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42、お洋服




何が何だか分からない。


それが今の私の感想でしょう。

そもそもミシェルさんとラベンダさんは犬猿の仲だったはずなのに何故こうも仲良く話しているんでしょう。


ただ私の服選んでるだけなんですけどね。




このブティックだか何だかよく分からないお店に来るまでは、ぎすぎすした空気に辟易しながらロープの上を渡るようなぎりぎりの会話をしていたのです。


しかしお店に入り私の服を選び始めた途端意気投合。仲睦まじい姿を私は見ているのです。というか何で服買いに来たんですかね?


うわあ、そんなふりふりした何かが付いたのは止めて欲しいですねぇ。ピンクも駄目。何か、こう地味な感じにして欲しいですね。私追われる立場ですし、嗜好としても明るい色はあまり好まないですし。

え? ミシェルさんそれ持って来るんですか?

ラベンダさんは? あ、そんなの無理です。エミリーさんあなたは? 

はあ、私と嗜好が一致する人はいないようです。


「イブキ、これ試着してみなさい」


「私のはこれだよ!」


「こんなのどうかな?」


ちなみに自己紹介は会話を持たせるためにとっくの昔に終えました。

はい、現実逃避している自覚はありますよ。


…まずミシェルさんが持って来たのが何かふりふりレースがたくさん刺繍されたワンピース。これを着ると私の過去の何かのプライドが壊れそうな気がします。次、ラベンダさん。若干濃いめのピンクのワンピースに白いカーディガン。ピンクも同上。

最後にエミリーさん。上は白いセーター。これは普通。下、ミニスカート。…………無理。











『でも私は平気ですよ?』


『やめてくれ。自分だって掃きたくなかったんだ。しかし履かないと母さんと父さんが……』


『えぇ。まさか泣くとは思わなかったです』


『慣れてしまった自分が嫌だ……それでもあの黒ワンピース以外を着る気はない!』











ん? 何か脳の別領域で誰かが会話してたような?


「さ、着てみて下さい」


「いや、ちょっと、遠慮したいというか何というか……」


うわ、そんな事考えてる場合じゃありません。

どうにかこの窮地を乗り切らないと……


じりじりと下がる私。

にじり寄る三人。


カタン


しまった! 足が段差に引っ掛かり、試着室に転び入ってしまいました。


「あら、まんざらでもないようですね」


違いますから!


「じゃ、着せ替えは私がさせてあげよ」


「何言っているんですか? 私がします」


あ、険悪な雰囲気。この隙に……


「もう、アタシがしちゃお」


エミリーさん! あなたもまんざらでないみたいですね!!

しかもその一言で二人が停戦してしまったじゃないですか!?


「みんなでしようか」


「そうですね」


あ、カーテン閉められた。というか一人が直立して使う部屋に四人も入ってぎゅうぎゅうなんですけど。狭い。


「私、こういうのは趣味じゃないんですけど……」


「大丈夫。似合うから」


「いや、そうじゃなくてですね……あ、脱がさないで下さい!!」


「いいからいいから」


「何も良くないですから!! あ、四肢を押さえられた!? やめてください!!」


「いいからいいから」


「ちょ……ローブ返して下さい!! あ、そっちは駄目!!」


「いいからいいから」


「う……服、返して下さい」


「下着……上付けてないのね……ゴクリ」


「白い肌……羞恥に染まる……う、鼻がツーンってする」


「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ……アタシは、アタシは一般人なんだ」


え………ち、ちょっと?


「な、何してんですか!?」


「指舐めて「言うな!!!」


もう嫌だ!!

この場は雰囲気が桃色だ!!

咄嗟にカーテンをくぐり外へ離脱します。

そしてカーテンの裾を隣にあるドアに挟み封鎖。安全確保完了。


う……とは言っても下着姿は恥ずかしいです。彼女達が平常になるまでお店の服を借りときましょう。


振り返る。




やっぱり試着室の方を見る。




振り返る。




…………冷や汗が頬を伝っているのを肌の感覚器官が教えてくれます。


状況、お店にいる店員・お客問わず全員が私を見ています。

ここまでならぎりぎり許容出来ましょう。


しかし……しかしですね、全員こっちに息を荒くしながら近寄って来るんですよ。


この島の出生率はそんな低いのでしょうか。


私はかつてない速さでサイズが合う服を無作為に選び、二つ目の試着室へと駆け込みました。


こ、これは…………緊急事態なんです!

何か知らないけどごめんなさい!!











『………………………………………』


『し、仕方ないでしょうあの状況は……そ、それに女として着たんですから女装趣味とか誰も思いませんって』











……試着室から出て見ます。

ぜ、全員こっち見てますね。

しかし硬直してるようです。

こ、これはどういう状況なんでしょう。もしかして、あまりに似合わないから憐れみの眼差しを浴びているのでしょうか。


私が仕方なく着た服は貴族に仕える女性が着る、俗に言うメイド服とか言うのです。


う…………恥ずかしい、です。


「…………き」


き? 木? 気?


キャアアアア!!!!!


「ひぅっ!」


うわあ、何か突撃してきました!

逃げ場は…………あ、ありません!


ビリィッ


「ちょっと待った!!」


お、おぉ。カーテンを破りエミリーさんが私の目の前に駆け付けてきました。カーテン代は誰が弁償するのでしょうか。


それはひとまず置いておき、エミリーさんの一喝で皆さん動きが止まります。ついでに破けたカーテンをくぐってラベンダさんとミシェルさんが脱出しました。


「大丈夫? イブキちゃ…………なっ……」


「はい、助かりました。ありがとうございます」


こんな場所でスリルを味わうとは……窮地を脱した事で幾分か気が楽になりました。思わず微笑みながらお礼を言っていました。


「!!!」


え? エミリーさん? 何で私は抱き着かれているのでしょう。


「は、離して下さい…………」


「イブキちゃん…………笑顔は威力が桁外れだよ…」


何の威力?


「ずるいよエミリ!!」


「抜け駆けは反則です!!」


ははっ、ついに訪れた三人纏めての口喧嘩。


逃げるなら、今!!


エミリーさんの手からするりと抜け出しダミー(マネキン)を入れときます。

私は試着室へこそりと入り、服を着替え始めます。


「そうね、今日は服を選ばないと」


「あれ? イブキちゃんがいないよ?」


「何か固い…………って何これ!?」


ふふふ、もう着替え終わりましたよ。


「あ、イブキちゃん脱いじゃったんだ〜、残念」


「イブキ、次はこれに着替えなさい」


「え? でも………」


「着替えさせて欲しい?」


脅しの中にある期待の眼差し……ほ、本気です。




うぅ…………あれから私はお人形の如く着替えをたくさんしました。


願わくば、同じ目に二度と会わない事を…………


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