七、授業初日
今日から、学園は本格稼動である。
全学園生徒約二万人が国の血肉になるべく、あくせく学ぶ。
学園は国立なので、たいていはお国に仕えるのだ。
お姉ちゃんがぐっすりと寝る中、朝の諸々の準備を終えた後、朝ご飯を作る。温めるだけだが。
今日は余りのホワイトシチューにパン。
ご飯、あの白いご飯が恋しい。
なんて考えつつお姉ちゃんを起こしにかかる。
「起きて下さい。もう起きないと間に合いませんよ」
「ん……今、起き……る」
寝起きが駄目な人だったか。しかも、一番質の悪い起きると言いつつ寝るパターンか。こういうのは無理矢理起こした方が早い。
ベッドから引きずり、立たせようとする。
「……不覚。体重差を忘れていました」
あえなく、お姉ちゃんに潰された。
「こんなことされたら、起きるしかないじゃない!!」
私がむくれていると、覚醒した。何で嬉しそうなの?
「ほら、顔洗ったり着替えたり色々やることありますよ」
「じゃあ、服ないから部屋に戻りますわ」
準備を終えた私達は同じ魔法実戦1を受ける為、東棟第四十一講堂の引き戸を引いて中に入るが誰もいない。もうすぐ授業開始の9時なんだが。
「間違えましたかね?」
「違うわ。今日は…西の森前に集合ですわ」
お姉ちゃんが黒板を見て、場所を知る。
西の森で何をやるんだ。
西の森へ向かうと魔法科四年生一群が既に集まっていた。
群とは、一学年五百人を分ける単位で四年生は一群五十人で計十群ある。
ちなみに、生徒数に五、六年生は数えない。学園側も上記二学年は大学院的な扱いをしている。
群は完全にランダム構成であり、一群がエリートとかそういう訳ではない。
やはり、目立ってるな。
みんなこっちを見ている。
数分経つと教師が転移して来た。
「これから、君達には殺しあいをして貰う」
全員が唖然とし、次には抗議の嵐が吹き荒れる。
私としても驚きだ。茶髪に翠眼の私の試験官だったおじさんがバトルロイアル宣言して来たのだ。驚かない方がおかしい。
「ルールは簡単だ。この群全員が戦い一人生き残れば終了。それまでは戦い続けろ。何、どんな重傷をおっても瞬間的に治癒されるし、ここに戻れる。また、今から俺がする転移を防御したら即失格だ。では、健闘を祈る」
次の瞬間、足元が光ったかと思うと森の中にいた。
うーん、つまり。これはれっきとした授業で相手を気絶させあい、最後の一人になったら終了という訳か。森は広葉樹が生えており、足元にはわずかに雑草が生えているが秋なので枯れていて安定しているし、ジャングルとかと比べるとはるかに視界は良好な反面、隠れる場所があまりない。時々茂みがあるがあれだけまばらだと警戒されれば奇襲は無理だ。
私が物質創造を使えないので、使える非殺傷魔法は【電撃】や【絶対零度】などか。
ハリソンコード34285日本名、【電撃】。
英語名を言えばすぐ分かると思う。
英語名、【テーザーガン】。
手から電撃を発し意識を奪う技。
ハリソンコード563日本名【絶対零度】。
指定した領域を好きな温度に変化させる。ただし熱を奪う魔法なので下げることしか出来ない。
などなど。
さて、先ずはやられないことが目標かな。
減って来たら纏めて叩こう。
【絶対零度】を発動し、霧を出し視界を悪くする。
次に、スカウ……モノクルで生体反応を調査。
一番近いのは…2時の方向、八百メートル先。魔力値五千二十。
魔力値というのは人間の体内魔力値を数値化したもの。まだ、データが少なく目安がわからない。
私が【絶対零度】を発動しているのに、気付いているようだ。
風で霧を吹き飛ばそうとしながら接近中。しかし常時霧が出ている状態なので意味はない。
私はモノクルで照準を定め、小型の雷である【電撃】を放つ。
「ははは!そんな魔法効かないぞ!!」どうやら常時展開型魔法障壁を発動しているようだ。
ならば……電気を収束させ、電子を光線状にする。
ハリソンコード3197日本名【電子砲】。
貫通力に優れたこの魔法は出力に応じて厚さ一ミリメートルの紙から厚さ十メートルの鉄筋コンクリートまで自由自在に貫通出来る。
だが、魔術式百二十一というわりに一つしか決め技がないのでは費用対効果があまりないと敬遠されがちな魔法だ。
私は物質創造より強い技が一つあれば十分だったし、光線って格好いいなということで切り札にしていた。しかし今では、切り札として隠す必要はない。
物質創造が大幅に強化されたし、所詮相手は経験のない学生だ。
一筋の白い光線が真っすぐに進み、先にある物質を貫く。
相手の減少した生体反応が転移魔法特有の緑の光と共に消えた。
生体反応は約五キロ離れたところに移動後、戦闘前と同じ数値に戻った。どうやら、治癒魔法は優秀な魔法師が使っているようだ。
その後も私の霧に進攻して来た敵は【電子砲】で狙撃し、三時間が過ぎた。
今までに十六人を倒したが、魔力値は四千から六千の間だった。これが一流の魔法師に必要な魔力量か。
私は一体いくらだろう。
ピピピピ…ボカァン!
……これは測定不能を示す。つまり、私の魔力量は五十五万以上。化け物か?
さて、ともかく三時間経ち、残りは七人か。残念ながら、魔力量は半径一キロ以内でないと測定出来ない。
そろそろ狩りの時間かな。フフフ。
このまま、待ちに徹するのもいいがそれだと残存メンバーが結託する恐れがある。それに【電子砲】の有効射程はあまり長くない。
私が以前地球で実験した時は射程一キロ圏内で十メートルの鉄筋コンクリートを貫通。
射程一・三キロ圏内で六メートル貫通。
射程一・五キロ圏内で二メートル貫通。
射程一・六キロ圏内で一メートル貫通。
射程一・七メートルより貫通出来ず。
よって、すくなくとも射程一・六メートル圏内に目標を納めなくてはならない。しかも以前は照準装置無しなので一キロ以上は精度が落ちた。
今回は照準装置ありだが、非殺傷が条件なので射程はずっと短くなり、三百メートル。
やはり、動かないと。敵は霧の範囲ごと絨毯爆撃して来る恐れもある。
七人の位置情報。
一人目。3時の方向。距離三キロ弱。
二人目から五人目の四人はチームを組んでいる。
4時の方向。距離三キロ強。
六人目と七人目も、チーム結成。6時の方向。距離七キロ。
……もし生き残りにお姉ちゃんがいるなら、必ず一人目だ。
先ず、一人目を確認しお姉ちゃんなら共闘しチームを潰す。違うなら倒す。あ、生体反応を個人別に登録する機能があった。あー、しかたない。まだ登録してないし、次頑張ろう。
もはや、敵は七人と油断していた。
「………あなた、学園史上最年少入学者…」
「その通りですが?」
目の前にいる黒いローブに杖を持って、紫の髪をストレートに伸ばした十歳前後の美少女が立っている。
まさか、モノクルに反応しないように出来るなんて……迂闊だった。物事には殆ど例外が存在するじゃないか。
私は身体強化しながら移動中、彼女の上級防御魔法【コロッセウム】にかかってしまった。
【コロッセウム】は、術者が指定した人数を中に閉じ込め勝敗が決まるまで出さない魔法。
「……私が勝ちたいな………【射炎】」
……っ!中級魔法詠唱破棄!!
【射炎】。直線上の目標を焼く、一種の火炎放射器。しかも、彼女のは断面が直径一メートルはある極太の火炎放射だ。
【絶対零度】で氷壁を作り、直撃した瞬間の水蒸気が吹き出したのを見計らい【電子砲】発射!
「馬鹿な…このタイミングで……」
彼女は視界が閉ざされた瞬間、何かが来ると直感したらしく、最上級非属性魔法である転移をしていた。
転移、つまりテレポート。…一体どうやって狙えばいいんだ!?
彼女は【電子砲】が当たれば即死級の一撃だと理解したらしく、転移しまくっている。
くそっ、転移は空間を捩曲げるから距離問わず魔力を千は消費するはずだぞ。
一体彼女の魔力は……何と、かの銀河帝王と同じ五十三万だと!?
これは、じり貧だな。彼女は不特定に転移し、光球やら火球やらを投げ付けてくる。
使いたくはないがしかたない。ハリソンコード562【灼熱】。
【灼熱】はコードが【絶対零度】の一つ前ということから分かるように、【絶対零度】の真逆の効果を示す。
つまり、私を除く範囲を摂氏五百度へ。自らは【絶対零度】で快適空間を保つ。
消えた。彼女の生体反応は移動し、今正に回復した。学園の魔法師は優秀だなあ。
【コロッセウム】が消滅する。
さて、恐らくだがお姉ちゃんの所へ行きますか。