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ソシャゲログイン! ~雲海のラビリンス~  作者: 千馬
メインシナリオ#第一章_タイムアタックイベント編
9/70

メインシナリオ#9 ラビリンスポートとアイテム交換所

 多くの人が行き交うターミナル駅、千葉中央駅。東京に繋がる路線の他、某国際空港をはじめとした千葉県の各方面にも線路を延ばし、見上げればモノレールの橋桁も複数伸びているという立体的にも大きな駅だ。


 ただ明らかに違和感があるのは、駅の遙か上空である。渦巻き型の柔らかそうな白い雲が、独特の存在感を放っていた。


「ついつい見ちゃうよね、雲海のラビリンス」


 未果の声に、黎太はつい「あれが…」と感嘆の息を漏らす。

 まさかこんなに近くにあったとは、とソシャゲ版黎太にはあるまじき感想を我慢する黎太の隣で、うららも不思議そうにコメントした。


「外から見る分には変わった形の雲でしかないですが

 あれで中は無限にも等しいダンジョンだとか

 一回登ってみたいですね」


「西川先輩、ラビリンスに挑戦したことなかったんで」


 すか? が文字数オーバーだと気づいた刹那、連鎖するように思い出す。まだソシャゲの世界に入ってくる前、それこそ画面の中で未果が説明してくれていたことを。

 うららは素直に質問を聞き取って答えてくれた。


「昨年度までは校則で禁止されていましたから

 でも実はクラスライセンスは取得済みでして…

 って、あれぇ!?」


 うららは自らのスマホを見て、素っ頓狂な声を上げた。恥じらい気味に口を押さえつつ、周囲の目を気にしながらも興奮冷めやらぬ様子で戸惑っている。


「どうかしたんですか?」


「い、いえ…!

 一度も登ったことがないのにレベルアップしていて」


 そう言いながら、スマホの画面を黎太と未果に向ける。


『☆3/木/西川うらら/バッファー

 LV.4 HP:168 MP:35 ATK:23 DEF:25 MAT:25 MDF:26 SPD:38 LUC:19 スタミナ:32

 天恵スキル「おまじない」LV.1/味方全体のLUCが上昇

 スキルA_「ラッキーカラーは赤ですね」LV.1/90秒間、自身のLUCが一段階上昇

 スキルB_「……怒りますよ?」LV.1/敵全体に小ダメージ。低確率でスタンを付与し、90秒間、ATKが一段階低下』


 画面下部には大きく魔法陣が表示されている。緑色の複雑な文様で見たことのない文字が円形に並び、中央には星が三つ並んでいた。――文字に見覚えがなくとも、その魔法陣は黎太の記憶に引っかかる。


「ガチャ演出で見たやつだ、これ…」


 ついついメタ発言がこぼれるが、うららは混乱していて聞き逃している。

 未果は聞き取っていたようだが、無視してうららに真実を告げた。


「もしかしたらですけど

 黎太の天恵スキルの影響かもしれないです」


「ああ、絆の恩恵か。えっと、俺のステータス画面は」


 ゲーム通り、ソシャゲ通り、天恵スキルが発動しているというのなら、黎太もまたクラスライセンスなるものを所有しているはず。その予想は当たり、マイナンバーカードに似たアイコンを見つけた。


『☆1/陽/小路黎太/レンジャー

 LV.1 HP:62 MP:23 ATK:16 DEF:15 MAT:13 MDF:15 SPD:25 LUC:13 スタミナ:25

 天恵スキル「絆の恩恵」LV.1/一緒に過ごしている人にEXPを与える

 スキルA_???

 スキルB_???』


 当然のように、うららの画面にもあった魔法陣がある。ただし黎太の魔法陣は白色で、中央の星は一つしかなかった。


 だがその違いは問題ではない。うららは、まじまじと黎太のスマホを見つめている。


「スキル不明なんてことがあるんですね

 それより、この天恵スキルの効果って、まさか

 昨日柳ハウスで自己紹介した時からずっと…?」


 未果はすぐに首を横に振った。


「いえ。一緒にご飯を食べるとか、雑談するとか…

 とにかくなにかしていないとダメみたいです

 黎太のご両親がそうでしたので、それで確定かと」


「そう、なんだ…って、それなら空埜さんは!?」


 うっかり黎太も「そうなっているのか」と本人ならあり得ない無知を態度に晒しかけている隣で、未果は自虐的な笑みを浮かべた。


「実は…私、まだ天恵スキルが発現していないんです

 だから、まだわかっていなくて」


「発現年齢は十歳から二十歳なんだろ?

 のんびり待とうぜ」


 こちらの世界に来る前に読んだ世界観からすれば、大学生くらいの年齢になって発現する人もいてあたりまえらしいと考えられる。

 だいたい、発現していたとしても小中学生でラビリンスに挑むことなどまずないそうだ。ならば、まだ十五歳の未果が発現していなくても、なんらおかしいことではない。


「でも…あんまり発現が遅いと

 それだけで不利になるんだよ…?」


 もっとも、当人からすれば焦りはあるようで、その顔色が優れることはなかった。

 たしかに、なにをするにもスタートが早いに越したことはない。まして、努力したいという向上心はあるのに、始めることすらできない環境というのは、気持ちが強いほどに苦しくなるものだ。


 ――黎太の脳裏を過る、苦い思い出。

 中学二年生の頃、ギプスと包帯で太くなった右足に代わって二本の松葉杖で歩きながら、グラウンドでサッカーボールを追いかける友人たちを眺めている時期があった。

 自分一人を置き去りにして、日に日に上達していくチームメイトたちの笑顔はとても残酷で……と感傷に浸りそうな気分を振り払う。


「まあなんだ、他の人はただ生活しているだけじゃ

 レベルは上がらないんだろ?

 だったらさ、すぐ追い抜けるって。なにせ未果には」


 ここで声が詰まって、文字制限が来たことに気づく。


「…私には?」


 黎太は短く深呼吸して、たくさんの語句を並べたい気持ちを抑え――それでいて自分の想いがすべて伝わるように、黎太なりに言葉を選んだ。


「…俺がいるだろ。たとえ何年かかろうと

 ずっとそばにいるって約束してやる

 だから、それまで俺から離れるな」


 できる限り短く端的にッ! と、深く考えながらだったから、自然と発話のスピードが落ちて、単語一つ一つに想いがこもる。

 いざ言いきってみると、これはまたずいぶんとクサい台詞になってしまったではないか。――告白かよ、なんだこれ、と黎太自身恥じらわずにはいられない。


 一方、セリフの字数制限など頭にない女子二人は、言葉の真意と黎太の赤面をどう受け止めたのか、黎太以上に真っ赤になっている。「はわわ」と口を震わせる未果の吐息に、真っ先に耐えられなくなったのはうららだ。


「や、やっぱりわたしは別行動しますね…!

 あとはお二人でどうぞごゆっくりっ」


「西川先輩待ってください! 違うんです!

 俺たちにはそういうんじゃない深いワケが!」


 今の黎太に、この状況を簡潔に説明できるわけがない。

 ――この世界はソシャゲの舞台であり、自分は実はこの世界の黎太と入れ替わった別世界の黎太であり、未果はそれを知っていて、仮に未果と黎太の間に好意があるとしてもそれは自分ではなく――というのを、字数制限がある中で正しく伝えられる気がしない。

 「深いワケ」とはこういうことなのだが、もちろん誤解にしか繋がらないだろう。


「黎太! お願いだから言葉を選んでっ!」


「選んだ結果がこれなんだよ、どうすりゃいいんだ!」


「だーもう! いいからアイテムショップ行くよ!

 西川先輩も! それでいいですね!?」


 ぎこちない空気を作りながらも、三人は早足に千葉中央駅を登っていく。駅ビルと一体化したこのターミナル駅の三階に、電車に乗るための改札があるが、そこはスルーだ。


 エレベーターで向かう先は最上階。案内板の表記は『ラビリンスフロア』とあり、ラビリンスに関する施設が揃っているらしい。


 最上階は、広場のような見通しのいい作りをしていた。そして、スタッフ専用の扉の先を除けば、その広場しかない。


 うららの話を聞いてからずっと気になっていたラビリンスポートは、そんな広場の中央に設置されていた。芸能人が立ったら似合いそうな、近未来的で滑らかなフォルムの円形の台。


 その左右にはフードコートのテナントのような区画が二つ。左側は清楚なブラウス姿の女性がお役所感を出しながら受付していて、看板の部分に『ラビリンス受付』と表記されている。右側は商店のような雰囲気で、前掛けをつけた三十代くらいの女性が接客をしている方が『アイテム交換所』のようだ。


 店のそばの立て看板には『期間限定〝スキルアップマカロン〟1個/800LC!』と宣伝されていて、カラフルにデコレーションされたマカロンが、輝くようにフォーカスされていた。


「LC…はラビリンスコインのことだろうけど

 スキルアップマカロンってなんですか?」


 黎太が尋ねると、うららは自らのクラスライセンスの『スキルレベル』の部分を指さして教えてくれた。


「スキルレベルをレベルアップさせるためのものです

 天恵スキルはレベル5まで

 通常スキルはレベル3まで上がります」


 黎太は、ほうほう、と何度も頷く。そんな黎太に、うららは小首を傾げて呟いた。


「…てっきり

 誰もが知っていることだと思っていました」


「うぐっ」


「あ、いえ!

 悪口とか皮肉とか、そういうのではないんです

 ちょっと不思議に思ってしまって…ごめんなさい」


 この世界の常識をなにも知らない故に口を滑らせた黎太に、黎太の事情をなにも知らない故に無自覚に核心を突くうらら。もう正直にすべて打ち明けなければこの先やっていけそうになく、しかし荒唐無稽な話を信用してもらえるとも思えず……と、黎太は半ば心が折れかけていた。

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