23、手掛かり
「あんた!!いつまで患者様を待たせるつもりなんだい!!」
…わあ、いきなり険しい形相のおばさんがドアを乱暴に開けて入って来ました。
「ミリカ、だけどヒューイが…「子供をだしにするんじゃないよ!さ、早く行かないとみんなが迷惑するんだからね」」
そのままハモンドさんは引きずられながら出てい………
「あら!そこの女の子は誰だい?」
…く寸前で私の存在に気付き、動きを止めました。
「母ちゃん、怪我してたから連れて来た」
「ああ、そうかい!ヒューイは偉いよ!で、あんたは誰なんだい?」
「私は、イブキ‐アレシアと言います。こちらのヒューイ君とカルロスさん、それにハモンドさんに助けていただきました。あなたはもしかして…ヒューイ君のお母さんですか?」
かわいそうなので、さりげなくハモンドさんを持ち上げておきます。
「ああ、そうさ。わたしはミリカ‐ヘイス。ヒューイの母親だよ。悪いけど患者様が列を作ってるんでね。ヒューイ、きちんとおもてなしするんだよ!」
「分かってるよ母ちゃん!」
ヒューイ君のお母さんであるミリカさんは、自身がやるだけやった後消えて行きました。
何と言うか……たくましいですね。
「…あ、母ちゃんにイブキが泊まること言うの忘れてた」
「まあ、それは後でも大丈夫でしょう。そうですね、まだお昼まで時間がありますし皆さんで遊びに行ったらどうですか?」
「おぉ!じゃあ秘密基地行こうぜ!!」
そうしてお子様達は去って行きました。
「あれ?イブキも来いよ!」
「え…?でも秘密なんじゃないんですか?」
「何言ってんだ!イブキはもう友達だから入っていいんだよ!」
「で、でも……」
正直私はインドア派なので、遠慮したいと言うか何というか……
「ああもう!じれったいわね!さっさと来なさい!」
あ、アンナさんに手を引きずられてしまいました。助けを求めカルロスさんを見ますが、むしろ手を振られてしまいました。
………たまには、外もいいかも知れませんね。
私達は近くの森へと駆け出しました。
「これが秘密基地ですか………」
着いた所にあったのは洞窟。中はそこまでなく入って数十メートルで行き止まりです。
そこに彼らの私物が転がっています。
「最近は剣の練習もしてるんだ!オレ、前グリーンウルフを倒したんだぜ!」
……グリーンウルフ。単体ではそこまで強くないですけど十歳の男の子が倒せたとしたら……
「かなり強い、ですね………十歳にしては……」
「へへ、そうかなあ?」
「何言ってんのよ!あれはアタシ達が援護してたじゃない!!」
それから二人の言い争いが始まりました。……グリーンウルフ……何か引っ掛かりますねぇ…何でしょうか?
ふと意識を外に戻すと口論はさらにヒートアップしていて、唯一無言を貫いていたホークス君は奥の方にある椅子に座り、黙々と読書をしています。
何というか…混沌とした状況ですね。
私は黙っていますか。隅にある本棚を物色して見ます。
うーん、魔物図鑑に植物図鑑、魔法とは何か?に剣術極意。
グリーンウルフでも調べてみましょう。何かあるのかもしれません。
Dランク、グリーンウルフ。緑の体毛で周囲に溶け込み獲物を襲う約三メートルの大きさの犬に近い魔物。動きが素早く、牙と爪が武器である。
群れを形成し、多いときには三十匹を越える。
………グリーンウル…フ…………森………勝負…………………ギルド……「…………うか!?大丈夫かイブキ!」
「え?」
あれ?いつの間にか倒れていたみたいです。
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「何言ってんだ!?倒れたんだぞ!早く帰ろう」
結局大事を取って一度帰る事にしました。
「すみません、私が倒れたせいで…」
「何言ってんだ。別に誰も気にしてない。な、アンナ、ホークス」
「そうよ。でも休ませた方がいいわね」
村長宅の扉を開けて、中に入るとカルロスさんがお昼ご飯を調理していました。
「じいちゃん。やっぱりイブキは調子悪いみたいだ。客間に連れてくな」
「そうですか。イブキさんは大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「何言ってんだ、さっき倒れたくせに」
「倒れた?…もう一度診察させた方がいいでしょうか?」
「大丈夫ですよ!」
私は努めて明るい健康そうな声を出し、否定します。これ以上迷惑をかける訳にはいきません。
「…とにかく横になるべきです。ヒューイ、連れて行きなさい」
「うん」
「……………」
退屈です。
あれから私はベッドに寝かされ二階にある客間から出る事を禁止されました。
最初は大人しく寝ていましたが、さっき倒れた以外は健康そのものです。
あまりに暇なのでゴロゴロします。
……バックの中を探りましょう。
前回は名前を確認するだけでしたので簡単に探りましたが、今回は全ての品々を探ります。
色々と出て来ます。
ギルドカード、謎カード、水筒、海水でふやけた携帯食料、何かの数字が書かれた紙、黒ローブ、灰色ローブ、着替えの服、油が入った水筒……これは…何ですかね?中央にレンコン形の筒があり、先端に穴が空き、引き金がついています。まあ、後で確かめましょう。
もう最後ですかね?…………ん?奥に何か…く、重いですね……てい!!!
何かが詰まった袋ですね。中は………な、幾つあるんでしょう。
……ふえ、中には金貨二枚、銀貨五十三枚、銅貨三百十一枚もあります。流石ランクBの実力者です。稼いでたんですね。
次にレンコン内蔵物質を調べます。
……えーと、何か書いてます。ビッカース魔弾機リボルバー型モデル18、931年製造。
何が出来るんですかね?
………撃鉄を引き……引き金を引く……………すると、魔弾が放たれる。
………はっ、何が起きたんですか?
あ、あわわわ。この魔弾機とか言う物から何かが出て壁に穴が………
「イブキ!何があったんだ!?」
何故かヒューイ君やカルロスさん、アンナさん、ホークス君が飛び込んで来ました。
「え?…何かあったんですか?」
「この部屋からバン!!て何か音が…それ、何だ?」
「分からないです。バックに入ってたのでいじってたら…」
「…没収な」
「えぇ?でも私の……」
「あんた馬鹿?使い方も分からない物程危険な物はないのよ」
………うぅ。言い返せません。
「私の…………」
ヒューイ君の目を見て頼んでみます。私はベッドに座っているので、ヒューイ君を下から見つめます。
「うっ…………、し、しかたないな。今回だけ…」
「ダメよ!そうやって甘やかすと後でつけあがるんだから!」
ここからは夫婦喧嘩なので軽く聞き流しておきましょう。
「カルロスさん、壁に穴を空けて、その、ごめんなさい」
「こんな小さな穴くらい大丈夫ですよ。それよりアレで怪我しなくてよかった。アレは使い方が分かるまで預かりますね」
ここでもう使い方を思い出しましたとは普通言えないですよね。
「お願いします」
カルロスさんがヒューイ君から魔弾機を取り上げます。
「不思議な物ですね?イブキさんの故郷の武器でしょうか」
「何か引き金を引くと魔力の塊を放つらしいです」
「ほう。珍しいですねえ」
「帰ったわよ!」
下からヒューイ君のお母さんの声が聞こえてきます。
「あ……イブキのことどう説明しよう」
「ふむ、ケチじゃからなあ」
そういう事は早く言って欲しいです。宿がとれなかったらどうしましょう。
私は今日屋根があるところで眠れるか不安になって来ました。