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十九、情報は力である




ギルデロイ課長の部屋にて社員証が出来上がるのを待ち、そろそろ二時間程経つ。

その間、私はグレリアについての知識を備え付けの棚にあった本から学び、ギルデロイ課長は机に溜まった書類を片付けていた。




グレリア連邦王国。立憲君主制で、国王は存在するが実際の政治は首相が行っている。

文明レベルは基本的には二十世紀前半だが、電話の代わりの魔力話機が携帯化していたり、所々現代文明に迫るものがある。

そんなグレリアでも魔物の対応はアルバランガ大陸本土と変わらない。つまり、増えたら減らす。

ただし、制度は以前説明したようになっている。


アルバランガ大陸本土では魔法は殆ど全員使えるのに対し、グレリアでは一握りの人間しか使えない。しかしグレリアでは魔弾機という物が個人で手に入るから魔法が使えないからと言っても油断は出来ない。


魔弾機とは魔力を弾とした銃である。これが発明された事で、立憲君主制度が構築されたらしい。




六百年前頃グレリア歴4世紀、魔法格差のひどい王政治が行われていた。

魔法が使える者は貴族や富豪で免税権のある魔法身分、使えない者は重税を払う一般身分である。


しかし遺跡跡から発見された筒を参考にとある貴族が魔弾機を作り出した。当時の魔弾機は魔集石が使われておりやはり魔法が使え、魔力のある上流階級しか使えなかった。しかも魔法が使える上流階級には意味のない代物だった。


だが、鍛冶工のワットが魔結晶を使った魔弾機を作った瞬間、歴史は動いた。



魔結晶とは魔力が中に入っている透明な石だ。当時は魔結晶の魔力を人が使おうとすると拒絶反応が起きるから注目されていなかった。


このワット式魔弾機は小銃の後ろの固定マガジンに魔結晶を詰め、マガジンに描かれた魔法陣が魔結晶の魔力を非属性初級魔法【射球】に変換し、銃口から放つという物だった。

ワット式魔弾機は殺傷能力はなかったが、魔法の使えない一般身分の自衛武器として少しずつだが普及していった。

当時、一般身分は魔法身分に殺されても泣き寝入りするしかなかったのである。


そして数年後、開発されたジョンソン式魔弾機は拳銃弾クラスの魔弾を放つ能力を有した。

これは一般身分が魔法身分から受ける犯罪抑止力として十分な効果があった。


ここに至り、下層魔法身分は自らの優勢が崩されかねない事に危機感を抱き、立法権のある上層魔法身分に魔弾機販売禁止を訴えた。

しかし、どこのお偉いさんも事態を楽観的に見るらしい。

結局、何の対策も取られなかった。


そのまま二十年程が過ぎ、事件が起こる。

貴族の息子が一般身分の女性に夜ばいをかけ、その父親に射殺されたのだ。


この事件に対し貴族側は無罪、父親は死刑になった。

これに民衆が怒る。普段から抑圧されていた不満や怒りが爆発したのだ。首都ロンダンで約一万人がデモ行進を行った。貴族側は愚かにも一万人全てを殺した。


これは火に油を注いだ。

各地で反乱が発生する。今まで民衆の武装は剣や槍、弓位だった。貴族側は遠距離から悠々と魔法をぶっ放せば鎮圧出来た。

しかし魔弾機により貴族側は詠唱中に殺される。上層魔法階級はいまさら魔弾機所持・製造を禁止したが手遅れ。


その後、民衆が政権を取るが経験不足で瓦解したり、貴族側も魔弾機で武装したりと紆余曲折を経て今の政治制度になったそうだ。


現在では魔結晶は石炭的扱いを受けていて、汽車、船舶の動力機関、時計の電池代わり、ヒーターの石油代わりなどなど様々なところで使われている。


汽車はグレリアでは魔車と呼ばれている。既に鉄道網も張り巡らされ、時速五十キロ程で走っているらしい。




ドアがノックされ、若い男性が入って来た。


「課長。新しい社員証が出来……………お子さんですか?」


男性は硬直する。


「違います!!彼女が新しく我が社に入ったイブキ‐アレシアさん二十一歳です」


「……え!?婚約者!?…課長いくら可愛くても小さくないですか?まだ六歳位に見えますよ……はっ、課長の趣味ですか……分かりました。俺は応援します!!!」


誤解を解くのに数分を要した。思い込みの激しい人だ。


「…では、これが社員証と携帯魔力話機です」


男性から社員証と携帯魔力話機を受け取る。

社員証は金属製でクレジットカードみたいな感じ。

携帯魔力話機は昔風の四角くてアンテナがあるやつだ。


「ありがとうございます」


「いや、いいんですよ。課長の大事な人ですから」


……誤解はまだ解けていない。




あの後、アパートまでの地図を書いて貰い私は協会をあとにした。


三十分程歩くと煉瓦造りの建物が見えて来る。……あれだ。

木製両開きの扉を開け中に入ると一階はドアが一つ。どうやら管理人宅らしい。

ドアをノックする。


「今日からこのアパートに住むイブキ‐アレシアという者です」


ドタドタとドアに駆け寄る音がし、ドアが開く。


「………ほう。ギルデロイの言う通りだ。二十一にはとても見えない。本当に二十一かね?」


「ええ、そうですね」


その後、鍵を貰い、二階の部屋へ案内された。中は……リビング、キッチン、バス、トイレ別、寝室である。


ここが私のセーフハウス(隠れ家)だ。


「………ふぇ…」


………うぅ。泣いてる暇なんてないのに。






「……了解。α‐1二十センチ接近せよ」


『ラジャー、ラジャー』


「リッパー7、高度2500へ」


液晶画面に高度が変化した事を示すグラフが表示される。


「……ふぅ」


グレリアへ来て三ヶ月。

私は諜報活動をしている。先ず、ロミリア元老院議員を探っている。

空にMQ9無人攻撃機を飛ばし、陸には二十センチ弱のミニ機械兵OC(光学迷彩)を張り付けている。

現在シロは百十五名、残りは調査中である。


私は現在ロミリア共和国上空にMQ9を二十機、M機械兵OCを四十体派遣している。

こんな荒業が出来るのは私の物質創造が概念レベルで発動するからだ。

つまり、数が四つまでではなく種類が四つまで創造出来るのだ。


『α‐1、対象288の映像送ります』


「了解、受信を確認」


他に、デスクトップ十六台をモノクルに接続して自動操作にしている。


魔族かどうかの確認はM機械兵OCのカメラ(目)から額の映像を撮り、モノクルで解析する。

カメラ越しなので一枚二時間はかかる。

しかし今まで該当者がないから解析出来ない可能性もある。


……いや、多分ロミリア上層部はクリーンなんだ。


……そうでもないようだ。モノクルから当たりが出た時のブザーが鳴る。対象116は魔族だ。




その後、一ヶ月で元老院議員に対しての調査を行った。

結果、議員の内十七名が該当者、三十二名が協力者である。


さて……ただ殺したのでは新たな魔族に変わるだけだ。


スキャンダルで失脚させるかな?


特に対象286ジョージ‐K‐アムザは大統領御息女誘拐未遂事件に対し武力解決を提唱、民衆も賛同している開戦派の中心人物である。

……スキャンダルと言えば、女と金。


ハハッ、ジョージさんはどうやら幼児趣味がおありのようで。……いや、ディナーにしてるな。カニバリズムかよ。

これをばらまくか。




一週間後、ジョージ宅からあられもない姿の女の子十数人が逃げ出した。


ジョージ氏の発言権は著しく落ち、元老院では穏健派からの厳しい追求、暇な民衆達には恰好のごちそうとなった。


対ペロポネア戦争派の力は大きく損なわれ、真相究明派の力が増した。




私は一応、クーメーカーではなく、ピースメーカーなんだよ。


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