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ソシャゲログイン! ~雲海のラビリンス~  作者: 千馬
メインシナリオ#第一章_タイムアタックイベント編
6/70

メインシナリオ#6 空埜未果のプロフィール

 未果は軽蔑の眼差しで黎太の眼球を射貫き、腕を組んで絶対零度の声を響かせた。


「詳しく聞かせてもらいましょうか…!」


「いや、違うんだ、たぶんなにかの聞き間違いじゃな」


 セリフ改行の区切る呼吸を忘れて文字数オーバー。声が詰まって、黎太はわざとらしく咳き込む。


「いいから! なにが書いてあったのか

 詳しく教えてもらおうじゃないの!」


「まともに言い訳もできない声の文字制限マジ困るん」


 パニックになれば最後、うまく区切れなくなって、喋ることすら許されない。そんな厳しい世界に放り込まれて最初にやらかしたのが、口を滑らせることとはこれいかに。


 鬼の形相を浮かべる未果に詰め寄られながら、黎太は未果のプロフィールを思い出していた。


『空埜未果、ソラノミハテ

 身長:154cm

 体重:50kg

 スリーサイズ:B82(Bカップ)・W59・H83

 誕生日:12/12(15歳)射手座

 血液型:B型

 特技:裁縫

 趣味:料理

 好きなもの:アイス

 苦手なもの:ダイエット

 嫌いなもの:母を嫌う人

 夢や目標:ラビリンスの謎を解き明かすこと

 県立美羽高校の1年生で、主人公の幼馴染。学生寮で生活を共にしながら、豊富なラビリンスの知識でサポートしてくれる』


 まさか元の世界ではスリーサイズすら公開されているぞ、などと言えば、さすがに癒えない心の傷を作ってしまうだろう。


「で、でもほら! 俺も一度しか読んでないし

 なにが書いてあったかなんて、思い出せないぞ」


 嘘である。他のキャラクターと比較しても、一番推したいキャラだったのだ。黎太は細部まで丸暗記していた。


「それに、まさかこっちの世界に

 あのホームページはないだろうしさ…あはは」


 空気を震わせるほどの威圧感を放つ未果に、黎太は苦笑を浮かべながら検索ワードを伝える。

 未果はスマホで〝雲海のラビリンス ソシャゲ〟と検索したが、この世界に実在する雲海のラビリンスについての情報は手に入っても、この世界を題材にしたソシャゲのことはなにひとつ出てこなかった。


「本当に、私のプライバシーについては

 なにも憶えてないんだね?」


「あ、あたりまえだろ…!」


 女の子に、体重五十キロって書かれていたぞ……なんて、口が裂けても言えるわけがない。ましてや、ダイエットを苦手としていることを知っているなどとは、死んでも言えるわけがない。


「ふーん…ま、信じてあげる」


 その視線は疑惑の色に満ちており、とても信じられているとは思えない。が、下手なツッコミで話を延ばしてまた口を滑らせるのもよくないと思い、スルーした。


「そ、それよりさ。今はいったい、何月何日なんだ?

 入学式は終わっちまったのか?」


「え、ああ…うん。入学式は昨日だったよ

 今日と明日はお休み。月曜からまた学校だからね」


 となると今日は土曜日になるのだろう。そう理解して、この世界がソシャゲの世界線なのかアニメの世界線なのか、という次の疑問に思い至る。

 声の文字数に制限がついているあたり、ソシャゲの方だろうと黎太は予想しているが、念のために確認の質問をした。


「ここは学生寮なんだよな?」


「うん。学生寮・柳ハウス」


「同居しているキャラ…他の人たちはいるのか?」


「私たちの他には一人だけだよ。西川うらら先輩」


 確定だ。西川うららとは、黎太がソシャゲのチュートリアルで強制的に引かされるガチャで手に入れたキャラクターである。


 木属性の☆3。クラスはバッファー。仲間の強化や敵の弱体化が得意なクラスだ。


 カードイラストは、身長が高めな少女の立ち絵。青い髪をハーフアップにして、眼鏡をかけた背の高い女子だ。制服は黎太たちと同じ美羽高校――羽の校章が綺麗なブレザーで、どこか頼りなさげな印象がある。召喚時のセリフも、自信がないように思えた。


『わ、わたしは西川うららと申します

 皆さんをサポートできるように…が、頑張りますっ』


 高校三年生。文芸部に所属――黎太と未果の学校の先輩に当たる。


 ――ちなみに、選べる☆5キャラの中にも、水属性の☆5、ヒーラークラスの彼女がいたはずだ。アニメでも、☆5の設定で描かれていた。


 もしかすると、ソシャゲの世界はソシャゲの世界でも、黎太がインストールしたアカウントの世界になっているのかもしれない。


 となると、元の世界の友人たちも、また自分と同じように……と想像した黎太だが、連絡手段がない。

 勉強机の上にあるのは使い慣れた手帳型カバーのものではなく、ハードタイプのケースがつけられたもの。ソシャゲ版黎太のスマホがあっても、世界そのものが違うのだから電話もかけようがない。


 しかたない、と黎太はかぶりを振って、布団から出た。


「空埜さん」


 今日の予定って決まっていたりするのか、と聞こうとしたところで、未果が大きく広げた掌を向けてきた。


「待って、その空埜さんって呼び方、やめてくれる?

 いくら中が別人だからって、見た目と声は黎太だし」


「ああ…わかったよ、未果

 それで、今日はなにか予定はあるのか?」


「ううん。特には

 でも、千代さんが渡したいものがあるって」


「千代さん…大家さんのことだよな?」


 見た目だけなら小学生の女の子……いや、幼女である。なのに大家で、アニメ版の黎太もソシャゲ版の黎太も「千代さん」と呼ばされていた。


「うん。それで起こしに来たんだけど

 まさかこんなとんでもないことになっているとは」


「ははは…」


 黎太はベッドから降りて、改めて部屋を見渡す。


「ところで

 俺は勝手にこっちの黎太の服に着替えても?」


「いいんじゃないのかな? 他に着替えもないんだし」


 黎太がクローゼットの中から衣装ケースを見つけたところで、未果は「下で待ってるからね」と部屋を出ていった。


 適当な服にパパッと着替え、廊下に出る。

 向かいのドア――唯一の南向きの角部屋という一番いい部屋――には可愛らしい木のプレートで『201・千代のおへや』とあった。

 寮母の千代まで寮の部屋を使っているのはいいのだろうか。


 ともかく、木造建築の廊下に、個室の扉が八部屋分。黎太、未果、寮母の千代ときて、アニメだと選べる☆5キャラ全員分でちょうど八人揃い満室だ。


 一方、やはりこの世界は黎太のソシャゲのアカウントの世界らしく、ドアプレートは奥に向かって西側に『205・小路黎太』『206・空埜未果』とあり、東側の奥から順に『201・千代のおへや』『202・西川うらら』の四人分しかない。

 アニメ版だとうららの部屋は二〇三号室だったはずなので、いよいよアニメとは別世界だとみていいだろう。


 優しい色合いの階段を降りる。

 広く綺麗な玄関が階段の隣にあった。一階のドアにもそれぞれプレートがかけられており、お風呂にトイレはもちろんのこと、リビングとは別に六畳の和室、さらに物置部屋もあるらしい。


 リビングに続く扉を開くと、そこにはアニメでもソシャゲでも見た、広々とした空間が広がっていた。


 八人が座れる大きなダイニングテーブルを中心に、小さな家庭菜園の庭が見える開放的な大窓。

 キッチンもカウンタータイプになっていて、大型の冷蔵庫を覗いている未果の姿や、電子レンジなどの各種家電も見てとれる。


 くつろげるリビングには、大きな正方形の絨毯に、大型の薄型テレビに白い四人がけのソファと丸いちゃぶ台が広がっていた。


 ソファには、パステルカラーのシュシュで茶髪をサイドテールにしている女の子――フリルの可愛らしい服装も手伝って、外見こそ完全に十歳児だが、お酒を飲める年齢だ――が座っている。


 彼女こそ、この学生寮「柳ハウス」のオーナー、柳千代である。

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