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捌拾参、伊吹編 異形




何なんだ、ここは。


一通り探索したが、これは迷路どころじゃない。


もはや迷宮だ。

今でさえ、道が既に四十四も分岐している。


まずいな……抜け出す自信が全く持てない。


そもそもどうやってこんな場所に入り込んだんだ?


自分は……何をしていたんだ?


今までの、異世界で不可思議極まりない人生は何だったんだ?


どうせ時間はたっぷりあるんだ、少し頭を整理しよう。




えー、先ず。自分は田口伊吹。国ヶ原市の反則的な日本トップクラス退魔師速水光はやみ こうの元に身を寄せていた筈。何故身を寄せていたかと言うと、遠見菫とおみ すみれの……うん、未だ忘れてはいないようだ。安心した。


それからあの謎の黒魔法使いと交戦、その途中でまさかの異世界行き。しかも性別も変わり年齢も零からやり直し。


二人目の両親、母さんのマリーに父さんのジェイソン。お祖父さんのルキウス。親切な近所の人々。外に出ると必ず遭遇する変質者……これは忘れていたかったな……。


義務教育制度があまりにも初歩だった為、学園に飛び級もした。


そこで出会ったサハリアさんにファルサリアさん。彼女達はどうしているんだろう……。


あれから超展開だった。魔族の政府への浸透やその工作活動による戦争の勃発。


それでつい、焦ってしまった。


単騎で本拠地に突撃。


まあ、策もなかったから当然だが負けた。


その時……イブキ‐アレシアが生まれたんだったな。彼女は不安定ながらもそれなりによくやっていた。ただ、彼女は…………。




ここまではっきりと記憶している。これを夢と切り捨てられるか?


いや……恐らく現実の体験。自分は確かに今までの通りに生きてきた。


だとするならば、何故今になって元に戻ったんだ? まあ、異世界転生が有り得るなら何でも出来そうな気はするが……。


それにしたって、迷宮並に入り組んでいる洞窟で一人迷わせる事に何の意味があるんだか。


あぁ。考えても何も解決しやしないじゃあないか。残念ながら遭難した場合、動かず助けを待つのは助けが来るからであって……自分は当て嵌まらない。


仕方ない。脱出でもしてみるか。




……何かに付けられているな。


人の気配ではない、と。


振り返る。


はっ、冗談も程々にして欲しいね。


自分を付けて来たのはまごうことなく異形の物。

大きさは一メートル程でしかないが口は鰐の如くばっくりと開き、体から生えている脚は蜘蛛の如く分かれている。


それが三体。一体は天井に張り付きながら、二体は地面を這いながら自分に近付いて来ている。


友好的には思えないな。ただ万が一がある。顔が怖いだけで中身は優しいとか……どうだろう、少し近付いてみようか。まあ念のため、何時でも銃を撃てるようにはしておく。


先行している二体に慎重に歩いて近付く。


「やはり駄目か」


二体は自分が五メートル辺りに近付いた途端、飛び跳ねて来た。


これが日本外交なのかなあとか思いつつ、二体それぞれの頭へ弾丸を撃ち込んで行く。いや、日本はあのまんま喰われてたかも知れないな。


二体は潰した。天井のは少し実験に付き合って貰おうか。




ふむ……脚に撃ち込む程度では駄目で、胴体には十発程ではないと死なないようだ。頭は先の二体で分かったが、三発程で殲滅出来た。


狙うなら頭だな。


ん? 何だか素晴らしく嫌な予感がする。


そして心なしか後ろが五月蝿い。


振り返る。


黙って駆け出す。




ち……銃声が響いたようだ。あの鰐蜘蛛が群れで自分を狙って来ている。


意外に足が早く、又入り組んだ複雑な洞窟のあちらこちらに住み着いているようで中々振り切れない。もうどの位の時間走ったのかすら分からない。


このままでは疲労した所を餌にされてしまう。


何か策はないだろうか。策無しはまずい、以前痛い目にあったからな。


自分の手札はセミオートマチック拳銃P228に、ハリソン魔法の【電撃】に【雷撃】に【落雷】に【灼熱】に【絶対零度】に【身体強化】に【魔法障壁】に【電子砲】。


ただ、【電撃】に【身体強化】のみ瞬間的に発動可能。【雷撃】に【魔法障壁】は二、三秒の時間を要し、【落雷】は八秒、【灼熱】に【絶対零度】ともなると十三秒、【電子砲】に至っては三十秒はかかる。さらに転生時と比較して、発動に成功したとしても威力は数段落ちざるを得ないし、【電子砲】を放ったとしたら魔力を殆ど使い切ってしまうだろう。


つくづくあの膨大な魔力には羨望を覚える。あれだけは欲しい。


ふむ……とりあえず後ろに追って来ている数十もの大群を何とかしないとな。


いい加減疲れて来た。早く何とかしなくては。


【電子砲】はまずい。あの群れが全てではないのだ。道を曲がる度に数体ずつ増えている気がする。ならば……。




一気に加速し、大群との距離をとる。しかしこの速度は一時的であり、このまま逃げ切る事はしない。というかこの迷宮並の洞窟では逃げ切れる保証が全くない。


距離を取った所で、【絶対零度】。だが転生時のようにそのままあの大群を凍り漬けにする程の力はない。


大気中の水分を凝結させ、水浸しにする程度。


そして大群がズゾゾゾと近付いて来る。


水浸しにした範囲内に入った事を確認して、【落雷】。


ピシャアアアン!!


電気の青白い光が周囲を満たす。


……よし。上手くいったようだ。後は時間との勝負。拳銃の引き金を引き続ける。感電死した個体もあるようだが、していない個体の方が多い。


麻痺して動かない内に射殺する。エグイような気がするが、こっちも生きる為だ。




ふう……八十一体全部処理完了。色んな意味で中々に辛いな。


それにしても薄暗い。もう一度、日の光りが拝みたいものだ。


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