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調査相談(レファレンス)葉を隠すなら森の中の由来を知りたい

調査相談レファレンス葉を隠すなら森の中の由来を知りたい


質問日:

2025/05/24


質問内容:

葉を隠すなら森の中の由来を知りたい #レファレンス


回答内容:

※回答文中の【 】内は、大阪府立図書館の請求記号です。

※インターネット情報は、2025年6月11日時点での確認となります。

※文中で紹介しております「国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービス」についての詳細は、以下のホームページでご確認ください。

 ・国立国会図書館>個人向けデジタル化資料送信サービス

  https://ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html


ご質問について調査したところ、言葉の出典は『ブラウン神父の童心』(1911年)の収録作品「折れた剣」ということがわかりましたが、由来がわかる資料を見つけることはできませんでした。

以下に調査内容を記載します。


・『ブラウン神父の童心(創元推理文庫 110-01)』(G・K・チェスタトン/著 中村保男/訳 東京創元社 1982.2)【L933/1959N/チェ】

「解説」(p.350-356)に次の記述があります。

「ブラウンの推理はデータによる帰納的推理より、逆に演繹にはしりかねない場合が多い。たとえば「折れた剣」は二人の問答から始まっている。「賢い人間はどこへ小石を隠す?」「浜辺に」「賢い人間はどこへ木の葉を隠す?」「森の中に」それでは浜辺が、森になかったらどうするかという自問自答から、死骸を隠すための奇想天外な方法を推測せざるを得なくなる。(後略)」(p.354)


以下の資料にはこのトリックがほかの作家に応用されて使われているとの記述がありました。

・小池滋「チェスタトン最大のトリック」『ユリイカ』21(9)(青土社 1989.7)p76-81【雑/2444/#】 

「チェスタトンのトリックというと、いつでも引き合いに出されるものがある。一人の男を殺して、その死体を人目につかぬよう処分するには、どうしたらよいか、という難問である。答は簡単―周囲を死体だらけにしてしまえばよい。殺人現場を戦場(しかも、負けるとわかっている)にしてしまえばよい。皆が死体ならこわくない―というわけだ。もちろんこれはフェアなトリックではない。でもこうした逆の発想は、ほかの探偵小説ではしばしば使われるし、現実生活においても役に立つことがあろう。」(p.80)


・松本清張「国際推理作家会議で考えたこと」『文藝春秋』66(1) (文藝春秋 1988.1)p346-361【P90/2】

「推理小説においては他人の創出せるアイデアの模倣、巧妙なる横取り(盗用)は許されず。しかるにこれが半ば公然と横行す。例せばG・K・チェスタートンの「一枚の葉(殺人死体のこと)をかくすためには森の中に隠す、森なきときは自分で森を作る」(短編「折れた剣」)の創案が、いかにほかの多くの作家によって「応用」されたるか。ドイルもクリスティもそれを変形してしばしば使用す。(後略)」(p.352-353)


・『謎解き名作ミステリ講座』(佳多山大地/著 講談社 2011.10)【902.3/225N】

「第43回 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』(創元推理文庫)逆説の王、不朽の足場を築く」(p.178-181)

「「折れた剣」において〈木の葉は森の中に〉という秀れた隠匿法をさらに〈森がない場合には、自分で森を作れ〉と飛躍させる発想など、二十一世紀も最初の十年間が終わろうとする現代に至ってなお現役のミステリ作家に求められてその足場を支える機会も少なくない。」(p.179)


また、以下の資料ではエドガー・アラン・ポーの短編小説「盗まれた手紙」(1845年)とならべて述べられていましたのでご紹介します。

・『探偵小説論 3 昭和の死(KEY LIBRARY)』(笠井潔/著 東京創元社 2008.10)【910.26/2204N/3】

「第二章 文学と戦争の絶対的形態」(p.71-128)に次の記述があります。

「着想という点で『ABC殺人事件』には、チェスタトンの「折れた剣」が、さらにポオの「盗まれた手紙」が先行している。「折れた剣」でブラウン神父は、「賢い人間なら樹の葉はどこに隠すかな?」(中村保男訳)と問いかける。回答は「森のなか」だ。おなじ発想で「盗まれた手紙」の犯人は、警察が探している手紙を、わざと状差しに「隠した」のである。(中略)意味あるもの一般を、無意味なもの一般に紛れこませるというポオ以来の着想が、クリスティの場合には、意味ある屍体を無意味な屍体の山に隠してしまう方向に、方法的に徹底化されている。」(p.123)


・海渡英祐「論理のトリック」『(つくる) 』7(8)<70>p.26-28【P05/10 】

「『折れた剣』の中で、ブラウン神父は次のような論理を展開する。(1)賢い人はどこに樹の葉を隠すか。(2)森の中に。(3)森がなかった場合はどうするか。(4)葉を隠すために森を生やすだろう―。(1)から(2)に至る論理は、ポーの『盗まれた手紙』の応用にすぎないが、そこで(3)の問題を提起するところが、すでになみの人間には思いつかないことだ。それがさらに(4)へ発展するに至って、常識から完全に飛躍した論理、つまりは論理のトリックが示されるのである。」(p.27)


・『探偵小説論(幻影城評論研究叢書3)』(津井手郁輝/著 幻影城 1977.12)【901.3/20】

「第五章 探偵小説のトリック」「トリックの条件―単純性と実現可能性」(p.130-136)に次の記述があります。

「単純なトリックには原理と構造が単純なものの他に、常識や心理の盲点を利用したトリックなどを含めうる。隠すことは隠さぬことという「盗まれた手紙」や、見え過ぎているものは見えにくいという「見えない人」や、木の葉を隠すなら森の中という「折れた剣」の考え方である。これらは物質的なトリックではないが、トリックの実質が論理である以上、トリックの原型、論理のトリックということができる。探偵小説のトリックは形而上、形而下のものを問わず単純明快なものをよしとし、それは偉大なものは常に単純であるとの理にも通じうる。」(p.133)

こちらの資料は国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービスで閲覧することができます。

https://dl.ndl.go.jp/pid/12443221(70コマ)


・『SF・ミステリおもろ大百科』(石川喬司/[著] 早川書房 1977)【901.3/18】

「トリックの巨人 小柄で貧相な名探偵を創造した巨体の大文学者」(p.95-105)に次の記述があります。

「このトリックは、E・A・ポーの有名な『盗まれた手紙』のそれと同じく、人間心理の盲点をたくみについたものといえよう。『盗まれた手紙』は、ごぞんじのように、警察が血まなこで隅から隅までさがしてもみつからなかった手紙が、実が壁の古ぼけた状差しに、偽装してさりげなく突っ込んであった、というもので、「まさか大切なものをそんな人目につくところに放ったらかしにしておくはずはない」という心理を逆手にとった、見事なトリックだった。ブラウン神父の物語には、このような意表をつくトリックがふんだんに盛り込まれている。たとえば、『折れた剣』の中で、(中略)殺した部下の死体を隠すために、無茶苦茶な戦争をやって死体の山を築きあげた将軍の話が物語られる。」(p.100-101)

こちらの資料は国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービスで閲覧することができます。

https://dl.ndl.go.jp/pid/12443731(54コマ)


・『ミステリィ・カクテル:推理小説トリックのすべて』(渡辺剣次/著 講談社 1975)【901.3/2】

「7 森のなかに隠す」(p.99-107)に次の記述があります。

「「物の隠し方」トリックの古典といえば、エドガア・アラン・ポーの短篇「盗まれた手紙」が、つねにトップにあげられる。これはあまりにも有名であるが懸命になって捜しもとめていたもの(この場合は手紙)を、一番目立つデスクの上に、なにげなくポンと置いておく。大切なものを人目にさらしておく、という心理的盲点をつくトリックである。ついで、G・K・チェスタートンの短篇「折れた剣」で、神父ブラウンがとなえる警句、「賢い人は葉をどこに隠すか―森の中に隠す。森のない場合は、自分で森を作る」があげられる。(後略)」(p.103-104)

こちらの資料は国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービスで閲覧することができます。

https://dl.ndl.go.jp/pid/12443716(55-56コマ)


また、「ブラウン神父」のトリックの特徴として「逆説」や「逆理」という描写が見られる資料がありましたのでご紹介します。

・『『ブラウン神父』ブック』(井上ひさし/編 春秋社 1986.10)【242/3541/#】

「ブラウン神父の秘話 翻訳者として」(中村保男)(p.198-202)に次の記述があります。

「逆説と言えば「ブラウン神父」物語の多くは謎の種明しが逆説の形をとっている。たとえば『童心』の「折れた剣」のテーマは「木の葉を隠す最適の場所はどこか」「森だ」という問答に集約され、敵軍と内通していた将軍がその秘密をつかんだ部下を殺し、その死体を隠すために故意に無理な戦いを敵に挑んで戦場を死屍累々にするという筋立てになっている。たった一体の死骸を隠すために数百名の人命を奪うという行為は現実にまずありえないが、チェスタトンはその愛するシェイクスピアばりの言葉の魔術を使ってフィクションの世界で堂々とそれを起させる。(後略)」(p.200-201)

こちらの資料は国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービスで閲覧することができます。

https://dl.ndl.go.jp/pid/12582140(104コマ)


・『ミステリを書く!10のステップ』(野崎六助/著 東京創元社 2002.11)【901.3/102N】

「付録一 トリック講義」(p.256-271)に次の記述があります。

「凝縮した学習によって、発想の転換を図るやり方を紹介しよう。―チェスタトンのブラウン神父シリーズを読むことだ。(中略)トリックの宝庫といわれるが、見事なのは、それを成立させる逆説の構築なのである。(中略)チェスタトンは、ミステリを、逆説と詭弁、レッド・ヘリングとデフォルメされた自然描写、心理トリックとアクロバティックなトリックの宝庫に変えた。」(p.265-266)


・『人間通になる読書術(PHP新書 001)』(谷沢永一/著 PHP研究所 1996.11)【019/212N/(2)】

「常識心理の盲点を衝く 『ブラウン神父の童心』G・K・チェスタトン著/福田恆存・中村保男/訳(創元推理文庫)」(p.119-126)

「チェスタトンを我が国に紹介するのに最も力のあった浅野玄府はこう記す。即ち「この作者の何から何までが、逆理と顚倒と極端と驚異と変挺に対する異常な好みとの氾濫だ。(後略)」(p.120)


以上で回答とさせていただきます。

回答にお時間をいただき申し訳ございませんでした。

ご不明な点がございましたら気軽にお問い合わせください。


[担当:大阪府立中央図書館 人文系資料室]

参考資料:

B10085905『ブラウン神父の童心 』(G・K・チェスタトン∥著 東京創元社 1982.2) NDC:933.7 ISBN:4-488-11001-0 p.354

B14414532『ユリイカ 1989/07-1989/09 21(8-11)<281-284>』(21(9)p.80 青土社 1989.07.01)

B14472459『文藝春秋 1988/01 66(1)』(文藝春秋 文藝春秋 1988.01.01) 66(1)p.352-353

B12705833『謎解き名作ミステリ講座 』(佳多山/大地∥著 講談社 2011.10) NDC:902.3 ISBN:978-4-06-217293-6 p.179

B12390834『探偵小説論 3』(笠井/潔∥著 東京創元社 2008.10) NDC:910.264 ISBN:978-4-488-01526-8 p.123

B14522443『(つくる) 1977/07-1977/08 7(7-8)<69-70>』(綜合評論社 1977.07.01) 7(8)<70>p.27

B10347521『探偵小説論 』(津井手郁輝著 幻影城 1977.12) NDC:901.3 p.133

B10167967『SF・ミステリおもろ大百科 』(石川/喬司∥[著] 早川書房 1977) NDC:908.3 p.100-101

B10295631『ミステリィ・カクテル 』(渡辺/剣次∥著 講談社 1975) NDC:901.3 p.103-104

B10193133『『ブラウン神父』ブック 』(井上/ひさし∥編 春秋社 1986.10) NDC:930.278 ISBN:4-393-46401-X p.200-201

B11088765『ミステリを書く!10のステップ 』(野崎/六助∥著 東京創元社 2002.11) NDC:901.307 ISBN:4-488-02429-7 p.265-266

B10775768『人間通になる読書術 』(谷沢/永一∥著 PHP研究所 1996.11) NDC:019.9 ISBN:4-569-55338-9 p.120

参考URL:

国立国会図書館>個人向けデジタル化資料送信サービス https://ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html 2025/6/11現在確認

国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービス『探偵小説論(幻影城評論研究叢書3)』(津井手郁輝/著 幻影城 1977.12) https://dl.ndl.go.jp/pid/12443221 2025/6/11現在確認

国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービス『SF・ミステリおもろ大百科』(石川喬司/[著] 早川書房 1977) https://dl.ndl.go.jp/pid/12443731 2025/6/11現在確認

国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービス『ミステリィ・カクテル:推理小説トリックのすべて』(渡辺剣次/著 講談社 1975) https://dl.ndl.go.jp/pid/12443716 2025/6/11現在確認

国立国会図書館デジタルコレクション図書館・個人送信サービス『『ブラウン神父』ブック』(井上ひさし/編 春秋社 1986.10) https://dl.ndl.go.jp/pid/12582140 2025/6/11現在確認


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