表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/70

小説『事件の印象』-2

小説『事件の印象』-2


事件は解決したが、被害は続いている。

亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、みなさまのご健康を祈ります。


【Caution!】

※この小説は虚構 (フィクション) であり、実在の登場人物・組織・団体などとは一切関係ありません。


〈前回〉『事件の印象-1』小説

〈松本サリン事件〉1994年 (平成6年) 6月27日

https://note.com/ichirikadomatsu/n/ndcd7c33f3d9c


*****


〈地下鉄サリン事件 (地下鉄駅構内毒物使用多数殺人事件) 〉1995年 (平成7年) 3月20日

私がテロ対策を話しても妻は信用しなかった。いちおう著名な短大は出ているが、普通の主婦がそこまで考えられるかと言えば無理だった。


妻の妹も「可能性はあるけれど」と否定的だった。妹の夫も同じ「そこまで考える必要はないでしょう」という意見だった。


誰もが身近にテロを感じていなかった。感じていないからこそ力説した——してしまった。


妻の両親にも私は危険性を述べたが、義母は私を気狂い (原文ママ) 扱いした。


悪意の想像力がない人は、愚者である。


(カサンドラだな。)


私は、トロイの予言者のようだった。


カサンドラはギリシア神話のトロイ王女だ。カサンドラは太陽神アポロンに愛され予言の力をえるが、その予言はアポロンがカサンドラを捨てる未来だった。捨てられることを恐れたカサンドラはアポロンの愛を拒絶するが、アポロンは「カサンドラの予言を誰も信じないように」と呪いをかけてしまった。トロイの木馬を運び込めば破滅すると予言したが、誰も信じなかった。


(次に何かあれば壊れるな……。)


私は妻や子を (私なりに) 愛していたが、妻はそうでもないようだった。何かがおかしかったが、それが何かを表現することができなかった。


結果的には別れてからそれが何か気づくのだが、若く人に甘い私には想像できなかった。


一方で、私の父や母や妹は素直に対策を聞いていた。単純に賢いのだろう。幸せがすぐに壊れることを知っているのだ。



地下鉄サリン事件は、身近なテロだった。方法は真似され、アメリカ同時多発テロ事件 (The September 11 attacks, 9/11) に続く。


「バカが……」


妻は絶句していた。本当に起こるとは思っていなかったらしい。現実の恐怖はそうしたものだ。

※The Phantom Menace


「それにしても被害が少なすぎる」


「こんなにたくさん被害にあっているのよ!」


地下鉄サリン事件の死亡者は14人。負傷者は約6,300人。


「予想と桁が違う」


「何を言っているのよ!」


妻はパニックになってしまった。こうなるともう何を言ってもムダだった。落ち着くまで待つしかない。


寝かせたあと、一人でビールを飲んだ。


「あまりに稚拙すぎる。軍隊ではない素人」


正直、犯人が何をしたいのか理解できなかった。


NSDAPが製造していたほどの兵器にしては、規模が小さすぎるのだ。


別に私は大量虐殺者ではないし、そうしたことも望んでいない。しかし、思考は最悪のことまで考えるものだ。


「もしかしたら……」


情報が届いていないだけで、実際はテロが進行しているのではないのか。


出席していない人間は手をあげることができない。情報がないところが、一番重篤なのだ。それは1月17日の阪神・淡路大震災で社会が学んだことだった。


繰り返すが、犯人が何をしたいのか理解できなかった。


頭と金と時間がある前提の無差別大量殺人なら、他を選ぶ。わざわざ毒ガスなんて使わない。日本国を滅亡させる目的ならより洗練された方法がある。


犯人像は高度の知性がありながら間抜けで、計画性がありながら完遂できない未熟者。金と時間と施設がある。


そこまで考えて、かなり安心した。情報がすべて流れていないと気づいたからだ。日本の警察は優秀だ。


翌朝、私は妻に「警察は何らかの情報を得ているはずだ」と話して安心させた。


「どうしてそんなことが分かるのよ?」


「違和感だよ。その違和感を説明できないけれど」


結果的には、警察組織は阪神・淡路大震災の情報から教訓をえたのだろう。冬の試練は春の花を彩る。


「私はあなたが恐いわ」


*****


〈日本国を滅亡させる方法〉#blackjoke



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ