調子に乗るな!そっくり! (尾高美知子)
奈江のことをフルネームで言うということは奈江にとって、地雷の中の地雷だからである。
そして由利は今まで、いろんなクラスメートにその名前いじりをしている。
もうその名前いじりをやり始めると由利は歯止めが利かなくなる。
一方、奈江の方はすごい勢いで由利をにらんでいるかと思いきやうつむいたまま、体が震えている。
よりにもよってなえにそれするか?奈江はフルネームで名前を呼ばれるのは極度に嫌がっていた。
そして、なぜになえがそこまでフルネームで呼ばれるのが嫌だという理由は、たった今気づいたばかりだ。
「ねぇねぇもう名前変えちゃいなよー。」
奈江は下を向いたまま体を震わせていることをいいことに、由利はしつこいぐらいになえに詰め寄っている。
「ホント私って名づけの天才かも――――。キャキャッ」
「…んなよ……。」
奈江は体を震わせたまま、何か言っている。
「え?なに?」
その声にはさすがに由利も気が付いたらしく…次の瞬間!
「ぶっ殺す!!!!」
奈江は由利の胸ぐらをつかんで由利を殴っていた。
それってつまりはだ…。
「イヤー―――っ!奈江ちゃんが指離した―――――っ!!」
ということになる。
「ちょっと何してくれるの!!?またやり直しじゃないの!!?」
千絵子はこの状況をずっと静観していたが、一人でも指が離れたことを知ると黙ってばかりもいられなくなっていた。
「うるさい!バカは引っ込んでろ!」
奈江に詰め寄った千絵子はただでさえ小柄だったせいでもあるがそのままぶっ飛ばされてしまい、気を失ってしまった。
奈江が千絵子にかまってしまったせいで、奈江にも少しの隙ができてしまったので、その隙狙って由利も奈江に反撃しだした。もう殴り合いの大げんかが始まってしまった。
とはいえ、コインをいじっている私と香寿美はそんな中でもコインから手を放すわけにはいかなかった。
こんな時に一番冷静に支持できるはずに千絵子は気絶していて使い物にならないし、香寿美はパニック状態。残る規世と映理奈はケンカしている二人に対して
「おお―いいねー、もっとやれー。」
「がんばれお前ら―――」
と煽るばかりで自分らさえ喧嘩の渦に巻き込まれなければどうでもいいって感じだ。
これで自分らが巻き込まれたら、自分も参戦するか、すごい勢いで逃げだすかだ。
もう私だって逃げたい…。やめたい…。
なんでこうなったんだろう?
やっぱりこんなこと面白半分でやるんじゃなかったのか?
千絵子の言うとおり、私らはこんなくだらないことに巻き込まれている時点でバカかもしれない…。
でも、この中で私だけはバカではないと思いたい…。
今回は千絵子抜きで何とかしないといけない。
「香寿美。何とかしよう…。」
「何とかって…」
「とにかく、前していたみたいに終わらせればいいと思う。」
「まぁ仕方ないよね」
結局今回もこうなってしまった。
多分やり直しを要求されるであろう。
本当にその通りだ。なんでそっくりさん一つもまともにできないのだろう?このメンツは?
そもそもそっくりさんをすることじたいがまともな奴じゃない…。
「そっくりさんそっくりさん。また失敗をしてしまってごめんなさい。」
“ち よ う し に の る な ぶ す”
「え?」
返ってきた答えがこれだった…。
「ちゃんと謝ったじゃない!!?なんで!!?」
“ま だ や め な い”
「嘘…」
絶望感しか残らなかった。
「どうすればいいのよ――――!!?」
そしたら指がゆっくりと動いた。
“す ぎ”
「…すぎ……?」
“む ら”
「むーら?」
「すぎむら!?」
「規世のことじゃない??」
「え?なんで私??」
ゆっくりではあるがいきなり名前が出た規世は驚いて、即野次馬をやめた。
「もしかして私が呪われている?嘘でしょ?ねぇねぇ」
規世はすでに混乱しそうな状態だった。
「知らないわよっ!!」
あまりにも縋り付いてくる規世があまりにも気持ち悪かったので、
つっぱねてやった!
私まで呪いに巻き込まれてたまるものですか!
里奈や映理奈や奈江みたいに私は少なくともまだ指だけはコインから離していない。
そして今回の規世みたいにそっくりさんからも名指しで呼ばれているわけではない。
なら、私は少なくとも呪われてはいない。
「だって!私、そっくりさんなんてまだ一度もコイン動かしたことすらないんだよっ!!?」
「うるさいっ!だったらなんだっていうのよっ!!?」
「みんなならともかく、それすらしていない私が名指しで呪われるなんてありえない!ギャ――――っ!!」
ついには発狂してしまった。
何この女。
自分だけがまだそっくりさん未経験者だって自覚が自慢するほどあるのかよ!?
最低だな。この女。
そしてその続きは私も含め、この時点では誰もが予想すらしてない事だった。




