先日どうであれ、本日は敵!? (奥宮香理)
校内で、堀先生の訃報が流れた。
この情報を学校に来て初めて情報を知る者にとってみれば、かなりショックを受けた者もいた。
何分、月曜の朝だった故に全校朝会ではもっぱらその話題ばかりでもちきりだった。
私も今まで立ち会ったことはなかったが、「一同黙祷」という言葉を初めて聞いて、全校児童や職員が全員堀先生の冥福を祈ることとなった。
そして、我がクラスの新担任はまだ決まっていないらしい。
決まるまでは教務の吉川先生が授業のみ担当するらしい。
他の子とは適度に監督はしてくれるらしいが、あの怖いことで有名な吉川先生だ。誰もまともに関わることはないであろう。
そして今日の時間割は
1時限目全校朝会
2時限目音楽
3時限目社会
4時限目国語
5時限目運動会の話し合いと準備
6時限目運動会の話し合いと準備
だ。
音楽は女が担当の雪村先生という女性の先生が担当するので、実質上、吉川先生が担当するのは3時限目と4時限目のみとなる。そこさえうまく乗り切ってしまえば、どうにでもなる。
それにいじめられっ子の私からすれば、むしろ吉川先生が担当になってくれることはむしろうれしい。そうすればクラス全体が大人しくなってくれるので。私は吉川先生のことは大歓迎だ。あと給食も吉川先生はうちのクラスで食べる言う事なので余計に助かるのだ。
給食の配膳とか、吉川先生に関することはすべて私に押し付けられているらしいが、別にそっちの方が好都合だ。
それに、私が一番吉川先生とお話してみて分かったことなのだが、吉川先生はみんなが思っているほど警戒せずとも、割といい先生であることは判った。ただ、私も普段はあまり接することはない先生なので、かなり緊張はしたが、一応今日の任務は無事終えることはできた。
私にとって問題はこれから起こる、5.6時限目の学級会だ。
あいにく、授業と給食の時間以外は吉川先生はほぼ一切関与しないので、今は吉川先生は不在だ。
正直、運動会のことを考えるだけで憂鬱いうのに
女子のクラス対抗代表リレーは
尾高美知子、黒島美由貴、杉村規世、高須雅の4人と補欠は木田奈江で確定だが、問題は男子の方である。
代表リレーのエースである近松が骨折したために確実に出られないという事態になっってしまったのだ。それも近松が走るのは男子代表リレーのエースを張っているとなるとアンカー。一番重要ポジションが抜けたのだ。
残った男子代表選手は、加藤清高、荒谷郡二、福田寛也の3人で、補欠は兼松かつきだ。本来なら、補欠の兼松が繰り上がりで入ればいいのだが、それを本人含めて誰もが納得していない状態が今…。
「やっぱりこうなったら、荒谷がアンカーで頑張ってもらうしかないな。」
と勝島が言うと
「冗談言うなよ。さすがに俺だってアンカーは無理だ。」
「そこをなんとか、だいたいこのクラスで一番足長いのはお前なんだから、そこで何とか頑張ってくれよー。」
「そもそも補欠は兼松なんだろ?だったら、そのまま補欠にそこ入ればいいじゃんかー。」
「おいおい、勘弁してくれよ。そんな重要ポジは補欠の俺じゃ余計に無理だろ?」
「もういっそ、委員長がアンカーやれば?委員長だってそこそこ早いやん。」
「それこそ冗談言うなよ!そうはいっても俺はお前らほど早いわけじゃないの!あんなクラス代表となる奴と走るわけだから、俺なんかが出たらあっという間にビリだぞ!」
男子の代表者は本気で困っている状態だった。もう押し付け合いの嵐だった。
そしてただでさえ男子だけでも困っているというのにさらに追い打ちをかけたのが女子の代表の方だった。
「あのさ男子、じゃあ順番を一番手を雅やめて、規世にすればよくない?でもって雅をラス2にして追い上げてもらってさ、逃げきればよくない?」
女子委員長の尾高美知子の意見だ。一見それで解決する方向へと行きそうだったが、
「なんで相談もなしに勝手に決めるの!?なんで私が美知子の言うこと聞かないといけないわけ?私あんたの言いなりにだけは絶対になりたくない!てか、一番手走るのヤダ!」
といきなり、杉村規世がいつもはそれなりに仲がいいはずの尾高美知子に反発しだしたのだ。お前らなんかあったのか?と誰もが訪ねたくなるほど、険悪な空気が流れている。
男子のリレーアンカーがエースだとすると、女子の一番手はチームのかなめだ。選ばれれば、このクラスの女子で一番の俊足という代名詞でもあるのだ。それをあっさりと断っているとなるとよほど自信がないか、めんどくさいと思っているかであろう。がしかし、いつもの規世なら喜んでそれを受け入れているはずだが、今回ばかりはそうではなかった。明らかに美知子の言う事だけは聞きたくないというのが本心のように誰もが思えた。どうやたこの運動会前に代償選手内で、激しい件かとなってしまったらしい。運動会では最も息を合わせないといけない種目の選手同士がこれだと、今回ばかりはいい結果を望めなさそうだ。
この様を状況を見てさすがにこの二人以外の選手である高須雅も黒島美由貴もなんとも言えない様子だった。特に自分からは面倒ごとは一切やらない黒島美由貴など、いつも通りその場から約3メートルぐらい離れて、あくまで自分には被害が及ばないようにしていた。ホント毎度あからさまな距離を置いているのはバレバレだった。
かといって、このクラスの女子で他にまともにしっかりしている子などはいない。本当にこの状況をなんとかする者がいるかといえば、今更この顔す感をまとめることができそうなものはもはやいなかった。
まぁあえて言えば孝昌ぐらいなものだが、孝昌も孝昌で今回ばかりは珍しく、いつもよりかなり消極的だった。
まぁ孝昌も武道や格闘技は長けてはいるが、かけっこは普通の中の普通。そこまで得意ではないので、安易に自分が無責任にしゃしゃり出ることは難しいのだろうなーとは予想がつく。
「なぁみんな頼む。事情はどうであれ協力してくれ!近松がいないことを考えると俺らでなんとかフォローしないと勝てないんだよ。」
担任もいない、運動会のエースもいない。委員長勝島はそんな状況下でものすごく必死で動いていた。まぁ自分が全部背負うことになってしまったその思いは判るんだけど、
「そりゃそうだけど、そのいない分のフォローどうやってやるのさ?」
「みんなには悪いが、個人種目のかけっこでビリとった奴は絶対的に罰ゲームな!」
「!?」
それさ、近松が言っていたことそのまんまやん。
と思わず口に出そうだったけど、誰もそれを口に出さないのがこういう時でのお約束。
「例のごとく集団処刑か?」
これは去年もこのクラスで実際にあったことだが、運動会でビリになったもの数人が、なんかの遊具に縛られてはりつけにされて、ビリにならなかったクラスメンバー全員から、ドッジボールで問答無用にあてられるというフルボッコ(集団処刑)するというとんでもない罰ゲームを本当に行っていたらしい。
あくまで私はあとで聞いた話だけで、そのゲームには一切かかわっていなかったりする。
去年の私のかけっこの成績がたまたまブービーで、ギリギリ難を逃れたから呼ばれなかった。そして本来なら、ブービーでもボールをぶつける側として参加するように言われるはずだったのだが、私はクラスの嫌われ者故にこの行事に関しては、運よく仲間外れだったのだ。ちなみにこの時、万年ブービー確定の真穂もボールを投げる力が弱すぎるというのが原因で呼ばれなかったらしくて、この件を千絵子から聞くまで知らなかったらしい。
本当にビリになってしまった千絵子曰く、本当にそれやられたらしい。
ビリを取っても呼ばれなかったのは、小峰留美子と神子三果ぐらいなものだったらしい。千絵子曰く「こういう時だけはクラスで一番足が遅くても、クラスで一番かわいいってだけで免除してもらえる贔屓感は絶対にある!」と本当に悔しがっていたのは覚えている。三果は多分、神社の子に手を出したらと呪われると恐れられてやめたのだと思う。
私的にはまたかよー「ビリとった奴はぶっ殺す!」去年も今年も近松がボソッと言っていたことを思い出した。
とりあえずビリさえとらなきゃいいのな。
それでも私はかなり微妙だが、個人的にはブービーにはなりたいと思っているのでべつにいいかーと思っていた。でもそのブービーですら取れるかどうかも毎年あやしいのだ。私の場合はだいたいどれだけ頑張ってもビリかブービーしかとれない。
そしたら、委員長勝島はさらにとんでもないことを口走った。
「今回は申し訳ないが、近松がいないのでレベルを上げてブービーも罰ゲームな」
「はー??????」
「なんだよそれ―――――!!?」
この言葉にはさすがに私も納得いかなかった。
この言葉にはクラスの3分の一ぐらいの人口のボリューム声で文句が飛んだ。
「仕方ないだろ!?そうでもしないと優勝できないじゃないか!」
「質問!」
そこで手をあげたのがまた山浦淑惠だ。
「ん?なんだ?」
「その罰ゲームって去年もやったあれでしょうか?」
「ああ、あれだ」
「ではブービーへの罰ゲームも同じくあれでしょうか?」
あ、もしかしたらブービーへの罰ゲームは違うかもしれないかもだ。
私はそのことに期待した。
「もちろんだ!」
勝島がそう答える前に男子リレー代表の福田寛也が勝島の前に出て勝手にそう主張していた。
さすがに勝島も福田のその勝手な行動にぎょっとした顔で困っていた。
「え――――!?なんだよそれ――――!!?」
それが実際は福田が言った事でも、まるで勝島が言ったことだとでも思ったクラスメートたちが本気でブーイング言っていた。
「ちょちょっと待て!さすがに俺はそうとは思わんぞ!だいたい、ブービーにまで、あれに時間をかけるとなると正直、時間の問題が半端ないぞ。」
やっぱり勝島だ。それなりに考えはあるらしい。
「よし!ブービーは掃除当番一か月分だ!」
「はー?なんだそれー!!?」
確かにあの貼り付けリンチよりかはマシかもだけど、それはなくね?と思った。
一か月も数少ない人数だけでやるなんて拷問過ぎないか?
というか、すでに私は少なくとも掃除当番はほぼ確定ではないか?
「頼むよ。今回近松が出られないことは確定してるから、ただでさえ厳しいんだ。小学生生活最後の運動会でもあるし、それに出られない近松にもうちのクラスが優勝した言う事で思い出作りたいじゃないか。だから近松のためにも…。」
さすがに私も委員長の話を聞いていてイライラしてきた。
「あのさ、委員長。委員長が言いたい気持ちは判った。
でも、優勝ってしなきゃいけないものなの?」
「そりゃやるからには優勝したいじゃないか!?」
「そうだよ!お前みたいなうすのろは黙って聞いてろ!?」
「そうだそうだ!!」
私を責め立てるのは言うまでもなく近松グループの体育会系のスポーツ大好き少年グループだ。小学生クラスのリア充いうのがまさにこのグループと言ってもいいだろう。つまりは私の敵である。
そして
「奥宮!お前、足遅いくせして生意気だぞ!」
荒川郡二でさえ、オフの時とは全く違う態度を取られる。
まぁ仕方がないことだ。
そんなヤジなど無視だ!
「でさ。さっきから黙って聞いていれば委員長が言っていることは全部近松の言っていたことそのまんま言っているだけじゃん。」
「そんなことは…。」
「ないとは言える?そりゃブービーの罰ゲームは今とっさに自分が思いついたことを言った事だと思うよ。でもそれもかなり適当な思い付きでしょ?その適当な思い付き以外に関しては近松が言っていたこととほとんど一緒のことじゃん。
まぁ近松みたいに「ビリはぶっ殺す!」とまではいってなかったけどさ、結局やってることが近松と変わらんやん。」
「だから何だって言うんだよ…」
「それ本当に委員長の意見なの?委員長の考えでそれ言ってるの?」
私はそこが知りたかった。
どう考えても勝島と近松では全然違うタイプだ。全く同じ考えであることは私的には思えれない。
とりあえず、勝島は近松とは違って、女子から何らか意見を言い換えさえても、女子の話に耳を傾ける気持ちの余裕はある奴だ。
「さっきから、委員長の主張の中に近松近松ってさ、近松の名前ばかりがちらほら出てるのってなんで?」
勝島はもうこの時点で下を向いたまま微妙に震えていた。
さすがに言い過ぎたかな。
でもやっぱり、私としても勝島の本心を聞き出したいからこそ、勝島の意見も聞いているのだ。
「どう考えてもそれって、委員長の意見じゃなくて近松の意見がほとんどだよね?」
私は何やってるんだろ?
運動音痴で運動会の足引っ張る側の人間いうのに、その運動会のことで思いっきりどっぷり意見言ってる。これ私…相当やばいかも。
「せっかく今回近松がノータッチな運動会なんだから、私はそれこそ近松の意見はほとんど抜きで、小学生生活最後の運動会を楽しみたい!」
なんか運動会で活躍できる場面など全くない存在の分際で、すごくわがままなことを言っているのは承知だ。
「今までの運動会ってさ、「ビリだった奴はにらまれる」ような感じで、運動できない側からすれば運動会なんて苦痛でしかないのだよ。それを今回はなぜか運動会の頂点である独裁者がいないのなら、いないなりの運動会を楽しんだ方がみんなでのびのび楽しめる運動会ができて楽しめるチャンスなんじゃないの!?」
まぁそれははっきり言って勝ち負けにこだわらず、優勝できないかもしれないやり方かもしれないが、たまにはそういう運動会もあってもいいではないかと思う。
その優勝しない予定の運動会の作戦など、おそらく魅力はないだろうし、破天荒すぎて誰もやる気など起きないかもしれない。そして相変わらず、私みたいなのがなに言っても誰も心に響かないのだろうけど、クラス中はシーンと静まり返っている。
「私、せっかく今度こそはお弁当以外で心から楽しめる運動会ができると思っていたけど…」
そう、私は今まで運動会の楽しみといえば、母が作ったおいしいお弁当しかなかった。
かけっこはいつもビリかブービーの接戦だし、お遊戯やフォークダンスなんて、運が悪いと苦手な男子と手を握らないといけないハメになるかもと毎回ひやひやものだし、そもそもダンスそのものが苦手だ。そして騎馬戦は今となっては孝昌の監督で何とか普通に参加できるようにはなってきたが、3.4年の時は本当に悲惨だった。私はこの一年で一番過ごしやすい時期をこんな疲れることだけに使う言うのは時間の無駄であり、つまらないだけの期間でしかなかった。
「今まで通り、力だけでねじ伏せられたルールの運動会のままなら、おもしろくも楽しくもないから出たくないっ!!」
私はそのままカバンだけ持って教室を出ていこうとした。
「おい!こらちょっと待てっ!奥宮っ!お前どこに行くんだよっ!?」
「もう帰るわ!参加しない人が運動会会議に出てても意味ないでしょ?」
「おい!勝手なこと言うな!」
「だっていつも近松にしても田岡にしても星川にしても杉村にしても由利にしてもお前にしても言ってるじゃん!「奥宮みたいな奴がいると迷惑だ!」って!
なら、足引っ張るだけの迷惑者は参加しません!帰ります!」
「え―――っ!?」
クラスメートはあっけにとられていた。
「それでも参加することに意義があるんじゃないの?」
そこへ突っ込んだのは女子で違う声だった。
あの優等生の山浦淑惠だった。
この女こういう時だけは地味に意見して貢献する。
優等生女子の面倒くさいところだ。




