一、プロローグ
暗い森の中。深夜2時。
自分の目の前には黒い大きな犬が一匹。
グルルルと唸り威嚇して来ている。
だがこいつは自分にとって見慣れた敵。
今まで何十匹も倒して来た。
自分は冷静に銃の引き金を引く。
銃声が響き、黒い犬は消滅した。
今日は、森で野宿か………
さて、ここは異世界でもないし、自分は狩猟に来ている訳でもない。
日本のとある山岳地帯であり、そこであの黒い犬が発見されたことにより今自分が派遣された。
自分は退魔師である。
さっきの犬も妖怪の類である。
そんなのはいない。さっさと、精神病院か脳外科へ行けと思った人はここでさよならである。
まあ、そんな化け物が日本問わず世界中にいる訳だ。
そこで人々は生き残るために、化け物退治の力を手に入れた。
しかし化け物退治をするのだから人側も化け物並の力が必要である。
過ぎた力は潰される。出る杭は叩かれる。
という訳で、今では各国共に秘かに動いている。
日本にもそんな組織があり宮内庁から予算が降り運営されている。自分はその組織の一員という訳だ。
自分は田口伊吹。名前から分かるように大昔から続く歴史ある家ではない。曾祖父が明治辺りに突然力に目覚め、そこから続く家系だ。
力の名前は「物質創造」。名前の通り物質を創造するのだが、何でもかんでも出せる訳ではないし、創造した物は魔力で出来ている。田口家でも人によって若干違いがある。
曾祖父は見た事があるなら何でも同時に四つまで創造が可能だったが、祖父は触れた物が対象で、父は金属だけ創造出来る。
そういう自分は一丁の銃しか創造出来ない。
つまり田口家ではあまり強くない。上の兄と姉には敵わないし、最近妹にすら追い付かれて来て戦々恐々である。
だからわざわざこんな山奥まで来たんだが、雑魚だったな。
朝、大体5時に起き後片付けをする。ゴミは残らず持ち帰る。エコだ。
そこから急いで山を下り、ローカル線に乗り家へ向かう。
はあ、もう10時だ。しかし六月はどうしてこうもじめじめするんだ。空は曇り空か。
ああ、いい天気だ。
何度も乗り換えをし到着したのは我が家のある国ヶ原市である。
人口約十万人の小さな街。特別何かある訳でもない普通の街。
駅から30分程歩くとマンションが見える。それが我が家だ。実家は東北にあるのだが、事情がありここに住まわせて貰っている。
部屋のドアの鍵を開け、中に入る。
中は洋室二つにリビング、キッチン、トイレ、お風呂付き。
まだ、同居人は寝ているらしい。
同居人の名前は速水光。同じ退魔師である。しかし自分とは違い、光は退魔師でも名前が知られる程有名である。
刀を使い、その圧倒的な剣技、力、速度で敵を倒す。他国の退魔師に‘サムライ’と聞けばこいつの名前が返ってくる。無論、日本でも一、二を争う力を持つ。
しかもイケメンで優しい。危ない目に会った女の子を退魔師の圧倒的な力で何度も助けフラグを立てまくっている。ただ、光自身は自分が危ない仕事に就いてるからと彼女を作ることを拒んでいる。…その曖昧な態度が、ハーレム拡大の原因になっているのだが。
しかし朝は苦手だ。
いつも自分が起こし、朝食まで作る。まあ、嫌ではないのだが。
「光、朝だ。起きてくれ」
「ん…あと少し」
「もう10時過ぎてるぞ。確か今日は生徒会の集まりがあるとか言ってなかったか?」
「えぇ!?集まりは9時からなのに!何で起こしてくれなかったの!?」
「え…だって、昨日は依頼に出てただろ」
遅刻だ!と喚きながら光は学校へ向かう準備を始める。そう、光は生徒会の役員だ。まだ一年生だが会長になるという噂まである。つまり、勉強も抜群に出来る。
自分達が通う国ヶ原第一高校は、自分みたいに少し力のある人ばかりが通っている。よって、世界トップクラスの実力がある光が会長に選ばれようとしているのだ。
「ほら、朝食は抜かすな」
朝は食べないと駄目だ。トーストを投げ渡す。
「サンキュー、行ってきます!」
「ああ。気をつけてな」
帰りは遅いし暑いし、お昼は適当でいいか。
携帯が鳴る。ピピピ、単調な音。これは仕事の依頼だ。携帯に出る。
「近くに黒魔法の使い手が出た。場所は双子山、報酬は五百、生死は問わず」
「了解」
電話の相手は政府の役人。退魔師関連の仕事をする公務員は出世出来ない代わりに、高い給料を貰っている。対して退魔師の仕事は強制、固定給。ボーナス有り。
退魔師は異能者が犯罪を犯した時裁く役目もある。あまり気は進まないが仕方がない。
学校では光の活躍で目立たないが、実戦で使える退魔師は学校には少ない。自分でも強い方だ。
邪悪な力を纏めて黒魔法と日本の省庁は呼ぶので何がいるかはわからないのだ。相手がわからないのは、大変困る。
創造で使う銃の他に銀の弾丸が入ったマガジンや色々な効果がある札を追加で持って行く。
光には外食や出前でも食べて貰おう。
双子山は国ヶ原市郊外にあり、標高五十メートル前後の山が二つ並んでいる。
木々は以前は林業で手入れされていたそうだが、今は外国からの輸入品に負け荒れ放題だ。
もうじき日が暮れる。自分は創造した銃を構え、索敵する。
……!いた。
黒いローブを着て、何やら魔法陣を書いている。
魔力の格が違う。
まずいな、自分では敵わない。
光に電話する。
「伊吹、どうしたんだ?今日の夕食なら素麺がいいな」
「馬鹿、違う。双子山にやばい魔法使いがいて敵いそうにない。来てくれないか」
「わかった、10分で着く」
光は一流だ。仕事絡みだと空気が変わる。
「………モウジュンビ、デキタカ?」
気付かれたか!!勝ち目はない。銃を乱射しそのまま逃走。
「ハハハ、ニガサナイヨ!」
スピードまで相手が上か……
「おとなしく捕まれ、そうすれば死なないですむ」
「キミガワタシヲコロス?ハハハハハハ!オモシロイジョウダンダ!」
いきなり火球か!?火球が三十ばかり放たれる。
銃で全て撃ち落とす。
「アマイネ!ウチオトスヒツヨウナイヨ!」
後ろから、黒魔法使いが火球を放つ。
「「!!」」
「甘いのはお前だ」
倒されたのは幻想の札で出来た偽物。上からハチのスにする。?おかしい……
「ワタシガミヤブレナイトオモイマシタカ?」
「がっ………!?」
奴はあえてこっちに乗って来たのか……
火球が体を焼いた、即座に治癒の札を使う。治癒の札は細胞の超再生を促す。
まだ腫れているが、動けるな。
木々を盾にしつつ、射撃する。
だが木々は盾にならない。まとめて、焼かれるだけだ。
爆発の札を使い、牽制。
だが……限りがある。
「モウ、オワッタカ?」
「ああ、終わりだ。お前が…」
瞬間、黒魔法使いの左腕が切り落とされる。
「グワアアアア!!オ、オノレェェェ!」
「助かった、光」
「いいんだ、伊吹。援護は任せた!」
光は視界から消え、次には黒魔法使いが間合いに入る。一撃。
「あ、もう終わったんだ?」
「優さん、もう終わりです。光の独壇場ですよ」
目の前には茶髪をストレートに背中の半ばまで伸ばした男がいる。
彼は桐生優。現在の生徒会長であり、退魔師界ではパーフェクトと呼ばれる。日本で光と一番を競う実力だ。
パーフェクトの名前はあらゆる魔法を使い熟すことから呼ばれている。つまり、遠距離最強。近距離型の光と組むとやばい位強い。
パーフェクトがいれば自分の援護は要らないな。
……これが、油断だったのだろう。
「ク、オ………オマエタチモミチヅレダ!」
黒魔法使いの全魔力がさっきの魔法陣へ流れ、発動する。黒い光を放つ。
「優さん!この魔法陣の効果は何ですか!?」
「わからない!だけど空間に作用するみたいだ!」
咄嗟に防御の札を使う。
光は優さんの展開した魔法障壁で守られている。
しかし、札は簡素化した魔法障壁。強度が低い。
「しまっ………」
魔法陣に引き込まれた。