その名も「そっくりさん」
あーただでさえ嫌で嫌でたまらなかったのに、こいつらは懲りもせずしょーもないことをしている。
そこにいたのは同じ帰宅班でここに集合することを約束した尾高美知子、水野由利、樹 映理奈、木田奈江の4人。
とそれに付け加え、尾高グループの一員の近藤香寿美。近藤の連れとして連れてこられたと思われる築里奈。おそらく部活帰りの途中で立ち寄ったと思われる杉村規世。その相方の高須雅はいなかった。どうした?と聞いたら、今日は塾があるから帰ったとのこと。
私の前に計7人もすでに来ていた。私と神子さん含めると9人。もはやクラスの女子の半数ぐらいがここに集まっている。
そんな中で何をしていたかといえば、ここ数か月ほど学校で流行している「そっくりさん」という、占いみたいな交霊術をしていた。やり方的には紙に文字「あ」~「ん」までにひらがなと「0」~「9」までの数字を書いて、10円玉みたいなコインを使って占うあれだ。1か月ぐらい前にも私はそれをやらされて、ひどい目に遭ったばかりなのにまた懲りもせずやっている彼女らを見て、
「ちょ、なんでまた…?」
私はさすがにこりているので、もう絶対にごめんだと思っていた。それも今回はよりにもよって、神社がステージ。場所が場所なだけに相当やばくないか?
「あ、そういやこの間は映里奈の家が会場だったよねー。」
「でもさ、あの時のはものの見事に失敗したじゃん。」
「多分、場所が悪かったと思うのよねー。」
「だから、今度は神社を会場にしたわけ?」
「そうそう」
「だってこっちが会場の方が思いっきり当たりそうじゃん」
美知子と由利と規世の3人が答える。
彼女ら3人はコインに手を置いてないので、私の質問には余裕で答えられるというわけだ。
実際この3人は性格的に自分の手は一切汚さない主義なので、今回にしろ前回しろ他人にやらせるだけやらせて、あくまで自分たちは何もしない状態であった。
ホントやる事が汚すぎる。
だから今日はその人手を集めたいがためにあれだけ断っていた私まで呼ばれることになったのか?
それも場所が神社だなんて、なんかあったら余計にやばいんじゃないか?
そして実際コインに触れているのは、木田と映理奈と築さん。
何この危ういコインメンツは?はっきりいって木田以外しっかりした子ではない。
「言っとくけど、私は今回は絶対にやらないからね!」
「判ってるわよ。」
「もうそろそろ終わろうとしているから、あんたの番までは回ってこないわよ。」
そうホントにもう冗談じゃない!
前回のそっくりさんで一番被害に遭ったのは私なんだからね!
とホントに怒鳴りつけてやろうかと思ったけど、睨むだけで済ませた。
それを察した規世が意地悪く笑って、
「ああ、前回のことまだ根に持ってるのね。」
「あたりまえでしょ!」
「そういや、前回あんたが調子こいて香理の好きな人は誰かを聞いて、あんた次の日香理にビンタされたんだっけ?」
「きゃははははははー。」
「あれマジで傑作だったわーwww」
「うん、大傑作の呪い。」
「てか、人からビンタされるだけの呪いで済んだんだから、よくね?」
ああ思い出したくもないネタをまたバカにされてしまった。
「まぁいいじゃん。もしまたなんかあっても私らは香理よりあんたの味方だからさー。」
てか、あんたらに味方してもらってもうれしくもなんもないが、まぁそれでも大所帯のグループにいるだけで、香理みたいにいろんなところから標的にされないというメリットはある。
でも私的にはこの大所帯グループはどうも居心地悪い。ずっと一緒にいるのはやっぱり苦痛でしかなかった。
「また、あんたと香りが喧嘩する言ったさーおもしろいもの見せてよー。」
やっぱりこいつらは人をおもちゃでしか見ていないのはよく判った。
これを機に私はこの集まりは全部無視することを決めた。
とおもったら…、
「そうだなー最後の締めに、また香理のそっくりさん呼び出してよー」
「おk」
おいまたかよ!
「そっくりさんそっくりさん。奥宮香理さんのそっくりさんおいでください。」
そう、そっくりさんとはその本人にそっくりな分身みたいな一部を少しだけ呼び出し、本人の心を少しだけのぞくという交霊術と言われている。
これ本当なのだろうか?と思えるほど眉唾物で、実際は外れることもよくある。そんな外れることも当たり前のようにある占いなのに、よく何度もできるよなとホント呆れている。
実は先月私は面白半分で香理のそっくりさんを呼び出したのだが、これがまたここにいるメンツには大うけしたんだよな。それでさっきも規世が言った通り香理に怒られ喧嘩になったことで私は一応懲りたんだよな。
まぁあの時は私だけが被害に遭っただけなので、自分さえよければどうでもな考えだから、こうなんだろうけどなー。
そして、無情にも質問が始まる。
「この間の算数のテストは何点ですか?」
少なくともコインの近くには近寄りたくないから、部屋の入り口付近より奥には進まなかったからなんも見えないけど、とにかくコインが動いたという反応があの周りにはあった。
「きゃははははは―44点だってーwww」
「やっぱあいつバカだぁーwww」
部屋中に美知子と規世が香理をバカにする声が響いた。
って香理44点って、私の35点よりいいじゃんか。
というか、この中にその44点より悪い子だっているんじゃないか?
と思っていたら案の定、苦笑いするのが私以外に二人はいた。
黙って見ていた近藤香寿美とさっきまで一緒になって騒いでいた水野由利。そして占いの最中だった築 里奈だ。
由利なんて、さり気に美知子と規世をすごい目つき睨んでいる。
女って普段は仲良くしているが、結構小さなことで恨まれているのでホント恐ろしいものだ。
まぁ今回テストの点数とかだけですめばいいが…、
「じゃあ、好きな人はいますか?」
これを聞いたのは築 里奈。
ああやっぱり聞いたか、知らんぞマジで知らんぞ。
「いーなーい。」
「いないとでた。」
ちょっとホッとした。
この間なんか、すごいことに「ちかまつなおやがすき」と出たから、みんな大騒ぎしてたっけ?
その騒動から香理は私にビンタし、理不尽にも香理は近松からボコボコにされ、まさにカオス状態だった。近松も近松でまさか女子に手をあげたことにはホント驚いたが近松曰く、
「こいつは別に殴ってもいいんだよ!ゴミだしカスだし人間じゃないし!」
すごいことに前のクラスじゃ香理は殴ってもいいルールとなっていたらしい。
そんなクラスルールにはさすがに私も驚いた。
私だって兄貴にすら、手をあげられたことないのに信じられない世界だった。
私はそれを知ったとたん、少なくともかおりみたいな立場にだけは絶対になってはいけないと思った。だから、今いるメンツにも嫌々だけど、たまには付き合うことを決めたんだ。
そしてあの時、教室で香理が必死に訴えたことは
「こんな人を平気で殴れる奴のこと誰が好きになるって!?お前は自分を殴るような、こんなクソな男好きになれるのか!?あ!?」
と私の胸ぐらをつかむような勢いで、私に向かってきたことは忘れもしない。
あのあともあのあとで
香理はすぐに帰ってしまった。ただ不思議なことに香理の方は翌日すっかり忘れたかのようにすっきりした顔でまた学校に来てた。
はっきり言って、私のことをビンタした事すら忘れていたぐらいの晴れ晴れしい顔をしていた。
そしてなんでか翌日誰がやったんか知らんけど、近松の顔と頭がボコボコにされていた。
どうやら、近松は先日夕方ごろ野球の練習で遅くなって帰宅するころで、何者かによって闇討ちにあったらしい。
まさかね…
とは思うけど、それを考えると私はビンタされただけですんで、まだマシだったんだろうか?とあの時の近松の姿を見てそう思えてきた。
「なぁーんだつまんねー」
まぁあの時のからくりは私が早く帰りたかったから、実は私が適当に動かしたのもあるんだけど、今回はどうやらそんなズルをする人は誰もいなかったらしい。
「あーあもう萎えたから香理のそっくりさんに帰ってもらお。」
「そうだねー」
「じゃ奥宮香理さんのそっくりさんお帰り下さい。」
これで何事もなく終わる…
とおもったその時…
ごっごごごっごーーーーー
すぐ近くにいない私の耳まで届くような音を立てて、十円玉が動いた。
「…え?」
「ヤダ…。」
「なんで?」
コインを触っている当事者だけでなく、それを見ていた全員の顔が青ざめている。
私と同じく部屋の隅の窓際でぼーっとしていた近藤香寿美でさえも
「どうした?」
と離れたところから突っ込みいれていた。
音だけ聞けばまだ十円玉が動く音がする。
「なんで!?なんで「イヤだ」としか出ないの!?」
どうやら察するに「い」と「や」と「た」との文字をぐるぐる回っていて、いつまでたっても止まらないらしい。
「イヤーーーーーーーーーっ!!!」
注1)
そっくりさんとは本来はない作者が勝手に考えた架空ものです。
本家で有名な「コッ〇リさん」を使うとあまりよくないと考えて、ただ単に本家をぱろっただけの名前をつけたなので絶対に真に受けたり、実行しないでください。
もし仮にまねてなんかあったところで、私作者は一切の保証は致しません。
あくまで自己責任でお願いします。