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 半年後。


「ガイアス君達、やられちゃったわね」


 魔女ナーテルはとある場所を占領し、ワイングラスを回しながら優雅に酒を嗜んでいる。悲し気な言葉とは裏腹に、あまり興味がなさそうだ。


「……全滅か。いきなり現れた魔王が、ガイアス達に襲いかかったんだったか? ガイアスは、自ら戦いの道を選んだとも」


 口数少ない傭兵のヴィラは、太ももをマーテルに占拠されながら、豪快に酒を飲んでいる。いつもの光景だ。けしからん。


「それにしても……全滅ですか。時には引く勇気を覚えなければ、勇者とて蛮勇に成り下がるということですな」


 度数の高い酒をしっぽりと飲みながら語るのは僧侶カーン。僧侶なのに酒を飲むのかと思っていたマナリア達がいたのは遥か昔のこと。見慣れたその姿に、誰も何も言わない。

 

 やりたいことやって死ぬ。それが僧侶カーンの言葉だ。まさに、我が道をゆく男。


「マナリア。それとって」

「どうぞ」

「どもー」


 パクパクと料理を食べ進めるのは、盗賊ロブ。ローブを取ったその姿を見たときは、全員が驚いていた。マナリア達のパーティーはナーテル以外が20代〜30代の男女だが、ロブは明らかに15歳くらいの顔つきだった。


 実際に年齢を聞いたところ、恐らく15歳であると答えたロブ。ロブは成人したばかりの大人に毛が生えた程度の子供であった。


 クセの強い白髪を、ヴィラのようにきっちり結ぶわけではなく、ふわりと結んだ髪型。金塊のように輝く瞳を見たカーンが、瞳まで金に塗れてるのですかと笑っていると、ロブ以外の全員から冷たい視線と共に頭を叩かれていた。坊主でないから、あまり叩き心地は良くないと、誰かが言った。


 パーティーの中で最年少なこともあってか、大人に守られつつ、可愛がられていた。


「ロブ坊は、いまだに成長期なのかしら? この前より身長が伸びているわ」


 そんなナーテルの言葉に、一瞬食事の手を止める。


「ふーん。あんまり興味ないかな。どうせ俺、成長してもヴィラとカーンみたいに身長高くなりそうにないし。それに盗賊だから、あまりにも身長が高いと窮屈なところに入れないし。いまくらいでいい」

「……牛乳をよく飲むのは、好物なだけか」

「ぶふー!!! それを言いますか、ヴィラ殿。そこ突っ込んだら可哀そうですよ!」


 カーンは、まるで僧侶らしくなく、というよりも人としてどうかと思わせる行動を取る。酒を豪快に吹き出し、膝を叩いて笑うのだ。

あまりにも馬鹿にしてくるカーンに、切れたロブが机を強く叩いた。


「おい、カーン! 相手してやるからちょっとこいや!!」

「え、なんで私ですか!? マナリア、ロブを止めてくださいよ! 絶対、いまのは私悪くないですよね!?」


 一人黙々と料理を食べ進めている勇者マナリアは、ちらっとカーンを見てから、食事に戻る。


「カーン、最近たるんでるから、鍛えなおしてロブ」

「りょうーかい、マナリア。いくぞカーンのおっさん」

「おっさ!! ……いいでしょう。私を怒らせたらどうなるか、分からせてあげます。こう見えても、最近はヴィラ殿にちょくちょく指導してもらって……」


 ぐちぐちいいながらも、ロブについていくカーンを見て、ナーテルはクスクス笑う。


「本当に仲良しよね、あの二人」

「カーンはロブのことを年の離れた弟だと思っているのだろう。彼には兄弟がいないからな」

「それもそうね。見た目は子供だしね。……ねえ、ヴィラ。あなた子供は何人ほしいのかしら?ちなみに私はたーくさんほしいわ」


 急に話題を変えたナーテルは、ポッと頬を赤く染めて、上目遣いでヴィラを見る。

ナーテルは普段から色気がすごいのに、遠くにいるはずの客ですから、彼女の色気に目が離せないくらいの、えっどい雰囲気を醸し出している。


「頬を赤くするくらいなら聞くな。それに……俺は家族を持てるような人間ではない。あまりにも多くの血を奪いすぎたと何度も」

「あらー、そんな過去のことは気にしないっていつも言ってるわ。生きるためだったもの仕方ないわよ。大丈夫、私がしっかりと生まれた子も教育するから~」

「……考えておく」


 毎夜毎夜言われ続けた結果、ようやく折れたヴィラ。ひとまずは、これで満足するだろうと思っているようだ。


 ナーテルは目をうっとりさせながら、ヴィラの厚い胸板をツンツンと触る。


「あら~嬉しいわ。ようやく前向きなこたえがき、け、て」

「ナーテルは本当にヴィラが好き」


 好き好きオーラ丸出しのナーテルに、マナリアが口をはさむ。


「ほら、私、超年下のヴィラに助けられて心がキュンキュンしたのよ。マナリアはタイプじゃないの? 屈強で強面の男って、かっこいいじゃない? ナヨナヨした男よりよっぽど素敵よ」


 ナーテルは、人の姿をしているが、寿命は人より遥かに長い。魔女からしてみればナーテルもかなり若い魔女だが、マナリアたち人間からしてみれば、ものすごく年上である。ナーテルは年下のヴィラに救われ恋に落ちたという。

 

 その出来事はパーティーを組んでから1週間目のこと。まだ、仲がぎこちなく、パーティーとしての連携がうまくいってない頃。魔王の配下に襲われたマリアナ達。その時、ナーテルにピンチが訪れ、ヴィラがそれを救ったのだ。


 ここから、急速にナーテルがヴィラに距離を詰めていった。それを見て、ナーテルが妖艶でちょっと危ない魔女だけではなく、結構面白いお姉さんだと分かってから、仲間同士で会話を広げるようになった。


 結果的に、そこから全員の仲が深まったのだ。年の功様々である。


「確かに、あれはかっこよかった。でも私、屈強な男に襲われそうになったことがある。強そうな男は少しトラウマ。あ、ヴィラはそんな野獣に入ってないから安心して」


 ポリポリと大きな手で、顔の傷跡を気まずそうに掻くヴィラ。


「……男は皆、野獣だ。その判断は正しいぞ、マナリア。警戒心を強く持つんだ」

「あらら、私も襲われちゃうかしら? 大丈夫よ、激しい男は嫌いじゃないわ」

「……ナーテルの体は清いだろ」

「え」

「あら」


 マナリアはナーテルを、ナーテルはヴィラを見た。


「わかるさ。目が違う。性に溺れた者、もしくはそれしか仕事が見つからなかった者は、もっと貪欲か、目が笑っていないし、闇が深い。長いこと傭兵をやってれば分かる。そういう店にも、良くいったからな。初めては好きな男とするべきだと考えていたが……」

「私はいつだって本気よ。それに、先日のこともあったからなおさら、ね?」

「私がいうのも変だけど、この先いつ死ぬか分からないなら、後悔しない選択をしたほうがいい」


 マナリアの真剣な瞳に、またしてもヴィラは頬の傷をポリポリと掻いた。


「……それも、そうだな。こんないい女は、滅多に見ないしな」

「ええ!?本当に!? いいのかしら!? どうしようかしらね、マナリア!」

「とりあえず、魔王を討伐するまでは、避妊はしっかりしてね」

「あらら~、リーダーの許しが出たわ。ねえ、今夜どうかしら、ヴィラ?」

「……俺は構わない。ただ、優しくできる気がしない」

「きゃー! 最高よ、ヴィラ!」

「場所変えてよ」

「分かってるわよ!」

 

 そのまま2人は出ていき、夜の街中へと消えていった。


「確かに野獣だ」


 野獣のくせに数か月もよく耐えたと思ったマナリアは、微笑みながら2人の恋をコッソリと応援している。


 勇者一行の冒険とは思えない穏やかな日常。このまま、もう一つの勇者パーティーが、魔王を倒してくれることを願うのはマナリアだ。そんな都合のいいことがあるとは、マナリア自身も思っていない、なにせ。


(まあ、先日ヴィラが無茶しすぎて死にかけたしね……無理もないか)


 魔王の配下にまたしても襲われ、ヴィラが死にかけたからだ。

仲間たちのフォローによって助けられ、すぐに戦線復帰したのだが。


 この日を境にナーテルがさらにグイグイ行くのも、ヴィラが欲に従ったのも分かる。


 命あっての好意と行為なのだから。


(あーあ、敵と戦いたくない。初めてできた仲間を失いたくない)


 マナリアは、弱気だった。

王都に集まる勇者は、基本的に自ら足を運んでくる。だが、マナリアだけは違う。


 マリアナは元々戦いが好きではない。勇者への憧れも、燃えるような闘志も、これっぽっちも持ち合わせていない。もともと旅が好きで、一人で世界を巡っていた。適当にお金を稼いでは、その日暮らしを楽しむような生活を送っていた。


 仲間はいない。マナリアは両親に捨てられた孤児だった。5歳くらいのころに死にかけていたところを気のいい老夫婦に拾ってもらい生きてきた。


 父親の代わりだったゴイルは平民上がりの騎士で、マナリアに自衛のための剣と、狩りの仕方とお金の稼ぎ方を教えた。母親の代わりだったロールは魔法使いであったため、マナリアに自衛と日常生活で使える魔法、そして家事や料理を教えた。


 マナリアがある程度何でもできるようになり15歳の成人を迎えたころに、自前の剣と魔法の何でもはいる袋をもらった。20歳になったころ老夫婦は同じ年に亡くなった。心から信頼できる人が亡くなることが辛すぎる余り、マナリアは仲間を持たずに一人で旅に出た。


 老夫婦のおかげで一人で旅をしながら生活できるようになっていたマナリアは、大きな教会で育ての親に感謝するべく振らりと教会に入った。

 

 その時、マナリアが選ばれた。未来の勇者といわれ、最も自分に相応しくない名誉を。


 富も名誉も権力も必要ない。

自由に、風の吹くまま気の向くまま赴くままに、もっと旅をしたかった。二人ができなかった旅を楽しんで天界のお土産話にしようと意気込んでいた矢先のことだった。ふらりと教会に足を運んだ自分を何度、マナリアは恨んだことか。


 教会に足を踏み入れた途端に体が光だし、協会のお偉いさんに連行され、王城に召集された数ヶ月前。


 マナリアは体が光ってから、戦いの仕方も、武器も魔法の使い方も感覚で両親に教わった時より、鮮明にわかるようになった。体のどこを動かせば疲れにくく効率がいいか、敵の動作や弱点、仲間へのフォローと指示。


 相手が自分たちより強くても、連携を生かして戦えば、造作もなかった。それくらい、仲間とのコンビネーションはうまくいっていた。


 仲間達を有能だと思う気持ちは、マナリアの中で日に日に強くなる。

城のあちこちで聞いた勇者パーティーにふさわしくないと言われた4人の面々。

案の定、他の2人の勇者は選ばなかった。ガイアスは選んだと言うより選ばせたのだが。


 そういう意味では、選ばれなかったマナリアも残りものだと自虐していた。

マナリアは職業に対して偏見はない。みな、生きることに必死なだけ。職業として成り立つなら、構わないのではないかと。盗賊を職業とするのはいささかどうかとも思ったが。せめて、言い方を変えてほしかったものだと思うくらい。


 そんな半年前のことを思い出していると、ロブが姿を現した。


「あれ、二人は?」

「見なかったの? お店を出て二人で泊まりに行った」

「ちょっと離れたところでやってたからね。それにしてもヴィラが折れたのか。さっさとくっつけばいいのにってずっと思ってたよ」

「お子様のくせにませてる」

「俺は立派な大人だよ」


 一口酒を飲んで大人ぶるロブだが、すぐにジュースで口直しすることを知ってるマナリアは優しく微笑む。


「ふふ、そうだったね。ところで、カーンは?」

「接近戦の修練付き合ってたんだけど、隙があるところを小突いてたら、心が折れたのか、宿にとぼとぼ帰っていったよ。まあ、このあと自主練するんだろうけどね」


 皆が寝た数時間後、カーンは一人で自主練している。魔力コントロール、魔力量の増加のための修行、攻撃防御魔法の強化、自らを傷つけて回復魔法の回復力をあげている。一度、カーン自身が指先を自ら切断しようとしたところを見て、ヴィラが慌てて止めたこともあるくらいには、おかしいくらい真面目なのだ。


「カーンは真面目よね。このパーティーで一番か二番目に真面目よ」

「わざとみんなをおちょくって、空気を和ませようとするところ以外は尊敬してるよ」

「ふふ、確かに。最初は失礼な人かもって思ったけど、今はそう思わないし、誰も嫌がってないわ」

「……一応、否定しておくよ。どこかで聞いてたカーンが調子に乗らないようにね」

「それはもう、否定してないわよ」


 二人でもう一度クスクスと笑う。ロブは余っている料理を食べきる勢いで食事を進める。

その豪快な食事の仕方を見て、マナリアもちびちび食べ進める。


「マナリア? 無理して食べなくていいのに。俺普通に腹減ってるから食べてるんよ?」

「ロブが勢いよく食べるから、つい美味しそうに見えて。不思議よね、人が食べてるところを見てると、自分も食べたくなるんだから」

「確かに。俺もそこまで食べるほうじゃなかったのに、ヴィラに触発されてつい食べるようになったよ。それにほら、残りものってなんか親近感あって、残さず食べないとってなるんよ」

「そうね。懐かしいわ。数か月前は結構言われてたのに、いまじゃ全然言われないわよね」

「結構な数の、魔王配下の魔人を倒してるからね。それにほら、カーンの言葉が聞いてるんじゃない?」

「カーンって恐れ知らずだから、言いたいこと言うのよね。……でも、そうね。あの時はすっきりしたわ」


 二人は、約半年前の出来事を肴に、食事をしながらお酒を飲み進めた。


三話目は、本日午前3時に投稿されます。

二時間お待ちください。

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