八、我ガ軍戦力寡少ナリ
………いた。予想通りお姉ちゃんだ。
私はお姉ちゃんと合流したが、残り六人は全員手を組んだらしい。
「アレシア!まだ無事でしたのね」
「ええ。無論です。しかし、私の索敵によると残りの六人は私達を感知し、そして私達を倒すまでは手を組む気です」
「ふーん、じゃあ六人チームがこちらに向かって来る訳ですわね」
「その通りです」
現在、敵目標は12時の方向、距離二キロ。恐らく接敵はこのペースならば、二十一分後。
どうやら数で押す単純かつ確実な戦法で来るらしい。魔法師は遠距離ならば速射砲並の危険性があるから、あながち間違った戦法ではない。
「お姉ちゃんは攻撃魔法としては何が出来ますか?」
「私は水と風ですわ」
攻撃性が微妙なコンビだ。お姉ちゃんの魔力値は二万二千。魔力値なら相手が六人でもお釣りが札束で来るんだけど。
しかも、こちらも相手を知らない以上即座に決着を着ける短期決戦か、相手の能力や思考法等を調べてから攻める超長期決戦の二択。
私は面倒なのは嫌い。
よって、短期決戦で決める。
こちらとしては戦力寡少である以上、最初の攻撃で同数、に持っていく必要がある。
ならば……浅知恵だが………
「お姉ちゃん、私の作戦を聞いてくれますか?」
「まっ、相手は二人でこっちは六人。しかも奇襲に備えて常時展開型魔法障壁もある」
「おれたちが勝ったらトーナメントだぜ!」
「分かってるよ。おい!何か来るぞ!!」
私は直径三メートルの酸素球を約三十メートル先から投げ付ける。
「はっ!魔法障壁があるんだよ!!」
「おい、あれって最年少入学者の…」
「ああ………くっ、可愛い!駄目だ!おれには攻撃出来ない!!」
「…お前やれよ」
「何でだよ、お前がやれよ!!」
………【電子砲】発射。
「「「「「「ぎゃあああああ!!!!!?」」」」」」
当初の予定では、お姉ちゃんが水を生成し、それを私が電気分解し、酸素と水素に分けて保存。私が酸素球を投げた後、敵目標が攻撃魔法を放つ。
攻撃魔法使用中は魔法障壁が解除されているから、隠匿魔法で隠れていたお姉ちゃんが水素球を投げ大爆発。
……だったのだが。
「お姉ちゃん、最後の二人になっちゃいましたよ。お姉ちゃんらしく妹に勝利を譲りませんか?」
「あら、私、負けず嫌いなんですの。姉の顔を立てるのも妹の美徳なのではないですか?」
……やるしかない。
その雰囲気を察したお姉ちゃんは水素球を投擲。
ズルイ!
ズガアアアン!!としか表現出来ない音が響く。
無論、あんな投擲速度では当たらない。【電撃】の三重奏をおみまいする。
魔法障壁が軽々と弾いたが、それは布石。
【落雷】。
雷が落ちる。うーん、お姉ちゃんは攻撃が弱い代わりに補助魔法に優れているようだ。魔法障壁は健在。
お姉ちゃんが詠唱する。魔法障壁は発動時だけ解除すればいいので、便利である。
「【空よ 大気よ 風よ 我が元にて凝縮し 固まり 刃と化せ 切り刻み 我にその偉大さを示せ 鎌鼬】」
中級風魔法鎌鼬。下級魔法風の刃の強化版。その威力は私に接近する途中に十数本の直径三十センチの木々を伐採しているところから分かるだろう。
不可視の刃は厄介だ。しかし、私は全てを貫く。
【電子砲】、撃てぇ!!!
その白き一筋の光線は鎌鼬を霧散させ、お姉ちゃんの魔法障壁を破壊し、その意識を刈り取った。
「今回はアレシアが勝利したが、次は負けないという気概で行くように。以上、今日は解散!」
ああ……終わった。午前中だけだったが、六年ぶりの戦闘はいい経験だ。
しかし、疲労感が……う……眠……。
「あら、アレシアちゃん寝ちゃったわ」
「あーん、持って帰りたーい!」
「あれ、サハリアさんどうしてあなたがアレシアちゃんを背負ってるの?」
「それは…お、お友達だからですわ」
数秒後。(アレシア睡眠時はナレーションは簡素化します)
「キャー!何あの二人!可愛いすぎる!!」
「あの二人にファルサリアちゃんを加えれば…じゅるり」
ん………?ここは、知らない。何処だ?
私はベッドで寝ていたらしい。この部屋は寝室らしい。ドアを開け、出てみる。
「あら、起きましたわね?」
エプロン姿のお姉ちゃんが何かを料理している。
はて?
「あの……魔法実戦1の授業が終わったのまでは記憶しているのですが……」
「あら、私が寝てしまったあなたを連れて来たのですよ」
「あ、ありがとうございます」
「何で敬語なんて使うの?友達でしょう?」
「すみません、これが標準仕様なんです」
「なら…しかたないのでしょう。アレシア、今日は私がお昼ご飯を作りましたわ」
おお、カルボナーラだ。この世界ではまだパスタはあまり普及してないから久しぶりだ。
「お姉ちゃん、おいしいよ!!…こんな感じですかね」
うう、寒気が。やっぱやめよう。
「…………………………………はっ!!い、今のは?何がありましたの!?」
お昼ご飯を美味しくいただき、食後の、のんびりとした時間。
「それにしても私、水に電気を流すと爆発するなんて初めて知りましたわ」
まあ、それは……ねえ。
「他にも何か知っているんじゃありません?私常々攻撃力不足に悩まされて来ましたの」
何かあるかなあ。水と風か。確か圧力を急激に下げると体が破裂するのではないか?……あまりにグロいな。うーん、ウォーターカッターはこの世界にあるだろうか?確か、水を高圧で発射してダイヤモンドすら切る機械。これなら使えそう。だけど切断系は鎌鼬があるしなあ。でも、鎌鼬より強いか。
という訳であるか聞いた所、ないらしい。属性水は大量の水で押し流すか属性氷の補助的役割しか出来ない役立たずな属性と考えられているそうだ。
「うーん、詠唱するなら【空よ 大気よ 水よ 凝縮し 打ち出せ 水穿】」
凝縮された水が壁を打ち抜き、大穴を開けた。
……球状だが、かなりの威力だな。
「お姉ちゃん、どうですか?」
「す、すごいですわ!!新しい魔法を生み出すなんて!!」
「そう…ですか?」
私としてはウォーターカッターを軽くパクっただけなんだが。
「ええ!!早く先生方に見て貰わなくては!」
「そんな、いいですよ」
面倒。今日は疲れた。
「駄目です!」
「え?お姉ちゃん!?」
私は何だか知らないが連行された。
「…というわけです。アルバート先生」
「素晴らしい!自分の扱えない分野で新魔法を考えるとは!!」
アルバート先生は、小柄な老人で学究肌という感じ。
アルバート先生はいきなり消えると、五分後には十数人の先生方が集まった。
その場でお姉ちゃんが、実演して見せ、感心され、揉みくちゃにされた。
うーー。眠い。何でもいいから寝かせて。
解放されたのは夜も遅い10時。
その間、魔法を考えついた経緯やら式構成を調べて他の人間でも出来るか試したりやら。
何回、あーもうどうでもいいから寝よう。という欲望と戦ったか。
私は、勝った!!ああ、だがもう駄目だ。
「すみません、お姉ちゃん。も…限界…………」
「しかたないわね。まあ、今回は私が連れ出したものだから許してあげるわ」