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小学生だって演じる毎日

「本日は大変良くできました。」


水曜日は茶道教室の日。


小学生の身でなぜにこのようなお稽古事をしているかといえば、小さい時から落ち着きがない私を見るに見かねて母が習わせたのである。



「特に奥宮さん。」



「今日はなかなかいい筋してました。」



「ありがとうございます」


「今日は何かいいことでもあったのですか?」



「はい。これから友人宅によって行くことが楽しみで。」


「そうなの。それは楽しみですねー。」



と藤原先生と軽い会話をしている時だった。


「巽!そこにいるのは判っているのよ。」



この教室が終わるとき、先生がいきなりそういいだすと気がしばしばある。

先生の背後にある出入り口から、



「えへへへへ…」



そこからひょっこり顔を出したのは、同じクラスの藤原巽という男子。

藤原先生の息子らしい。


私がここに来る時、たいていはお稽古が終わるころに剣道着を着てこの辺りをうろうろしている。





「こら巽!またこんなところでさぼって!何やってるんだ!?」


「あー!やべっ。」


そこへ現れたのは、これまた同じクラスの男子で柳生孝昌。

この道場主の次期総跡取りと言われているお方だ。

本当は年の離れた兄が一人いて、生まれた当初は兄に継がせる予定だったのだが、兄は素行不良で絶縁状態と聞く。


この道場のすごいところは、剣道、柔道、合気道、弓道といった体を使うだけの道場ではなく、書道、茶道、華道といった文科系の手習いまである和の道総合道場なのである。


かくいう私の別の曜日では他の武道を一つ習っている。

高学年になって、ひどいいじめに合うようになってから、両親が心配して護身術として習っている。


「おまえ、毎回水曜日だけは最後の挨拶の時いないし、水曜日の片付けは毎回いいかげんだし、気が付けばここにいるしなんなんだお前は?」



でもまぁ藤原君のその気持ちもある意味わかる。

それはまたあとで説明するとして


「ごめんねぇ。うちの息子がいつも。」


「いいっすよ。いつものことですから。」



孝昌だって、藤原君のその気持ちは察してはいる。


「なぁ奥宮。今から行く場所って、千賀さんの家だよな?」




「巽!」




孝昌と藤原先生の声が同時にハモった。



「奥宮さんに用があるなら、学校で話しなさいと何度言ったら…。


ごめんね。奥宮さん。」


先生が申し訳なさそうな顔をしていた。




茶道教室の部屋を後に…。



「全くお前という奴は学校では奥宮には絶対に話しかけないくせに…。」


「しょうがないじゃないかー。さすがに学校では喋れないわー。」


玄関出るまで3人で少し喋っていた。

まぁ藤原君が私と学校では喋れないことも私のいじめが原因だから判る。

だから、それは仕方ないことだと私も思っている。


「それに奥宮にもう一つ伝言がある。」


「なんだ?また今日もなんかあるんか?」


「ああ、今日たまたま聞いちゃったんだけど、近松の奴が今日は学区外で野球チームのミーティングらしい。」


「え?ホント?」


近松直也。私へのいじめの主犯格の男子だ。

学校だけならまだしも道であった時も「おぇ奥宮だぁー気持ち悪ー」と大声で罵声を浴びせてくるのだ。それも関係ない同じ野球チームである学区外の男子にまで、私の嫌な噂をばらまいているのだ。あんな奴と顔を合わせたら、また大変なことになる。


「ああだから今日千賀の家に行くなら、谷町交差点を通るのは避けた方がいいぞ。」


「あ、ありがとう。いつも助かるわ。」


「着替えたら後で俺もいくからなー」


「うん、待ってる。」


私はそのまま道場の玄関を後にした。



「まぁこういうこともあるから、水曜日のおまえは終わり次第放置なんだよなー。」


「それはどうも。やっぱりお前はいい奴だぜ。」


「おまえもな。まぁそれで下心がなければ最高なんだけどな。」


「それをいうなって!」



そんな訳で藤原君の情報源は半端ない。

クラスのマスコット男子で愛嬌と人懐っこさがあり、クラスのほとんどがこの藤原君には何も疑いを持たずに話ができる存在でもある。

一方、孝昌の方はまじめで堅物な硬派言う印象があり、強面で近寄りがたい印象がある。でも私は孝昌とは幼稚園で3年間同じクラスであり、小学1.2年生のクラスも一緒だった。トータル的には孝昌とは長い付き合いであり、孝昌の良さもよく知っている。

そして、うちの両親からの信頼も厚く、私がいじめにあってからというものの密かに相談を持ち掛け、今では影の支援者な存在である。


だから、少なくともこの二人だけはある意味真穂より信用しているありがたい存在だ。


この二人。学校ではほとんど話しかけてこないが道場では普通に友達してる。

私と普通に会話ができる数少ないクラスの男子だ。

私はこの関係を崩す気はないので、彼らが学校とここでの態度がさっぱり違う言うのは気にしていない。




真穂の家についた。



藤原君のおかげで近松とも出くわすこともなく、無事ついたことは感謝だ。




「お、いらっしゃい。」



水曜日に真穂の家で会うのは真穂だけではない。


「さゆりちゃん。やっぱりきてたんだーよかったぁー。」


「えへっおじゃましてまーす。」


同じクラスの村木さゆりもまた、真穂の家には毎週水曜日にきている。



「なぁに?よかったーって?もう香理ちゃんったらーいつも水曜日は来てるよー。」


とはいうものの、さゆりはたまに来てないこともたまにある。

柳生孝昌、藤原巽と同じく、村木さゆりもまた私のプライベートフレンドだ。



こうして喋っているとインターホンが鳴る。

ああ予想通り、さっき約束したばかりの通り、


「こんにちわー。おじゃまするぜー。」



藤原君が来た。

そしてなんと今日は珍しく、孝昌まで来た。



「わお、さゆりちゃーん。また今日もご機嫌うるわしゅうで。」


やっぱり来て早々藤原君は言え主の真穂よりも先にさゆりちゃん挨拶するのが定番だ。


そう、藤原君はさゆり目当てで、ここで水曜日に集会があるたびに来る。

先ほど孝昌が言っていた下心とはまさにさゆりにむけられたものだ。


でも藤原君がさゆりちゃんを好きになるのは判る。

まずさゆりはクラスでは1.2を競うほどの美少女。それにスポーツもできる方だから、普段は体育会系グループに属しているが、その反面性格は礼儀正しくクラスで一番女の子らしい子だ。

お茶を習っている私であるが、彼女のキャラには一生かかってもかなわないなとも思えてしまうほどだ。


そんな素敵な女の子を男子たちが放っておくわけない。

そのうちの一人が藤原君ってわけだ。

私は心から藤原君のことを応援しているわけだ。

だって、他のイヤな男子とさゆりちゃんがくっつくぐらいなら、藤原君とくっついてくれた方が断然いいもの。それに藤原君だって、かわいらしい容姿してるゆえにさゆりとだってしっくりくるお似合いのカップル思うしね。


そして、こんな地味な存在である私たちとさゆりがここにいるのは訳があった。


あれは小5の夏休み。


夏休みとはいえ、私はすでにクラスではいじめられていたので、真穂とこっそり隣町の大型スーパーで会って遊んでいた。メインで行くのはやっぱり本屋。


「今週の少年ジャンピ楽しみだよねー。」


「どうなるんだろ?」


と二人で言いながら、少年誌のあたりで小声で喋っていると



「ねぇ、あなたたちも「トラコンボール」とかすきなの?」



と後ろから声がした。



振り向いたら、私たちがよく知るクラスの美少女村木さゆりがその声主だった。


そこで話を聞いてみると


「私もさ、実は少年漫画とか好きで、こっそりここまで来て買ったりするんだよねー。」



とのことだった。


ホント体育会グループで目立っている美少女にこんな一面があるとは驚きだった。

いつもいる友達も大好きとはいっていたけど、中にはオタクや陰キャを見下す子もいたので、この趣味に関してはなかなか誰にも言い出せなかったとのこと。


だからそれ以降は、水曜日に真穂の家に集合することが多くなった。

水曜日はなぜか口の軽い千絵子は都合が悪い日だし、水曜日はまさにさゆりを含めた会合にちょうどいい日だった。


でなんでここで藤原君までが、ここにきてるかといえば?そこは謎である。

多分、おそらく推測するにあとをつけられて、偶然さゆりがここにきてるいう事がバレたんだと思う。


今日みたいな近松の問題とかもかつてあったと言っていたし、おそらく藤原君達は私の後を追ってきた日も何度かあったんだと予想はできる。


まぁ藤原君はさゆりのこういう一面を知っても、むしろ親しみやすくなったとか言って態度や気持ちを変えることはなかったし、何より藤原君達は千絵子と違って口が堅い。無論千絵子はこの集会の存在は一切知らない。だから真穂もこの二人がたまにここにきても許しているし、何よりも真穂は…。



「今日もさゆりちゃんのために、さゆりちゃんの大好きな少年マガガンを持ってきたぞー。」


「ちょっと!あんた!まずはさゆりさんより、まず最初に家主である私にそれ貸しなさいよー!」


「やだねー」


藤原君が愛読している少年マガガンがめあて。

を自分が毎週買ってる少年ジャンピをお互いに見せ合うという目的で成り立っている集会なのだ。


たまにある少年漫画読書会はホントに楽しい。


一週間のうちのちょうど真ん中で、私にとって最高のひと時がある。

それだけで私は卒業まで乗り切るんだと思えた時だった。


だけどそんな裏側では、大変なことになっていたのだった。

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