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十五、古典的罠




十月になった。


入学からもう一ヶ月。

私達新入生も学園に慣れて来ていた。


未だ護衛は付きっぱなしだが、こうまで長く接していると親しみも湧く。

護衛というより、友達に対する感情になりつつある。





今日は、魔法実戦1が午後から明日の朝まで行われる。夜の戦い方を学ぶ為だそうだ。

必要な荷物は自分で用意しなくてはならない。荷物もチェックされ、判定の対象である。


しかし、重要なのは戦うのは魔物だということだ。


学園側が魔物を数百も放していて、その森の中生き延びなくてはならない。魔物の正確な数、種類は不明だ。

もちろん、怪我を負えば強制送還だが一撃で死ねば助からない。

毎年少ないながらも死傷者も出ている。


私達は学園でも高い実力を持つが、気を付けないと即死である。


今は、午後6時から始まる授業に備えるべく各自準備中である。


「ふう、アレシアとファルサリアは準備を終えたかしら?」


「……万全……」


「あらかた終えました」


装備は以前のグリーンウルフ戦の物に寒くなって来たから、防寒服を追加。

二人もそこまでは変わらない。


この実戦では、ばらけた仲間と合流し、共闘するのは推奨されている。


「私達も久しぶりの実戦だ」


「そうね、腕が鳴るわ」


今まで、明かされなかった魔法戦士の実力も見れそうだ。

ハリアスさんとバシドさんは、護衛として学園に研修生として入ったが今のところ、ボケとツッコミをしている以外見たことがない。



西の森に着くと、一様に緊張した雰囲気。

何しろ今回は直に生きるか死ぬかを体験するのだ。無理もない。

私もグリーンウルフ戦以来ロクに体を動かしていない。

魔法実戦1は、月に三回しか行われないのだ。


辺りが暗闇に包まれ始めた頃、教師がいきなりやって来る。


「今回俺が言う事は一つ。生き残れ。では、健闘を祈る」


足元が光り、次には森の中である。


……目の前には、巨大なカがいた。


「…ひいいっ!」


思わず、悲鳴を出してしまった。

確かこいつはビモーグというでかいカで、他の生物の体液を腹の針を突き刺して吸う。


ビモーグが行動する前に【雷撃】で焼く。


ピギィーー!!という悲鳴を上げ、死んだ。


……予想通り、悲鳴で仲間が集まる。約二十。私を取り囲む。


甘いわぁ!!


私を中心に半径三メートルを【灼熱】で摂取五百度に加熱。


ビモーグの群れは瞬時に火に包まれた。

その後、森林火災を防ぐ為【絶対零度】で急速冷却。

意外にハードだぞ……モノクルで状況確認。

……うわあ、五百以上の人間以外の生体反応を感知。


ん?お姉ちゃんの周りに人が集まっているな。


……何かすごい嫌な予感。急ぐか。






三分で十七キロを消化すると、お姉ちゃんは黒服二十人に囲まれ、拘束されていた。


黒服よ、消し飛べ!!


茂みの影から【電撃】二十重奏。


なっ、弾かれた!!


「出て来て貰いましょう。近衛軍団長の娘さん」


黒服のリーダーらしき人物が話しかけて来る。

…私が時間稼ぐから護衛よ、来てくれ。


私は茂みから姿を出す。


「…あなたは、ペロポネアの者ですね?」


「よくご存知ですな。流石、六歳にして学園四年生だけのことはある」


ペロポネアの民には、アジア系に似た人種がいるのだ。なのでこの世界で黒髪や、東洋人を見かけたら、即ペロポネア人と思っていい。


「私はチャンと言います。失礼ですが、私と一緒に来て頂く」


「…理由を聞きたいですね」


「いいでしょう。お教えしましょう。あなたには、利用価値がある。先ず、あなたがいれば近衛の軍団長は思いのままだ。大統領の暗殺、ロミリアの機密情報、色々な物が我が国に利益として入る。

次に、あなた自身ですよ。あなたは天才だ。我が国の剣と盾になって貰いたい」


「…………」



…まだか!!あの二人は!?


「アレシアちゃん。増援は待っても来ないと思うよ、何しろ、私が少しばかり魔物を増やしたからね。なあに、たった二、三体だよ」


……お姉ちゃんが人質に取られている、迂闊には動けない。


「……何をすればいいでしょう?」


お姉ちゃんがさるぐつわを嵌められながら、首を横に振っている。

大丈夫。チャンスは来ます。


「さて、先ずは拘束させて貰いましょう」


黒服が私により、一瞬様子見する。

その後手錠、足枷、さるぐつわを嵌められる。

無論、魔力は封印された。お姉ちゃんの隣に転がされる。


「大人しくて助かりますよ。大きい方は酷く抵抗しましてね……おい、撤収だ」


黒服達は撤収の合図で何やら魔法陣を描き始めた。


………まさか、ペロポネアへ転移する気か?

くっ、お姉ちゃんに見られるがもう我慢出来ない。

物質創造を使うか。


「逃がすかあっ!!」


私が物質創造を使用しかけた時、ハリアスさんが登場。

近くにいた二人の黒服を斬り伏せる。


「ロミリアの魔法戦士か!?おい、急げ!!」


チャンが焦り始める。


黒服達は、一人一秒くらいで倒されていく。


しかし、残り十人で儀式魔法【戦城いくさじろ】が発動。私達を、淡く光る半球状の魔法障壁が囲む。


儀式魔法とは、巨大な魔法陣に既定人数を配置し魔力を込めることで個人ではなし得ない強力な魔法のことである。


【戦城】は、ペロポネア側三千が、ロミリア側三万四千に対して一ヶ月間持ちこたえた程強固な魔法で、ペロポネアの軍事機密だった筈。


案の定、ハリアスさんの剣は弾かれた。


ハリアスさんは今度は魔法を使う。


「【大地は枯れ 空は乾き人々は灰と化す この炎は全てを焼き そして全てを無へと導く その炎の名は 大地に痕跡を残し 空を朱く変え 人々の記憶に刻まれる 陽炎 其ノ一 紅】」



最上級火属性魔法【陽炎 其ノ一 紅】。


この世界のナパーム爆弾である。

範囲はナパームよりか低いが、威力は同程度だ。




摂氏九百度、直径十メートルの火炎球が【戦城】を襲う。


周囲の木々はそのあまりの高温に、自然発火し始める。




というか、私達も【戦城】の中にいるんだけど…助かるのだろうか?


火炎球が爆発。【戦城】内にも強烈な閃光と爆音が………




……【戦城】を中心に半径五十メートルが焦土となった。

それでも【戦城】はビクともしない。


「……はっ。はっはっは、我が国の機密魔法の前にはロミリアの魔法戦士如きは力不足だったようですね」


……そうかな。

今、ハリアスさんからとんでもない魔力の収束を感じるんだけど。


「ペロポネアよ。私の最上級魔法を受け止めた事、褒めてやろう。だが……潰す!!!必ずな!!!」




ハリアスさんの剣に炎が纏わり付き、そのまま一閃。



あ、忘れてた。一ヶ月三万四千のロミリア軍の猛攻にビクともしなかった【戦城】は、魔法戦士部隊を保有する近衛軍団の到着により即日壊滅したんだった。




「チャン様!【戦城】が……」


「……おのれ……」




【戦城】はハリアスさんの横薙ぎの一閃で崩壊した。



「観念して捕まるんだな、チャン」


ハリアスさんが優性に立った。

もはや、チャンは風前の灯である。


なのに、何故笑う?転移魔法陣も描き終えてないのに……


「ロミリアの魔法戦士は素晴らしい実力ですね。しかし……」


ハリアスさんが、何故か空へ跳ぶ。


ギャリアアア!!!


土の下から何かが飛び出す。


「私がペロポネアから運んで来た、ワームドラゴンです」ワームドラゴンと呼ばれたソレは、褐色のすべすべした蛇に似た体に目のない顔、口には大きな四つの牙が見える。


「くそっ………【炎刃】!!」


炎を纏いし剣から、紅い衝撃波を放つ。


その一撃でワームドラゴンの顔は吹き飛んだ。


ワームドラゴンは地に伏せる。


ハリアスさんは、ワームドラゴンを踏み付け……こちらに跳ぶ!


「終わりだあ!!」


なっ、ワームドラゴンは頭が無くても生きている。


「んーー!んー!」


必死にお姉ちゃんと後ろに見ろと叫ぶが、届かない。

そのまま、ワームドラゴンは跳躍。

押し潰す気か!?


跳躍時の音でハリアスさんが気付く。


「死に損ないが!!……【炎刃】!」


ワームドラゴンは真っ二つになるが、そのまま落下していき……大量の砂埃を上げた。


そして、足元が輝き始める。


「素晴らしい活躍でしたよ。ロミリアの魔法戦士よ」


転移が始まる。


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