47、後遺症
十数メートルの高さから投げ出されたサイトだが、その程度は何ともないらしくいとも簡単に着地する。
すると、パチパチと拍手の音が聞こえる。
サイトがその音源を探ると、
『サイトすごいです!』
そこには十センチメートル程の大きさの明るい茶色の髪を肩まで伸ばした女の子がいた。
「ディーウァ……なのか?」
『その通りです!』
「……その姿は?」
『今は魔力が少ないから魔力消費を抑える姿なのです。ご主人様が魔力を注入してくれれば戦闘もーどになれるです』
サイトはとりあえず体を暖める事にした。このままでは凍死する可能性もある。
イブキにディーウァを付け、近くの森林から適当に乾燥している木材や落ち葉を拾い、ポケットからライターを取り出し火を付け、焚火をする。
寒いからか、キャンプファイアー並の焚火三つをサイトを中心にトライアングル状に並べる。
そこまですると、サイトは地に倒れた。
『だ、大丈夫です!?』
「ムリ……寝る」
流石にこの火力は強力だ。二人の服はものの数分で乾き、塩が出来た。
『あ、暑いです! このままじゃご主人様とサイトの塩焼きが出来ちゃうです!! 起きるです!!』
イブキはもちろん、サイトも起きない。
二人はこのまま塩焼きになるのだろうか。
人間の塩焼きを食べる者はいるのだろうか。
「…………う……」
朝日が……眩しいです。ここは……何処でしょうか。私は、ベッドで寝ていたようです。
山小屋みたいなお部屋です。
ベッドの隣にある机の上に人形がある以外、本当に何もありません。
私は何故こんなところに…………確か、ロウダス島を船で……!?
そうだった……私は、あの時死体を見て……何をした?
何があった?
私は、怖かった。
何が怖かった?
死ぬ事が怖かった。
何で死ぬ事が怖いの?
……痛いから? 違う…………私は、何で怖いのだろう?
分からない。
分からない。
分からない。
「……あ…………アガ……」
「……あ」
夕日が見えます。赤い。アカイ。
海が、赤い。燃え盛る船が赤い。血が、赤い。
「…………あ……うぅ……」
痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!!!!
「……暗い」
夜。真っ暗闇。海。何かが漂って来る。
これは……シタイ。
「……あああああああああぁあああぁぁアアァァァアァ!!!」
「ディーウァ、何が起きている」
『……う〜ん、多分、コード・レッドが悪いです』
「どういう事だ?」
『コード・レッドは無感情になるです。それが一番殲滅に適してるからとかなのです。だからコード・レッド発動の後は反動で精神的に脆くなる……とご主人様は言ってたです』
「そうか……」
「…………」
また、夜。夜。黒服と戦う。
二人死ぬ。
クロコゲノシタイ。
二人死ぬ。
マップタツノシタイ。
二人死ぬ。
アナアキノシタイ。
一人死ぬ。
ナニモノコラナイ。
「ああアアああアアああああぁぁ!!」
……アタタカイ。暖かい。温かい。
朝。明るい朝。暖かい朝。温かい朝。何で、温かい?
「……サイト」
温かい。
お昼。
サイトが、いない。
寒い、寒い。寒い。
サイトは、何処?
『ご主人様!! 起きたです!!』
あなたは誰?
『うぅ〜。良かったです』
何故、泣いているの?
何故だろう。分からない。
でも、悪い気はしない。
温かい。
扉が開く。
「サイト…………」
私は抱き着く。
暖かい。温かい。
頭を撫でられる。
温かい。
眠たい。今なら、気持ち良く眠れそう。
「……朝? いや、お昼みたいですね」
私はベッドから抜け出します。
あれ? 力が……
「……痛い」
転んでしまいました。
体が上手く、動かないです。立てない…………
『あ! あ〜!! 起きたです!! ご主人様が起きたです!!!』
……何か、小さな人がいます。
何でしょうか。小人が存在していたのでしょうか。
あ、小人は飛ぶ事も可能みたいです。
私の頭に着地。
『ご主人様! 大丈夫です?』
「動けないみたいです」
彼女は何者でしょうか。
その時、扉が勢いよく開きサイトが入って来ました。
「あ、サイト。おはようございます」
『おはようございますなのです』
「……何してんの?」
サイトに訝し気な表情で見られます。
サイトに弱みを握られたくはないですが、仕方ないです。
「……た、立てないんです」
『です』
恥ずかしい……何て言われるでしょうか。
あれ? 何も言われません。
「な、何でお姫様抱っこ!?」
その代わりにこの仕打ちですか……何か更に恥ずかしいような気がします。
「立てないんだろ?」
「でも……」
「いいから黙ってろ。オマエ、一ヶ月寝てたんだよ」
い、一ヶ月? そんな馬鹿な……人間は水をそれだけの期間飲まなかったら死んでるはずです。
私が批判を述べようとしましたが、口を閉じます。
知らない男女が立っているからです。
それも、とびきり綺麗な。一瞬、頭が真っ白になりました。
二人共艶やかな金髪を腰まで伸ばし、男性は鮮やかな翠眼を、女性は落ち着いた青の碧眼で、長く尖った耳がそれに……ん? 長く尖った耳?
もしかしてこの男女は、
「……エルフ?」
「その通りよ!!」
いきなり女性の方が突っ込んで来ました。
サイトはさっと脇へ逸れ、回避。
「サイトくん♪ その娘渡しなさい♪」
サイトに脅しをかけているみたいです。サイト…………私達、仲間ですよね。
「どーぞ」
「きゃーん♪ ありがとー♪」
私は投げ渡されました。
…………裏切り者。
私の頭に乗っていたらしい小人は床へ落下……せずに浮いてます。
う、う、か、らだ、が、揺れ、ま、す。
気持ち悪…………この女性は何がしたいのでしょうか。
「プルチェ、彼女は病み上がりなんだ。そっと扱ってあげなさい」
「あら♪ ごめんね〜♪」
男性が注意してくれなかったら胃の腑の物を出……お腹には何も入っていないみたいです。
意識した途端、キュルル…とお腹が鳴ってしまいました。
サイト! 笑うな!!
他の人もいきなり微笑み出さないで下さい。
「ご飯にしましょーねー♪」
さて、先ずは腹拵えですかね。
あれ? 数日以上何も食べていないような時は食べていいんでしたっけ。