6年4組Bクラス担当 (吉川修二)
翌日
私はとんでもないことを引き受けてしまった。
というか何年ぶりだろう?
担任などに任命されるなど…。
それも今回のことは異例で、私の立場は一応降格にはならないとのこと。
それも6年生。
だから中には受験生もいるはず。だが聞いた話によれば、私が受け持つ中には中学受験の子はいないのでそこは気楽でいいとまで言われた。
まぁあったとしても、あくまで受験理由が高校受験のおおよその練習としてとかチャレンジで受けるだけなのでそこまで責任はないということ。
そこのところはまぁ気が楽なんだが、かなりひどいいじめがあるということは去年から耳にしていた。
問題はそこである。その点を背負うとなると正直かなり面倒な話だ。
教師にとっていじめの問題は受験より難しい。
校長曰く、「君なら信用している」とのことだが気が重い。
ガラっ
私は教室の戸を開く。
中を見てホントにびっくりした。
どういう事だ?
「あ、先生おはようございまーす。ほとんど誰も来てないんですが?どういう事でしょう?」
このだだっ広い教室の中にいたのは、たったの8人…。
この小柄な少年が言うようにホントに教室内は空き席ばかりだった。
正直、だいたい一クラス分の半数を受け持つつもりで来たのだが、ここまで誰もいないのはいったいどういう事であろうか?
聞いていた話によれば、教室にいるだけの生徒だけの担当をよろしくされたのであった。
確かにホント中学受験とは全く縁がなさそうなメンツばかり思う。ただ微妙なのが一人おるが、どう考えても受験しようという欲や家庭方針はなさそうな感じだ。
問題は…奥宮香理がその8人の中にいる言う事…。
ほりくんいわく、この子がクラスで1・2を競う問題児という事だが、久しぶりに担任を務める私に務まるのであろうか?
とりあえず先を進めなければならない。
「あー紹介するまででもないが、本日付けより6年4組Bクラスを担当することになった吉川修二です。まぁよろしく。」
「え?これから吉川先生が担任なのですか?それとBクラスって何ですか?」
相変わらず喋るのは小柄な少年だけだった。
まぁ今まで教務主任の身であったために、子どもたちは驚きを隠せないようではあるようだ。確かにそこは私もかなり疑問なのだが任命されたからには仕方なしな状態だ。
ただこのBクラスというのは、昨日ここに赴任してきた渡辺君の発案で急遽6年4組をAクラスとBクラスに分けることが決まったのである。
渡辺君は実は教員ではない。一応各地域にある問題クラスを受け持ち、問題クラスの生徒を更生させていく更生委員的な存在らしく、よく判らないが我々一般教員が口出ししてはいけない存在らしい。
そして一度依頼したからにはその人が言ったことは絶対であり、もはや誰も口出しすることはできないらしい。
そんな面倒ごとに私は完全に巻き込まれたらしい。
「実は本日より君たち6年4組はAクラスとBクラスと教室を分けることになりました。すべては上の人たちからの決定事項です。分けられたからと言っても、授業はこれまで通り普通に行っていきます。そこは安心授業に取り組むように。」
「なんかよく判らないけどすごいことになってしまったんだなー。こんな話聞いたことないぞ。」
私だって聞いたことがない。
よほど過疎化が進んでいる田舎の学校以外で、ここまでの少人数クラスを任されるなんて、異例中の異例だ。
こんな状況で、まずやらなきゃいけない事として…。
「まず席の配置を整えます。使ってない机や椅子は後ろに固めて、君たちの机はなるべく教卓の前に並ぶようにそろえてほしいのだが…。」
うまいことやってくれるだろうか?
と思った。
思っていたよりそればかりは言う事は聞いてくれた。
もちろん、ここまで少人数だと時間がかかるので私も席の移動は手伝った。
思っていたよりかは早く終わったと思う。
私はその席が整うまでにここにいる子どもたちの名前をすべてチェックした。
まずは奥宮香理。
このクラスのいじめられっ子。問題児。と言われている女子だ。
宿題や忘れ物も多いらしく、そういった意味でもしっかりチェックしていきたい。
次に勝島宏樹
クラスの委員長。
いつもはクラスのまとめ役だが、今回の件でいろいろあったせいで心が折れてしまってここにいるとのこと。だからいつも通りではないので、今は当てにできないとは聞いた。
今日ここにきて、唯一口を開いた藤原巽
誰とでも仲良くなれるクラスのムードメーカーだが運動はイマイチ。
人より要領がいいので、誰から憎まれることがない得なタイプ。
奥宮香理と仲良しな千賀真穂
まじめで勉強はできる方だが、それ故に面白みは欠ける存在。
奥宮香理と同じく体育は苦手で要領はあまりよくない。多分まじめなのが取り柄。
村木さゆり
この中でもおそらく一番協調性がある彼女が、なぜこのクラスにいるのかは謎だが、ここにいる言う事はここのクラスだということになる。
荒谷郡二
村木同様。基本運動会に参加しないとされる人物がここにいるはずにもかかわらず、
近松君の次に足が早いとされる彼がなぜここにいるのかが謎。キャラ的に彼はクラスのお笑いトリオの一人。その一人だけなぜ抜けてここにいるのかが謎。
西垣数
無口で普段は特に目立つ要素がない。暗いというよりクールな性格といったところか?
身体を動かすことは好きで、スポーツとか身体を運動系のことには意欲的だとは聞いているがなぜか運動会参加を辞退したとのこと。
そして、柳生孝昌
勝島が呆けている今、このクラスで一番あてになるしっかり者はおそらく彼であろう。
ただ、クラスメートからの人望は勝島より無い。普段の鋭い物言いと言い、強面の顔も合わさってあまり好かれる存在ではない。
なんか彼については自分がよく知っている誰かに似てるなと思いながらも
そして私がその彼に頼ろうとした瞬間。
「あぁ柳生君」
「なんですか?」
とふりむきざまにいきなり睨まれてしまった感じがした。
本人はそのつもりはなくてもホントにそう思えてしまうのは本音だ。
ただ私は教師である、子ども相手にここはひるんではいけないところ。
「少しだけ時間いいかね?」
他の子たちは机を運んでいる中、彼だけ廊下まで呼び出した。
「実はお願いがあるんだが、あのクラスの代表を君に任せたい。」
ホントそれしかない状況。
「本来なら、ここは勝島君がやるべきこととは思うが、見ての通り勝島君は今ではなにもやる気は起きていない。」
「だから俺に頼みたいのですか?」
全部見抜かれていたようだ。
「日直制度にしませんか?俺、そういうのはガラじゃないので。」
見事に切られた。
「それにいきなり代表者変更なんてことしたら、勝島のプライドだってズタズタですし、ただでさえあんな状態なら、余計にむやみに代表者は決めない方がいいかと思います。」
なるほど、それも一理ある。
「判った。では君の言う通り日直制度にしよう。相談に乗ってもらってありがとう。」
「いえいえ」
こうして、私にとってひさしぶりの担任生活が始まった。
言われたことをやっていればいいとのことだから、それさえ何とかすればいいものの、本当にこれでいいのだろうか?という疑問だらけな状態であった。
「えっとまぁ、今日の予定は1時間目算数、2時間目国語で、それ以降は運動会の裏方として、小道具づくりをやってもらいます。」
とりあえず、きょう渡辺君から言い渡された指令はこの予定であった。




