箸休め七品目−リンク十七、偽
アレシアにチャンを任せたサハリア、ファルサリア両名は三頭邪蛇と交戦していた。
「私が傷をつけますから、ファルサリアはそこを凍らせて下さいな!」
「…了解…」
ランクAの三頭邪蛇に対し、一歩も引かずに交戦する。
「【空よ 大気よ 風よ 我が元にて凝縮し 固まり 刃と化せ 切り刻み 我にその偉大さを示せ 鎌鼬】」
レッドテイルドラゴンと殆ど同じ手口で三頭邪蛇を排除する。体に傷を作り、そこから体内を凍らせるやり方だ。実戦経験の薄いサハリアをファルサリアが補いながら戦った為、二十分程経過していた。
「ごめんなさい!私が足を引っ張らなければもっと早く倒せたのですのに…」
「……大丈夫……」
二人は、身体強化しながらアレシアの下へ向かう。
しかし……前方の標高五百メートルくらいの山の中腹から光の柱が延び、衝撃波が二人を襲った。
咄嗟に魔法障壁を展開し、二人は無傷だが……山からは赤黒いキノコ雲が生えていた。
もしあそこにアレシアがいたら……まず、助からない。
二人は全力で走る。しかし、表情は暗い。
先の光の柱の影響で山火事が発生しているが、二人は意にも介さず山を登る。
常時展開型魔法障壁である。
「………あ、アレシア………」
光の柱発生場所には黒煙が舞い散り、気温も高く、周囲の大地はえぐられ、赤くなっている。
サハリアはアレシアの死を覚悟せざるを得なかった。
「…【メビウスの輪】……」
ファルサリアはキノコ雲を眺め、呟いた。
いや、これはファルサリアの能力である。
【メビウスの輪】。
長方形の帯を一捻りしたものの先端をくっつけた物。表裏がない曲面の例である。
この名が付いたファルサリアの能力は物質、概念の関係の相違を無くす。
つまり、過去と未来、熱いと寒い、速いと遅い、重いと軽い、これらを無視する事が出来る。
以前の【千里眼】も詠唱だけ唱えて、実際はこちらを使っていたのだ。
今、ファルサリアは時間に対し【メビウスの輪】を発動させ、ここで何があったかを見ているのである。
(………まさか……原子爆弾?…違う…放射能の反応は、ない……)
ファルサリアは、一切を知る。
「……きっと生きてる………」
「……ぇ?」
サハリアは、泣きじゃくる自分に対する慰めだと思った。
「……私は……そう思う……」
「……ありがとう、ファルサリア……」
ファルサリアは、その言葉を信じてくれたと思った。意思の疎通は難しいのである。
その後、ロミリア軍に保護された二人は厳重な警護の下シシリーへと戻る。
二人は簡単な聴取の後、駐屯地で一日を終えた。
バルカ一家はアレシアの訃報を聞き、事件発生の次の朝にはシシリー入りした。
学園内もその凶報に涙した。
アレシアの死は周囲に深い悲しみを与えた。
一月後。
爆発原因は不明とされ、仮説としてアレシア‐C‐バルカの莫大な魔力が暴走したのではないか、という事で調査は打ち切られた。
その後、サハリアには学園公認の護衛が常時五人張り付くようになる。
学園と護衛二人の責任も問われたが、相手がペロポネアの諜報員と判明したので、寧ろ事態を甘く見たロミリア軍団上層部側に責任があるとされた。
ペロポネアの諜報員に対して護衛二人は少ないという訳である。
ファルサリアは、退学した。サハリアは止めたが、ファルサリアは強硬だった。
アレシアの家族であるマリーは体調を崩し、未だ病気がちだ。
国際情勢は変化を迎える。ペロポネアが自国の大統領の子供を拉致しようとしたのだ。
ロミリア国民は賠償を求めるが、ペロポネアは関与を否定する。まあ、当たり前だ。ペロポネアは無実なのだから。しかし、その証拠はない。
寧ろ疑わしい間接的な証拠は揃っている。
ペロポネア側のスパイ活動は事実活発化しており、ロミリア側に二十三人捕まっている。
ロミリア政府も非公式にだが、賠償を求めたとの記事が新聞に載る。
これが、首都ロミリアでのデモ行進に繋がる。
アルバランガの二大国の関係に亀裂が走る。
これは、誰が一番得をしたのだろう。
時代に黒雲が立ち込め、嵐が近付く。