24、記憶
「なあ…母ちゃん。イブキの怪我が治るまでウチに泊まらせていいか?」
「うーん、そうだねぇ………まあ収穫期が終わったばかりだし…いいわ。泊めてやろうじゃないか」
「ホントに?…母ちゃん!ありがとう!」
「おやあ……まさかヒューイお前…男の子だねえ」
「何だよ母ちゃん」
「何でもないよ」
「えー教えてよ〜」
「うるさいね!そこにいるなら手伝いなさい!」
「ちぇ」
「ヒューイ君、助かりました。ありがとうございます」
「……あ、うん」
「何照れてんのよ!」
「いて!殴らなくてもいいだろ!」
「うっさい!ヒューイが悪いんだから黙ってなさい!!」
……よく一日で何回も口喧嘩が出来る物ですねぇ。
これが喧嘩する程仲が良い、という諺の好例でしょうね。
…ん?何か頭痛が、うーん、まだ本調子ではないのかも知れません。
ヒューイ君、及びそのお母さん、お父さん、お祖父さん、その友達であるアンナさんと夕ご飯を食べます。
ホークス君はいつの間にやら帰ったらしいです。
料理は海が近いだけあって魚介類が豊富です。
カレイ(に似た魚)のソテー、ブイヤベース(らしき料理)にはムール貝(な感じ)の貝が入っています。おいしいですよ。
「そういえばここどこですか?」
「ここはペロポネアの端っこのヘイス村さ。味はどうだい?」
「とても美味しいですよ。それでギルドはありますか?」
「ギルドは…おじいちゃん覚えるかい?」
「確か……カラにありましたね。イブキさん、ギルドがどうかしたんですか?」
「どうやらギルドに所属していたみたいなんです。何か手掛かりがあるかも知れません」
「へえ、ランクは何なんだ?」
「Bです」
「「B!?」」
いきなりヒューイ君とアンナさんが叫びます。…………どうやら他の皆さんも少なからず驚いているみたいです。
「び、Bってイブキ、何者なのよ?」
「さあ」
「わかった!イブキはデカイ魔物と戦って海に落ちたんだ!!」
……そんな自信満々な顔で言われても分かりませんよ。
「さあ」
夕ご飯を食べ終えるともう寝る時間です。
何しろ明かりがないですから。
「アンナちゃんはどうするんだい?今日は泊まるかい?」
「もうお母さんとお父さんには泊まるって言ってあるわ」
「じゃあヒューイと早く寝なさい」
「「はーい」」
「では私も寝ますね」
ちなみに私は海から引き揚げられた後淡水で洗ってあるので塩まみれにはなっていません。
二階の客間のベッドに横になります。
……お昼に寝ていたのでさっぱり眠くないです。
これからどうしますかね。
最初に頭の怪我を治しましょう。きっとこれが時折起こる頭痛の原因です。
それが治ったらカラという所で私について調べましょう。
後は……カラ次第ですね。
…う… 睡魔が………くぅ………
あれから数日経ちました。
頭の怪我も落ち着き、あと少しで包帯が取れそうです。
今日もお昼ご飯を食べた後、ヒューイ君達に連れ立ち秘密基地にいます。
「あれ?何か足音が…………」
ドドッドドッ、とまるで大型生物が高速で移動するような音です。
「イブキ………ヤバイ、これはグリーンウルフの群れがいる」
「どうしますか?」
「村に戻る!!」
「待ちなさいヒューイ!!」
すでに薄暗い森を駆け、急いでヒューイ君を追い掛けます。
走り続けて約五分。
村ではグリーンウルフ三体をハモンドさんが自宅の二階から弓矢で牽制していました。しかし硬い毛皮や筋肉に阻まれ致命傷はないようです。そもそも命中率が絶望的に低いです。
「ヒューイ!早く逃げなさい!!」
ヒューイ君は三体に囲まれています。
もはや効果のない弓矢は無視みたいです。
…何か手はないでしょうか?
ヒューイ君は包囲の中で剣を振り回し時間を稼いでいますが苦しそうです。
「あの馬鹿!…【球を形取り 燃え盛れ 火球】」
おぉ!アンナさんが魔法を放ちました。
その【火球】は見事グリーンウルフの一体の鼻先に当たります。
グリーンウルフは仲間がいきなり倒れ動揺しているみたいです。
「…助かったアンナ!」
その隙を逃さずヒューイ君が二体目の首を掻き切ります。
そして残った一体は逃げ出し………あれ?どうして私に向かって来るんですか?
「イブキ!!」
「早く逃げなさいよ馬鹿!!」
グリーンウルフは私に向かって飛び掛かります。
せめて少しは餌を手に入れようとしたんでしょう。私なら小さいですし、くわえながらでも逃げられるでしょうからね。
……前にも近くで見た気がします。あの時……は……………
―――――
オチルインセキ。タオレ、バラバラニナッタオオカミ。
―――――
………【らイ撃】…………
―――――
アナタハダレ?
ナゼワタシニワライカケルノ?
……オネエチ
「イブキ!!!!!」
………!
「私は………?」
私の周りには泣きじゃくる子供達、心配そうな表情のヘイス家の皆さん。
私自身はベッドに寝かされています。
「大丈夫か!?イブキ!」
「えぇ、何ともありませんけど……何で皆さん私を見ているんですか?」
「…覚えてないのか?グリーンウルフがイブキを食べようとしたらイブキがズガーン!!て魔法を撃ったら倒れたんだ」
幼稚な説明ですが意味は分かりました。
「それで…私以外で怪我人はいますか?」
「いないけど……でもすごかったぞイブキの魔法!あれ、どうやったんだ!?」
「え…と?」
私が………魔法を?
「こらこらヒューイ、イブキさんはまだ起きたばかりなんですよ。少しゆっくりさせなさい」
私の体調を気遣い、カルロスさんがヒューイ君を窘めます。
「あ…うん。でも、イブキは怪我とかしてないんだよな?」
ヒューイ君、そんな心配そうな顔しないで下さい。
「私は無事ですよ。皆さん心配かけてすみませんでした」
「そっかぁ。なら、いい。」
「さて、もう暗くなって来たし何か温かい食べ物でも作るかねぇ。あんた!手伝っておくれ!」
「今行きます。ではイブキさんは安静にしているように」
「おばさん!アタシも手伝います!!」
部屋にはヒューイ君とカルロスさんだけになりました。
「…私、少し思い出しました」
「記憶を…ですか?」
「はい。……塔がある街です。その街は学校が中心にあります。そこで私は金髪の女性と紫髪の女の子、この二人と暮らしていたみたいです」
「じいちゃん、どこか分かるか?」
「…その学校の規模は分かりますか?」
「………大きい、とても大きい。それしか分からないです」
「ふーむ、大きな学校と言えば……ロウダス学園でしょうか?」
「ロウダス…学園?」
今一ピンと来ないですが……行く価値はあるかも知れません。
「それは…何処にありますか?」
「デロス連邦ミレトス都市国家領の島一つが丸ごと学園になっているんです。ここには世界中から人が集まります。もしかしたら、イブキさんが住んでいたのかも知れませんね」
私のこれからの計画が明確になりました。
カラに行き、ギルドを訪ねる。
その後ロウダス島に行きます。
……これで記憶が戻るといいんですが。
そして………私を知ってくれている人達、私が唯一知っている人達から離れるのは辛いです。
決断……出来るのでしょうか?