箸休め十三品目−リンク45、「真冬の嵐」作戦
「真冬の嵐」作戦。
それは、戦争開始から九ヵ月経っても進展がない事に苛立ちを隠さない大統領が決行させた一大作戦である。
内容としてはロミリア最精鋭軍団である近衛、第一、第二魔法軍団を筆頭とする十五個軍団九万を海岸沿いに位置するペロポネア帝都レクサンドリアに急襲させ、一気に戦争を終結させるという有り得ない程無謀な作戦だ。
軍部は以下の理由を挙げ、反対した。
先ず、数百キロという航路でもし見つかればロミリア軍は精鋭軍団を失い、この戦争に負ける。
次に、発見されずレクサンドリアへ上陸したとしても対魔法加工が施された街を囲む強固な防壁、内部の皇族が生活する皇宮を守る更に強固な防壁の二重の防御に、常に帝都に駐屯している約三万の兵、数は少ないが一方的な攻撃が可能な飛竜部隊、皇族を守る優秀な騎士団がいる。
上陸しても、帝都に入る事すら出来ない可能性すらある。
包囲戦ともなれば月単位、下手をすれば年単位部隊を展開し続けなければならず、その間に逆にこちらが包囲されてしまう。
これに対しての反応は黙殺。何が何でもやる、という事だ。
これには民衆が影響している。
チャールズ大統領はペロポネアへの強硬路線で支持を集めたゆえに、民衆は事態を早期に、鮮やかに解決してくれる事を期待した。
つまり、この戦争で膠着状態になるのはチャールズ大統領にとって命取りなのである。
チャールズ大統領は焦る。公約には事態の早期解決もあるのだ。
日に日に批判が強まり、このままでは政治生命が危うい。
そこに魔族の友が入れ知恵する。
なら、帝都を占拠してしまえばいい。そうしたら君は一躍英雄さ。
チャールズ大統領も始めの内はこの友人の意見に苦笑した。
グラハム‐セレベルよ、君は軍事には無知みたいだね、と。
だが、突き上げが厳しくなり、友の言葉に甘い蜜のような味を感じ……舐めてしまった。
軍部はせめて成功確率を高めようと奔走した。
反皇帝派と接触、作戦決行日外周の門、皇宮の門を開けさせる確約を得る。
更に当日に三万兵の内、一万を演習の名目で遠ざけさせた。
代償は独立国の承認。皇帝は民衆の支持が厚い為、新たな皇帝には成り得ないのである。
輸送船団の護衛は第三船隊が担当。
敵の目をごまかす為、第三船隊が担当していた海域には船は本物、人材は偽物の第三船隊が残る。
輸送船一隻に約千人が乗るので、輸送船の数は物資も含め百隻。
五段軍用船が十隻。
三段軍用船が二十隻。
高速船が三十隻。
戦時増強により五段軍用船には五百人、三段軍用船には二百人、高速船には五十人が乗船している。
人員十一万、船数百六十隻の大船団が一路レクサンドリアへ向けて出港した。
存在を隠匿する為、出会った船は拿捕、又は撃沈する予定だったが、幸い一隻も発見されなかった。
順調に航行していたがある夜、上空が赤く染まった。
まさか、敵の飛竜部隊か……皆、一方的な虐殺に怯えたが、何も起こらず、何かの自然現象を見間違えたのだと判断された。
あれから三日。
「これより、作戦開始!!」
魔族の計画は、着々と成功している。