41、捜索網構築
「よ、様子おかしくないですか?」
「え?」
何か群集がにじり寄って来ているような……
「イケメン……」
「美男子に美幼女……」
「ごくり」
「じゅるり」
「……私の気のせいかも知れないですがサイトも狩られる側っぽいですよ?」
「…………」
あ、引き攣った笑顔。
あれ? 何で私にその笑顔を向けるんですか?
「オシオキ追加な」
「何で……?」
理由が分からないのですけど。
「あれはお前が目当てだから」
「そうですか? サイトも……」
「オシオキ増やされたいのか?」
ずるい。
しかし……何されるかすら分からない処罰を増やされたくはないので口をつぐみましょう。
「逃げるか……」
「え?」
サイトが呟いた直後、あっという間に私達は空に浮き、空を跳びます。
「逃がすな!!」
「馬鹿!! 魔法なんか使って傷ついたらどうするの!?」
「身体強化だ!! 使える者は追え!! 追うんだ!!」
「そんな高等魔法使えるか!?」
群集は騒ぐだけで何も出来ません。このまま屋根を走って空中散歩と洒落込みましょうか。
「あ。サイト、止まって下さい」
「は?」
「いいから!!」
よし、渋々ながらも止まってくれます。
「皆さん!! 私達は人探しをしてるんですが金髪の少女と紫髪の少女、この二人連れを知りませんか!?」
「知ってる?」
「知らなーい」
「あなたは?」
群集はがやがや周りと尋ね合っています。
十八人はいますから聞き込みも一気に出来ました。
災い転じて福となる?
「あ……降ろしてくれないですか?」
今更ですが少し恥ずかしいです。
「今降ろしたらどーなるか、分かるだろ?」
うぐ……降ろされたら転落死体になりますね。我慢するしかないです。
しばらく賑やかだった群集も意見が纏まったみたいで、二人代表者が出て来ました。
一人は私が声をかけてしまった明るい茶髪を肩当たりまで伸ばし前髪が額で分けられている女性、確かラベンダとか呼ばれていました。
もう一人は地面を掘削する工具に似た髪型の貴族っぽい女性。
「私達は見覚えないわ。役に立たなくてごめんね」
「私も存じません」
「そうですか……ご協力ありがとうございました」
お二人共残念そうな表情をしてくれています。協力してくれただけでも十分うれしいですよ。
ま、十八人程度では引っ掛からない事もあるでしょう。次に行きますか。
「サイト、一旦宿に戻りましょう」
「待って下さい!! 私、学園では有名なんです!! その情報網を使えば見つかるかも知れません!!」
私達が帰ろうとしたのですかさず貴族風女性が話し掛けて来ました。うーん、提案は確かに闇雲に捜すよりかいいかも知れないです。
「わ、私も協力するよ!!」
お二人はライバルか何か何でしょうか。ラベンダさんとやらも協力してくれるみたいです。
「あら! あなたの交友関係はあんまり広くなかったと思いますけど?」
「こ、こっちはあんたらの泥臭い方法とは一線を画した独自の画期的な方策を取るからね!! 問題はないわ!」
「なっ……ど、泥臭い!? そこまで言うならその独自の画期的な方策とやらをお聞かせ願いたいですね!!」
あー、際限ない、正に泥沼状態に陥ってしまっています。
この口論いつまで続くんですかね?
あー、あれから何分経ったんですかね。サイトがいらいらしてますねー。私をいじらないで欲しいですねー。
「オレ帰るわ」
「え?」
「じゃ、頑張れよ」
なっ……サイトめ、私を地面に降ろして帰りやがりましたよ。
「あら? 降りて来ましたね?」
えぇ……今までお仲間さんがいくら止めても止めなかった口喧嘩を何でこのタイミングでやめるんですか?
「あぁ! 我が手の元に!!」
って来たあ!!
ラベンダさんの跳躍を右へ飛んでかわします。
逃げ道は………くっ、囲まれてます。
ならばやむを得ないですが、一番危険なラベンダさんから逃れられればよしとしましょう。
あの建設現場の工具な髪型の女性の脇を通過……出来ず捕われました。
「ふふふ……この娘も私の方がいいみたいですよ?」
いや違いますから。ただ回避優先準備がラベンダさんより低かっただけですからね。
「な…………何故……」
……そんな四つん這いにならなくても……どんだけ子供好きが多いんですか?
「あの、離してくれ……」
「ああん…………」
何で恍惚な表情を浮かべて抱きついているですか……
「………ないですよね。もうわかりますさ……」
皇女姉妹と付き人と言い、我が儘いじわる男と言い、人の言う事聞いてはくれないでしょうか……
「あの、捜索の件どうなるんでしょうか?」
無駄だと分かるので目的から済ませてしまいましょう。
「あ……そうだったわ。聞いたわね皆さん!! 直ちに行動に移りなさい!!」
しかし取り巻きだか何だかは動く気配がありません。
「皆さん、不満がおありで?」
そこへおずおずと一人が発言します。
「私達が聞き回る間、その娘は会長が相手をするんですか?」
「当たり前でしょう?」
「ずるいです!!」
「私も抱きつきたい!!」「頬っぺたすりすりしたい!!」
「ギューってしてあげたい!!」
おお、批難轟々です。これだけ子供が大切にされるなんて……何処かの国に文句を言いたくなって来ます。
「あら……生徒会会長の私、ミシェル‐レオナルド‐ヌミデアに文句がおありで?」
何だか威厳あるお言葉により取り巻き又は部下達はうなだれながら私の曖昧な情報の人物を探る為、散り散りになっていきました。
皆さんすみません。そして、頑張って。
「うふふ……今日は幸い休日ですし、ゆっくり色々出来ます」
色々て……含みがありすぎです。
「まずは服を買いましょう。ぼろぼろのローブとワンピースでは勿体ないです」
何かすごい楽しそうですね。女の子は買い物が好きだという噂がありますからね。それでですかね。
「ちょ……ちょっと待った!! その娘はこっちに引き渡しなさい!」
あ、ラベンダさんと…………多分エミリーさんが身柄引き渡しを要求して来ました。
ちなみにエミリーさんは黒髪をさっぱりと切っている体育会系の女性です。あ、今まで女性とか言ってますが年齢はみんな十八より下の印象ですよ。
またまた長く続く口喧嘩が始まるのでしょうか。それは是非とも避けたいです。
「あ、あの!! 私は皆で仲良く行けばいいんじゃないかと思います!!」
「「…………」」
「そ、そうですね。仲良く行きましょう」
「うんうん。仲良くね」
「あはははは………」
「うふふふふ………」
乾いた笑いが路地にこだまします。
…………不安。