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エピローグ




 魔族の王者は死に際、大地を揺るがす壮大な自爆を私にくらわせたようとした。せめては相討ち、とでも考えたのだろうか。

 しかしそれも自動展開型魔法障壁を封止した私には余りに鈍重だった。紫光を発してから爆発が起こる前に侵入口である陽電子砲で開けた穴から上空に退避していた私は、せいぜい爆発時の衝撃波を上空五千メートルでくらった程度の被害を受けただけであった。それ位ならば自動展開型魔法障壁封止を解除すれば、自動展開型魔法障壁によってたやすく防御出来る。実質爆発は私にたいした影響を与える事はなかったのだ。


 そして今、私は魔族の国の惨状を上空五千メートルから眺めている。


 魔族の王者、フィリップ‐フィリポヴィッチ‐インプレカートロフが最後に自爆した影響は、私にではなく、むしろ彼が作り上げた国へと多大なダメージを与えていた。

 “白い家”を中心に半径数百メートルは地下へと十メートルは陥没。土台が沈んだせいで、陥没した地域に存在した高層ビルが何棟も横倒しとなった。さらに爆発の衝撃波は地震へ姿を変えてその他の地域に拡散し、市街全体で壊滅的打撃を被っている。しばらくすると赤い光を発生源に黒い煙が上がり始め、夜も間近の薄暗い空に数多の縦筋を延ばしていく。この有様では国外に目を向けるどころか、国内の復旧で息も切れ切れになるだろう。




 私は、アルバランガ大陸に戦争と混乱をもたらした元凶を殺害したのだ。


 これは喜ばしい事のはずなのに、どうして全く喜べないのだろう。

 もう私は姿を隠す必要も、偽名を名乗る必要もない。家族や友人と会う事も可能なのに、どうして?

 いや、理由は分かっている。人を殺害したんだ、それがどんな人間であろうともその直後に喜ぶ事なんて出来ない。ましてや、無関係な一般市民にまで手をかけてしまったのだから当然だ。魔族とはいえ、私は何十、何百、もしかしたら何千人もの人間を殺した事に……。


 何だか吐き気がする。酷い気分だ。胃の内容物を全てぶちまけてしまいそう。


 頭が痛くなってくる。吐き気と頭痛の同時攻撃に平行感覚が支障を来たし出す。もはや空と地上の区別が付かない。


 喉に異物感がある。生理的反応として、咳き込む。何かが口から飛び出した。思わず口を手で押さえると、手に液体がべっとりとかかる。


「……血だ」


 私は大地へ墜ち始めたようだ。景色がくるくると変わっていく。強風が私の小さな体をぐいぐいと押す。私は頭がぐらぐらして、物質創造する力もない。何も出来ずに墜ちていく。このまま地面にたたき付けられて、ぐちゃぐちゃに潰れてしまうのだろうか。


 それは嫌、死にたくない。


 私はぼろぼろと崩壊していく六枚の翼を酷使して何とか落下針路を海上に変える。


 しかし、高度五千メートルから海面に落下するのだ、海だからってタダでは済まない。


「……っ!」


 重力によって加速された体が海面に落下すると、自動展開型魔法障壁越しに激しい衝撃が襲い掛かる。頭の奥底から経験した事のない痛みが走り、意識が飛びそうになる。でもこんなところで気絶したら、死ぬ。


 私は最後の力を振り絞って、有りったけの魔力をディーウァ創造に費やした。途端に自動展開型魔法障壁が消失し、私は暗く冷たい海水の中に一人漂う。もう、体を動かせない。開いた口からは海水が入り込んで息も出来ない。駄目だ、生きられないんだ。もう、死を受け入れてしまおうか……。


 全身にかかっていた水圧がなくなり、開いたままの口から海水が抜け出ていく。なんでだろう。うっすらと目を開けてみると、私は誰かに抱き抱えられているみたいだ。


「御主人様、ご無事ですか御主人!」


 体を揺さ振られる。やめてよ、気分が悪いんだ。


「やめて……も、疲れた…………」


「何をおっしゃられているのですか! 私は御主人様がいなくなられたらどうすればいいのですか! あの世に行くには早過ぎますよ!」


「……」


 もう答える元気はない。というか、視界が掠れ…………。


「御主人様! 御主人様!? く……こうなっては致し方ありません!」






 ロミリア歴四百十五年三月一日午後八時、ロミリア共和国首都ロミリア。


 既に夜の帳が下り身も凍える風の吹きすさぶ屋外から人々が暖炉に火をくべ室内灯に照らされた暖かい自宅に篭る中、ロミリアの一軒の家の前に漆黒の空から女が飛来し着地した。


 茶色い髪を肩にかかるかかからないかといった辺りまで伸ばし、豊満な体のラインがくっきりと分かる灰色のパイロットスーツに身を包んだ十五歳前後の女は、十人の男とすれ違えば八人は振り返るだろうかわいらしい顔を悲しみに歪ませて両腕で抱きすくめている少女を見詰める。


「……ぅ、ぁあ……」 少女は苦痛にうめき声を上げ、蒼白に染まった顔をしかめる。口の端からは生温かい血が一筋の細長い流れとなって、少女が顔を埋めている茶髪の女の胸の辺りに赤黒い染みを作っている。


 茶髪の女は目的の家の窓から室内灯の明かりが洩れているのを確認する。そして煉瓦造り二階建ての家の玄関前に立ち、目線の高さにある真鍮製のノッカーに手を延ばして木のドアを何度も叩き始めた。ドンドンドン、ドンドンドン。静かな夜の住宅街にノッカーの音がやかましく響く。


「ジェイソン? そんなに急がなくても……」


 ノッカーの音に反応して、白いナイトガウンを着用し白銀の髪を背中まで伸ばした女性がドアを半開きにして顔を出す。女性は茶髪の女が抱きすくめている、自らと同じ白銀の髪を持つ少女に目が釘づけになった。


「そんな……これは現実なの?」


口に手を遣り、目を潤ませ、女性はドアを大きく開きよろよろと少女に近付いていく。女性はひざまずき、温かみのない少女の頬を震える手で撫でる。茶髪の女は、少女を無言で女性に差し出した。女性は少女を受け取る。


「アレシア……生きてくれていたのね……」


 女性は両目から大粒の涙を流し、アレシアをきつく抱きしめた。茶髪の女は瞳を潤ませながら二人を見つめる。


 夜闇が辺りを覆い隠し、寒風が身を凍えさせる暗く冷たい大空の下、彼女達三人だけが室内から届く柔らかな光りに照らされていた。

 その光景はまるで、少女の孤独な戦いの終わりを告げているようであった。



 ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

 しかしこの「伊吹さんの真実」は、まだ終わった訳ではありません。別作品にて続きを書いていこうと考えております。というのも文章作法に到らない点が多々存在しておりまして、それらを修正していると次話を投稿出来なくなってしまうのです。まあ後々統合したいなとは考えていますが、取り敢えずは「伊吹さんの真実」に対して隔離措置を履行させて頂く次第でございます、はい。


 ちなみに次回は「伊吹さんの真相」という題名です。もう既にプロローグのみ投稿させて貰っています。


 では最後にもう一度読者の方々に謝意を示して終わりにさせて頂きます。


 本当に読んでくれてありがとう。


 では、さようなら。


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