いくつになっても女の子
うわ……よりにもよって四軒茶屋のおばちゃんじゃないのー。
あたしこの人苦手なんだよねー。
これ、何を言い訳にしてもチクチク言われそうだ…。
それもこの状況はそっくりさんをした事後で、未果のおばあさんに怒られたから逃げてきたなんていう事がバレれば、説教の二次災害となることは間違いなしだ。
ただでさえ疲れ切っている木田奈江は目の前に現れた存在を見て、もうこの場はすべて誰かに丸投げするしかないと思っていた。
ここはこの中でも一番できがいいリーダーに頼るしかないと思って、左隣の美知子を見ると、
え?なんで?
確か私の隣は知っていたの美知子だった気がするんだけど?なんで柳生が隣にいるの!?
てか?美知子はどうした?
そこには美知子はおらず、なぜか柳生孝昌がいた。
そういえばさっき、聞きなれた男子の声がしたと思ったけど、その声主はどうやら柳生孝昌だったのね。
そして真っ先に逃げたのが、この中では一番の俊足の規世。私たちよりも一番先を走っていた気がするけど、規世が走っていたと思わしき位置になぜかそこには奥宮香理がいる。なんかものすごく違和感ありまくりでしかないのだが、多分一番容易に予想がつくことはこの二人も何らかの事情で追いし追われしな状態で走っていて、いつの間にやら紛れてしまったというのが妥当な考えぐらいしか、あたしの頭では思いつかない。
どうしよう?
美知子がいない今、この中で一番あてになりそうなのは柳生だが、四軒茶屋のおばちゃんに捕まった今、その柳生孝昌ですら固まったままで動けないでいた。
おそらく、あの現場にいたメンツは全員。さっきまでの出来事をいかにこのおばさんに隠すか言う事を必死に考えている思う。このまま固まっていたら、このおばさんのターンばかりが続き、私たちは何も反論できなくなる。
「やっとつかまえた♪」
すごいぶりっ子声が後ろから聞こえてきた。
そこへ一番に口を開いたのは、一番後ろを走っていた里奈だった。
里奈はその開口とともに、いつの間にやら柳生の腕を捕まえて腕組していた。
「もう柳生君ったらぁー♪ホント照れ屋さんなんだからぁ―♪」
最初、里奈が何やっているのかもいまいちつかめなかったし、そもそも里奈は柳生のことは好きでもないはず。
「ごめんなさいね。騒がしかったですね。私たちこの人のファンなんです。」
「だから、キャーキャー騒がしかったの?」
「はいー、偶然通りかかったのでみんな思わず騒いでしまって。ね、みんな?」
なるほど、さすがぶりっ子代表の里奈。こういう事はホントさえてる。
「はいそうなんですー。ホント御迷惑おかけしましたー。」
里奈のとっさの思い付きに私も空気を読んだ。
柳生のファンというのは絶対違うし、そこのところは納得がいかんけど、この際四軒茶屋のババアに怒られることを考えると背に腹は代えられん。
「ホントすみません」
とみんな口々に4軒茶屋のおばさんに謝り始めた。
そっくりさんには謝らない癖に、なぜかこういうおばさんにはすんなり謝れるのは。あの時そっくりさんに謝らなかったあたし本人もなんとも言えない。
「あら―よく見たら、がっちり系のいい男じゃないかー。」
おばさんも一応は納得してくれたようだ。
「そうなんですー。判ります?私たち硬派でしっかり者の柳生君にきゅんとしてて―♪」
「あたし、たくましい男って大好きで♪」
「なんか守ってくれそうで頼りになりそうだよねー♪」
こういう時の里奈の調子の良さはホントにうまい。
いつもはおとなしい香寿美も里奈の調子に合わせてうまいことノリを合わせている。
「あら?柳生ってもしかして?あの道場の子?」
この辺りでは柳生道場は有名だ。名字だけで、どこの家の子か判ってしまうのは不憫に思うが、この場はこの口うるさいおばさんを大人しくさせるにはものすごく効果はある。
「あーども…初めまして、柳生孝昌と申します。」
「まぁしっかり挨拶もできるなんて、あなたたちホントいい殿方と出会えて幸せね。」
「はい。ありがとうございます。」
「もう遅いから気をつけて帰るのよ。それと、これからはいくら好きな子がいきなり現れたからと言って、あまり騒がないようにねー。」
「はーい♪」
柳生道場の子が目の前にいるといったせいか、この時ばかりは珍しく四軒茶屋のおばさんは、おとなしく帰っていった。
それに女というものはやっぱりいくつになっても恋バナには関心があるものだ。あのおばさんですら、恋バナにはノリに乗ってきた。
それでやり過ごせたなら、恋バナはやっぱり最高だ。
おばさんというものはこういった硬派で真面目そうな男子は本当に印象良く映るものだ。なんか本当に偶然だが、こんなとき柳生がいてくれたことは好都合だった。
そんな偶然にも、なんでかここにいる柳生もまんざらではないはずと柳生の顔を見るとあたりをきょろきょろしている様子で、柳生にしては落ち着いがない様子だった。
やはり柳生だな。こんな女子だらけのハーレムの真ん中にいても調子に乗ってる感じはしない。
それどころか
「奥宮――――――――っ!!」
柳生には奥宮香理のことしか見えていない様子だった。
なんなんだこの男は?
ひょっとして香理のことが好きなのか?
まぁこの男が誰を好きだろうとどうでもいいし、この男が誰を好きであろうとこの男に刃向かって行く奴はこのクラスにはいないだろう。
ただ、その相手がクラス中の男子から、ばい菌呼ばわりされ人間扱いすらされてない奥宮香理となると、クラス中のおもしろいネタとなりいくらこの男でも立場はなくすであろう。
「道場に帰るぞ!」
「!!?」
「おまえ、帰りにお茶の先生の連絡聞くの忘れてそそくさと帰っていっただろうが、だから一回道場に戻れ。」
なんだ。また例によって道場関係か…。
つまんねぇーの。
それも先生も絡んだことの模様…。
余計につまんないネタだ。
こいつらどこまでまじめすぎるんだか?
はっきり言ってまじめすぎてつまんねぇんだよなーこいつら…。
同じ武道を志している者としてもだ。せめて、藤原巽ぐらいの愛嬌はもてや。
私だって5年まではバスケ部続けたものの、実力の伸びがさっぱり伸びなかったので、さすがに6年でやめたのにさ。
そんなに部活やお稽古事が大事かね…?と部活をやめた今、結局心にぽっかり穴が開いてなんもない自分に気づく。
あいつらには夢中になれる何かがある言うのに私にはない…。
そう思うとそう思うと…。
「ねぇ奈江。さっきから美知子と規世がいないけど、あの子らどこいったん?」
そう切り出したのは由利だ。
ホントそこだ。
「帰ったんじゃないの?」
確かに途中までは一緒にいた気がしたんだが…。
帰った?というのもあり得るか…。
「あ、でも規世おもらししてたから、さすがに千絵子と残ってるんじゃない?」
千絵子?ああ確かに千絵子もいた。
そういえば滅茶苦茶怒ってたなー。
言われてみれば、下の世話だの汚物の片付けなんかは、幼い兄弟がいるあの子ぐらいしかできないだろうから、あの子はまだ残っているのは頷ける。
「まぁそんなとこじゃね?」
とあたしは一応素直に納得してはいるが、
「…あのな、おもらしって…?」
事態を何も知らない、柳生と奥宮は苦い顔をしていた。
しまった。一応ここには男子もいたのだった。
「あ、ごめん柳生君。このことはできれば内緒で…。」
「ああ…」
柳生は苦笑いをしながらも、一応、友達がおもらしした件は内密にしてくれるとは返事してくれた。
「まぁ今日はいろいろありがとな」
「ううん、私たちの方こそ柳生君がいて助かったよ。」
「じゃな」
「うんバイバイ」
あたしたちは今日のところはここで無事解散する流れとなった。
そういえば千絵子の言ってた通りとなると、あたしたちは明日また再びそっくりさんをしなければならないのだろうか?
だとするなら、明日コインに触れる役だけは絶対に嫌だと心の底からそう思うのだった。
そして、私たちは無事に帰宅することが決まったが、その時私たちの知らないところで、もっととんでもないことが起きているのであった。




