27、別れの時
お別れ会は夜遅くまで続きましたが、11時を過ぎた頃から一気に数が減り今ではカルロスさんが晩酌をちびちびと呑んでいるだけです。
ヒューイ君は今日はずっと起きると言ってましたが、流石にいつも8時睡眠の健康優良児には酷だったみたいですね。何しろ私とヒューイ君がヘイス家に戻った正午からお別れ会は始まりましたからね。
ちなみに時計はヘイス家の前に大きな柱時計が一つ村にあるだけです。
「カルロスさん、思えば………たったの十日しか滞在してないんですね」
「私も…まだ続くと思っていました。時間は時として短く感じます。私は歳を取ってからは大変ゆっくりとしていましたが………イブキさんが来てから久々に時の流れが速く感じられました」
「…私もこの村の生活は楽しかったですよ?記憶がないのに、変ですね。普通なら一日中嘆きそうなものですがね」
「人間は未来にしか進めないですからね。善くも悪くも。………さてイブキさん、もう夜も遅い。お互い寝ましょうか」
「…そうですね。おやすみなさい」
そして…朝になりました。ストーカー達も今日は大人しく外で待機しています。
最後の朝ご飯。
少ししんみりとした雰囲気です。
「イブキさんは確かカラへ向かうんですね?」
「あ、はい。そうなりますね」
カラはこのヘイス村を南西に約三十三ローマイル、私が知っている謎の単位では約五十キロです。
私の足だと………一日二十キロ弱でしょうか。
……うーん、どうしてもキロ単位で考えてしまいます。私がいた所ではきっとこれが普通だったんでしょうね。
「となると大体三日ですか。お金や食料は持ちますか?」
「はい、大丈夫です」
ただ、海水でフニャフニャですけど。
「お金は………結構稼いでたみたいで沢山あります。旅用品もバックに入ってます」
準備はやり切りました。
朝ご飯も食べ終わり、いよいよ出発です。
村人が全員出て来てくださいました。
一人の見送りにしては壮大ですね。
「イブキさん、このリボルバーというの、旅には必要でしょう。返します」
「ありがとうございます」
私は五連装リボルバーをローブの内ポケットへと入れておきます。
すっかり忘れていましたがこれが唯一の武器なのです。
「では、イブキさん。元気で」
「病気なんかになるんじゃないよ!」
「記憶喪失はきっかけさえあれば治る病気だと思います。そのきっかけを見つけられるよう祈っています」
「ま、頑張ってね。少しは応援しとくわ」
「イブキ、………頑張れ!!!」
「ありがとうございました!!!」
………最後は笑って出て行きたかったですが無理ですよ。
涙腺め…ゆるすぎです。
いつまでもエグエグ泣いている訳にもいきません。
しゃきっとしましょう!!
「あ……」
私が頬っぺたをべしべし叩いていると、雪が降って来ました。
「…行きますか。記憶を取り戻しに」
駆ける。駆ける。翔ける。
振り返る事のないように。未練を断ち切るように。
そうやって歩いたり、走ったりしていたからなんでしょうね。
田舎道には舗装なんてなく、人々が昔から歩き続けて踏み固められた土の道なのです。
よって、雪が降るとどれが道だかが分からなくなるんです。
………簡単に言えば道に迷いましたね。
そして………私は白い狼スノウウルフ五体に囲まれています。
スノウウルフはグリーンウルフの進化版で大きな違いは、口から冷気を吐き獲物を氷漬けにする事。
しかしですね。たかが二、三時間歩いた程度で魔物に会うなんて………運が悪いですね。
私はローブの内からリボルバーを引き抜き、撃鉄を起こします。
私は前に二体、左右に一体、後方に一体と囲まれましたね。間隔はほとんど同じで二十メートル程。
私は、引き金を引いた。
私がすかさず放った二発の銃弾は二体のスノウウルフの顔面を直撃。
それがきっかけとなりスノウウルフは一斉に私へ飛びかかって来ます。
二十メートルという近距離で顔面に銃弾が直撃したにも関わらず意にも解さず突っ込むスノウウルフ達。
あれ?この武器はきくんでしょうか?…いや、少なくとも頭にくらった二体の動きは鈍いですね。ダメージはあるみたいです。
このままでは接近して来るスノウウルフ達の餌食になるので左ウルフを軽く狙いを付けて五連射。
動きが止まった所で残りのウルフ達に牽制として一発ずつ射撃。
勢いが衰えた隙に左ウルフへ五メートルの距離まで接近。頭に連続射撃。
十発程で仕留めました。
「…はぁ……はぁ…」
かなり身体的に厳しんですが、まだ四体が私を狙っているのです。
四体は私がただのか弱い獲物ではなく、自らに匹敵する強者だと認識を改めたみたいです。
………ひぅっ!!二体は留まり冷気弾を放ち、残りは援護の中突撃して来ました!!
冷気弾は毎分六十発程の連射速度ですが、二体で交互に放つ事で二倍の速さです。しかも威力が高いんです!木が一撃で倒れてますよ!!
私は木々を盾にして突撃組を狙いますが、0.5秒毎に移動しないと死んでしまうので当たりはあるのですが致命傷が与えられません。
まずい…ですね…そろそろ息があがります………
何か…突破口は!?
これだ!!
私はバックから油がたっぷり詰まった水筒を突撃組に放り投げ………撃った。
ここしかない!
爆音で動きの鈍った射撃組のスノウウルフの眼を撃ち抜く。
そして眼が見えずパニックを起こしている隙に銃弾を頭へ撃ち込みました。
突撃組の二体は爆発によりもはや機動力もないです。このままでは苦しみながら死ぬだけ、ならばせめて安らかに……逝って下さい。
「…………はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……はぁ………はぁ…………」
こ………ここまで旅ってハードなんですかね?
村を出て数時間でスノウウルフに襲われ……既に現在地すら分かりません。
うっすらと見える太陽を道標とします。
………少なくとも西側へ行けば多少ズレていても修正がつくでしょう。
私はそこはかとない将来への不安を感じつつ雪の降りしきる中歩き出します。
大体8時にヘイス村を出発しましたから、大体正午なので四時間は歩きましたね。
小麦粉をなんやかんやして製造された薄い塩味の携帯食糧を水で喉へ流し込みつつ休憩します。
さて、これからどうしますかね。現在、初雪にしては強すぎる降雪の影響で視界が悪くなっています。
多分ですが、さらに悪化するでしょうね。
今日中に人家が見つからないと、というかほぼ確実に野宿になるでしょう。
……頼みの綱の燃料は使用済み。
ローブに包まり寝たりしたら…あの世へ逝けますね。
となると………はぁ。徹夜しかないでしょうね。
あーぁ、ただ道を辿れば着くだけだったんですがねぇ。
どうしてこんな事になってしまったんだか……