小説『瓜の娘』
小説『瓜の娘』
昭和の始めまでは山奥の村や海辺の村に旅人が訪れると歓待されたそうだ。何もない村だからこそ、外の人を欲していた。若い男であれば村娘に酌をさせた。そうして外の血を取り入れていたのだ。悪しき習慣だが、他に手をもたない村人にしてみればそれゆえ生き残ってこれたとも言える。令和の世にあって、その世相のみをもって語ると歪んでしまう。
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井戸で冷やした瓜を柱に打ちつけて破ると、半分を娘に与えた。
口に含んだ種を道端に吐きながら、娘が食べ終えた。小川で手を洗うと、渡された手拭いで指を拭くと、髪留めに手をやった。一昨夕娘に与えたものだ。硝子細工の安物だが初めて見るものだったらしく、いたく気に入ったらしい。親御さんは、微細な銀細工と白金を交換した。
二日もすると荷はこの村のものばかりとなった。
残るは凡庸なものばかり。出立の時だ。
それでいて三日目の朝に娘に泣きつかれ、翌日までいることになった。
荷を隠されては旅立てない。
前にもあったので、おおよそどこにあるかは知っていたが、旅人がそこに足を踏み入れるのは禁忌だ。
やむなく娘に従うことにした。
娘が席をはなれたおり、娘母が夜までに荷を探しておく、娘に隠れて朝には村を出てほしい、と告げた。
娘が寝入るのを待ち、縁側で靴紐を結び終えると、煙管に火を付けた。
ようようとした雲のように紫煙が月を隠した。
娘母が手招きした。
灰を捨てると、まだ熱い煙管を手に裏口に向かった。
荷といっても着替えと外套、洋物の帽子といったもので、なくては困るがまた買えるものばかりだ。
銀子は懐にあって、流石の娘もそれを隠すようなことはしなかった。足の腱を切られそうになったことを思い出した旅人が笑んだ。
娘母が微笑み返した。
ていねいな礼を受け、月明かりに導かれ峠の堂まで歩んだ。
裏の湧き水を一口二口飲むと、娘の肌を思い出した。
易に火山旅がある。少し亨るとあるが、旅が危ういことを意味している裏返しでもある。
地に足があればよし、そうでないものは忌み嫌われる。
恋をして旅人をとどめても、誘う風は吹き続けるだろう。
果たして、表に出ると娘が寝巻きのまま立っていた。
裸足だ。
抱きつかれ倒れそうになった。
手拭いを二枚に裂いて草履がわりに巻いてやると、たいそう喜んだ。
村の若人が二人を見つけると、声をかけた。
嫌がる娘に、旅人が戻ると言い、連れ帰った。
宅では祝言の支度がなされていた。
婚礼はその名のとおり昏てからするものだが、夜深くとも構わない。
祝言の真似事でもという娘父に同情する旅人であった。
二月三月すると娘が子を宿した。
旅人は女の子だと判じ、瓜の娘だなと評した。
もはや娘も手を引かなかった。
十月後に、やはり玉のような女の子が生まれた。




