十、グリーンウルフ
休日は、惰眠を貪るのが基本だが今日は例外だ。
ギルドの依頼を受けている。
ねぼすけ二人をベッドに放置し、朝の諸準備を終えて朝ごはんを作る。
今日は新鮮な卵が手に入ったのでベーコンタマゴサンドにこの世界ではまだ嗜好品のコーヒー。大統領の娘さんの棚から拝借した。
うにぃっ!苦い!しまった、味覚が幼児化したんだった。ミルクはないので、砂糖を入れる。
ミルクの定期配達を頼もうかなあ。
「……いい匂い……」
ファルサリアさんが、起きたようだ。
寝ぼけた顔がまた可愛い。おっと、私は女。私は女。
「おはようございます、ファルサリアさん。朝ごはんの前に顔洗ったりして下さいね」
お姉ちゃんの寝巻なので、ズルズル引きずりながら洗面所へと向かっていった。
次は、お姉ちゃんか。
「お姉ちゃん!起きて!」
「おはようございます、アレシア」
お姉ちゃんは、何故か私が敬語抜きで話すと抱き着いて来る。
その習性を利用した。
「ああ…朝アレシア…」
………昼アレシアと夜アレシアもあるのか?それは何だ?
聞くと、知ってはならない世界の扉を開けそうなので忘れることにした。
「ほ、ほら朝ごはん出来てます。冷める前に食べて下さい」
「わかったわ」
という訳でいざ、出撃。
アレシア
装備
黒いワンピース
黒い革手袋
黒い軍靴
オリーブ色の空間拡張メッセンジャーバック
→中身
携帯食糧五食分
水筒
サバイバルナイフ
鍋
おたま
包丁×2
取り皿×3
包帯
消毒液
お財布:銅貨32枚
ギルドカード
学園証
防水ローブ
毛布
サハリア
装備
青いローブ
黄色いブラウス
白いズボン
黒い革靴
腕輪型魔力蓄積機本体
魔力蓄積機カートリッジ×3
青い空間拡張バック
→中身
知らない
ファルサリア
装備
黒いローブ
→中不明
杖型魔力増幅機
黒い空間拡張バック
→中身
知らない
な感じ。
空間拡張バックとは、バックの中を何らかの方法で拡張し(企業秘密)、中にたくさん物が入り、かつ重くないという素晴らしいバックである。
私は入学時にお祝いの品として貰ったが、銀貨二枚くらいの価値がある。
腕輪型魔力蓄積機とは、軍がハードカバー本型だと嵩張り邪魔になるということから数年前開発した物である。私が測定した所、大体一つのカートリッジに三千程魔力を蓄積可能。
杖型魔力増幅機とは、ダキア王国でしか産出しない魔増石が使われている。魔増石とは、握りこぶし大の大きさに魔力を込めると魔力が二倍になり蓄積される魔集石の強化版的存在である。
それが、杖の先端に埋め込まれ表面に金属の覆いを付けている。魔増石は金より高いから狙われるのだ。
トトカ村には、6時に出て9時に着いた。
村は静まり返り、人は家に隠れているようだ。
村の人口は百人前後。
すぐに、一番大きな家が見つかる。
こういうのは大概、村長が依頼主だ。
代表でお姉ちゃんがドアをノックする。一番大きいとは言っても他と同じ煉瓦造りで、三階建てな所が村で一番この建物を大きくさせている。
「私達は、ギルドから派遣されて来た者です。開けて下さいな」
ドタドタと音がしつ、一人の老人が期待に満ちた表情でドアを開け、そしてああ、はずれだぜ、貴族のボンボンが遊び半分で来たよ(意訳)なあからさまに失望した表情に変わった。
「来ていただきありがとうございます、詳しい話は中でしましょう」
棒読みもまだましな口調で感謝の意を表した村長は家へと案内した。
村長一家の村長とその妻、村長の息子夫婦、その息子がリビングに集まり、自己紹介も終えた。
「おい、おじいちゃん、こんな女ばっかで大丈夫かよ?」
生意気な口調なのは息子夫婦の十七になる息子だ。
「こらっ!これから魔物を退治していただくんだぞ!」
敬語なのは、自己紹介でこちらの身分が高いことを知ったから。
「論より証拠。お姉ちゃん、居場所だけ聞いてさっさと倒せば大丈夫ですよ」
「そうね。そうしましょう」
「村長さん。確かに私達は信用しにくいでしょう。ですが、グリーンウルフの居場所を教えていただけませんか?いざという時は逃げることも出来ます」
「ふむ、そのかわりうちの孫も連れていって貰おう。あれでも剣の心得はあるのでな」
「しかし…「いいでしょう、その条件のみます」」
お姉ちゃんには悪いが、日が高い内に終わらせたい。
その後、家の外で孫のザーハが来るのを待つ。
「アレシア!一般人を巻き込むなんて!」
「私とファルサリアさんが倒してお姉ちゃんが審判。なら、審判が護衛もやれば何の問題もありません。それともグリーンウルフ程度にお姉ちゃんの魔法障壁は破られるんですか?」
「む……それはそうですけど……」
肩を叩かれる。
「……さっきのお姉ちゃんて、何?……」
ファルサリアさん、そこについて今聞くの?
「い、いや、まあ、お姉ちゃんと呼ばれたいそうなので呼んであげてるんです」
「………ふーん……」
しばらくして、ザーハさんが腰に西洋の両刃剣を付け、リュックを背負いやってきた。
「おい!ホントに大丈夫なのか?」
「安心して下さいな。ザーハさん」
「いや、信用出来ない!先ず何か魔法を一人ずつ見せてくれ、そしたら行く」
「…いいですわ。そのくらいでしたら、先ず私ですわね……【水穿】」
おお、無詠唱化してくれた。まあ、先生方に何回も何回も実演させられたからなあ。
それはともかく、【水穿】は地面を直径一メートル、深さ三十センチ程のクレーターを形成した。
「どうかしら?」
「………………十分だ。……だ、だけどあの子供達はどうなんだ!?」
「ファルサリアさん。お願いします」
「…ん………【光の矢】…」
手を翳し、放たれた【光の矢】は三十メートル程離れた大木を貫通し、そのまま直進していった。
「これでも駄目かしら?」
「い、一番小さい子は?子守がいないからって連れて来たら駄目だろ!」
私を雑魚扱いしますか、フフフ、油断した者から死んでいきますよ。
「【絶対零度】。ザーハさん、あなたは動けない」
「は?何を言って…あ、あれ?くそ!靴が氷で…………」
「ザーハさん。私達の実力、分かりましたかしら」
「……あ、ああ。十分すぎるくらいね」
その後、ファルサリアが火を出し氷を溶かした。ザーハさんが靴を焦がされてぼやいていたが、自業自得だ。
三十分程森を歩いた頃。
「全員、伏せて……ここがグリーンウルフの群れの巣だ」
巣は凹地で四方に見張りを起き、中では眠り込んでいる。グリーンウルフは夜行性なのだ。
茂みに隠れた私達は、最後の打ち合わせに入る。
「『ゴールド』が魔法障壁を展開し民間人を守備し、『パープル』と『シルバー』が敵目標を殲滅。大丈夫ですね?」
「大丈夫ですわ。でも、『ゴールド』とか『パープル』って何ですの?」
「……作戦コードネームです。『ゴールド』はお姉ちゃん、『パープル』はファルサリアさん、私が『シルバー』」
………ごめん、つい、テンションが。
「中々格好いいですわね」
「……敵に作戦がばれない……」
おお。有り難い。このむず痒さが無くなった。そうだ。これは横文字が通じない(一部例外除く)この世界では暗号なんだ。
そう、暗号。
…ん?気のせいか日本語だったような…ま、いっか。
「では、三数えますから一で行動開始で……三…二…一、ゴー!」私とファルサリアさんは茂みから飛び出す。
私は【雷撃】を、ファルサリアさんは【火球】をそれぞれ二体ずつに当て倒す。ちっ…【火球】の爆発音で残りの…三十二体が起きだしやがった。
ランダムに【雷撃】の十八重奏。
七体殲滅。残り、二十五体。
「………それはないでしょう」
ファルサリアさんは、初級魔法【火球】に莫大な魔力に物を言わせて大量の魔力を注ぎ込んだ。
それはまるで隕石の如くグリーンウルフ達へ衝突した。
キィィン。うあ、間近であの爆発音を聞いたから耳がグワアアンってなってる。何かファルサリアさんが話しているな。
「…………の……ち……」
「すいません!あの爆発で耳がおかしくなって!」
爆発の後にはさっきの【水穿】より遥かに大きなクレーターが穴を開けている。
しばらくして耳が回復。
「あー、治りました」
お姉ちゃんとザーハさんも近寄って来た。
「大丈夫でした?何か耳を押さえていましたが…」
「あ、ただあまりの轟音に耳を押さえただけです」
「…魔法師はすごい奴らばかりだな」
私達は魔法師でも常識はずればかりですがね。
ともかく、森を出ることにした。ちなみに依頼はもう完了扱いで報酬待ちだ。
どういう意味かというと依頼の紙には計測魔法がかかっており、私達がグリーンウルフを倒したのはお姉ちゃんが持っている依頼の紙からギルドにもう届いている。
村長の家には、森の爆発音の真偽を確かめようと村人が押しかけていた。
そこで、ザーハさんが
「みんな!!グリーンウルフはこの魔法師達が退治したぞ!!」
え?裏口から帰らせるとかじゃないの?
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