女姉妹から金貨五枚も貰いましたから八枚、ですね。金貨五枚……今思えば結構な負担をかけてしまったのではないのでしょうか。かなり正確な射撃の腕を持っています。数十メートルの距離なら静止物体には百発百中です。さらに、魔法も使えるみたいです。【灼熱】に【絶対零度】、そして【電子砲】。魔族というおとぎ話な存在と敵対関係にあります。彼らは、私を狙っていたみたいです。


こうして列挙してみると不思議な人物ですね。


銃なんて言う何処の武器かも分からない物を自在に操り、詠唱や魔法陣ではなく心の何処かに刻まれた不可思議な記号に魔力を注ぐと発動する魔法を使えたり、もはやおとぎ話にしかおらず絶滅したのではないかと疑われている魔族に接触していたり…………。


そんな私は……誰? 私は一体誰なの?


誰か……教えて下さい…………。












あれから一日が経過しました。

行き先は分からないのですが今までの獣道から整備された道に変わり乗り心地は大変良くなり、外からエルフ達の声が聞こえるようになりました。


あ、馬車が止まりましたね。


しばらくすると扉が開きました。扉を開けたのは尊大なタルクィニウス、他にも何人かいます。


「…………この娘が人間……確かに耳が丸いな」


彼は眼鏡をかけた、渋いお方。


「伝承と違い、我々に近い容姿をしていますね……」


頬がうっすらと赤くなっている冷静な秘書みたいな女性。


「あらー……タルちゃんホンモノ見つけちゃったんだ……」


見るからに明るい女性。この言葉を聞くと、前にも何かやらかしているようですね。


「わあ……さすがタルクィニウスさん。またまた厄介な事になりそうです」


童顔の男性。何気に迷惑だとあからさまに表情で表している唯一の人。


「ははははは!! 同僚及び先輩及び課長!! オレはやりましたよ!! ふははははは!!」


そしてかなり図に乗っているタルクィニウス。


「……で、タルクィニウス三等税務官。これからどうするつもりかな?」


課長さんがこれからの予定を尋ねます。私も気になりますね。どうするんでしょう。


「課長、オレはこれからこの工作員を警察に突き出して来ます!」


警察沙汰…………。


「そちらのお嬢さんの言い分は聞いたのかな?」


「い、いやまだですが……」


それを聞いた課長さんの眼鏡がキラリと光ります。頑張って、課長さん!


「ほぉ……つまり、君の思い違いの可能性もあるんじゃないかな? それとも何か明確な証拠があるのなら出して欲しいんだが」


「し、証拠はない……です」


「ならば何故捕まえているのかな? まさか君の想像だけで罪無き人間を捕らえたとでも言うのかな? ん?」


「………………」


何というか、押しに弱いみたいですね。

今までの不遜な態度は何処へやら。縮こまってうなだれています。


そこから課長さんの叱責が続いていきます。


秘書さんがいつの間にか近寄って来て、首輪についた鎖を柱から外してくれています。


「ありがとうございます」


「いいんですよ。彼がこういう迷惑を他人にかけるのは今に始まった事じゃないですから」


今までかけられた苦労が蘇ったのか、ため息混じりに話してくれます。


「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


そう言いつつ、体を下半身から手の平で軽く叩かれます。そして大丈夫だと判断したみたいです。


…………頭から手をどけてくれません。


「あの……頭、どうにかなってますか?」


「い、いえ、何ともありませんよ」


何を慌ててるんですかね?


「おぉー可愛い娘だね。あれぇ? まさかタルちゃんそーゆー趣味?」


もう一人の女性が馬車の中に入って来ました。童顔の男性も一緒です。それにしてもエルフの価値基準は私達とは違うみたいです。何しろ私を可愛いと……まあ、子供になら大体当て嵌まるのかも知れませんね。


「へぇ……中々綺麗じゃないですか」


う……綺麗や可愛いの意味合いが違う事は分かるのですが、こう何度も連呼されると…………。


「あー……。あたしちょっとやばいかも」


「私も……いえ、何でもありません」


「おれも厳しいですねー。調教したくなりますよー」


……勘違い熱血さんやサディスト疑惑さん。


エルフに抱いていた幻想的な印象を見事に打ち砕いてくれました。


私の夢を返して欲しいです………………。


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