86、イブキ編 フュロル(狂暴さ)
暗くて、不気味ですね……。
先程まで聞こえていた重砲機械兵の抵抗の射撃音が途絶え、〇イリアンの群れが近付く音のみとなりました。E−05とE−06は破壊されたようです。
明かりは全くなく、視界が最悪の状態の中どう対処するかはまだ決まってはいません。
ディーウァはただ震えて縮こまってます。まあ、戦闘機に変身(?)出来ない以上、何も出来ないから今回は仕方ないです。
どうすればいいのやら。
しかし、待ちに徹していたら数の力で蹂躙されかねません。
モノクルのマイクロ波による暗視能力を使用し、視界を確保。
不意打ちで即殺という事態を避けるため、【魔法障壁】を展開。
その状態で、飛行ユニットを用いて通路内を飛行しています。
群れは必ず前にいる事は分かっていますから、どこから来るか分からない恐怖がないのが不幸中の幸いとでも言うのでしょうか。
ただ、エ〇リアンは必ず前にいるという状態を崩さないためには、大広間入口に展開中の重砲機械兵を選択兵装枠で創造し続けなければならず、今私が向かっている分岐右道での戦いではハリソン魔法だけで戦い抜かないとなりません。
そこだけが不安材料です。
エイ〇アン自体はビームマシンガンで殲滅出来る程度の防御力であり、あの強さは数によるもの。
つまり数を捌き切れるかが問題です。
ハリソン魔法の威力は分かっています。十分に強力かつ、発動も速い。それでも実際に相対し、交戦するまでは過大評価はすべきではないでしょう。
……そろそろ、ですね。
あぁ……見えて来ました。通路にひしめくエイリ〇ンの大群。足音の多さに泣きたくなります。何でこんな集まってんでしょう。でもここまで来たら、後戻りは出来ません。
【魔法障壁】、解除。
ハリソン魔法の欠点は、防御と攻撃が同時に出来ない事です。選択兵装はこの点がよかった……障壁の中に篭って、一方的に攻撃してればいいんですからね。
ともかくこれで、私を守るものはありません。
こうなったら、攻撃は最大の防御という奴をやってやりましょう。
【絶対零度】。
前面にあと数十メートルと迫る〇イリアンの第一陣を範囲指定し、大気ごと絶対零度へと瞬間的に冷却。
前面にひしめき合うエイリア〇を凍結させ……られました。
ギャアアウアァア!!
後続が前に進めなくなった事に困惑し、騒ぎ立てているようです。
これで進攻速度も大幅に遅延するでしょう。エイリア〇の氷壁、中々崩せるものではありませんよ。しかし代償として、【絶対零度】で大気が冷やされた事により、水蒸気が発生して赤外線感知能力が落ちてしまいましたか。
まあ、マイクロ波があるし今はいいや。今はとにかく攻撃あるのみです。
氷壁に空いている小さな隙間。〇イリアンの凍り漬けで出来ている氷壁ですから、たくさんあります。
そこを狙って【電子砲】を乱射。
例えあまり数を減らせなくとも、こちらは氷壁により絶対に安全。氷壁が破壊されたら、またエイリ〇ンを凍らせて作れば問題はありません。
素晴らしい……これが攻撃は最大の防御! 安全地帯から一方的に攻撃を仕掛けるという訳ですか!
何か違うような……まあ、いいです。とりあえず殲滅の目通しはつきました。
あとは……撃ちまくりましょう!
はぁ……疲れました。少し休みましょう。
【絶対零度】でエ〇リアンを多めに凍らせ、氷壁を三メートル位厚くしておきます。これでまあ、三十分なら余裕で持つでしょう。
「ふー……」
通路の横壁にもたれて、体力の回復を図ります。
しかし……弱いくせに、数だけは馬鹿みたいにいます。交戦開始から一時間半、【電子砲】を大体八千発は発射したのですが、勢いは全く衰える気配がありません。八千消えても余裕のある程エイリア〇はいるのでしょうか。
一方、大広間入口に展開中の重砲機械兵部隊。増援のE分隊も差し戻しているので計二十五体で銃砲撃を仕掛けていますが、防衛線が突破される事はないものの、こちらの群れも一向に減りません。
私が気が付いた部屋から唯一の道を進むと、二つの分岐があります。左に大広間があり、右が私のいるここです。もしここから脱出するのなら、どちらかのエイリ〇ンを完全に殲滅しないと先に進む事すら覚束ないのです。
いつまでも沸いて来るエイリア〇。やはり大本であるクイーンがいたりするのでしょうか。そして、クイーンは凄まじい速さで子供を産みまくっている? いや、違いますね。映画通りなら、卵から最初にカブトガニみたいなタランチュラみたいな幼態が孵化し、その幼態は他の生物に寄生して成長するはず。寄生対象が、この通路だらけの場所にそうたくさんいるとは思えません。だとすると……いや、休む時にしっかり休みましょう。
「ディーウァ、少し休みたいんで見張ってくれま……」
…………寝てる。
どれだけ楽観的!? 私が少し有利に戦闘を進めたとは言え、まだまだエイリア〇たくさんいるんですよ。氷壁の奥から何か奇声とかが聞こえてんですよ。単純というか、スーパーポジティブというか。
はぁ……ま、いいです。こんな死亡旗が十秒間隔で立つような場所でこういう態度をされると、何だか多少楽な気持ちになれます。
しかし暗いな……真っ暗。これ何とかならないかなあ。
「ひゃはははは!! ようやくマトモに闘えそうだぜ!!」
人の声!?
「だ……誰かいるんですか!?」
休憩してから十数分が経過した時に、通路に反響する声。私以外に誰かいるんでしょうか。
「アァ? アリが群がってやがんな」
彼女は私を全く意に介さずに……って氷壁の向こうにいるんですか!?
「だ、大丈「邪魔なんだよ! 消えろ!!」
っ! 氷壁の先から強力な光量が……うぐぅ! 目が、目があ!?
真っ暗なところから太陽を真正面に見たクラスの光量は、痛いです。いや、痛いです!
『ふぎぇえ!? 目が、目が痛いですぅう!!』
ディーウァもどうやら同じアクションみたいです。まあ、それはそれとして爆音がします。おそらく、氷壁の向こうの彼女が何かしたんでしょう。どうにか状況が知りたいです。
イケるかな……モノクルと耳の接触部から神経に電気信号を送る、と。よし、視界確保です。
ディーウァは……大丈夫。目を押さえながら暴れ回ってます。暴れ回る元気があるなら心配無用でしょう。対して、氷壁はぼろぼろ。ほとんど原形を留めておらず、運よく端っこ辺りが少し残っている程度。
そうして氷壁を破壊し入って来たのは……。
「え? 私?」
モノクルからのマイクロ波映像を脳へ叩き込んでいるから映像は荒いし、マイクロ波映像なので緑しか色ないですけど……姿形は確かに私に似ているような気がします。
「ハァ? テメェなんかと一緒にすんな。アタシはなぁ……フュロル様だ!!」
何かすごい自信満々に宣言されちゃいましたけど……。
「いや……誰ですか? ディーウァ、知ってます?」
「全っ然、知らないです」
「ぐぐぐぐ……おい、ナメてんのか?」
そんな悔しそうにされてもですねぇ……。
「知らないんだから仕方ないじゃないでしょう」
「あぁーっ! ムカつくぅう!!」
あ、通路を足蹴にしてます。口調は汚いですが、行動は中々可愛いげがありますね。
「もういい!! テメェ、ぶっ壊してやる」
何でですか、初対面なんですから互いに誰なのかなんて分かる訳ないのに……理不尽。
ん? 何かを物質創造したみた……、って!? 252キロ爆弾!?
「ディーウァ!!」
咄嗟にディーウァへ跳躍し、庇いながら【魔法障壁】を展開。
【魔法障壁】を火炎と爆風が襲い掛かります。しかしこの程度では破れはしません。
『な、何ですあの人……』
「私が聞きたいですね……」
ディーウァと二人で戸惑います。彼女は何のつもりでいきなりこんな事を……。
マイクロ波は爆煙を透過します、フュロルとか言った彼女は次にどんな手を打つ気でしょうか。
あ、いました。何もしてないのでしょうか。もしかして、視界が悪くて動けないのかもしれません。
なら、今の内に逃げちゃいます。
いきなり爆弾投擲してくる人と相手したくはありません。危険過ぎます。
飛行ユニット展開。静かに、静かに後た
「ドコ行く気だよ? 闘おうぜ」
「!!」
いつの間に後ろに? くっ、一気に前へ飛び出し後方へ音響閃光手榴弾をポーチから投擲。時間稼ぎになって下さい。
「させるかよぉっ!」
馬鹿な……ライトセー、じゃなくて赤光剣で音響閃光手榴弾が炸裂する前に切り刻むなんて……。
フュロル、手加減して勝てる相手じゃありません。
音響閃光手榴弾を切り刻んだモーションから、私へ切り掛かって来ます。
素早い! 点、線攻撃ではとても捉えきれません!
ですが、私は面攻撃の手段があります。一度コールドスリープして頭冷やしなさいっ。
【絶対零度】。
「ハッ、きかねえよっ!」
【魔法障壁】!? 何で彼女が使えるんですか!?
あ、目の前にもう……。
「くぅっ!」
赤光剣には、赤光剣。彼女の振り下ろした剣を何とかかんとか受け止め、即座に急速後退。
ポーチにぶら下げていた、今までお飾りとしか思っていなかった赤光剣。久しぶりに使いました。二十センチ程の柄にスイッチを押すと、一メートル近い赤い光りの剣が飛び出して来ます。その光りの剣はかなりの高温であり、大抵の金属はたやすく熔かし切る事が可能です。剣としては中々に優秀なのでしょうが、私は剣の腕なんてからっきしですからね。
【身体強化】で体の反応速度を無理矢理超高速化してさっきは受け止める事に成功しましたが、次の保証はないです。
これは、非常事態です。〇イリアンを気にしている暇なんてありません。
後々が多少怖いですが……重砲機械兵部隊を消します。
これで、全力が出せます。
「逃げんじゃねぇよ!!」
逃げる? もう覚悟は決めさせて貰いましたよ。
六砲身ガトリング砲ファランクス改。
照準を合わせ、発射。
「っ! ちいっ!!」
ふふ、通路は狭いのです。避けようがないですよ? 彼女は【魔法障壁】で防いだみたいですね。まあ、防いで貰わないと困りますが。
ここは何なのか、何故私はここにいるのか、などなど。さあ……事情を聞かせて貰いましょうか。