小さいってだけで許されるな! (奥宮香理)
いろいろあって、武道を習うことになって、武道自体は好きになった。
一応初級クラスでは私が最年長であり初級クラスのキャプテンまで、上り詰めることはできたのだけど、しかしそこでも嫌なことはある。
同期の直弘、正樹、祐司たちはいずれも3年生だが、それなりに友好的でやりやすい相手ではあるが、問題は2年の藤原佳代。藤原君の妹だ。
初級クラスで女の子は4年の谷村さんと先ほど紹介した佳代だけだ。
谷村さんは学校ではクラス委員とかも務めるほど活発であるが、お稽古事となると我関せずで私語は言わずにひたすら、技術を身に着けるタイプなので、ここで仲良くなろうとしてもそういう隙が一切ない。彼女は私より一年遅れで3年生から入門した後輩だが、それでも近寄りがたい姿勢を一切崩さない。
まぁ来月から、私は中級へと昇進する話は上がっているのだが、実はここに入ったのは、私より佳代の方が先輩で幼稚園の年少の時から始めているらしいので、佳代と同時に中級クラスに昇進するという話も出ているとも聞いた。
そんなことがささやかれている中、私の心は穏やかではない。
佳代の何がイヤかといえば、一言で言えば意地が悪い。
佳代と組んでいるたびにボソッと耳元で「へたくそ」とささやかれるのだ。
ホント半端なしに不快でしかない。
この間など、佳代がふとしたひょうしに水筒を床に落とした時、私は知らん顔して通りすがったら、
「とってくれたっていいのに…」
とこれまたすれ違いざまにボソッと言われた。
あのさ、はっきり言いたいけどどれ当たり前やね?
いつもイヤなことしか言わない相手に対してそこまで親切にできるかってーの!!
いつも嫌がらせしかしてこない相手の落とし物なんか誰が拾うかってーの!
図々しすぎるにもほどがある。とにかくこいつ、私の悪口しか言わない。
おまけにそのイヤな悪口は私にしか聞こえないように言うから、質が悪い。
どうしても他人から親切にしてもらいたいなら、自分の態度改めろってーの!!
そういうわけで余計に佳代のことが嫌いになった。
私がここにきてからというものの、地味に佳代からの嫌がらせはあった。
一年前、ようやく中級クラスに昇進が決まっていた時期。こいつが毎回私の耳元で悪口ばかり言ってきたのでいいかげんムカついて、先生の目の前だろうとボコボコにしたことがあった。
そのときは
「小さい子をぶつなんてなんてことしてるんだ!?」
と館長に思い切り叱られて昇進の話が白紙になってしまった。
その時の佳代は館長の後ろで「ざまぁ」と言わんばかりにベロを出していた。そんな様子を誰も気づくはずもなかった。
なにそれ?小さい子だからって何しても許されるわけ?
それってどう考えてもおかしくない!?
うちの家庭でもそうだ!
弟ばかりが「小さいから」言う理由だけで何でも保護されるのは絶対におかしい思う。どこの家庭だって絶対そうだ。ケンカしても、ものを取られても、ものを壊されても、「小さい子相手なんだから我慢しなさい」って何!?
小さい子でも事の通りを正しく教えるのが大人なんじゃないの!?
小さいってだけでそれは許されるの!?
小さいってだけで、正しいことは教えずに躾に手を抜くわけ!?
だから大人や年上をなめるようなガキが増えるんだよっ!!
特に長子ではない二人目以降に生まれた子がまさにそれ!!
なんかそれって不平等だ!
結局、損な役回りを押し付けられるのはそこでの年長者。
最年長なら一番威張れる立場だからいいではないか?と下からはそう思われているかもだが、けっしてそうではない。年長者だから言って。偉そうな態度撮っていれば、必ずしてもなんとかなるわけでもないのだ。佳代みたいな、生意気で性格悪くて大人うけがよくて要領だけはいい厄介な奴が舌にいるとホントにめんどくさいのだ。で佳代みたいな奴に限って、なんでかそこの長になるとまた、大人目線からすれば一番うまくやってのけるので、世の中悪循環でしかないのだ。
てかなんで、私ばかり嫌がらせを受けるの!?
同い年だけじゃなく、もはや歳下にまで馬鹿にされイジメられてる有様。
もうみじめったらありゃしない!
そんな条件で私には誰も味方などいない。
最年長だから…お姉ちゃんだから… 我慢しろ!
って何!?もううんざり!!
だから絶対にこのイヤなループから抜け出してやるんだ!
中級クラスにさえ行けば、少なくともまだ6年は少なからずいる。
それも隣の宇先小6年で二人中級のまま残るとかで、その子たちのどちらかが中級クラスのキャプテンをやるという話になっているから、私はキャプテンからもあがれることになる。
何よりもうれしいことは、もしかしたら今日でこの初級クラスとも佳代ともおさらばになるかもしれないからだ。
そのためには全集中で頑張らないといけない。
並び方によっては、佳代とは当たらない日もあるが、今日ばかりはそんなことすら気にしている場合ではない。
「えいっ!」
「たぁ―――!!」
「よし!いいぞ―――!!」
かけ声が道場中に響き渡る。
「ただしぃ―――!」
1年生の正が許可なくお茶のみにいっていた。
「さぼるなー!!まだ終わらんぞ―――――!!」
と師匠が正に向かって叫んでいた。
やっぱりまだ終わらないとのこと。
そりゃそうだ。まだ半分くらいしか時間は過ぎていない。
とりあえず、今日さえ我慢すれば…という気持ちで私はいっぱいだった。
ただ、今月入ったばかりの時に館長が言っていたことが少し引っかかる。
「今回の初級者の昇進予定は、6年奥宮香理、4年長谷川誠一、 3年杉田直弘、長野正樹、原田祐司、森本茂之の6人とする。
あと2年藤原佳代のことだが…どうするか?今、考慮中だ…。」
考慮中っていったい何なんだ?
今まで聞いたことがないぞ。
これは孝昌に聞いてみても、知らないとのことだった。
まぁ孝昌も道場主の身内であり、藤原兄妹もこの道場の先生の子だから、やっぱり特別な立場な子なのだろう。それを考えるとこ根や七光りというものは、どの業界でも有利に働くいうのは頷ける。なんかずるいなーとは思える。
でも今日はそんなことすら気にしてられない。せっかく、運動会だって不参加でOKmおらえたのだから、こっちに集中だ。
「次!片手取り!」
「はい!」
「たぁーーーッ!!」
「や―――っ!」
相変わらず、道場内は掛け声ばかりだったが。やっぱりなんか聞こえてきた。
「ばーか」
「ばーか」
「ぶーす」
「へたくそ」
「ぶーす」
「でーぶ」
「きえろ」
「ぶーす」
「いじめられてるきたないゴミのくせにー」
という雑音が聞こえてきた。
佳代だ…。
今日も運悪く佳代と組むことになったのだ…。
こんな日についてない。
しかし、こんな日だからこそ、チャンスだ!
二度とこいつと組むことはなくなるなら、いっそ思いっきりやってやろう。
こいつと大真面目で組むのはこれで最後になるかもしれないのだ。
私は中学入っても続ける予定だが、こいつはホントかどうかは保証はないが、合気道は小6でやめると宣言している。なら次こいつとクラスと被る時は中高生クラスでしか無理だから、多分これが最後だ。
「たぁ――――っ!!」
私はいつもより大きな声をあげてしまった。
その最中「いたっ」という佳代の声が私にだけ聞こえてきたが、佳代のそんな陰気くさい声などかき消してしまうぐらいだった。
私に悪口を言う声同様に佳代の声は私にしか聞こえていなかった。
「いったいなー。調子に乗るなブス!」
と佳代は最後に私の耳元でぼそっと言ってきた。
最後の最後までそんな態度だった。
なんでそこまで性格悪いんだろう?
兄である藤原君はいい人なのに、同じ兄妹でなんでここまで差があるんだろう?
「はい!まだやめなーい!ラスト―!」
ラストが終わり、最後の挨拶も済ませた。
今日は特別な日でもあるので館長が初級クラスまで顔を出していた。
「えーこの度来月より、6年奥宮香理くん、4年長谷川誠一くん、 3年杉田直弘くん、長野正樹くん、原田祐司くん、森村茂之くんの6人は中級クラスに予定通り昇進することにする。
そして、初級クラス新キャプテンを4年谷村早季子くんに任命する!
10月より幼児クラスより特別昇進者1名、新入生が3人入門してきます。みんな仲良くするように。
以上!」
という通達があった。
やったーやっとあの佳代と別れることができたんだー。
ホッとして喜んだ瞬間だった。
「あ、あと藤原佳代の事なのだが…」
館長より佳代のことが話題に出たのだった…。




