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22、喪失






………………はっ。


ここは……何処?


周囲を見渡す。

どうやら、小さな小屋のようです。

今まで、ベッドに寝かされていたんですね。


うっ……頭に怪我があります。包帯で巻かれているみたいです。


あっ、誰かが入って決ました。白髪のお爺さんと、金髪のやんちゃそうな男の子です。


「あっ、じいちゃん!起きたみたいだぜ!!」


「ふむ、大丈夫かな?」


「えっ、ええ。頭以外は何ともないみたいです。ところで……私はどうしてここに……?」


「それはですね、私達が釣りに来たらお嬢さんが海に漂っていたんですよ」


「はあ……助けていただき、ありがとうございます」


「なあなあ、何であんなトコにいたんだ?」


「え………?すいません。何か、記憶があいまいで……分からないんです」


「ま……しばらくはゆっくりしていきなさい。ところで…お嬢さんの名前は何かな?私はカルロスと言います」


「オレはな、ヒューイて言うんだ。よろしくな」


「私は………」


私は、誰だ?




あのあと、正直に話しました。そしたら朝ご飯の後、医者の方に来て貰えるようです。


……私は、誰なんでしょう。私と一緒に水揚げされたバックを漁って見ましょう。


色々入ってますね。

あ、何かのカードです。

えーと、私は……イブ‐K‐アインと言うらしいですね。

ランクは、B。随分強かったみたいです。まだ、小さいんですけど。


ふぇ……もう一つカードが……イブキ‐アレシア。


ど……どっちが本物でしょうか?


う〜ん、でもイブキとアレシアに懐かしい響きを感じます。


う……頭痛が……はぁ……はぁ……何?…私はイブキ‐アレシアなんでしょう。何故だか、そんな気がします。


あ、ヒューイ君が来ました。


「私は、イブキ‐アレシアだそうですよ。よろしくお願いしますね」


「あ……ああ。よろしくな」


……?顔が赤いですねえ、何ででしょう。


「あ、そうだ。じいちゃんがご飯だって、イブキ行こうぜ!」


「はい、行きましょう」


…っ!あ、右足にもかすり傷が……このくらいなら自然に治りますね。そのままにしておきましょう。お二人にこれ以上心配かけるのも悪いですし。




カルロスさんは外の焚火でお魚を串に刺して焼いてました。野生味溢れていますね。


「イブキさん、もしまだ気分が悪いなら無理しなくていいですからね」


「いえ、大丈夫です。もう体は自由に動きます」


「ほら!この魚はオレが釣ったんだぜ!」


ヒューイ君が手に持っているのは三十センチ以上はあるこの中で一番大きな魚でした。


「へぇ……随分大きな魚ですねぇ。釣りは得意なんですか?」


「ああ!村でじいちゃんの次に上手いんだ」


「すごいですね」


「こ……これ、やるよ」


「…いいんですか?」


「う、うん」


何度も断ると失礼です。ありがたくいただきましょう。


お腹からがぶり。


「ありがとうございます。とても美味しいです」


お腹が空いてたので、ただの焼き魚より美味しく感じられます。ふふふ。


「…………………そ、そっか」


「ふふ、ヒューイも男の子ですねえ」


…?見れば分かるでしょうに、何でそんなこと言ってるんですかね?




朝ご飯を食べ終わり、少し休んだ後、私達はカルロスさんとヒューイ君の住んでいる村へ向かいます。


「どんな村なんですか?」


「数十人しかいない小さな村ですよ。そのかわり皆が家族みたいな者ですがね」


カルロスさんが苦笑混じりに話してくれました。すると、ヒューイ君が話に加わって来ます。


「イブキ、アンナには気を付けろよ。あいつ凶暴だからな」


あまりに真剣に言うものですから私はどれくらい凶暴か聞いてみました。


「……多分、ドラゴンくらい」


「そ……それは凄まじいですね」


「イブキさん、ヒューイの話を鵜呑みにしてはいけませんよ。アンナはとてもいい子ですから」


「なっ!じいちゃん達がそうやって甘やかすからオレがひどい目に合うんだぞ!!」


猫かぶりさんなんですかね?


「いいか?イブキ、オレを信じるんだ。気をつけろ」


「はい。気をつけます」


ヒューイ君がカルロスさんの隙をつき、こっそりと耳打ちして来ます。一応相槌は打ちますが、後で自分で確かめようと思います。




そんな風にたわいのない話をしながら歩いているとぽつぱつと家が見えて来ました。


道端には畑がありますが、今は収穫が終わっているみたいです。


「ほら、あれがオレん家だ」


ヒューイ君が指差す先には村で一番大きな石造りのお家があります。


「もしかして…カルロスさんは村長さんですか?」


「以前ですがね。今は私の息子が継いでいます」


お家の前には二人のヒューイ君と同じくらいの男の子と女の子がいます。

男の子は茶髪で大人しそうな雰囲気、女の子は茶髪を短めにしていて可愛いけれど気が強そうです。


二人共私を見てぽかーんとしています。確かに、部外者の少なそうな村ですからね。何故か一人増えてることに驚いているんでしょう。


「ちょ………ちょっと!あ、あんた誰よ!?」


女の子の方が話しかけて来ました。若干目が鋭いです。何か悪いことしましたでしょうか?


「私は、イブキ‐アレシアという者だと思います」


「は?何で思いますなのよ。自分の名前でしょ?」


そう言われても……


「アンナさん。イブキさんは頭を怪我して記憶を失ってしまったんです」


「え……?記憶喪失なの?」


「…そうなんです」


「あ……あー、ま、まあそんなのすぐ治るわよ!アタシはアンナよ。よろしくね!」


気まずい空気を何とかしようと強引に話しを転換して来ました。私もこれ幸いとその流れに乗ります。


「アンナさん、こちらからもよろしくお願いします」


「俺は…ホークスだ。よろしく」


「ホークス君もよろしくお願いします」


私達は揃ってお家に入ります。中は吹き抜けになっていて螺旋階段が中央にあります。


「ヒューイ、ハモンドを連れて来てくれませんか?」


「わかった!」


「あ、アタシも行く!!」


賑やか二人組が外に行ってしまいました。


「ハモンドって誰ですか?」


「今の村長であり医師もしている。自慢の息子です」


カルロスさんが誇らしげに話してくれました。


数分後、眼鏡をかけた理知的なおじさんがやって来ました。あれがハモンドさんでしょう。


「………失礼、あなたが記憶喪失の…?」


「はい。知識は残っているんですが、個人や他人の記憶がないんです」


しばらく質問を受けました。何か分かるといいんですけど。


「……すまないけど記憶喪失は自然に戻るのを待つしかないんだ」


「…そうですか………」


周囲が重い空気に包まれていくのを感じます。

でも、私自身ショックなんです。


これからどうしましょう。私は何をしていたんでしょう。

私は何処に住んでいるんでしょう。




………私は、誰なんでしょう。


早く、ここを離れましょう。好意に甘えてしまいそうです。


「…帰ります。皆さん、今までありがとうございました」


「イブキ、思い出したのか?」


「…はい」


「………イブキ、嘘だろ」


「………そンなことないですヨ」


「はあ、しょうがないなあ。父ちゃん、じいちゃん。イブキが治るまで家に住ませていいか?」


「いいよ」

「構わないとも」


!!、どれだけお人よしなんですか!?


「なっ、そんな迷惑かけるわけにはいきません!」


「迷惑じゃない!!……それに、オレはイブキを友達だと思ってる。友達ならいいじゃん。一緒に住もうぜ」


…優しくしないで下さい。


「………ふぇえ…な…………何で?…」


涙が出てしまったじゃないですか。情けないですね。


「イブキさん。他はどうか知りませんが、このホーケ村はあなたを歓迎しますよ」


「あ、アタシも別に嫌じゃないわ。………ヒューイは渡さないけど……」


「俺も……」


私は心優しい人に恵まれたようです。

それが私を苦しめます。

だって、いつかは記憶が戻ったら離れなくてはいけないんですよ?


その時、私は以前と現在のどちらを選択するのでしょうか?


…今は、今だけはこの好意に甘えておきたい。

駄目でしょうか?


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