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 半年前。正確には、初めて魔人を討伐した時のこと。


パーティーを結成して、魔人に攻められていた領主を救ったあと、助け出した領主の夜会に参加した時のことだ。


 『残りものパーティー』


 そう言って馬鹿にしている人々を何人も見た。魔人を討伐したにも関わらずだ。


「あれは狂気の傭兵ヴィラか……この場にふさわしくないな」

 

 傭兵は、輝かしい存在ではない。金で雇われればなんだってやる。なんだって、だ。

人殺し、誘拐、虐殺、依頼されていると分かっていても、やっているのは犯罪まがいの行為。

 

 ただ、ヴィラは違った。弱いものから奪うことはない。強者に全力を持って戦う気概を持っていた。弱者をなぶり楽しむような根っからの悪党と、信念を持って戦う悪は違う。悪の中にも正義がある、それを体現しているのがヴィラだ。


 ヴィラの加入経緯は、とにかく前衛職で強い人間を求めた国王が発端だ。武道大会を開き、1位〜3位に今回の勇者パーティーに加入してもらった。1位の副騎士団長、2位の戦士、3位の傭兵。3位に生き残った傭兵こそヴィラだ。人を殺さず金の入る割のいい仕事があると聞いて、参加した結果、勇者パーティーに選ばれてしまった。


「悪魔女のナーテルもいるのか、まったくどんな人選だ」


 魔女は、人間の中で悪魔に近い存在だ。悪魔を自らの意思で心に憑依させ、完璧に操る女魔法使いによって生まれた言葉、それが魔女だ。その魔法使いは、悪魔の力を利用して、大勢の人々を救ったにも関わらず、悪魔を利用したと大勢の人間から石を投げられた。それでも、救った人々の中に、手を差し伸べてくれるものもいた。悪魔の力を利用しても、手を差し伸べてくれる人間のために生きよう。悪魔との共存の道を選んだ。


 マナリアは、新しい場所、新しい刺激を求めた。そして、新たな出会いを求めて魔女として堂々と姿を見せて生活している。マナリアは冒険者ギルドに加入した。冒険者ギルドとは、主に魔物討伐と未開の地の開拓を専門に一攫千金を求めて仕事をしてる冒険者達の集いの総省のこと。


 ほぼ全ての魔法を使えるマナリアは、優秀な冒険者として引っ張りだこの存在。意図せず国中に名を広めていたことで、今回の勇者パーティーに加わった。



 誇りのない職業として馬鹿にされがちな傭兵と魔女に加えて、さらにマナリアのパーティーには盗賊まで所属している始末。


「れっきとした犯罪者までいるじゃないか……ああ、そうか。処刑宣告という意味か」

(おいおい、それってマナリア達にも同じこと言ってるんですけど)


 ロブは溜息を吐いた。まさか、腐った貴族がここまで馬鹿だとは思わなかったから。

まあ、確かにある意味では、処刑宣告に近いだろう。勇敢で力のある若者たちを、こうして死地へ5人だけで誰の力も借りずに向かっていくのだから。


 ロブは自分が盗賊であることに誇りがあるわけじゃない。

ただ、そうしないといけない理由があったから盗みまくった。ロブだって盗みが悪だとは思うが、人々が頑張って作り出した金を無駄に使う奴らに言われたくないと心底思っている。

 

「このパーティーは僧侶まで、まともじゃないな」


 僧侶に至っては、可もなく不可もなく。とくにこれといって何かを言われることはなかった。

ただ、カーンは変わり者だったので、見事に非難されていた。僧侶のくせに酒は飲むし、肉も魚も色々と食

べるし、大笑いするしで、自ら悪評を広げている行為をした。


「残りものパーティは、すぐに全滅してしまうでしょうな」


 心にもない言葉を無視して、わざと馬鹿な行動をしているカーンに対して、マナリアと仲間たちは伝える。


「自分から悪評を広める行動をしなくてもいい」


 それを聞いたカーンは、嬉しそうに微笑み、そしていつもより声を大きくして話した。


「私は、私の生きたいように生きているだけです。私の信仰している神は、我に祈らず己が信じた道を進めと申してくれております。それに我々は魔人を倒した実力もあります。文句しか言わず、自分達は戦おうとしない弱者たちの言うことなぞ、放っておけばいいのです。今度助けてくれと言われても、助ける気概も置きやしません」


 それを聞いたマナリア達は、大声で笑った。

まったくふざけた僧侶だと。でも、確かにカーンのおかげで、わざと聞こえるように話をしていた陰口がぴたりと止んだ。助けてもらえなくなるのも困るのだろうが、マナリア達全員が、戦闘時に出てしまう圧力を夜会で出したのも大きいだろう。


 いつだって、命をかけてるのは我々だ。


 何もしていない、できないやつが、偉そうな口を叩くなと。



 夜会が終わり、旅路を進むマナリアは、皆に向けて美しい笑顔で言った。


「ねえ、私たちって、残りもの勇者パーティーだよね」

「……まだ気にしているのか?」

「気にしないほうがいいわ~。カーンも言ってくれてたでしょ?」

「そうですとも、我々は我々にできることをしているのですから」

「卑屈になるなよ、マナリア」


 皆が、マナリアを励まそうとしている。

マナリアが残りものと言われてることを気にしているのかと思った一同だが、マナリアは首を横に振る。


「違うわ。そんなの気にしてない。出会って1週間くらいしか経ってないけど、みんなのことは好きだし、馬鹿な事を言ってくる奴らのこともどうでもいい」

「じゃあ、なんでそんなこというんだ?」


 ロブが不思議そうにマナリアを見る。

マナリアはにっこりと笑って応えた。


「残りものには福があるって、言うでしょ?」

 

 楽しそうなマナリアを見て、皆が頷き静かに笑う。


「それにね、もともと私は、みんなを選ぶつもりだったわ」

「へー、どうしてさ? いっちゃあれだけど、俺たち相当変わってるぜ?」


 ロブの言葉に、他の三人がうんうんと頷いている。

マナリアだけが、それを否定する。


「違うわよ。変わり者は他の勇者パーティーの人たちよ。だって、みんな魔王を倒す使命に燃えてるなんておかしいもの。遠回しに3分の2には死ねって言ってるようなものじゃない。それなのに、たとえ殉職してもいいような顔をしてる人たちばかりで、正直怖かったの」


 困ったように笑うマナリアは、続けて皆に伝える。


「でもね、みんなは違った。絶対に死んでやるもんかって意思を感じたし、どんな手を使ってでも生き残るとか、とにかくなんかすごく強い意思を感じたのよ。だから、みんなを選びたかった。結果的に、残りものになったけど、やっぱり残り物には福があるんだわ。私、みんなと旅ができて幸せだもの」


 もともと一人で活動していたマナリアは、一人が好きだからと、自分に言い聞かせていた。本当は、誰かと一緒に旅をしたかったのだ。


 嘘偽りないマナリアの心からの言葉に、仲間たちは笑顔を見せたり、嬉しいそうな顔を見せる。


そんな中で、一人だけフードを被って表情を見せないようにしている。


「あらら、ロブ坊は照れてるのかしら?」

「んなじゃ……ねぇよ」

「いいですねー、若いって。おや、この言葉はナーテルに失礼でしたね。ぐえ!」


 大きな握りこぶしの拳骨を食らったカーンは、カエルが潰れた声をあげた。


「カーンは一言余計だ」

「あら、みんなからしたら、本当のことだからいいのよ」


 怒りの魔力があふれ出てることに気が付いたカーンは、即座に謝った。


「う……失礼しました淑女様」

「許しましょう」


 皆が、皆楽しそうに笑った。


 ただ一人、ロブだけは、表情を見せることはなかった。

皆には聞こえないように、ぽつりと呟いた。


「仲間は俺が守る……今度こそ、必ずだ」


 成人を迎えたばかりの青年は、一人静かに誓うのであった。

 


 懐かしい記憶に浸るロブは、笑いながらマナリアに話しかける。


「そういえば、あの時もカーンが、誰かを怒らせてたよな~」

「……」

「あれ、マナリア?」


 どうやらお酒が回ったのか、マナリアはぐっすりと眠りについている。

男の隣で飲みすぎて寝てしまうとは、ヴィラの言う通り、もっと警戒心を持った方がいいとロブは思った。


 会計を済ませて、おんぶしながらマナリアの部屋のカギと自分の鍵をもらう。

マナリアをベッドに寝かせて、机に鍵を置いて、常に持ち歩いている盗賊セットで、外から鍵を閉める。



 潤沢な資金のおかげで、一人ずつ部屋が取れるのだ。ロブは牢屋とは大違いだなと鼻で笑う。


 自分の部屋に戻って、月の明かりが入ってくる窓から外を眺めると、一人修練に勤しむカーンが見えた。

やっぱりクソまじめだなカーンはと思いながら、ベッドに飛び込むロブ。

 ボーっと天井を眺めながら、これからのことを考える。


(俺達のパーティーは、金髪の兄ちゃん達より進みが遅い。次はどちらのパーティーが狙われるか……)


 もう一つのパーティがどうなってるかはロブには分からない。

初代勇者の再来と言われている男、エル。外見もさることながら、剣技や魔法、知識に勇気、そして困っている人々を救う優しさ。誰がどう見ても遜色ない男。パーティーメンバーも、王族所属の近衛副騎士団長、百発百中の名射手、精霊に愛されている大精霊使い、慈悲深い天使のような大聖女。


 誰がどうみても、彼らこそが真の勇者だと思う。

まさに伝説の勇者パーティと名高い彼ら。人々の期待は大きかった。


(彼らが魔王を倒せるほどの実力者だったらどれだけいいか。そうすれば、俺たちは戦わずに済むしな。生き残れれば、それで十分だ)


 エル達のパーティが魔王を倒してくれるのであれば、本当に問題がないのだ。


 なにせロブは、地位も名誉も金も権力も、求めていないのだから。



 なぜ、そんな事が言い切れるのか?

それは、ロブのしてきたことが関係している。



 盗みを止めて、自ら牢屋に入った変わり者の男ロブ。最初は子供ができるわけないと疑ったが、自身が盗んだものと、盗んだ場所に置いてきたカードの絵柄を言うと、即座につかまり王都のお偉いさんが集まるところで終身刑を言い渡された。


 人を殺したわけではない。人の努力を踏みにじるような悪意を持った金持ちたちの金を盗み、返すべきところに返しただけ。だからこそ、ロブは即刻処刑されることはなかった。


 加えて、ロブのしたことにより国が抱えていた問題を摘出できた。

ロブが盗みを働けば、国が動かざるを得ない状況まで持ち込んだ。悪徳貴族たちの私営騎士団や、商人の雇った高ランクの冒険者たちによって、屋敷の金品を守る警備をしていたが、ロブは容易く盗んでいった。


 国が動くまでは、金品、財宝だけを盗んだ。それを裏取引で換金して、食料を買って、貧困地帯に持ち込んだのだ。


 平民が悪人たちに盗みが入ったことを知ったのは、高ランクの冒険者たちが、いとも容易く盗まれたことで、冒険者ギルドに文句を言いにいった悪人連中が、高ランク冒険者のあることないとこを口走ったせいだ。


 受付で暴言をはいた馬鹿のお陰で、ロブの噂は国中に広まったのだ。


 ここから先は、王族と一部の高貴な貴族しか知らない話。


 何度も盗みに入られた貴族達には、王都から近衛騎士団も増援に向かった。まずは金になるもの確認を副騎士団長が行う。するとそこには、盗まれていない金品の上に、いつもの絵柄のカードと、悪人貴族、商人たちの数々の悪行の証拠が置かれているのだ。  


 副騎士団長が自ら国王にそれをすぐさま報告した。裏で人々を苦しめていた領主や商人達は、芋づる式にバレた。そして、それ相応の罰を受けることとなる。罪が重いものは処刑を、軽くても一族の没落。巨悪によって苦しめられていた多くの人々が救われたのだ。


 裏で活躍していたロブは、国民達から義賊と称えられていた。王族や一部の善良な貴族も、ロブのおかげで救われたこともある。真面目な貴族もいるのに対して、己の欲のために領民を傷つける貴族は排除したいと常々思っていたから。


 悪人貴族の噂が広まり、貴族の不信感が常々高まっていたからだ。いずれは大きな暴動になるところまで予想していたが、なんとか抑えられたのだ。



 そのため、王族と上位貴族達はロブに国の影になるようにと命令を下した。使えるものは使う、それが国王の方針。だが、それを断ったことで、ロブは終身刑を言い渡された。


 ロブは変わり者だった。自ら牢屋に入りに来るような男だ。きっと、牢屋生活にも飽きて、いずれは王国の影になると思われていたからこその終身刑。


 結果的に、マナリアの勇者パーティーに入ったことで、影よりも重要な任務をしなければならないことになったのだが。


 過去を振り返れば、金は簡単に手に入るし、地域も自ら悪人たちの悪事を暴き、悪人たちを討ち取れば手に入れることができた。


 それでもしなかったのは、ロブにとって、それらは必要のないことだから。

 

(魔王が生まれたら、もともと勇者パーティーには加わる予定だったしな……。仲間に入れてくれなくても、ついてくつもりだった。でもまさか、勇者パーティーに選抜されるとはな。それに、ここまで面白いやつらだとは思わなかったし。……だからこそ、俺はみんなを失いたくない。今度こそやらせない。今度こそ、守り抜く。そして、あいつらの悲願を晴らすんだ)


 他人のことなど知ったことではない。仲間を守りたいという力強い意思がある。


『後は託しましたよ、ロブ』

『君が降り立った先で、二度とこんな悲劇が起こらぬように……今度こそ、世界を救ってくれ』


 ロブは過去に選択を間違え、仲間を失った記憶がある。友から願いを託された。今度こそ間違えないように、ロブは自分にできることは最大限の力を発揮すると、己に誓う。


 月明りに照らされた金色の瞳は、静かに白い炎を燃やしている。

 




4話は、1月21日 午前0時に投稿します。

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