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本日から一日一話の投稿です。

よろしくお願いいたします。

 一方そのころロブは、死んだ四天王の元に立ちすくんでいた。

両手を合わせて亡くなった四天王達に黙とうを捧げる。


 その姿のまま、祈りをささげた後で、目を開いて四天王達に振れる。


「散々待たせて悪かった。フレア、ミッシェル、バルド。お前ら強すぎ。相変わらずの連携だったぜ。本当に死ぬかと思ったわ。つか、絶対死んでた」


 まるで昔の仲間に接するように、笑顔で四天王に話しかける。

ある程度、昔話を楽しんだあと、悲しそうな表情で、スキルを発動した。


『強奪』


 盗賊のスキルを用いて、魔人たちの中に眠る懐かしい魔力と魂だけを根こそぎ奪い取った。

すると、四天王たちの死体から、黒い魔力が地面に吸い込まれ、跡形もなく姿を消していく。


「……死体すら残らねぇんだもんな。ゴルドの時もそうだったが、かなりきついな。そう思わないか、ナーテルさんよう?」

「あら、バレてたの。さすがね、ロブ」


 闇から姿を見せたのは、魔女ナーテル。

妖し気に、そして艶やかに笑う彼女は、全てを知っているような表情を見せる。


 ロブはバレても問題ないと判断していたため、堂々と魔人から魔力と魂を奪ったのだ。


「……お前にだけはバレると思ってたぜ」

「あら、私のこと随分知っている口ぶりじゃない?」

「当たり前だろ。ていうか、お前こそ、俺のことどこまで知ってるんだよ」


 ロブはジッと、ナーテルの様子を伺う。

ナーテルは、ロブの鋭い視線を気にすることなく、飄々と言葉を告げる。


「勇者パーティにいたけど、正規のパーティーメンバーじゃない人ってことくらいかしらね?

確か名前は……ローグブルム。勇者パーティの監視役だったはずよ」


 一瞬の静寂と共に、ロブは観念したのか、両手を上にあげて降参のポーズを見せる。


「はあ、その通りだよ。俺には前世の記憶がある」


 そう、ロブはローグブルムという人間の生まれ変わり、いわゆる転生者だった。


 自ら正体を明かしたロブは、自己紹介を始めた。


「勇者パーティーの監視役で、王国No2の影。それが前世の記憶だ。悪魔に名前を授けた変わり者の魔女ナーテル。」


 自身に前世の記憶があることを証明するために、ナーテルの嫌う呼称を投げかけた。

ナーテルは、わざわざ自分の嫌いな呼称を指定して選んだ来たことに、少しむっとする。


「うふふ、久しぶりに聞いたわよ。そのダサいあだ名みたいなやつ。あーいやだいやだ。昔のぼんくらババアどもを思い出すわ」

「悪い悪い。でも、何かしらで証明しないといけないだろ? 文献にも乗らない程度のこと言わないとさ」

「わざわざそれをする必要はなかったけど。まあ、いいわ。許してあげるわ」

「ありがたき幸せ。 それで、どうして気が付いた?」


 ふざけた態度から一変して、ロブは真剣な表情を見せる。

ナーテルもまた、いつもの表情とは違う。魔女ナーテルとして、ロブと対面した。

 

「最初に気付いたのは私じゃなくて、もう1人の私であるノーテルが気がついたの」


 もう一人の私。普段口にはしないが、魔女は悪魔を共存させる存在だと言われている。

ただし、もう一人の私というのはナーテルだけが使う言葉であって、他の魔女は悪魔としか言わない。


 過去の記憶でそのことを知ってるロブは、溜息を吐いた。魂は悪魔にとって専売特許。そんなプロを相手にして適うわけがないと、そうそうに諦めた。


「悪魔様ですか。そりゃ、気づくよな。悪魔は魂を見ることができるって話だし。ていうことは、最初から気がついてたのか?」

「あなたが元勇者パーティーの監視役だってこと? いいえ、気がついたのは本当に最近。四天王の1人の魔力の塊である魂をあなたが奪った時よ」


 ん?とロブの頭には疑問が浮かぶ。

一番最初の四天王であるゴーと対峙していた時、ナーテルは気を失っていたからだ。


「おかしくないか? あの時、ナーテルは気を失ってたろ」

「私が気を失っても、私の相棒は見てたのよ。ロブのことを私に教えてくれたってわけ。魔人の魂をロブが奪ってたよ、てね。私はね、てっきり強くなるために、己の身を犠牲にして魔人の力を取り込んだと思ったの。魔人の中にいる、悪魔を吸収して」

「そんなことができるんだな。知らなかったよ」


 魔女の中では当たり前の知識だ。魔人に憑依している悪魔を吸収することで、さらに強い肉体を手に入れることができる。ただし、悪魔を吸収すれば、吸収した人間もまた悪魔に憑依される。


 ただ、魔女は例外だ。悪魔と共存できる体をもつ故に、悪魔の力を奪えば、魔女と悪魔の両存在が力を得ることができる。ナーテルは、悪魔ノーテルの話を聞いて、ロブに適性があるのだと思っていた。


 だが、ロブの力がそこまで増えていないことを疑問に思っていた。


「でしょうね。だって、それほど魔力も力も姿も変わってなかったもの。ということは、ロブは知らないのね。ついでに教えてあげる。魔人も魔女もそう変わらない存在だってこと」


 衝撃の真実をさらりと伝えるナーテルに、ロブは驚きを隠せずにいる。


「どういうことだ?」

「ふふ、見れば分かるわ。ノーテル」


 悪魔の名前をナーテルが呼ぶと、ナーテルの背中からズズと黒い靄が現れた。

そして、黒い靄は徐々に人の形に姿を変えた。ナーテルの後ろに現れたのは、角や牙、翼の生えた幼いナーテルそのものだ。


 ノーテルは、グーっと伸びをして、あくびをしながらナーテルに絡みついた。


「久しぶりに呼んでくれたね、ナーテル。といっても一年ぶりだけど」

「魔人?」


 ロブはノーテルの姿を見て、魔人そのものだと思った。

魔人にも、牙や翼、角に尻尾など、人間には不要な部位がついているからだ。


 ナーテルは絡みついているノーテルの頭を優しくなでる。ノーテルは気持ちよさそうにナーテルに甘えていた。その光景は、魔女と悪魔というより、姉妹と言われたほうがしっくりとくる。


「悪魔よ。ほら、足見て、ないでしょ。魔女はね、姿形を人間のままで悪魔と共存できる適合者のことなの。一方の魔人は、悪魔に体を憑依されて姿形が悪魔になった元人間のことよ」


 魔人も魔女も、普通の人間である事実を突きつけられたロブは納得しつつも、心では納得できない、しくないという、ちぐはぐな気持ちに苛まれていた。


 前世の記憶を持つロブ。前世のロブは、魔力で人を判別できる力を持っていた。その力を現世でも引き継いだことで、ロブは四天王から感じられる魔力から、昔の勇者パーティーが四天王になっていることに気が付いた。


 四天王ゴー戦で、ロブが硬直した理由がそれだ。

なぜか知っている魔力を感じて、記憶を辿ると元勇者パーティーのゴルドの姿が浮かんだ。

どうしてゴルドがと、混乱している間に戦闘が始まった。そうして、皆に迷惑をかけた経緯がある。


 ロブは知らなかったのだ。

四天王の正体が、元勇者メンバーだったことに。

 

 ロブは誰にどういった方法でか知らないが、魔人の中に勇者メンバーの魂を入れ込んだと思っていた。


 けれど残念ながら、現実はもっと残酷だった。

勇者パーティーのメンバーの体に、悪魔を憑依させたというのが正解だったのだ。

 

 どうして人間だった彼らが、魔人の姿へと変わったのか、その理由は分からなかった。


 ナーテルの情報のおかげで、欠けていたピースが埋まったのだ。


 ロブは静かに闘志を燃やしている。

怒りに身を任せることはせず、自我を保ちながら、溢れんばかりの魔力をどうにか押しとどめていた。



「……なるほどな。あいつらが魔人になったのはそういう理由か」


 あまりにも静かな反応するロブに、痛まし気に見つめるも、反応をしないまま、話をつづけた。


「そういうことよ。あの国王というより、国を牛耳ってるお偉いさんなのかしら?本当に恐ろしいことを考えるわよね」

「おい、まさか」


 震える声で真実を知ろうとするロブに、コクリと静かに頷いた。

聞きたくないとロブの心が拒否するも、聞かなければならない、覚悟を決めろと追い込んでくる自分もいる。


 心臓がドクドクと鼓動する。

この鼓動と、心臓をギュッと掴まれる感覚、加えて冷や汗、嫌なことが的中するときのそれだと、ロブは感じていた。

 

 ナーテルは、余りに言いたくないけどと思いながらも、覚悟を決めて伝える。


「勇者パーティー魔人化計画とでもいうのかしら?」

「つまり……、元勇者パーティーを使って、悪魔を憑依させ……そして」

「魔人を創り出した。でも、おかしいわよね? そうすると、あなたが生きていた仲間たちは、魔人としても息絶えているはずよ」

「確かにそうだ。俺の生きてきた時代は、現世から約500年前の記憶だ」


 初代勇者の話以外は、3つの勇者パーティーで構成され、必ず一つは生き残る。

全滅はしない。5人が必ず生き残って帰ってくるのだ。


 そこに、例外はない。


 ただ、約500年の間に、勇者と魔王の戦いは何度も起きている。

それなのになぜか、ロブが監視していた勇者パーティーが、現世の四天王、そして魔王として立ちふさがっている。


「つまり……どういうことなのかしら?」

「魔人からゴルドの魂を奪ったときに分かったことだが……ゴルドだけじゃない。他の人間の魂も感じた。殺された人間の怨念なのか、それとも勇者パーティーの誰かなのか。それは分からないが、少なくとも俺の仲間の魂があると分かった」


 ロブの話を聞いたナーテルは、すぐに行動に移した。


「なるほど……なら、見てみましょうか」

「見れるのか?」

「私の子が見てくれてたはずよ。ね、ノーテル」

「みてたよー」

「……頼む。教えてくれ」

「わかたー、えっとね」


 ノーテルは見た記憶をはっきりと二人に伝えた。

そこには、歴代の勇者が、今の魔人たちよりも人に近い形だったことを告げる。特に最初は、ほとんど人間に近い魔人が、勇者達と対峙していたようだ。


 真実を知った二人は、唖然とする。



 自分たちがしていたことは、勇者を魔人へと変えるだけの愚かな行為であり、ブレイブ大国を世界一に維持させるための生贄でしかないという事実を知らされる羽目となった。


 重い雰囲気の中、ナーテルが口を開く。


「私たちが招集命令を下してきたブレイブ王国は、800年前の初代勇者を初めて召喚させた国として他国にも知られている。……恐らくだけど、初代の魔王は本当に人類の滅亡を考えていたのでしょうね。召喚した勇者が魔王を討伐したことによって、世界に平和が訪れた。でも、世界が平和になっただけじゃ、ブレイブ大国は良しとしなかった」


 初代は間違いなく本物の勇者であった。

しかし、魔王を討伐し世界に平和が訪れても、いずれはまた戦争が始まる。


 それをブレイブ大国の上層部は恐れた。


「……力の権化である魔王や勇者がいなくなれば、国同士の戦争がいずれは起こる。なら、まず初めに狙うのは、魔王すら凌駕できる力のある者を召喚するブレイブ王国を落とすこと。そうすりゃ、各国の武力は均衡を保てる。いくら強者を召喚できるとはいえ何度も召喚することは容易ではないはずだ。魔王を倒して、世界を平和にした代償に国が落とされる。それを上層部は嫌った」


 戦争が起これば、狙われるのはブレイブ王国だと二人は推測する。

なにせ、魔王を倒せるほどの人材を手に入れることができるのだ。勇者を召喚されないうちに、ブレイブ王国の召喚術を是が非でも奪いたいだろう。


 そうならないために。


「だから、新たな魔王を創ったのでしょうね。自分たちが操ることのできる新たな魔王を。そうすれば、戦争は起きずに他国との戦争は回避できる。さらに、力のある者を勇者として集め、魔王を討伐させることを繰り返させれば、ブレイブ王国は安全に建国し続けられる」

「少数を犠牲にして、多数を助ける。……まあ、国には必要なことだよな」

「そうね。でも、それは」


 ブレイブ王国は、世界で随一の大国だ。

戦争をするとなると、多くの人間が死に、彷徨うことも確実。


 貴族たちは軒並み殺されるに違いない。


 だが、それは、ロブ達には関係のないことだ。


「今の俺たちには関係ないし、俺の前世の仲間たちにも関係ない。そもそも、何の関係もない他国も巻き込んでる。いや、それすら織り込み済みってことか」

「他国の国力を奪えれば、さらにブレイブ王国だけが徳をする状況だしね。ブレイブ王国が、魔族に襲われた歴史はないわけだしね」

「他国も怪しんでるだろうけど、ブレイブ王国が魔人を創ってるなんて情報、そう簡単に得られるわけもないし、そもそも知ることもない。なにせ、魔王が実在しているわけだしな」


 初代勇者を召喚した国、ブレイブ王国。


 勇者を生む大国には、とんでもない陰謀が隠されていた。


 約800年もの間、それを繰り返してきた。

3つの勇者パーティーのうち、必ず一つが生き残り、他は全滅。

そして、確実に魔王を討ち取り、世界に平和が訪れるのだ。


 まったくもっておかしな話である。


 普通の人間は、疑問を持てない。

なにせ、この800年でそういうものだと刷り込まれているから。


 ただし、例外もある。


 そんな奇妙な話があってたまるかと、数千年生きている魔女なら思うはずだ。


 900年もの間、たった5人で世界を救い続けることなどできるのか?


 否である。


 何かしらの方法で、人間側が勝てるように細工をしていると、この話を知っている魔女の誰かは考える。

でも、声を上げて疑問を投げかける愚かなことはしない。


 なにせ、魔女たちは以前に人を救おうとして、恩を仇で返されたのだ。

魔女たちはいまさら裏切者の人間がやっていることに興味などない。


 死ぬなら勝手に死ね。国のために動くなら勝手に動け。

世界が終わることなど知ったこっちゃないのだ。


 魔女は長く生き過ぎる。もはや、生に喜びを感じることも、縋りつくみじめな行為をすることはない。


 ナーテルが変わり者と蔑称されていたのは、悪魔に名前をつけたからだけではない。

生に喜びを感じて、悪魔と共存する際、必死に生き延びようとする心を持っていたのが、主な原因だ。


 ナーテルは魔女からの疎外感に嫌気がさし、人の住む土地に降りてきた。


 そして今、迫害されたナーテルがいたおかげで、真実を知ることができたのだ。


10話目は、1月24日0時に投稿いたします。

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