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 さらに、半年後。


「あらら、エル君たちのパーティーも全滅だって」


 ナーテルは皆に飄々と告げる。

ガイアス達の時もそうだが、ナーテルは独自の情報網で、エル達のパーティーが全滅したといち早く分かった。悪魔と共存しているナーテルは、悪魔に力を借りて、現在の状況を把握できる。


「……残るは、俺たちだけか」


 ナーテルの情報が真実だと知っているヴィラは、覚悟を決めた表情で告げる。

最後の勇者パーティーということは、自分たちが魔王を止めなくてはならないから。


「もっとも期待されていない残りものパーティーが、まさしく残ってしまいましたね」

「はは、残りものには福があったな」


 過去に言われ続けた蔑称を、あっけらかんと笑うカーンに、ロブも同調するかのように笑った。

ナーテルの情報を聞いたマナリアは、机に突っ伏して勇者とは思えぬ絶望した表情を見せる。


「はぁ、気が重いよ。こんな福ならいならなかった。エル君達が絶対に倒してくれるって信じてたのに」

「ふふ、一年たってマナも素直になったものね」

「だって、みんなを死なせたくないし、私も死にたくない」


 誰もが思っていることを口に告げるマナリア。マナリアの頭を優しく撫でながら、ナーテルはマナリアに優しく話しかける。

 

「誰だって死にたくないもの、それでいいのよ。この前だって、結構危なかったからね」

 

 先日の戦いのことを振り返る一同。マナリア以外は、特に気にした様子はない。

マナリアだけが、グッと手に力を入れて、悔しそうな表情を見せた。


「ロブが不意を打ってくれなかったら、間違いなく私たち死んでたよ」

「ま、だてに王族の騎士団たちの前で盗みを働いてないからな」

「それにしてもロー、あなたが闇の魔法を使えるのは知ってたけど、まさかあそこまで適性があるとは思わなかった。どうして今まで使わなかったの?」


 盗賊は基本、魔法を使えない。使えても火を灯したり、飲み水を出せたりと、最低限のことでしか使えないはずだ。ナーテルは、ロブに魔力があり、潜伏力の高さから闇の魔法を使っていることを知っていた。


 ただナーテルが思っている以上に、ロブはうまく闇の魔法を使うことができていたことに驚いている。彼の潜伏力は、己の力量もあるが、闇魔法を使うことで、一時的に世界から姿を消せるという荒技だ。


 魔人も闇の魔法は得意だが、自分の存在を消すほどの魔法は使えない。

膨大すぎる魔力によって、本当に自分自身を消し去ってしまう魔法を発動してしまうから。


 ロブの場合、その見極めが非常にうまい。

なぜ今まで使わなかったか、ため息を吐いて深刻そうな顔をする。


「……どこで誰に見られてるか分からないだろ? 魔王戦まで取っておきたかったけど、さすがに四天王相手だったし、無理だったよ」

「四天王の中でも最弱と彼は話していましたが……これは先が思いやられますね」


 全員が、四天王ゴーとの戦いを思い返す。


 物語で聞くような四天王の中で最弱と小馬鹿にされる魔人だが、実際に目の前にした5人は、今まで戦ってきたどの魔人よりも圧倒的に強く、自信に満ち溢れ、他者を圧倒する魔力と強靭な肉体による力技でゴリ押しされた。


「どう、して」

「ロブ!?」

「まずい!!」


 ロブが硬直したことで、マナリアとヴィラがロブの前に立って、四天王ゴーの攻撃を二人がかりで防いだ。ロブは二人に庇われて、ようやく自分が何をするべきなのか、思い出し行動に移した。


 だが、ロブの一瞬の硬直によって、立てた作戦が機能しなくなる。


 マナリアとヴィラは、四天王ゴーの攻撃が直撃したことで、二人ともいとも簡単に吹き飛んだから。

 

「きゃ!」

「ぬう!!」


 前衛のヴィラとマナリアが吹き飛び、一瞬空いた隙を狙って、四天王ゴーはカーンを殴り飛ばし瀕死手前まで追い込んだ。気絶しなかったカーンは、即座に己とマナリア達前衛職を回復させる。


 最後に狙われたナーテル。光以外の全ての魔法を防御と身体強化を使ったことで、通常の何倍もの力を手に入れ、魔人との接近戦でギリギリ膠着させることが限界だった。


 そこへ、突如として姿を現したロブが、魔人の強靭な体に手を突っ込んで、心臓を握りつぶして魔人を討伐した。魔人は驚愕しながら、卑怯者めと、呟いて死んだ。


 ナーテルは、魔人がロブによって倒された瞬間を目撃し、死の恐怖から解放され、安心したのか気絶した。ナーテルに駆け寄った一同。


「ナーテルは気を失っただけですね」

「良かったぁ」


 皆が無事に生き残ったことを喜んだ。


 また、生き残ることができたと。

 

 そのあと、すぐさま場所を移して、ナーテルが目を覚ますまで、一同は周りを警戒していた。

ロブがいないことに、一番最初に気が付いたのは、マナリアだった。


「ロブはどこ?」

「いるぜー」

「どこ行ってたの?」

「周りを索敵してた。魔人がいたら、さすがに今の状況だときついからな」

「相変わらず、仕事ができますね、ロブは」


 カーンがロブを褒めるが、ロブは申し訳なさそうにうつ向いた。


「仕事ができたら、敵を目の前にして硬直しねえよ」

「相手の殺気で体が動かなくなることはよくあることだ。あまり気にするな」

「ロブも怖くなることってあるんだね。意外だった」

「ああ、その、すまん」


 ロブは謝ることしかできない。みんなを守ると意気込んでいたくせに、このざまだと。

ロブは自らを責めた。


 ロブが自分を責めていると気づいたマナリアたちは、ロブを励ました。

さすがのロブも、これ以上くよくよするのは良くないと、立ち直る。


「結果オーライだし、平気だよ。それに、ロブが四天王の一人を倒してくれたんだからさ」

「……そうだな」


 何とも言えない顔を見せるロブに、ヴィラは話題をすり替えた。


「次は気をつければいい。それよりも、索敵するなら一言声をかけろ。皆が心配する」

「ごめんな」


 あはは、と頭を掻きながらいつも通りを装うロブに、皆もロブにいつも通り接した。


 ナーテルが起きた後、一同は街へと次の日に祝杯をあげた。

いつも通りの日常に乾杯と、いつもの乾杯の言葉を口にして。

 


 魔人との戦いを思い返していたヴィラは閉じていた目を開いて、言葉を口にする。


「……だが、やるしかない。他の人間がどうなろうと知ったことではないが、俺はお前たちに生きてもらいたい」

「ヴィー、それはみんな同じ気持ちよ。私は、みんなにも、誰一人欠けてほしくない」


 そっと、ヴィラの頬に触れ、慈しみの表情を見せる。


「これは、さらに寝れない日々が続きそうです」


 嫌だ嫌だと口にしているカーンだが、微笑んでいる表情が見え、あまり嫌とは思っていないようだ。

そんなカーンを見て、ロブは食事をしながら、カーンに話しかける。


「カーンは無茶しすぎだって。知ってるぞ、俺は。お前、自分の四肢を切断してから回復魔法をかけてるの」

「!! なにそれ! そんな無茶してるの!?」

 ガタっと椅子が倒れかける勢いで立ち上がったマナリアは、カーンを真剣にそして心配そうに見る。

カーンはちらっとロブを見ると、ロブは知らんふりしながら食事を続けていた。


 ロブの行動に呆れつつも、カーンは減らず口を叩く。

 

「はー、ロブ。君は本当におしゃべりだね? これでは私が真面目なのがバレてしまうではないですか」

「馬鹿かお前、みんな知ってるよ、それくらい」

「カーン、話を逸らさないで! 自分を傷つけてまで、無茶しないで! それで死んだらみんな悲しむ!」


 今にも泣きそうなマナリアを見て、カーンは照れくさそうに微笑んだ。


「……マナリア、君の気持ちは嬉しいよ。人に本気で心配されたのは、生まれて初めてです」

「だったら!」

「だからこそ! 私は!」


 マナリアの怒鳴り声より、遥かに大きな声をあげるカーン。

感情を滅多に出さないカーンを見て、マナリアだけではく、ヴィラもナーテルも驚いた顔を見せる。


 ロブも流石に、食事の手を止めてカーンの様子を伺う。


「君たちを失いたくないんだ……分かってくれとは言いません。でも、これは必要なことなんです。死ぬ気でやらねば、間違いなく誰かが死ぬ。 僧侶である私の目の前で、人が死ぬのはたくさんです」


 カーンの過去に何かあったような口ぶりに、マナリアは静かに椅子に座り、頭を下げる。

目にはいっぱいの涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうだ。


「カーン……ごめん、私」

「誰も悪くないのですよ、マナリア。私は、私のすべきことをする。後悔したくないんです」


 微笑みながらマナリアを見つめるカーン。

我が道をゆく男カーンの、嘘いつわざる本音に、皆の動きが止まる。


 それを切り開いたのは、前衛職のヴィラだ。


「……なら、一人でやるな。俺も実験体になってやる。前線で四肢の一部が吹き飛ぶ確率が高いのは俺だ。やるなら、俺も入れろカーン」


 とんでもない発言に、マナリアは顔を上げた。


「! ヴィラまで馬鹿なこと言わないで!」


 顔を上げたことで、溜まっていた涙が溢れていく。

ヴィラの発言に、やはり少し嬉しそうに笑いながらも、カーンは首を振った。


「マナリアの言うとおりだ。馬鹿なことをするのは、私一人で」

「一人でやるよりも二人だ。なにより、俺たちは仲間だ。どんな時でも仲間を頼るのが、パーティってもんだろ。それに、四肢の一部を無くした状態で前線に立ち続ける練習もせねばな。痛みで体が鈍るなど、傭兵の名折れだ」

「……あなたも馬鹿な男だ、ヴィラ。傭兵は、危険があれば即座に離れるでしょうに」

「ふ、そうかもしれんな」


 男2人で、笑い合いながら酒を飲む2人を見て、マナリアは即座に説得する対象を変えた。


「ナーテ……」

 

 いつも通りヴィラの太ももを占領するナーテルに、最後の希望を託すように見つめるマナリアだが、その希望は一瞬で潰えた。


「止めないわよ? 少しでも生き残れる確率が上がるなら、なんでもしないと。後悔するのは、いつだって自分よ、マナリア?」

「そう、だけど」


 大切な仲間と愛する人が無茶をする。絶対に2人を止めてくれると信じていたナーテルに対して、裏切られた気分になってしまうマナリア。


 だが、ナーテルのいう通り、少しでも生き残れる確率を上げることはするべきなのも事実。

後悔するのはいつだって自分。

 

 止めても止めてなくても、待っているのはきっと後悔だけ。


 マナリアは口を一文字にして黙り込んでしまう。


「私は、闇の魔法で痛覚を消し去ることだってできるわ。そっちの路線で戦う方法を考えましょう。私の魔法のタイミングは完璧よ。安心して切られ潰されてね、ヴィー」

「お前は、本当にいい女だな、ナーテ」

「きゃー! 褒められちゃったわ」

「全くあなた方は。私も大切な人といちゃいちゃしたい」

「本当にそう思ってんのかよ」

「いいえ、まったく」


 4人は重かった空気からすぐに切り替えて、いつも通りの日常を醸し出す。


 マナリア以外の4人が。


(どうして……)


 マナリア以外が納得し受け入れていることを見たマナリアは、疎外感を感じてしまう。

あまりにも強すぎる覚悟と、4人の適応力についていけないマナリア。


 腕や足を切断してまで、対策を講じて戦わなければ勝てない相手と対峙する恐怖が、マナリアを襲う。


(どうして、みんなは平気なの……。怖がって、受け入れられないのは私だけ……。

私は本当に、このパーティーのリーダーにふさわしい? ……絶対にふさわしくない。


 私だけが、お荷物だ) 

 

 場の空気と、仲間達の感情についていけないマナリアは、スッと静かに立ち上がった。


「……ちょっと、外の空気吸ってくる」

「ほいよー」


 ロブは軽く返事をして、マナリアを見送った。





5話目は、本日12時に投稿します。

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