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あちらも地獄どちらも地獄 (奥宮香理)

ああもうこれ、何を問われも仕方ないことだろうな…。



完全に諦めていた。

私の反応にびっくりしたゆるは顔を伏せたままだったが、千絵子と香寿美はずっと私の方を見てる。



「・・えっと……。」



さっきからこればかりだ。


しかしそれ以外は、なに喋ればいいか判らなかった。


実は一か月前ぐらいの時、真穂の家からの帰り道。同じ学校の児童会長山本隆三とその手下で児童会書記の永井和司たちに絡まれた時は、いきなり学区外に飛ばされて大パニックだったことを覚えている。


それも辿り着いた場所は、よく判らない野球チームのメンツが集まっており、監督からの説教を聞いていたのだった。


で監督はといえば…


「誰だ?誰かの妹か?」


という反応で助かった。

その場は笑ってごまかして、すぐに去ることができたから、たったそれだけで事なきを得た。


そのあとの監督の対応が


「だめじゃないかー。関係ない誰かの妹を巻き込んで、抜け出せなくしてはー。」


と苦笑いしながら言って、野球少年たちを軽く注意して、私は知らない少年たちからは笑われた程度で終わった。

どうも集合をかけた時に、集団で一斉に監督のところまで集まったばかりだったらしい。

そして、その場にたまたまいた私は、そのチームメイトの誰かの妹だったということで片づけられた。


そういえば、あの時はついた先が近松が転校してくる前にいた卯先小学校のグランドだった。

そう近松は元はといえば転校生だった。だから野球チームだけは前の小学校に所属していたチームとは変えていない言う事は判った。

卯先小は以前、親の仕事の付き合いで何度か行ったことはあるので、そこから歩いて帰れないことはなかった。帰りは少し遅くなってしまったけど、何とかその日は無事家に帰ることができたんだよね。


ただその日の夕方ごろ、なぜか近松が山本と永井とその連れたちにボコボコにされたらしい。

ということはあの時、私と場所が変えられてしまったのは近松だったことになる。


山本は学校では児童会長を務めてはいるが、裏の顔は自分より遥かに弱いものをいたぶって遊んでいる最低の奴というのが本性だ。まさかあの近松がボコられたという話を聞いた時は驚きを隠せなかったが、相手があの山本なら納得がいく。

先生は知らないでいるが、山本の実性格ははっきり言ってアニメ「トラえもん」のジャイまんよりもひどい奴なのである。


山本は学年で一番図体がデカい。

はっきり言ってあの孝昌よりもでかい。

孝昌もかなりの巨体だが、山本はさらに無駄にデカい。むしろデブだ。そのデブに無駄に筋肉がついてるだけ言うわけが判らない体型である。

相撲取りとまではいかないが、相撲取りでも脂肪より筋肉が多い感じのタイプに似た体型で、おそらく、力だけで山本に勝てる奴は学年ではいないと言ってもいいぐらいだ。

対抗できる者なら、孝昌ぐらいなもの。



まぁ孝昌と山本との違いは山本は暴走してるだけのただの馬力で、孝昌は戦闘技術を合わせた戦力ということだ。だから、さすがに山本も孝昌には絶対に手を出さない。


他に孝昌と山本の違いといえば、孝昌はただ単に強面なだけで不細工ではないが、山本はブサイクを通り越してキモいし清潔感がない。あのまだらな肌の汚さや、分厚すぎるあのキモい口、天パの頭はいつもボサボサで、お前ホントにその外見でも児童代表なの?って感じでしかない。

一時期。山本とは同じ塾に通っていたが、他校生に山本が「俺、学校の児童会長なんだぜ。」と自慢していたけど、他校生は誰も山本は児童会長だと信じる者はいなかった。そんな汚い外見じゃ当たり前だ!「ざまぁ」とここぞとばかり思えた瞬間だった。


だってあの時、近松をボコボコにしたときだって、先生たちは児童会まで勤めいていた山本たちのことを信頼しきって、お咎めなしだったのだからなー。


あれはさすがに恐ろしい思った。

私のこのいつの間にか誰かと場所が入違ってしまう不思議現象に関しての詳細はまたあとで説明するとして、クラスをまたにして、いじめられているいじめられっ子私にしてみれば、この力はたいへんありがたいものだ。


一応、あの時もしかしたら、山本に殴られていたのは私だったかもしれないのだ。


あの近松ですら、山本にやられっぱなしだったことを考えると、もしそれがあのまま私だったら、もっとやられてたかもしれないし、その上先生からのお咎めなしとなるなんて…。

ホント、うちの学校の児童会長にあんな最低な奴が選ばれているのかが世の末である。




さて前回のことはどうであれ、問題はこんなにもろに見られているのにもかかわらず、一瞬のうちで誰かと場所を入れ替わってしまった状況をどうごまかすかだ。




「香理。いつの間にいたの?」



すごい長い沈黙の中ようやく口を開いたのは千絵子だ。



それを聞かれても、すぐには答えられない。

でもなぜか、いつの間にか私がここにいたということになっている。


今回は目の前からブタが消えたのはラッキーだとして、よりにもよって移動先が女子たちの修羅場の渦に来てしまったのは一瞬で察した。



「というか?まさか、私たちの話聞いてたの?」



「え?」



ああ、ここは確か学校の校舎裏。だとしたら、やっぱり聞かれたくないことがあったから、千絵子たちはここで何か喋っていたんだろう。



「えっと、…私は何もはっきり聞こえなかったんだけど、どうしたの?」



やっとまともに喋れることができた。



「ほんと?」



「うん…。」




私が何とかのり切ったと思った。

ただ千絵子と香寿美の二人は顔を見合わせた後すぐ…。



「じゃあなんでここにいるの?」



やっぱりそれは逃れられない質問らしい。



しょうがない一か八かだ。




「…今日、千絵子の機嫌がすごく悪そうで、心配になって…その…。」



これで何とかごまかせるといいが、どうだろうか?


それを聞いた千絵子はしばらく下を向いたまま、頭をあげなかった。



「なぁんだ。そうだったのね。」



「うん、今日は千絵子。私たちに何もしゃべってくれないから…」



「ごめん。それは心配かけたね。まぁ私も今日はこの子たちと帰りの班のことで話すことがあったから、集まっていただけで。」



ああ、そういうことか。

ってあれ?帰りの班にしてはちょっと違和感があるけど?



それに由利も香寿美も意地悪グループのメンツだ。そのメンツが千絵子一人相手にしてたとなると、千絵子が意地悪されていたかもと疑ってしまうではないか。


何を話していたんだろ?


と思っていた時だ。



「ちょうどよかったよ!こいつに直接聞けばいいじゃん!そうだよ!直接聞いて吐き出させればいいやん!」



「え?」



私から怒鳴られた後、今までずっとビクビクしていた由利が、いきなり立ち上がって私をにらみつけてきた。


「そうよ!元はといえば、こいつが原因で私たちがこうなったんじゃない!?」


私のせいでこうなったって?

いったい何が?


意味判らないんですけど?



いきなり何も説明もなしにいきなり責められた。



そして由利は私の胸ぐらをつかんで



「あんたさ!私たちに何の恨みがあるの!?言いなさいっ!!」


由利はすごい勢いで私の体を揺らしてきたが、


私には…



あんたたちには恨みしかない!



としか言いようがないのだが、こんな状況で何も言えるわけがなかった。


それともう一つ



「だいたいあんたの好きな人誰なのよっ!いいかげん、言いなさいっ!!」




いねぇよ!


仮にいたとしても言えるかよっ!ぶぁーか!!



と言ってやりたかったが、これもまた由利が体を揺らしてきて言えるわけがなかった。




「さぁクラスの男子の中で誰が好きなのよっ!!いいかげん言いなさいっ!!」


「由利さすがにやめなよー」



という香寿美の声にも由利は全く無視。


そして由利の暴走は止まらない。



「あんたがそれをなかなか言わないせいで、私たちがどれだけイラついてるか判ってるの!!?」



毎日毎日そればっか、マジうんざり!

そんなくだらないことで、毎日毎日イラつくことができるなんて、どれだけおめでたい脳みそしてるんでしょ!?たったそれだけでイラつけるなんてどんだけ幸せなんだか!?


そう毎日毎日そんなこと聞かれて、お前らみたいな男のことしか頭にない恋愛脳じゃないんだから、昨日今日でそう簡単にそんなもんできてたまるか!


「あんたのせいでどれだけ私たちが迷惑こうむっているか判ってるの!!?」



迷惑してるのは私の方だ!

こっちはただでさえ、クラスの男子のほぼ全員を敵に回してる身で、その中から好きな奴を選べ言う命令がどれだけ残酷か判って言ってるのか!?


それを毎日毎日毎日毎日その質問浴びせられてるこっちの身にもなれっ!


というか、自分をいじめてくる相手なんか好きになるわけがないじゃん!


お前らそんなことも判らんのか?

だから一度も男からいじめられたことがない女は嫌いだっ!



イジメられたことがないというだけでどれだけ幸せな事か!どれだけありがたいことかなんてこと、お前みたいな心もない奴は一生判らんだろうな!



ああまた、誰かと場所を入れ替わったのは判ったけど、ホントにこっちの方がまともなパターンだったのだろうか?



と思いつつ、由利と揉めあっている時だった。




サイレンの音が鳴っている。


そこへ放送が流れる




「運動場にいる生徒は速やかに運動場のはしへと移動してください。」




その放送は校舎裏にいる私たちにまで聞こえてきた。


「え?なに?」


千絵子と香寿美はそのまま校舎の表の方まで逆にかけていった。


「ちょ…待って…」


ちょっと遅れて由利も私のことは放置してそのまま二人の後を追って行ってしまった。


なんかひどいものだ。

散々苦しめておいてこれだ。



そしてサイレンの音は学校の運動場に止まったようだ。


さてと私も行きますか…。



まぁあのまま由利に責められてる状態が続くなら、放置された方がマシだ。



って!?救急車!?



まさか…それって…。


私はすごく嫌な予感がしたので、急いで見に行くことにした。


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