メインシナリオ#49 隠された抜け道を教えて
どうにも青春っぽさのまったくない冥菜とのデートを終えた数日後。
冥菜とは色々あったが、そればかりを気にしてもいられない。なにせ、既にクエストを二つも失敗しているのだ。
クエストに失敗したからといってペナルティがあるわけではないが、失敗したままというのは心に毒だ。
クエストを受けてからラビリンスに潜っている間は受注中として他のユニットから内容が確認できなくなるが、ラビリンスで失敗すると自動でクエストは再公開される。
なので一度クエストを引き受けたからといって、失敗すれば横取りされる恐れだってある。
失敗したクエストを挽回したいなら、他のユニットに達成される前に自分たちで再挑戦して成功するしかない。
とはいえ、失敗したのになんの対策もせずに再挑戦したってうまくいくわけがないだろう。できないことがすぐにできるようになれば世話もない――と、黎太は未挑戦のもう一つのクエストを未果とうららに提案していた。
「今日は俺のレベリングとラビリンス攻略をかねて
雲海の第四層のクエストをやってみませんか」
そう言って、黎太はラビリンス受付のタブレットで見つけたクエストを二人に見せる。
『クエストタイトル:隠された抜け道を教えて
クエスト発生場所:雲海のラビリンス第四層
クエスト達成報酬:☆3ミラクルゼリー
僕とは別のユニットを組んでいるサークル仲間が、隠し部屋への通路を見つけたみたいです。教えて欲しいと頼んでも教えてくれません。どなたか僕の代わりに見つけて教えてくれませんか』
「そうですね。ここのところクエスト続きで
攻略の手が止まっていましたし」
「私も賛成。それで今日はシャドウ雇う?」
未果に訊かれ、黎太は手続きを進めながら頷いた。シャドウリストの画面になって、未果たちと一緒になってシャドウのスキルを確認していく。
「歩きっぱなしになるだろうから、スタミナの消費を
押さえられる天恵スキルを持っている人がいいな」
「一緒に、感知系のスキルを持っている
方がいてくれたら、とも思います」
「探索特化型ビルド、みたいなスキル構成の人が
いてくれたら助かるんですけどね…」
リストを見ていくうちに、☆5冥菜を発見する。そういえば、☆5冥菜のスキルはたしか……とタップして、惜しい、と頭を抱えた。冥菜の天恵スキルは、うららの望んだ感知系。通常スキルは、敵全体を〝かなしばり〟という状態異常にするスキルと、味方のスキル回転率を上げるスキルだ。
「マップ作りができていれば決まりだったんだけどな」
雲海のラビリンスは、各階層を一つ登るごとに規模が大きくなっていく。当然、マップ作りにかかる時間とスタミナも増していき、マッピングをするだけでも数回の出直しが必要になるのだ。
となればどうしてもスタミナ回復手段が欲しくなるが、手軽に回復できるポテトはまずく、あまり口にしたくない。
なのでタイムアタックイベント以降は、スタミナの減少量を抑えてくれる天恵スキルを持ったシャドウに協力してもらって効率よく攻略を進めていたのだ。
が、隠し通路を探すとなると感知スキルも欲しくなる。しかし一度に雇えるシャドウは一人分だけ……ユニットにはあと二人組み込める余裕があるだけに、歯がゆい。
「仕方ありません。今回は普通に四階層を攻略しつつ
小路君のレベリングとマッピングに専念しましょう」
「焦ったっていいことないよ」
うららと未果に言われ、だな、と黎太は頷いた。
こうしてラビリンスに突入し、少しずつ攻略を進めていく中で、黎太はふと疑問を口にする。
「そういえば、抜け道の情報とかって
ネットに転がってたりしないんですかね」
タブレットへのマッピングを保存しながら、うららが水色のラインが走る雲の天井を見上げる。
「第四層に限らず、隠しエリアというものは
だいたいが魔力の吹き溜まりにできるものなんです」
それを聞いて、未果がぽんと手を打った。
「だから珍しいアイテムがそういう所にばかり
出てくる…って話になるんですね」
「空埜さんの言うとおりです。そういう〝穴場〟は
貴重ですからね…見つけたら普通、自分たちだけの
秘密にしておくものなんですよ」
ラビリンス内に出現するクリーチャーもアイテムも、すべてはラビリンス内に満ちている特殊な魔力が発生源だ。そしてラビリンスそのものも、当然ながらラビリンス特有の魔力で構成されている。
見つけにくい場所に見つけにくいものが出るのも当然なのだろう。
「自己顕示欲の強い冒険者なら、SNSで
遠回しに自慢してたりしてませんかね?
レアアイテム手に入れたぞ~、みたいな」
「はあ…そりゃあいるかもしれませんが…
そういう人でも、場所や内容がバレないように
やると思います」
「案外、手がかりにはなるかもしれませんよ?
その前後の投稿物とか調べてみたら簡単に
割り出せたりして」
黎太が冗談めかしてそう言うと、未果とうららが脅えるように手を重ねて言った。
「よくそういう発想がすぐ出てくるよね…」
「え? そうか? いやあ」
「そこ、照れるところじゃないですよ…」
うららに言われ、黎太はタイムアタックイベントの時のボス戦を思い出していた。
行動不能となったシャドウの琴音がタンコブザメの標的になった時、黎太は即座に自分の魔力弾を琴音にぶつけることで、攻撃範囲外へ弾き飛ばすという手を打ったのだ。
琴音はまったく気にしていなかいようだが、黎太自身、申し訳なさは感じていたりする。
そんなこんなで攻略は進み、迷路のようなマップがだんだんとできあがっていく。
やがて三分の一ほど埋まったところで、うららが大きく息をついた。
「さて、現状こんな感じです。どうします?
今ならちょうど、ラビリンスポートへ続く道に
いますが…もう少し先に進んでみますか?」
分岐時に選ばなかった道はまだ地図描かれておらず、空白だ。場所によってはその先に長く道が続いている場合もあるだろう。
なにより、そろそろ黎太の魔力とスタミナが限界だった。
「俺としては、今日はもう上がりにしたいかな
って感じです。未果は?」
「どっちでもいいよ
でもキリがいいならちょうどいいんじゃない?」
「決まりですね。では帰りましょうか」
ちなみに、戦闘の方はもう余裕だ。
まだ三十五%程度しか攻略できていないわけだが、それでも既に黎太のレベルが上がって十九になった。
本来この階層での推奨レベルは、一人あたりレベル十四の合計七〇。
陰属性で超高火力スキルを叩き出せる未果と、安定の回復力を持つうららが既に推奨レベルを超える域に到達しているので、お荷物となりかけている黎太のレベリングもそこまで難しいことではない。
そういう意味では、攻略ペースを上げても問題ないのだが――今の黎太には、一つ懸念があったのだ。
帰り道、夕焼け色に染まりかけた空の下、穏やかな風に吹かれながら、黎太は隣を歩くうららを見た。
「明日は西川先輩が文芸部でしたよね」
「ええ、水曜日ですから。小路君と空埜さんは
明日もレベリングしに来るんですか?」
「あ、私明日はお料理研です。だから黎太、ごめん」
手を合わせてくる未果に、黎太は笑って答える。――心の中で、都合がいいや、と唱えながら。
「いや、大丈夫。そしたらまた木曜日ってことで」
チラリと振り返れば、曲がり角に消えていく人影を一つ、目端に捉える。
「…じゃあ、明日問いただしてみるとするか…」
「ん? 黎太、今なんか言った?」
「いや、なんでもない」
どうやら未果は気づいていないらしい。となると、じっと見られていたのは黎太だけなのかもしれない。
なんとなく人の視線を背中に受ける感覚を覚えた気がするぞ、と、一人だけ探偵気分に浸る黎太だった。




