お守りの秘密 (神子三果)
さて、誰が来るんだろう?
まぁ気の反応としてものすごく生真面目な人物であることは判る。
その人物がここまで近づいてきているのも判る。
多分目の前で眠っている彼女に関係がある人物であることも間違いない。
「三果、お前に客だぞ。」
部屋の戸がいきなり開いた。
ばぁちゃんの後ろにはかなりデカい影が見えた。
え?
「ウっス」
「え――――――!」
そこへ現れたのは柳生孝昌だった。
「じゃ、あと任せた」
ばぁちゃんはそそくさと自室に帰っていった。
「まさか、君とはねー…。」
まぁあのモヤシ系女子なら、こういうしっかり者に依存しそうなことは頷ける。
「なんだよ?俺の何が問題あるいうんだよ?」
「そうじゃなくて、あの子がお守りあげた相手が柳生君だったことが意外過ぎてさ。」
「!?」
「持ってきたんでしょ?お守り?」
「なんも言ってないのにすごい察しがいいな。」
「まぁ職業柄ね。」
とはいえ、こちらの本業は表向きは小学生ということになっているが、もうすでにこの稼業こそが事実上私の本業である。
「ぶっちゃけ聞くけど、このことはどういう関係なの?」
私は自分のすぐ横で眠っている香理を指しながら聞いてみた。
「親同士仲がいいだけの幼馴染だが」
「それだけじゃないよね?」
「今まで3・4年のクラス以外はずっと同じクラスで付き合いが長い。」
ああこの男!めっちゃなんか隠してるやん!
おそらくそれだけの関係じゃないだろうことぐらいお見通しなんだよ!
「あのさ、私を誰だと思ってるの!?この格好みてわかんない!?
私は常に家の中では巫女装束を身にまとっている。
まぁずるい手とは思ったが、この衣装を武器に目の前にいる強面男だろうと強気に出てみた。
「ん…?」
そしたらさすがの柳生も困った顔をして苦笑いしていた。
「今更隠し事していても、あなたが隠している分の隠し事の重さぐらいは、とっくに丸見えなわけ!だから、洗いざらい話してもらうわよっ!」
学校にいる時の私服の時の私だったら、ここまで強気に出られないけど、この衣装をまとっている時だけはプロ意識をもって強気で出れるのも不思議なものだ。
「もしごまかしたりしたら、許さない!」
本気で意気込んだ。
「わーったよ!」
ホントはただ単に人の数倍勘がいいだけで、そこまでたいした実力なんてものないのだけど、こういう時はこの血筋に感謝してる。
「俺のうち道場やってることは神子も知ってるよな?」
「ああまぁ、この学区なら誰もが知っている。」
「俺、奥宮のおふくろから、奥宮の事頼まれてるんだよ。」
「おーこの歳で許嫁かぁー?それはたまげたぁー。ドジっ子としっかり者の組み合わせって結構しっくりくると思うぞ。」
「バカっ!違うっ!」
まぁ私も悪ふざけが過ぎたが、この男のこんな落ち着きのない表情が見られるなんてすごく珍しい。
「俺は奥宮の親に頼まれて武道や護身術、ケンカの勝ち方を教えてるだけだ。あと、学校であまりにもひどいことになるようだったら、さり気にフォロー入れてほしいと…。」
「なるほどね…。」
「…つまり、師弟関係だ。」
まぁいろいろ困った顔をしていたが、この答えには嘘はないようだ。
そして柳生君は落ち着いた態度をせず
「さっきの質問は二度とするなよ!」
とまで言ってきた。
「あー判った。」
「でも柳生君もたいへんだねー。この子の親から、裏でそういう事も頼まれているなんてさー。」
「まぁな…。一応将来的に担う仕事でもあるから、それも修行のうちと思って何とか引き受けてるよー。」
うちもうちで、跡取り問題とかいろいろうるさい方だから、こういった事情はよく判る。
跡取りが絡むとなると、やっぱりそのあとを継ぐ者は結構若いうちから、こっそりと修業を積まされるのは当たり前だ。
「ところでさ―、多分だけど…」
「あぁそうだ!これ。」
柳生君がポケットから、取り出したお守りを見て私はびっくりした。
「え!?白!?」
「ん?なんか問題あるか?」
「じゃあさっきの言っていたことは本当だったんだ。」
「どういう事だ?」
「あのさ、このお守りいろんな色であの子にあげたんだ。」
「それがどうしたって言うんだ?」
「あの子が男子にあげるとして、そのおそらく男子の中では一番距離が近い存在の柳生君のお守りの色が白いう事がおかしいんだよ。」
「ん?そのお守りなら、巽も一緒にもらったぞ。」
「え?藤原君がっ??」
意外に思えた。
柳生孝昌というクラスの男子に、あの子が唯一このお守りを渡した者だと思っていた。まさか、男子で他にも渡した相手がいたとは…。
「そのお守りの色って…」
「黄色だった。」
「えーっ!!?藤原君が黄色!?じゃあ…」
「んー俺の記憶が正しければ、千賀と村木にはオレンジとピンクを渡していたはずだが…。」
確かにその色はオレンジはまぁ好みによっては男子でもいけるが、ピンクはさすがに99%女子が持っていた方が自然だろう。
残る二人はやっぱり女の子だったか。
千賀さんは頷けるが、これまた意外にももう一人は村木さんだったか。
「確か、あの子にはメインのをあげて、サブに5つ渡したから……それでも……
結局全部そろってない…
のだよなー。あと一人?いったい誰なんだろ?」
あの子目線、あのクラスで助けたい人物?それはいったい誰なんだろ?
私の勘からしても残りの一つはまだ誰の手にもわたっていないはずなのだ。
さすがに私の能力でも、誰が誰を好意的に思っていて、誰が誰を嫌っていることを正確につかめることなんて無理だ。多分やれなくはないが、それは神の禁忌を破ることに等しいので、悪用しないようにこの業界ではよほど面倒な儀式をしない限りできないようになっている。
まぁうちのクラスの男子が奥宮さんのことをいい扱いをしていないことは目に見えてわかる。ただそれですら、本気で奥宮さんに悪意を向けてやっているのは、おそらく一部だろうという大雑把な予想ぐらいならつく。ただそれでも、あの奥宮さんが自分の保身のために、相手は女子であろうと容赦なくヘイト向けてくる男子たちのことなど救いたいだなんて思うだろうか?
柳生孝昌みたいに陰ながら支援してくれているからという理由があるならともかくだ。他にあの子がそう思えるほどの価値がある存在がいて、おそらくそれが男子と仮定すると…奥宮さんにとって相当な思いがある男子だと言える、
つまりはだ。奥宮さんにも一応好きな相手はいた言う事か?
奥宮さんが好きだと思っている男子が誰なのか?
てかそれ、私だって知りたいよ!
てか他の女の子たちは自分のエゴだけで知りたがってるだけだけど、私は一応、援護した身であるぞ!?明らかに他の子らより知る権利があるではないか?
いろいろけしからんぞ!
そんなもん、私だって知りたいわ!そっくりさんどころじゃなく、禁忌を冒してでも!
多分、あの子には好きな男子がいるはず。
「それは絶対だ。」
何でか知らないが、こればかりは思わず口にしてしまった。
「益井千恵子?」
「いや、そのあと一つはまだ、誰にも渡してないらしい。」
多分、あまり接点がなくて渡しにくい相手だろうとは予想はつく。
「意外だなー。仲いいと思っていたのに。」
まぁ女の子の世界は表と裏は全く違うからなー。
いつもは仲良さそうでも実は考えていることは違うなんてことよくある。
「築里奈」
ん?ここで意外な名前が出てきた。
「あいつ、あれで意外にも聞き上手なんだよな。
案外、築里奈みたいなのが当てはまっているかもだぞ。」
「多分それも違う。」
予想するに、今回香理の代わりに被害に遭ったのが築里奈本人だからだ。
築里奈が聞き上手というのは頷けるかもしれんが、もし築き里奈がこのお守りを手にしているなら、そのお守りの効果がなくなったなどよほどのことでもない限りそれはない。それにこのお守りを手にしたものは大抵、効果がなくなり次第、ここに届けに来るような人物でない限りは手に入れることすらもできないはずだ。
「だいたいね。そのお守りの色、紫なのよ。」
「ん?」
「そんな色のお守りをもしもあげるとしたら、優先的に男であるあなたか藤原君にあげるはずだよ。それもあなたたちにあげた色が白と黄色で、女の子たちにあげたのもピンクとオレンジ。そして最後に残った色が…」
「紫のお守り……か…?」
「多分、私の偏見かもしれないけど、紫のお守りなんて、よほど紫が好きいう女以外は、今まで売ってきた中でも滅多に選ばなかったとだけは言える。
まぁ車のお守りに限っては落ち着いて運転したいという理由もあるせいか、紫を選ぶ人は男女問わず多いけどね。
でも女性で紫を買ってく人といえば、自分の旦那の厄払いのお守りを買いに来たとかの他者への贈り物で紫選ぶ人が圧倒的に多いね。どちらにしても紫のお守りを、女性個人が使っているところをあまり見たことはないわね。
だってさ、あの紫大好きな紫保ちゃんですら、紫のお守り選ばなかったぐらいだよ。」
「え?あいつがか??」
3組の前田紫保。
私も柳生君も3・4年生の時のクラスで一緒だった女の子。
「あの子さ、選べる色があるなら、だいたいなんでも紫を選んでたよね?」
「ああ、確かにあのこだわりようは、半端なかった。」
「それがさ、あの子が今年の正月に神社に来た時、ピンクを選んでいったんだよ。ホント意外過ぎて今でもそれ覚えてるわー。」
「いわれてみるとそうかもな…。鞄に紫のお守りをつけている女子なんて、正直見たことないな…。」
そうだ、柳生君ならなんか知ってるかもしれない。
「柳生君は香理の気持ちとか、紫のお守りとかで、なんか心当たりとかないの?」
「…ないなー。そもそも俺は他人のお守りなんかあまり気にしたことないしなぁ…」
というか、柳生君ですらありえない言う顔をしていた。
まぁそうだよなー。この男に聞いたのが間違いだった。
この男はホントそういう話には疎いというか、鈍感すぎるんだよなー。
期待した私がバカだった。
まぁそれはさておきだ。
「というかね。あんたのお守りはまだ使えるよ。
持ってくるならここまで真っ黒になってから持ってきて!
あんた神経質すぎ。」
私は先に香理が持ってきた黒いお守りを柳生君に見せつけながらそう言った。
この男の目的はやっぱりこれである。
このお守りにはまだ白い部分がいっぱい残っている。
「思うに守ってもらえたのは一回だろうな…。」
「一回って…?そんな覚えは…?あ―――――――っ!!」
「思い出したか」
「まさかあれって?
昨日の夕方、その場にいたら絶対的に困ったことがあって、気が付いたら全然違う場所にいたような…。」
「それ」
柳生君はかなり困った顔をしていた。
「というかまさか…。」
「多分今日のおかしなこともそれ。だから今日、この子はこのお守りの効果である3回を使い切ってしまったから、これ届けにここまで来たわけ。」
「おい、こんなことしてホントに大丈夫なのか?」
「シッ!これは私たちだけの秘密よ!」
「あ、あぁ…。」
「他にバラしたら…、助けてあげられないからね。」
「…判った」
このお守りの効果をこんな風にできるようになってしまった私本人もびっくりでしかなかったのだよなー。ばぁちゃんは長年やってて慣れてはいるみたいだけど、初めてこんなことになった時はどんな気持ちだったのだろう?
私も9つの時だったなー。初めて自分の念を入れたお守りを作ったのは…。
ばぁちゃんのを見てすごい思ったけど、まさか自分もこうなるとは思ってもみなかったんだよなー。
「でも、どちらにしても、もう援助もできなくなるかもだけどさ…。」
「ん?どうした?」
今まで誰にも話せそうにもなかったけど、柳生君になら話せそうな気がした。
「私ね。もう学校に行けなくなる。」
「ん?なんでだ?」
まぁ他の同級生は無理思えたけど、彼なら大丈夫だろう。
私は深呼吸して一旦気持ちを落ち着かせた。
「私ね。生贄になるかもなんだ…。」
「生贄!!?」
さすがの彼も目を丸くして驚いていた。




