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33、騒乱なる昼食




……そう言えば私は何故馬車に乗っているんだろう。


私が倒れていて助けたのならば、今の健康体である私は馬車を降りるべきではないでしょうか。


これ以上は迷惑かも知れません。


「あの、助けていただきありがとうございました。もう大丈夫です」


「……そう。で、何?」


「そろそろ降ろしても大丈夫ですよ?私は歩けますから」


「イブキは私達といるのは嫌ですか?」


「それは断じて違います。しかし……」


私は、邪魔ではないですか?


「イブキちゃん、私達は一緒にいたいからイブキちゃんといるんだよ。もしそうじゃないなら起きた時点で放り出しているから」


ティア姉が呆れたように言ってくれました。


「さあ、アレシアさん。一緒にお昼ご飯を食べましょう。私もあなたの存在を迷惑だなんて考えていませんよ?」


嫌われていると思っていたカシウスさんまで……


「そう……ですか。なら、ティオキアまでですがよろしくお願いします」


何だか心が暖かいです。




あれから馬車を街道の脇へ停車して御者さんも交えてのお昼ご飯です。


驚いた事に御者さんは女性でした。

鈍色の髪をショートカットにしている釣り目の隙を見出だせない女性。私の勘によれば彼女は強いです。その彼女が私の存在を疑問視します。


「…カシウス、その娘は何?」


「さっき助けた娘ですよ。忘れたんですか?」


「…皇女殿下。そのような素性の知れない者は危険です」


そう言うなり、あっという間に私は彼女に抱きしめられました。それも即座に首とか鳩尾とか心臓とかへ攻撃出来そうな感じです。つまり向かい合わせに抱きしめるのではなく、私は彼女に背中を向けています。


馬車の中は向かい合わせにソファーが置かれ、中央にテーブルがあります。

さっきまでは皇女と私、護衛と御者で分かれていましたが、今は皇女とその他となりました。


「タリア。アレシアさんは私が安全だと保証しますから放してあげて下さい」


「…カシウスはへたれているから信用出来ない」


泣かないで、カシウスさん。きっと……と、とにかく泣かないで!


「タリア、私からもお願いします。イブキは害になりません」


「…魔力量がありえない位高いです。刺客かも知れません」


「駄目……ですか?」


ノビリア姉のお願い攻撃の威力は最上級魔法並です。


「…私の隣ならいいです。皇女殿下の隣に座るというならば追い出します」


案の定、陥落しました。


「ありがとう、タリア」


「…勘違いしないで下さい。私は信用なんてしていません」




こうした訳で私はタリアさんの隣でお昼ご飯を食べてます。

献立はパンに塩焼きされた鳥肉にクキーという焼き菓子です。


「そう言えば護衛や従者が少ないですね?」



前にも聞いたような気がするんですがお付きの人が二人って、地方商人並の陣営ですよ。


「それは……実は、三日前にジャンテップの別荘がロミリアの刺客に襲撃されたんだ。それで帝都へ帰る事になった」


「それはむしろ護衛を増やすべきじゃありませんか?」


「いくら護衛を増やしても移動中はどこか隙が出てしまうものなんだ。だから今は替え玉が厳重に護衛されて大々的に移動し、本物はこっそりと移動中ということさ」


「それって、替え玉がばれたら駄目じゃないですか?」


「そこは大丈夫。馬車に篭って顔も出さないからね」


ならいいんですけど……もし内通者がいたら大変ですね。


それはそれとして……


「何で私はタリアさんの膝上に置かれているのでしょうか」


「…毒を盛られないように、です」


まだ信用ならないですか。

まあいいです。食事にしましょう。

鳥肉を食卓用ナイフで切り…………繊維が手強いですねえ。

中々切れません。馬車の外の荷物庫に入れられて冷えているのも切りずらくしています。


すると上から手が延び、いとも簡単に切り分けていきます。鳥肉はどんどん切り分けられ、全部一口サイズになりました。


これをしたのは唯一人。私を警戒しているタリアさんです。


「あ、ありがとうございます」


「…勘違いしない。ただ、いつまでも食べ終わらないのが欝陶しいだけです」


素直じゃないのか、本音なのか。私は前者である事を祈りつつ、鳥肉を? あれ?


何で……タリアさんが鳥肉を刺してるんですか?


「…口を開けなさい」


「で、でも……」


「…いらない?」


「い、いります!」


携帯食糧の味気ない塩味にうんざりしていた私には、お肉なんて何日振りかのご馳走なんです。


「…口を開けなさい。もう食べちゃいますよ」


しかし……私の自尊心や羞恥心が、食べさせてもらう事を拒否します。


「あ……」


食べられてしまいました。


「…次はないです。口を開けなさい」


恥ずかしいですがね、私の敏感な感覚器官が冷えきったお肉の匂いをしっかりと感知しています。口に唾液が……誘惑に負けてしまいました。


あぁ、まともな食事だ。

久しぶりにあの単調な塩味以外の食べ物を食べる事が出来、思わず頬が緩みます。


「………………美味しい?」


「はい!」


それから親鳥から餌を貰う雛鳥の如くお肉を食べさせて貰います……が、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのでフォーク奪回の機会を伺います。

そしてティア姉、さっきから何が羨ましいんですか?ぶつぶつ「いいなあ…」とか「私もしたいなあ…」と呟いています。

まさか、食べさせて貰いたいのでしょうか。


「あれ?……確度3と確度1の情報を合わせると……あぁ!!」


そんな折、ティア姉がいきなり叫び出してくれました。


今だ!!


自身の持ち得る最速の動き。私の目の前にあるフォークへと左手を伸ばす。


まだ、手は動かない。


取った!!




「あ……」


私の一手はいともたやすくひょいと避けられてしまいました。


「…アーストゥティリア皇女殿下如何なさいましたか?」


そして何もなかったかのように奇声をあげたティア姉に質問します。


「タ、タリア!! イブキちゃんをこっちに寄越せ!!」


食事中なのに例の手帳を取り出したティア姉。何が書いているんでしょうか。


「…駄目です。彼女は危険です」


「そんな言い訳は通用しないぞ! タリアは一見冷静沈着な出来る女に見えるがしかし!! お家ではぬいぐるみに囲まれて過ごすような可愛い物好きなムガ…」


「…失礼しました。鳥肉が飛んでいってしまったようです」


黒革の手帳を見ながら衝撃的な話を話したティア姉をごまかそうとしたタリアさんですが遅すぎます。


ノビリア姉とカシウスさんからの生暖かい目線がタリアさんのクールな仮面を融解させていくのが目に見えるようです。


「…さ、さあ。食事を続けましょう」


「タリアはぬいぐるみが好きなんですか?」


ノビリア姉、天然か意図的か不明ですがタリアさんのプライドへ効果的な攻撃。


「…………はぃ…」


嘘がつけないのか消え入るような声で返答します。私が上を見上げると僅かに頬を赤く染めたタリアさんが見えます。


「タリアに……そんな属性があるなんて…私は何で今まで気がつかなかったんだ!?」


何故か悔しがるティア姉に、


「今度ぬいぐるみ見せて貰ってもいいですか?」


追い打ちをかけるノビリア姉、


「タリアさん可愛いところもあるじゃないですか……あれ? 何ですかそれ? まさかグギャ…」


今までの鬱憤を晴らそうとして逆切れされて皿を頭にくらったカシウスさん。


はぁ……もう収拾がつきません。


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