地味に性格悪い完璧主義者 (黒島美由貴)
どうも聞く話によれば、堀が死んだらしい。
私に葬式に行けいう命令が出た。
そういうものはクラス委員が出るものだと思っていたがどうやら、その女子代表の尾高美知子が問題を起こしたゆえにそれができないらしく、その役目がクラスの女子で二番手の役を担う私に繰り下げしたらしい。
はっきり言って拒否一択を選びたい。
だって堀だよ?
はっきり言って勉強以外でまともに世話になったことがない。
それもその勉強の教え方もかなり事務的過ぎて、人によってはやる気をなくして話さえ聞きたくないような感じ。
まぁ私はできない事があるのは恥だと思うので、それでもくらいついてはいるけど、いつも教室で一緒にいる相方の恵子なんて、竹本先生の時に比べればかなり駄々すべりな成績になってきていて、ホント判り易いほどつまんない担任だ。
あんな機械みたいな女が死んだところで、何とも思わない。
「すみません。教頭先生にはたいへん申し上げにくいのですが、実は私、本日は3か月前から予約していた病院に行く用事がありまして、何とか違う方にまわすことはできないのでしょうか?その病院の予約、人気がありましてなかなか取れないの困っているのですが…。」
と我ながら、かなり丁寧な対応で断ったつもりであった。
「事情はよく判ったけど…。」
やはり葬式関連のことを断るとなると印象は良くないだろう。
教頭先生はあまりいい顔しなかった。
「黒島君まで来れないとなると、いったい誰にすればいいか…。誰か黒島君と仲良しの子か、お奨めの子はいないかね?」
仲良しのこと言っても…。
私はいつも恵子としか行動を共にしないから、こういう時に親しい仲と呼べる人徳はない。
当然恵子はダメだろう。
あの子は私以上にわがままで自分勝手すぎる。そんな面倒くさいことなど秒速で断られるだろう。それもあのキンキンとしたヒステリックな声で…。こんな時にまであんな声で、文句言われるのはごめんだ。
これが4年生まで自分の相方だった日野不二子、フーコならホント気軽に頼めそうなのだが、あいにくフーコは2組で、クラスは別れてしまった。まぁその代わりに5年の新学期の時にたまたま席が前後だった栗田恵子を自分の相方に添えた。最初のうちは成績も中の中だし、まぁまぁ妥当な相手だろうと思っていたが、先ほども言ったとおり、担任が堀になったとたん、恵子の成績はがた落ちして、恵子はすでに私に見合う相手ではなくなりつつある状態だ。そろそろこのコンビのバランスが崩れつつあって厳しいところだが、今更、コンビ解消して他に組める妥当な相手もいない。
卒業まであと半年。
持つといいなー。
そして恵子と違うクラスになったら、即このコンビは解消して、新たに妥当な相方を見つければいいとすでに思っている。
「んー」
そんなことよりも誰か私の代わりに葬儀に参列してくれる代役だ。
恵子がだめだとすると、昨日いた中で一番しっかりした女子といえば、女子体育会系グループのリーダー高須雅ぐらいなものだ。
でも雅はなー。
正直借りを作りたくない。
雅になるべく面倒ごとを押し付けるとなると、いざこっちが頼ろうとしたり、フォロー入れてほしい時とかにさり気に助けてもらえなくなるのは困る。
それに雅にはあくまで私はできる女の子で見られたい。雅のグループとだけは、他グループでも友好的な存在でいたい。
だからなんといってもこの私の腹黒い性格をさらすことはできない。
そうなると…。
適当に言うこと聞いてくれて、あとで恨まれようが嫌な女に見られようがどうでもいい子がいい。できれば、そいつの意見一つだけでは誰もまともに取り合わないような存在…。
そうだ!
「…奥宮香理さんがいいと思います。」
「えっ!?」
私のこの意見にはさすがの教頭先生もびっくりした声でだった。
さすがに電話の向こうでもその驚きは隠せない状態だった。
「君…なぜ?…よりにもよって……奥宮君に?」
そりゃそうだよな。
こういう時こそはクラスでもかなりのしっかり者を選出したいというのが、大人の本音だろう。それをよりにもよって、クラスで地味で何もできそうもないような子を奨められているのだ。さすがにそうもなるだろう。
だから…
「教頭先生もご存じかと思いますが、奥宮さんはクラス内でいじめを受けていました。だから、あの堀先生に一番苦労かけたのも彼女だと思います。だからこそ彼女にはその恩もあり、それに応じないといけない気がします。その理由として、私は彼女がいくことがふさわしいかと思います。」
ときちんと理由までつけて言い切った。
「んー…。」
教頭先生はまだ迷っているようだ。
「大丈夫です!彼女はおとなしいことが取り柄です。ああいう場に出向くのは、おとなしい子こそがむいているかと思います。」
そうだ。
あの子の唯一のとりえは陰気くさくておとなしいことだ。
ならピッタリじゃね?
逆に雅みたいな根っから明るい子には似合わない場だ。
私ってマジ頭いいー。
「判った。そういう事なら、奥宮君にあたってみるよ。ありがとう。」
「こちらこそ、お役に立てず本当に申し訳ございません。」
ということが朝っぱらからあったのだ。
何とか、香理に擦り付けることができてうまくいった。
ホントに朝っぱらから、「なんだそれ?」な状態だった。
それも、こちらに迎えに来るのが、怖いことで有名なあの教務の吉川先生だというのだから、余計にイヤだ。
一昨日の午後からもうちのクラスを担当してくれたけど、すごい静まり返っていた。誰もが怖くて山浦淑惠の質問以降は誰一人として口を開かなかったぐらいだ。
さて、病院を理由に避けられない予定を回避できたので、一応今日は外出は可能である。これがただの風邪とか熱とかの体調不良なら、家の外にすら出られることはないが、一応病院へと行くことになっているので、途中で見つかったとしても何とかごまかせれるだろう。
そして服装はなるべく地味で目立たない格好だ。
こういう時こそ、絶対に目立ってはいけない。
私は今日、一刻も早く絶対にやらなければならないことがある。
行先は子乃神社。
昨日、忘れ物を取りに行こうとしたら、何と誰かは全部確認できなかったが、そっくりさんをやっている者がいた。
私はこんなおもしろおかしいことはないと思って教室前の廊下で、こっそり聞く事にした。
それも奥宮香理のそっくりさんだとするなら、なおさらだ。
私は常に自分に被害がない程度に周りに距離を置く。
それが一番要領よく生きる術。
人間何が一番得で被害を最小限に抑えられるかということは上の兄弟の失敗などを見て、イヤというほど学んだ。
だから、私は失敗などしない。いや、する気はない。
私は私で要領よくいいとこどりをする。それだけだ。
自分さえよければ、他人のことなどどうでもいいのだ。
クラスが変わるたびに自分と見合った許容範囲のレベルを持つ実力者で、絶対に学校を休みそうもない健康そうな子を一人選んで相方にしておけば、あの女子同士のめんどくさい付き合いとかには巻き込まれなくて済むことが一つ。
他のクラスメートとの距離は適度に置いた距離で、こっそり情報をいち早く盗み聞きして、いついかなる時もマウントを取れるようにしておくのが二つ。
いついかなる時も隙を見せず、常に身ぎれいで常に何でもそつなくできるように授業時間も有効的に使い、何でもできるようにしておくのが三つ。
危険人物、害がある人物、自分にとって得にはならない人物、バカをいち早く察知して、それらとは絶対に関わらないように行動するのが四つ。
めんどくさい事やイヤなことは、あくまで自分の立場や印象が悪くならないようにうまく他人に押し付けてることが五つ。
そしていついかなる時も、常に自分の身代わりになるような生贄を何人か用意しておくことが六つ。
そして、うまいこと男子並みに実力はありますよアピールもさりげにするが、男子の前ではあくまで自分が男子より出しゃばらず、意見もせず、普段はあくまである程度男子のサポート的な役割に回り、ある程度男子に感謝をさせ恩を売り、普段は地味で目立たない普通の女の子を演じることが七つ。
以上!この七つの掟で私は成り立っている。
常にこのルールさえ守っていれば、私が被害に遭うことはまずないと信じている。
この並々ならぬ努力で築いてきた自分の地位と実力を他の何も努力もしていないどうでもいい奴なんかに利用されてたまるか!と思う勢いで私は常に生きている。
そして今回
私は関わってはいけないというものに関わってしまったかもしれないのだ。
それはそっくりさん。
まぁ本来、私もオカルトだの呪いだの、非科学的なものはあまり信じない主義ではある。しかし一説によると、そのそっくりさんとやらの降霊術はその近辺にいたものすら巻き込む恐れもあるという情報を耳にはしていた。
まぁ普通にそっくりさんが無事に終わればなんも問題はない。だが今回ばかりはおそらくそっくりさんが原因で被害者も出たのは事実なので、そうとは言ってられなくなった。
確かにあの時、誰かが堀を呼びに行って堀が教室に乗り込む少し前に教室の前から逃げて、少し下曲がり角に隠れて一部始終を聞いていたのだった。そしたら、どうだろう?先生と誰かが少し言い合いをした後で、いきなり人が倒れる音がした。
何がどうなったのか?さすがにその現場にまで駆けつける気はさっぱりなかったので、はっきりしたことはよく判らないが、あの時は尋常でないほどのことがあったんだと思った。
そして今日、休日いうのに堀の訃報を聞いた。
つまり肌。あの時倒れたのは堀であり、多分堀はそっくりさんが原因?で死んだんだということは、おおよそ予想はできた。
元々一昨日から、そっくりさんの言うとおりに神社まで紫のお守りを買う気ではいたが、朝から、葬式に参列しろだのめんどくさいこと言われて「は?」な状態だった。
ただでさえ呪われた奴(堀)となんか関わりたくもないのに。
一刻も早く助けてもらえると言われていた紫のお守りが売り切れる前にゲットしないといけないのに。
ついでに本来なら私が代表じゃなかったのに。
それを思うとなにがなんでもその紫のお守りを手に入れないとやばいとは思った。
だから私は今日という今日は絶対に誰よりも早く買いに行くと決めていた。
昨日は昨日で学級閉鎖だったとはいえ、外出は完全に禁止されていて一歩も外に出られなかったので、今日という日は絶対に譲れなかった。
もしかしたら、今回は本当にやばいことに関わってしまったかもしれないのだ。
そっくりさんという得体のしれないものなため、本当に一刻を争うことかもしれないのだ。
たとえそれが非科学的なことで自分に災難が降りかかるなんてことはやっぱりごめんだ!
私だけでも被害に遭わないためにも、おそらくその紫のお守りは必要だと私は判断した。
そう、私という存在は常に完璧でなければならない!
それがたとえ、非科学的なものであろうと私の完璧な人生を邪魔することを許してはならない!
その信念だけは絶対に譲れないのだ!
(ただし、顔だけはさすがに構造上無理だったな。鼻がすごくデカくて残念な顔つきだ。だからこそ、それを余裕でフォローできるように常に完璧であらねばならない!)
とそれを自覚している自分の欠点を心の奥の奥に封印して、私は常に完璧でいることにこだわり続けるのであった。




