二、有りがちだが、本人は困るよ
……ここは?暗い…目が見えない…温かい…
何日、何週間、何ヶ月経ったんだ?出してくれ……
明るい……やっと出れたか。目は……見えない。体も動きが鈍い。
魔力は……何だ?おかしいな。自分とは思えない、莫大な量だ。
周りに人がいるな。…………数は四人。
全員、特に二人からは強い魔力を感じる。敵意はなさそうだ。自分をあの空間から救ってくれたんだろう。
それにしてもここはどこだ?病院か?情報が欲しい。……ちっ、声まで出せない。
あの魔法陣は余程強力だったらしいな。
あの二人は無事だろうか。
「あ、あううー」
まるで赤ん坊だな。何か意思疎通の手段はないだろうか。
何だ?彼らの話している言葉がわからない。日本ではないのか?英語…でもなさそうだ。中国語や韓国語でもない。イスラム語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語、フランス語……は知らないが違う気がする。
何処だ?ここは………
目が見えるようになって来た。認めたくないが、今自分は赤ちゃんだ。
あの四人の内三人は肉親で、一人は医師らしい。
母親は、白銀の髪に緑の目。父親は茶色い髪に青い目。これ以上はまだ見えない。
「…あ、喋れる」
生後一年程で立てるようになった。両親は母はマリーで、父はジェイソン。自分は女の子らしく、名前はアレシアだそうだ。べつにいいけど、命名基準が英語なのは気になる。
あちらの言葉も日常会話程度なら喋れる。
両親の名前を呼んだらひどく喜んだ。
二歳。このころから勉強を始めた。両親は驚きつつも歓迎してくれた。両親の内母は魔法の講師、父は軍の魔法部隊に所属している、典型的な中流層の家庭である。普段は祖父と家にいる。家は二階建ての煉瓦作りだ。水道は普通にあり、電気の代わりには魔力灯がある。しかし魔力灯は高いらしい。何故なら月に一度魔法師に魔力に注入して貰わないといけないからだ。家は両親が魔法師なので問題ない。後は外に出してくれるようになったな。
この世界は中世に魔法を追加したような文明を構築している。
世界の名前は、アルバランガ。自分が今いるのはロミリア共和国の首都ロミリア。
周りは城壁に囲まれ、城壁内は古代ローマのスブッラの家や中世の石の家、煉瓦の家がごったになっている。
ロミリアには階級があり、保有する動産で区別され、第一から第五まである。ただし、階級は税を払う基準でしかなく無論、第一が一番厳しい税を払う。しかし、隠れた差別もあるらしい。自分は第三階級だ。
貨幣は金貨、銀貨、銅貨があり金貨一枚が銀貨百枚、銀貨一枚が銅貨百枚である。
円に換算すると、外食の代金、父や母の収入諸々より銅貨一枚が二百円だとわかった。
この世界には広く魔法が使われている。
攻撃魔法に防御魔法、治癒魔法が主な魔法だ。
攻撃魔法には属性があり、火、水、風、地、氷、雷、光、闇がある。
人は才能で幾つも属性が使えるが、光と闇が別格らしい。
防御魔法は障壁に結界等。治癒魔法は文字通り体を治癒する。
防御と治癒は合わせて補助魔法と呼ばれている。
他にも索敵や転移、沢山あるがこれらは非属性魔法と呼ばれ、こちらにも防御と治癒は属しており、まだこの世界の魔法は分類されきっていないのが現状だ。
これらの魔法は、初級、下級、中級、上級、最上級、機密があり機密は国家の戦術、戦略魔法やとある一家秘伝の奥義等である。
魔法は大気に漂うマナを使う方法と、体内魔力だけで戦う二種類の使い方があり、前者は多くの魔法が使える利点があるが、発動までのタイムラグがある、制御が難しい、マナ汚染にやられる危険、の欠点が、後者は魔法をあまり撃てない欠点があるが、制御が容易、あらゆる環境で使用可能な利点がある。
どちらも、イメージを数字や記号、言葉と魔力を式、魔法発動が答えと言った流れだ。つまり、イメージが貧弱でも言葉、魔力が足りなくても魔法は発動しない。だが、言葉と魔力は補い合うのでどちらかを強めればどちらかを殆ど使わなくて済む。
一流の魔法師ならどちらも使えるらしい。
三歳。私はあれから両親に可愛がられて来た。しかし物質創造の力は前より増していた。曾祖父の力に自動で障壁を張る力まであった。
両親は私の膨大な魔力から魔法の勉強を奨めたが、比較的水準が低い日本の西洋魔法に遥かに劣るこの世界の魔法を学ぶ気にはなれなかった。なので、両親には魔法障壁しか出来ないように思われている。
また、一人称を自分とすると嫌がるので私にした。
三歳ともなれば一応自由に動ける。私は少し遠いが、図書館に行くことにした。図書館には一年間に会ったことが、記録されている。これは約三百年前から続いている。
私はあのあと光と優さんがどうなっているかが気になっている。
あの二人が私みたいに体が変わらずそのままこの世界に来ていたら必ず何らかの記録に残るだろう。何しろ、’侍‘に’パーフェクト‘だ。
「アレシアや。どこに行くのかね?」
「おじいしゃん、図書館に行ってきます」
「そうか、ならワシも行くかな」
ロミリアは、子供が一人で歩いても現代の都心並には安全である。だから大丈夫だが……
「私なら一人れ大丈夫ですよ」
「ああ、わかっとるよ、ワシもみたい本があるんじゃ」
「なら、一緒に行きましょう」
おじいさんは、気遣いが上手い。こんなガキの調子に合わせてくれる。
徒歩30分。図書館に着く。図書館はギリシャ神殿みたいな造りだ。
中も広い。
受付に聞くか。
図書館の入口にスペースがありそこに受付兼衛兵がいる。
「あのー」
「どうしたのかな?」
受付嬢として完璧なスマイルだ。
「ロミリア年間記録を三年前かりゃみたいです」
「あ、あなたが見るの?」
まあ、三歳児が三年前からの新聞が見たいと言ってるようなもんだしな。
「おじいさんと一緒にれす」
「そ、そうなんだ。それなら、ここを真っすぐ進んで突き当たりを右に曲がるんだよ?」
「ありがとうございます」
ともかく、見るか。
本棚からおじいさんに取って貰い、見る。
「それにしても何でこんな本が見たいんじゃ?」
「私が生まれてから何が会ったか知りたいから」
おじいさんが驚いてるが、私も同じ立場なら驚くな。
それらしい物はない。つまり、光達は魔法障壁で凌いだのか。無事でよかった。
懸念材料も消え、必要な常識も手に入れた私はそれからは遊んで暮らしたり、こっそり物質創造したりして暮らした。
私は六歳だ。義務教育だ。ロミリアは六歳から十歳までは国が読み書き計算を学校で学ばせる。
しかし、高校一年生がやる意味はない。
「私、行かないと駄目ですか?お母さん」
お母さんは、少し困った表情をしている。引きこもりと思われたか?
私は物質創造を磨き上げるために前から自分の部屋に篭りがちだ。
両親は魔法障壁しか出来ない娘が魔法の練習をしていると思っている。
「アレシア、確かにあなたは賢いわ。だけど学校は友達を作るところでもあるのよ」
まあ、一理あるがね。小学生のテンションについてけないんだ。残念だけど。
「マリー、アレシアは留学させたらどうかな。何かしたいことがあるなら、だけどね」
「ジェイソン!アレシアはまだ六歳よ」
実は、やりたいことはある。魔法だ。とくに空間について。
だが、魔法出来ない振りしているしな。
しかしこの世界の魔法は簡単だ。一応地球でも座学で習ったし、出来なくはないだろう。退魔師界では器用貧乏より一つのエキスパートが好まれるからやらないだけなのだ。
地球にも妖怪や魔物がいる、という話はした。
しかし退魔師の数はどの国も足りない。
そこで各国は、魔力を持つがただの一般人を戦力化することにした。
魔力には肉体強化の効果があるので、これはある程度成功した。
だが、遠距離型の魔法使いが足りない事態は各国の頭を悩ませた。
なぜなら、既得権力を失うことを恐れたほとんどの歴史ある魔法使いの家系が魔法を隠匿したからである。
それを打破したのが、アメリカ人のスティーブン‐B‐ハリソンである。
彼は代々続く魔法使いの家系の新しい分家だったため、古い概念に捕われず、更にアメリカ人の愛国心で自らの知識を国連で公表した。それから、ハリソン家自体が知識を本家からの安全と引き換えに公表し各国からもハリソン氏に共鳴した人が集まり、国連直属の研究所を設立。そこから、世界に魔法が広まった。
今では、ハリソン氏に敬意を表しこの魔法体系をハリソン魔法と呼んでいる。
田口家等の特殊能力がある家系を除き、通常の退魔師は魔法や武器の扱い、武術を学び、一人前となる。
国ヶ原高校でも一般教養の他に魔法や武術を学ぶのだ。
そして私は魔法基礎の授業は終え、魔法実践をかじっている。
つまり、簡単な魔法位は出来なくもない。
ハリソン魔法は科学万能時代に研究が始まったので、科学的に分類されている。つまり属性魔法はハリソン魔法で呼ぶと
火と氷は、原子の振動エネルギーの変化
雷は、電子の収束
水は、大気から水を凝固させる
地は、分子の疎密度変化
風は、大気圧変化
光と闇は、光子の収束、変質した魔力の操作
である。
ハリソン魔法の使い方は体内魔力操作に近い。
先ず、魔術式を脳の使われていないところに特殊な方法で暗記させる。
次に、魔力を魔術式に注入すると発動、の流れだ。
これは、魔術式をどれだけ頭に入れられるかが問題だ。一般には百前後が限界である。しかしパーフェクトはハリソン魔法の約十万と少しを全て頭に叩きこんでいる。
そして、魔術式は一つでは何の意味も持たず組み合わせで発動する。
この世界の初級が式二つから十、下級が十から二十、中級が二十から四十、上級が四十から五百に該当するだろう。
私は魔法基礎で百二十一暗記した。あー、うん、頭に入ってる。
つまり、上級の下位は余裕でできる。
だが、六歳の女の子が詠唱破棄で上級魔法使ったら有名人の仲間入りが決定的だ。まあ、詠唱破棄しか出来ないけど。
私はやむを得ず小学生になった。