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解説『CASSHERN』「お前は戦争がどんなものか知らない」

解説『CASSHERN』「お前は戦争がどんなものか知らない」


#CASSHERN


最初に一言。実写映画『CASSHERN』と原作アニメ『新造人間キャシャーン』は別物です。


けっこう好き嫌いがある映画です。


私は好きかな。まあ、とにかく絵がきれい。美しい。音楽もイイです。


ストーリーは訳が分からないです。(まあアレだけ設定組んだら視聴者は置行堀おいてけぼりになりますよ。)


簡単に説明すると、主題歌の宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」の歌詞がそのままストーリーです。


宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ


https://youtu.be/mYE_YmXSFu0?si=KCVG0Vl0olh9FsJ1


*****


理解できないことは「分からないと認識する」ことが大切です。


ナラティブ(物語)を通して世界をかんじてしまうと、洗脳されてしまいます。


どのような事象であれ多面的な要素があります。


それを一つだけ抽出して、選んだそれだけの視点で見れば、世界は歪んでいると感じるでしょう。#色眼鏡


たとえば、私たちがいる世界は量子りょうしという力によって動いています。#量子力学


けれど、日常では感じることができません。認識としては、古典的な物理学だけで十分だからです。(特殊相対性理論も一般相対性理論も古典物理学です。)


*****


キーワード1.〈雷〉


映画で「新造人間がどうやってできたのか」の説明はありませんが、描写として〈雷〉があります。(原作アニメでも雷が落ちています。)


創作の暗黙のルールで、劇中で雷が落ちたらすべて「神の意志」です。


その前に、原作の原作である英国の作家メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein: or The Modern Prometheus)のストーリーを話しましょう。



怪物であるフランケンシュタインを造った人は同姓のフランケンシュタインで〝博士〟と呼ばれますが、シェリーのフランケンシュタインはただの学生です。(博士号をもっていません。)


そして、みんながフランケンシュタインだと思っている造られた(人ではない)物=被造物ひぞうぶつに名前はありません。これはシェリーの意図です。


その〝名無し〟の知能はとても高く、複数の言語を習得しています。(見た目がアレなので全部独学です。)


高性能な被造物モンスターが、自分を捨てた未熟な創造主フランケンシュタインに復讐するのがシェリーの話です。


作中、被造物モンスターは伴侶となる異性の製造を求めましたが、創造主フランケンシュタインは途中まで造って破壊してしまいます。


被造物モンスターが地上に増えてしまうと困るからです。


二回も捨てられた被造物モンスターは、創造主フランケンシュタインの愛する者をすべて〝壊し〟ます。


復讐の復讐で、創造主フランケンシュタイン被造物モンスターを追い、北極海で倒れます。


創造主フランケンシュタインは亡くなり、被造物モンスターは自殺すると言って北極海に消えます。



シェリーの題に「現代のプロメテウス」とあります。


ギリシア神話でプロメテウスは人間を造り、盗んだ神の火を与えました。#火=文明


なお「先に考える人」という名のプロメテウスの弟は「後で考える人」という名のエピメテウスです。エピメテウスの妻が美女パンドラです。


パンドラのはこと言われますが、正しくはつぼです。エピメテウスとパンドラについては、また別の機会にしましょう。


被造物(人間)に火(=知性)を与えた創造主プロメテウスは、天空神たるゼウスによって罰を与えられました。


火を盗んだプロメテウスはカウカソス山に囚われ、生きながら毎日肝臓をハゲワシに食われることになります。


これが形を変えて、キリスト教の原罪になりました。


今でいうなら、製造物責任法でしょうか。#joke


ただ、プロメテウスはとても賢くて、人間に死を忘れるという「死の忘却」を与えています。このため私たちはその時が来るまで、毎日死を気にすることがないのです。



天空神ゼウスが攻撃に使うのが、雷霆らいていです。(霆は激しい雷の意味です。)


雷霆がほこだとすると、あらゆる邪悪をはらうたてがアイギスです。英語ですとイージスです。ええ、イージス艦のイージスシステムの名前の由来です。


昔のギリシア人は、天空から落ちてくるいかずちを神の御業みわざと考えました。


日本語のいかずちは「いか」で恐ろしい神という意味です。


まあ地震の次に恐いですからね。


なお、雷が多い年は豊作だという話がありますが、これは雷の空中放電で窒素ちっそ固定されるからです。


空気中の窒素が酸化して窒素酸化物ができます。#窒素固定


窒素酸化物が硝酸しょうさんに変化して硝酸塩となって、植物の栄養分となります。


ジョークではなくコレが本当の稲妻いなずまです。


天空の神の力が、大地の神の力の添えになるという構図です。まあ、天空神ゼウスの父クロノスは農耕の神で、母レアーは大地の女神なのですが。


豊饒ほうじょうの神で有名なのは、オリュンポス十二神の一柱のデメテルです。ゼウスとの間にペルセポネがいます。


ペルセポネは冥府の王ハデスにさらわれたとき、ザクロを食べてしまったため、その数の月だけ地上に帰ることができなくなりました。


ペルセポネがいない地上では、母のデメテルの怒りで農作物は育ちません。



映画『CASSHERN』ではなぜか劇中の雷(稲妻)が物理として存在していますが、これも神の意志です。


進行役(説明係)である日興ハイラルの内藤薫(及川光博)が「もうすぐですよ。ねえ、このイナズマも研究して新造細胞を……私たちの夢を実現させましょう」と言っています。


雷が神の意志であるため、それにさからうことはできませんし、その中身を知ることもできません。たぶん、研究しても分からなかったでしょう。


*****


キーワード2.〈蝶〉


蝶が何度か登場します。


創作の暗黙のルールで、蝶は「死」や「夢」を意味します。


夢の蝶といえば「胡蝶の夢」が有名です。



「昔者荘周夢に胡蝶と為る。栩栩然として胡蝶なり。自ら喩しみ志に適えるかな。周を知らざるなり。俄然として覚むれば、則ち蘧蘧然として周なり。知らず周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂う」


「むかし荘周が夢で、ひらひらとした胡蝶になった。ゆらりゆらり楽しんでいると、周だということが分からなくなった。ふと目覚めると、やはり周に違いない。果たして周の夢で胡蝶となったのだろうか、あるいは胡蝶の夢で周となったのだろうか。周と胡蝶とは必ず分別がある。こうしたことを物化という」


「昔者莊周夢為胡蝶、栩栩然胡蝶也、自喻適志與。不知周也。俄然覺、則蘧蘧然周也。不知周之夢為胡蝶與、胡蝶之夢為周與。周與胡蝶、則必有分矣。此之謂物化」


荘子そうし(荘周)の『荘子そうじ』「内篇 齊物論」の説話です。


どうして著者が「そうし」で著作物が「そうじ」かというと、孔子の弟子の曾子そうしと区別するためです。


著者を「そうじ」と読むこともありますが、人物については疑わしい点もあり、あまり論じられないので適当のようです。


孔子の『論語』系が主流で、老子ろうしや荘子の老荘思想は異端ですからまあそうなります。


ただ、この区別は後世の話で、荘子の思想は孔子の儒教に近いものです。


儒教の歪みを指摘した老子の思想を、本来の儒教の思想に戻したのが荘子です。


この荘子の思想を儒教が取り入れて、両方異端にしたというのが結論です。


もともと儒教は包容力がある考え方です。イコールそれは、時代時代の人に利用されてきたというだけのことにすぎません。



「周と胡蝶とは、すなわち必ずぶん有らん。これこれ物化ぶっかう」


荘子は物化ぶっかがあると述べています。物化は分別があるという意味ですから、夢と現実は違うと言っています。


『荘子』にはおおげさなことが書かれていますが、それは現実とほとんど変わらないものです。


形ばかりになった儒教を否定した老子の思想は「より深く広くかんじろ」です。「深く広く観じる」には、その浅いところを知らなければなりませんし(でないと溺れてしまいます)、広くるには目を細めて視界をせばめる必要があります(足元がおろそかになります)。


まあコレがブルース・リーの「考えるな! 感じろ!」(Don't think! Feeeel!)となります。


荘子は形があるもの(形にとらわれた儒教)も、夢のようなもの(あるかどうかも分からない老子の思想)も本質は変わらないと述べています。


「じゃあ」ということで、儒教がそれを取り入れました。


指摘した荘子は異端者扱いです。


現代の人間関係でもありますよね。上司に不法を報告したら左遷させられてしまうなんてことは……。



老荘の話は別として、蝶は「不死」や「永遠」といった「不滅」の象徴とされています。


蝶は幼虫からさなぎへと変態しますから、輪廻転生を連想します。


さなぎの見た目は死んでいますから、蝶は再生や復活を意味するようになったのでしょう。


日本でも平家は蝶を紋に使っていました。


ギリシア語のプシュケ「吐息」は「死者の魂」「霊魂」を意味しますが、それは同時に死者の口から蛾(蝶)がはばたくような絵画があるように「蝶」でもあるのです。


なお、日本では蝶と蛾を区別しますが、海外では同一視しています。


フランス語では蝶と蛾を区別はありません。


それに、蝶と蛾では、蛾のほうが種類が多いので、蝶は蛾の仲間と見るほうが自然かもしれません。


そういえば、胸に蝶の刺青をしていることから「パピヨン」(蝶)と呼ばれた男の映画『パピヨン』(Papillon)(1973年)がありますね。スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンが出演していました。


監督のフランクリン・J・シャフナーは1978年に『ブラジルから来た少年』を撮っています。



内藤「ここに――入りさえすれば……」総帥「茶番だな」


蝶を握りつぶした総帥(上条中佐)(西島秀俊)が、蝶の復活を目にして新造人間がどのようなものだったのかを知ります。


内藤「総帥! 私は何も知らなかった。こんなカラクリだとは……ここにここに入りさえすれば……」


すべてを知る立場にあった日興ハイラルの内藤が退場します。


総帥「命というものがたった一つでないのなら、我々はなんのために必死になって生きているのですか?」


*****


〈ネタバレ〉


1)新造人間の正体


総帥「おまえはその子がいう通り、実はただの人間だったんだよ」


進行役(説明係)が総帥になります。


総帥「ユーラシア第七管区、我が軍が従事した掃討作戦で皆殺しにした反乱部族の一人だ」


ブライキング・ボス(新造人間)はただの人間でした。


2)『新造細胞による再生医療』


総帥「残念ながらおまえの生みの親の東は、新造細胞を作り出す理論こそ構築していたが、研究には成功していなかった」


東博士の『新造細胞による再生医療』は成功していませんでした。


3)内藤の仕事


総帥「分かっていたことは〝オリジナルヒューマン〟の存在。そう私たちすべての人間の始まりであるといわれる太古の人種オリジナルヒューマン。それが……認めたくはないが、お前ら第七管区の連中であるということが、調査の結果明らかになった。そこであの内藤が、おまえらの捕虜の死体を実験用に提供しはじめた」※「お前ら」は原文ママ。たぶん字幕の字数のためかと。


映画冒頭で、内藤が東博士に禁忌きんきである〝オリジナルヒューマン〟の提供を約束しています。


4)下層階級


内藤「お嬢さん。あなたのような温室育ちには分からないかもしれません。けどね私たち下層階級に生まれた者は、こういう生き方じゃなきゃこの世界で生きていけないんです! そうですよね東博士。もう引き返せないんだ!」


内藤が禁忌にれたのは下層階級だからです。東博士の『新造細胞による再生医療』が成功しないとなると、二人とも処分されてしまいます。


5)東博士の愛


東博士も内藤と同じく下層階級出身です。上流階級である妻のミドリと結婚しています。


貴賤結婚を乗り越えての愛ですから、東博士の妻への執着は当然です。


東博士はかなり優秀だったのでしょう。ふつう、下層階級に学識はありません。


6)生き残り


ジョー・サーノ「老いぼれを見たらこう思ったほうがいいい。修羅場を生き抜いたヤツだと」Joe Sarno〝The only thing you can assume about a broken-down old man is that he's a survivor.〟


映画〝the way of the gun〟での洗濯屋ランドリージョー・サーノ(ジェームズ・カーン)の台詞せりふです。


土方歳三「いいか小僧ども。この時代に老いぼれを見たら『生き残り』と思え」


こちらは野田サトルの『ゴールデンカムイ』(GOLDEN KAMUY)です。


7)人間関係


老医師(三橋達也)の息子は誰?


ブライキング・ボス(唐沢寿明)の妻と子を殺めたのは誰?


*****


ざっと書いてみましたが、内容は宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」の歌詞のとおりです。


戦争とは何かを今一度考えてみてはどうでしょうか。


東博士が「お前は戦争がどんなものか知らない」という言葉の意味を知ることができるでしょう。


登場人物それぞれが敵を憎んでいますが、純粋な意味での悪人はいません。


坂本(寺島進)は家族の復讐のためにユーラシア第七管区で人を殺めていますが、それすらも軍部による命令です。



〈世界観戦争〉


今、ロシアはウクライナに侵略することで世界観戦争をしています。世界観戦争はイコール絶滅戦争です。


2023年パレスチナ・イスラエル戦争も世界観戦争です。


少しの時間でいいので考えてみることです。


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