25、魅力
…何だか下が騒がしいですねぇ。
グリーンウルフ襲撃の翌日の朝、私が寝ていたところ、下から人の声がざわざわと聞こえます。
それはあたかもコンサート会場で主演が登場するのを待つ観客といった所でしょうか。
階段を降りると一階には知らない人達が二十人程いて、その群集をハモンドさんが押さえています。
「あ!彼女だ!!」
「おぉ!!女神じゃ………女神が降臨なされた」
「是非ウチの息子の嫁に……いや!むしろ私と結婚してくれ!!」
「キャー!何あの娘!!ハグハグしたーい!」
………さて、寝ますか。
私はもう一度夢の世界へ旅立ち………
「イブキさん!?これ、全員目的はあなたです!何とかしてく…ゲェ」
哀れハモンドさん。
群集の踏み台になってしまいました。
…って、現実逃避してる場合じゃありません!?
何かこっち来てます!!
階段を駆け上がり、ドアにベッドでバリケードを構築します。
「ひぃ………何でこんな事に……」
所詮子供が動かせる程度の物で出来たバリケード。
徐々に……徐々に……ドアが開いて行く……
その時、救世主が現れました。
「こらあ!!!ウチに勝手に入り込むんじゃないよ!!出ていきな!!!」
「ぎゃーー!!」
「グエェ…グシュ」
「助けて、ママ!!」
「逃げろ!!ヘイス村の猛牛が暴れ出したぞ!!」
「誰が牛だって!!!」
「はひ!すみませんっしたあグルエ!!!」
「総員!!退却!!!」
ドア一枚先は阿鼻叫喚と化しています。
ドアの外では一体何が………?
数分後、静寂が訪れます。……駄目です、私には…開けられません。
バアン!!
「ひぅっ!」
ドアが開かれました。
「大丈夫かい?」
「は、はい!」
そこには所々血がこびりついたミリカさんがいます。……怖いです。さっきまでの群集に追われていた時が平和に思えます。
「すまないねぇ。昨日のグリーンウルフが襲って来た時村のみんなも応援に駆け付けたんだけど、その時イブキを見ちまったらしいんだよ。ま、きちんと罪は償わせたから勘弁してくんな」
……ドアから見える惨状から判断すれば罪に対して罰が重すぎるような気がしないでもないです。
「…て言うか何で私を見たらこうなるのでしょうか………」
「…とぼけてるのかい?」
「何がですか?」
「……朝飯が出来てるよ。冷める前に食べな」
「ありがとうございます」
ミリカさんから呆れられた表情で見られていますが何故でしょうか?
朝ご飯を食べ終えて今日も秘密基地へ行こうとしますが…
「イブキさん、こう何度も倒れているんです。今日は一日休んでいなさい」
カルロスさんから休養を取るよう言われてしまいました。
「…そうだな。イブキ、明日な!」
ヒューイ君達はカルロスさんの意見は尊重するようで行ってしまいました。
また、客間に篭ります。
しかし前回とは違い考える事があるのです。
果たして……金髪の女性と紫髪の女の子は誰なのか。
この白い大理石が立ち並ぶ学校は何処にあるのか。
………うむぅ、頭痛がするばかりでちっとも分かりません。
気分転換に外の空気を吸いましょう。
私が水揚げされた海は砂浜がきれいでした。
あそこなら片道二十分程ですからお散歩には調度良いでしょう。
こっそり階下へ降り、居間の様子を探ります。
カルロスさんは椅子に座りながら眠っているみたいです。
しょうがない人ですねぇ。
私は上から掛け布団を持って来て掛けて置きます。
いくら暖炉に火があってもこの時期は寒いですからね。
家の外に出ると体を冷気が覆います。
私はバックに入っていた黒い簡素なワンピース(というかこれしかない)にこれまた黒いローブを羽織り出発します。
砂浜にて。
この時期村は収穫期を終えているので暇なようです。
つまり何が言いたいかというと、私の後を尾行している人がいます。
数は……三人。
何故こんな事が分かるか私自身不思議です。もしかしてスパイでもやってたんでしょうか?
じれったいですね。
「何か私に御用ですか?」
………隠れているつもりなんでしょうか?
尾行者は所々に生えている松の木に潜んでいます。
ただ、色々とはみ出てますから意味はないです。
数秒が過ぎ、諦めたのか次々と姿を現しました。
全員が若い男性。
何が目的でしょう。
「な?」
「だけどばれたら……」
「知るかよ。済ませたら逃げればいいんだよ」
何かをするみたいですね。私を使って、若しくは私に対して。
「なあ、お嬢ちゃん。オレらといいコトしようぜ」
「きっとキモチイイから。な」
彼らはじりじりと近寄り、私はゆっくりと後退していきます。
……これって、アレですかね。女性と無理矢理生殖行為をしようとする。
「捕まえろ!!」
俗に言う、レイプでしょうか?
というか、私に欲情するなんて……あんたらロリコンか!?
私は全力で走りますが大人と子供では速力が違います。
ヤバイです!!
三角形状に囲まれました。
「もう観念しなよ。痛いのは最初だけさ」
「ぎゃははは!!!お前いっつもそんなコト言ってんな!最後には「黙れ!」……あぁ、そうだな。オレ達の相手さえすりゃ帰れるぜ。だから少し我慢すりゃいいんだよ。な?」
「こ、来ないで下さい!!嫌!だ、駄目!!……あ……」
「あ?気絶しちゃったよ」
「調度いいんじゃね?手間かからねぇじゃん」
「ちっ、オレは抵抗するのを無理矢理するのが……お、気付いたぞ。へへ、どんな声を聞かせて…ガハッ!!」
右ストレート。気を纏わせた一撃はプロボクサーにも負けないだろう。
「おい!大丈夫か!?テメェ何を…アグォ……」
銃で残り二人の眉間を撃つ。
何、実弾より威力は抑えている。
死にはしない。
「終わったな。これで満足か?」
『えぇ、完璧ですよ』
「それにしても、何故自分を出した?アレシア‐C‐バルカ、お前の方が強いはずだ」
『だって私じゃ殺しかねないですから』
「スタンガンはどうした?」
『…終わった事には目をつぶりましょう。問題はこれからどうするかです』
「………アレシア‐イブキには戦闘経験が全くない。恐らく実戦では即死だろう」
『そうですね。毎度毎度戦いの度に気絶するとも限りませんし…』
「…となると、分断された自分達を統合して貰わなくてはならない」
『アレシア‐イブキが記憶を取り戻すという形で、ですね』
「ああ。…もうアルバランガは下り坂に差し掛かっている。主人格がせめて自分がお前なら何とかなるんだが…」
『それを嘆いても仕方ないでしょう。…と、意識が戻りそうです』
「…ん」
私は………何を?
「そうでしたね」
周りに転がる三人の男性を見て思い出しました。
こいつらは………あぁ、イライラします。
取りあえず舟を繋ぎ停めているロープを少し拝借して、拘束します。
そのまま放置して帰りましょう。
それにしても何で倒れてたんですかね?ヒューイ君が言っていたみたいに無意識に魔法を行使したのかも知れませんね。
ヘイス家に戻るともうお昼ご飯の時間になっていました。
「イブキさん、勝手に出て行かないで下さい。心配するでしょう」
「すみません。つい外の空気が吸いたくなって…」
「何もなかったですか?」
「いや………ちょっと、ありました」
そして今までの事を話します。
「それは本当ですか!?」
「は、はい」
「ヒューイ!鐘を鳴らしなさい!!間隔は三です!!」
「分かった!」
「アタシも行く!」
「イブキさんは大丈夫ですか?何ともありませんか?」
「な、何もないです」
数分後、二十人程の集まりがヘイス家の前に集結。
皆さん鋤や鍬、斧等武装しています。
「皆さん!ヘイス浜にここにいるイブキさんに危害を加えようとした人がいます!!必ず捕まえて下さい!!」
オオオォォ!!!
カルロスさんの命令一下、皆さんヘイス浜に向け進軍します。
あぁ、大事になってしまいました。




